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アジア太平洋地域ホスピス緩和ケアネットワーク
「アジア太平洋地域ホスピス緩和ケアネットワークは,この地域におけるホスピス緩和ケアの発展を推進する。一人ひとりの命の価値とその家族の重要性を認め,進行した病気を持つ人々の痛みを緩和し,苦悩を和らげるための知識と技術を共有する。」
(ネットワーク声明)
 
 当財団が,日本財団の補助を受け,アジア太平洋地域のホスピスケアの専門家に呼びかけ,相互交流,ケアの発展を目指して第1回連絡会議を開催したのは1995年でした。その後6年が経過し,本年3月シンガポールで「アジア太平洋地域ホスピス緩和ケアネットワーク」は,ついに法人として認可され,第1回総会が5月1日台湾で開催されました。当初は8カ国の代表者でスタートしましたが,今回は15カ国(インド,インドネシア,シンガポール,タイ,パキスタン,フィリピン,ベトナム,マレーシア,ミャンマー,韓国,日本,香港,台湾,オーストラリア,ニュージーランド)から約70名の参加がありました。会では規約,会員(個人・団体)状況,事務局長の活動,会計報告,将来計画などが話し合われ,また,評議員20名(日本からは柏木哲夫大阪大学教授,西立野研ニピースハウス院長)が選出されました。翌日,評議員会が開催され,柏木先生がネットワーク初代会長,また,当財団日野原重明理事長は名誉会長となられ,今後のネットワークの活動に日本の果たす役割はますます大きくなってきました。
 ネットワーク会議に続き,5月2日から5日までタイペイ国際会議場でホスピスカンファレンスが開催され,アジア太平洋地域でホスピス緩和ケアに携わる約800名の人々が集まり,痛みのマネジメント,終末期患者とのコミュニケーション,緩和ケアにおける倫理的課題,家族の悲嘆へのケア,霊的実存的問題,チームワーク,ホスピスの運営など,さまざまなテーマについて熱心な討論が繰り広げられました。
 また,各国のホスピス緩和ケアの現状報告がありましたが,シンガポールやオーストラリアなどでは,在宅ケアを基本とし,必要に応じて入院できるホスピス緩和ケア病棟も整備され,癌で亡くなる方の約6割がホスピスケアを受けていると報告されました。一方,癌を診断された時点で約8割がすでに末期の状態で,治療法は手術のみ,放射線療法も化学療法も行われず,終末期の痛みを緩和するためのモルヒネも入手困難という国もあります。日本でも専門病棟が2001年4月現在,86施設まで増えていますが,施設内ケアが中心の我が国の現状では,癌で亡くなる方の数パーセントをカバーしているにすぎません。また,施設数の増加とともに,ケアの質の維持・向上が問題となってきています。
 医療事情,また,政治・経済・文化などさまざまな相違を乗り越えて,この地域のホスピス緩和ケアの発展を推進するために,情報交換だけでなく,積極的な意見交換,臨床・教育・研究の実際面での協力が大いに期待されます。なお,次回のアジア太平洋地域ホスピスカンファレンスは,2003年3月6〜8日,大阪で開催予定です。
ホスピス教育研究所長 松島 たつ子








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