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私たちの遺書−語り残した戦争体験−

 事業名 健康教育の啓蒙普及並びに調査研究(Enlightening movement & Research of Health education
 団体名 ライフ・プランニング・センター 注目度注目度5


編集後記
井上 太郎
 
 私は全国から寄せられた投稿を読みながら、自分が戦争体験者であり、またこれまで戦争の記録をずいぶん読んで来たはずなのに、いかにあの戦争の一部しか知らないかを痛感しました。
 書かれた事実の中には想像を絶するものがあり、また涙なくしては読めないものも少なくなく、その背後を想像する余り、眠れない夜さえありました。これらの体験を乗り越えて今日ある会員の方々の心には、まだまだ語り尽くせないものがあるに違いありません。
 二〇〇一年八月九日、NHKのテレビで放映された「そして男たちはナガサキを見た」は、長崎に原爆を投下した米軍爆撃機B29の乗務員たちが、終戦直後に自分たちの落とした原爆が、作戦通りに目指す場所に落ちたかどうかを調査に行った時の様子と、現在の年老いた生活ぶりとを取り上げたものでしたが、その中のひとりが「戦争では誰でもが敗者である。勝者はいないことを学んで欲しい」と語った言葉が忘れられません。
 日本に勝ったアメリカの軍人さえそう思わざるをえなかったように、戦争とは勝敗にかかわらず、二度と起こしてはいけない、すべての人間にとって最大の罪悪ではありませんか。
 当時、あの戦争を日本政府は、欧米諸国の植民地政策から東亜の諸国を解放する「聖戦」と位置づけておりました。ところが日本が負けると、アメリカを始めとする連合国は、極東国際軍事裁判により、敗者である日本の指導者たちを、勝者として裁きました。判事も検事も中立国から選ばず、すべて連合国から選んだのです。そして弁護側が提出した書類の大部分は却下されました。しかも厳重な報道検閲により非公開に近い形で進められたこの裁判を日本でやることで、連合国こそ日本の軍国主義者を倒す「聖戦」を闘った救世主ではないかと、当時の日本人に思わせることにある程度は成功したと言えましょう。
 本土空襲が激しくなってから、この戦争に勝てると思う日本人は現実には殆どいなかったと思います。「必勝の信念」に凝り固まった人が「日本は神国だから最後には神風が吹く」などと言っても誰が信じたでしょうか。しかし当時は戦争反対などとはおくびにも出せなかったのです。そんなことを言えば、憲兵や特高(特別高等警察)に密告され、捕まる危険性が大いにありました。つまり一般市民の「敵」は身辺にもいたのです。
 ですから戦に破れると、今度は「悪かったのはすべて日本である」と単純に考えて自国を責めるようになり、アメリカの占領政策の裏も知らずに「新しい時代がやってきた」と手放しで歓迎する日本人が多くなってしまったのです。
 ナチスを裁いたニュールンベルク裁判の時に作られ、東京裁判でも使われた国際軍事裁判所条例に「人道に対する罪」というのがあります。ところが東京裁判でアメリカの弁護人ブレイクニーは、一九四五年三月十日の東京大空襲で一晩に十万人の市民を殺し、二発の原爆で数十万人の市民を殺した事実から、アメリカは「人道に対する罪」を犯しているとし、その国の人間にはこの法廷の被告を裁く資格は無いという「爆弾宣言」をしました。占領下のきびしい情報検閲のために当時の日本人には知らされなかったこの発言の存在が初めて日本人の知るところとなったのは、三十六年もたった一九八二年のことなのです。
 このように不合理、不公平な極東国際軍事裁判の判決を絶対視する風潮が今なおあるのは、まことに不可解ではありませんか。
 歴史、特に近代史には、これが絶対正しいという見方はありえないと思います。こちらが正しく、あちらが間違っていると決めつけるのは、歴史を見る目を曇らせる以外に何ものでもありません。戦争というものは歯止めのきかない歴史の暴走であり、戦わざるを得なかった双方の理由が複雑に絡み合って起きるものです。その遠因は双方の歴史的背景にあると言えましょう。
 今回の本の最後には「戦争観」を載せました。あの戦争をどう見るかには、当然いろいろな見方があってしかるべきです。ほぼ同じ年齢の会員の方でも、異なる意見が出ることは当然で、そこに議論の深まりを期待したいところです。
 会員の方々の中には、あんな辛い思いは出来るだけ忘れたいという方も多いことでしょう。この歳になって今さら、というお気持ちは勿論わかります。しかし辛い体験は澱のように、心のどこかに残るものです。それを吐き出すことで消えることだってあります。それこそ、子や孫の将来のために語り残さねばならないものではないでしょうか。本書を「私たちの遺書―語り残したい戦争体験」としたのは、そのためです。
 あの八月十五日から今年で五十六年の歳月が経ちました。しかし戦後はいまだに終っていないことを、戦争を体験された方々は実感しておられると思います。特に今年は教科書問題や首相の靖国神社参拝の是非をめぐって、論議が沸騰しました。これは戦後がまだ終っていない何よりの証拠です。
 今や社会の第一線で活躍している人のほとんどが、戦争を知らない人たちになりました。しかし戦争から得たさまざまな教訓は日本の将来に生かさなくてはなりません。そうしなかったら、あの戦争で逝った何百万の人たちの痛恨の思いは永遠に消えません。そのためには戦争体験者は自らの体験を子や孫たちに語り伝えなくてはならないのです。そしてなぜ、あのような無謀な戦争を起こさねばならなかったかを徹底的に考え、日本の進路を誤らぬようにしなければなりません。それを怠ったら、日本は知らないうちに亡国の道を歩むことになるでしょう。
 「新老人の会」の会則の第三条の[2]に「本会は、二〇世紀の負の遺産である戦争体験を語り継ぎ、貧しさの中から得た貴重な体験を次の世代に伝える」とあります。これは会の重要な目的の一つです。
 この本はそれを具体化したもので、毎年刊行したいと思っております。
 これをお読みになって、来年は投稿しようという会員の方が一人でも多く出てくることを期待しております。また今年投稿された方でも、さらに書きたいという気持ちがあれば、ぜひお書き下さい。
 締切りは来年度も六月三十日とし、分量は原則として三千字程度まで。原稿はワープロか原稿用紙で作成して下さい。送り先は「新老人の会」の事務局です。なお投稿の際には会員番号を必ずお書き下さい。
(二〇〇一年九月十日)
 新老人の会
 実りのある第三の人生のために
◎会の目的は次の通りです。
[1]日本の過去のよい文化や習慣を社会や家庭に伝達し、次の世代を引き継ぐ者がより健やかに成長するように育成する役割を担います。
[2]二十世紀の負の遺産である戦争体験を語り継ぎ、貧しさや苦境のさ中から得た貴重な体験を次の世代に伝えます。
[3]自らの健康情報(身体、精神、及び生活習慣)をリサーチボランティアとして提供し、医学・医療の発展に寄与します。
[4]第三の人生を感謝して生きる人々が、新しい自己実現を求めて啓発交流し、健やかに心豊かな晩年を過ごすことを支援します。
[5]国民に過度に発展した文明には限界があることを気づかせ、与えられた自然環境の恩恵の下で生きる喜びを共に体験し、真の教育を身につけたよき生活習慣による望ましい生き方の普及を図ります
◎会員は会の趣旨に賛同される健康で自立した老人で75歳以上の方とし、75歳未満の方は準会員です。会費などの詳細は下記にお問い合わせ下さい。
◎LPC新老人の会事業部
 電話03-3265-1907/ファックス03-3265-1909
 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館5階








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