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第1章 診療情報の提供とその一環としての診療記録開示について
I.診療情報提供に関する政策の目的と意義
 診療記録の開示が主目的ではなく、診療情報を提供することその一環として患者が診療記録の開示を求めた場合には診療記録も開示をすることである。その目的は下記の報告書に簡潔に述べられている。
1.医療審議会中間報告(1999年7月):情報提供に関する内容の抜粋
 医療に関する情報提供を求める国民ニーズの高まりに適切に対応し、また、国民が治療に積極に関わっていくことを促すために、医療従事者と患者との信頼関係を確立し、患者・国民の適切な選択によって良質な医療が提供されるよう、患者に対する診療情報の開示や医療機関に関する情報の患者・国民への積極的な提供を図る。
1)基本的考え
 医療の実施に当たっては、医療従事者と患者の信頼関係の確立が必要であることから、医療従事者は、患者に対し、医療内容について十分な説明を行うことが求められる。近年の国民の健康・医療に関する関心の高まり、医療内容の高度化・専門家などに伴って、医療従事者の患者に対する説明の重要性が一層高まっている。
 また、生活習慣病等の慢性疾患の増加に伴い、治療効果を高めていくために、医療従事者と患者の双方が診療情報を共有し患者自身が治療に積極的に取り組んでいくことを促していくことが必要となっている。
 このような観点にたって、今後さらに、インフォームドコンセントの理念に基づく医療を推進していくことが必要である。
2)診療情報の提供に関する考え方の骨子となった医療法(1992年)
 医療法第1条の4 第2項(医療関係者の責務)
 「医師、歯科医師、薬剤師、看護婦その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受けるものの理解を得るよう努めなければならない」
3)目的・意義のまとめ
(1)インフォームド コンセントの理念に基づく医療の推進
自己決定の原理に基づく医療を推進(自己責任)
(2)診療情報の自己コントロール・アクセス権を認める。
診療情報・診療記録は個人情報であり、患者はアクセス(開示)する権利がある。
* 「インフォームドコンセントすなわち十分な情報を得たうえでの患者の選択・拒否・同意という患者の自己決定権を重視した医療を行うべきである。」
4)診療情報、診療記録、診療録、開示の概念(旧厚生省検討会報告書1998年)
診療情報および診療記録とは何か、用語について理解することも課題である。
(1)診療情報とは:医療の提供の必要性を判断し、または医療の提供を行うために、診療等を通じて得た患者の健康状態やそれらに対する評価および医療の提供の経過に関する情報である。
(2)診療記録とは:診療情報が紙等の媒体に患者ごとに記載されたものである。
診療の場で取り扱われる診療記録は、医療従事者の業務記録である。
診療録、手術記録、麻酔記録、各種検査記録、検査成績表、エックス線写真、助産録、看護記録、その他、診療の過程で患者の身体状況、病状等について作成、記載された書面、画像等を含む。(医師会)
(3)診療録(カルテ)とは:医師法第24条所定の文書(医師会)(医師法第24条、歯科医師法第23条において作成と保存が義務づけられている)
診療録とは、医師・歯科医師が患者に対し適正な治療・診療を行ったことを証明するものである。
(4)看護記録とは:看護実践の一連の過程を記録したものである。(日本看護協会)
診療録の概念に準じて追加すれば、「看護記録とは、(看護婦・士が傷病者もしくはじよく婦に対し)、適正な看護を行ったことを証明するものである」とする業務記録であるということにもなる。
(5)診療記録開示とは:患者が診療記録を見せてほしいと求めた場合に診療記録そのものを示すことである。
「診療記録は、医療内容を患者に示し、患者が自分の疾病や治療内容について理解する患者のための資料としての意義がある」(厚生省報告)」
参考 診療情報の提供および診療記録開示と看護記録について−まとめ−
1。診療情報の積極的提供の目的・意義
 この政策はインフォームド コンセントInformedConsent(IC)の理念に基づく医療を推進することである。(本来ICは医療過誤問題裁判における法律と倫理の原則−1957サルゴ裁判で初めて指摘−)診療情報は個人情報でもあり、自己コントロール・アクセス権を認めるべきであるという考えに基づき、診療情報が記載されている診療記録をも開示をし、IC、すなわち十分な情報を得た上での患者の選択・拒否・同意という患者の自己決定権をも重視した医療を行うことを目的としている。(厚生労働省)
 インフォームドコンセントは、医療への患者参加を促すこと、すなわち、共に問題解決に取り組むことをめざしている。病気・健康問題は患者自身の問題であり、お任せ医療ではなく、患者自らも行うべき事・達成しなければならないことを理解し、自分の健康問題に積極的に取り組むことである。そのためには、自分の問題は何か、どのような状態にあるのか、なぜ、どのような検査や治療が必要なのかを理解しなければならない。
 医療従事者と患者・家族がお互いを尊重し、認め合い、共に話し合い、信頼関係の中でお互いの果たすべきことがこころ穏やかにや実行できるようにすることでもある。
 医療従事者と患者・家族の人間関係のストレスは、療養生活に影響を及ぼす。信頼の基本は安心・安全でもある。
 また、個人を尊重するということは、その人の考え、信念・価値観を大切にすることでもある。患者は、知る権利と同時に知らないでいる権利をももっている。情報を得るか、どのような情報を得たいか、あるいは得ないかも本人の意思決定である。知りたくないと意思表示をする場合もある。これらを個別的に尊重することも考慮しなければならない。
 
2.看護の課題
 看護の課題は多様である。看護倫理に基づく行動が問われ、患者の権利(知る権利VS知らないでいる権利は一部)および自律した存在として患者を尊重することが条件となる。患者の権利が確立していない日本の医療・文化の中で、患者の自律や自己決定に影響する要因を明らかにすることも課題である。また、自己決定を支援するためには、どのように関わるべきなのだろうか。
 患者の個別性を重視し、患者・家族を含めた協働・Collaboration、チーム医療も必須となる。主治医の権限は重要であるが、パターナリズムからの脱却と患者のニーズに焦点を当てた目的の共有と、相互の補完的な役割に基づいた尊敬と信頼関係による共同の意思決定も求められる。看護職者と患者・家族そして医師をはじめとする医療従事者間の尊敬と信頼の基礎は、専門職としての自律であり、日々の看護実践の中での証明である。
 記録の開示が主目的ではなく、情報提供の目的にかなう看護記録も条件となる。また、公的な記録としての位置付づけや標準化、記載内容の質的向上、リスクマネジメントと看護記録、記録時間の効率化なども課題である。
 看護記録は、書き方というより日々の看護実践の水準(レベル)そのものが問われている。(社)日本看護協会は、1988年に「看護婦の倫理規定」を、1995年には「看護業務基準」を、さらに2000年には「看護記録の開示に関するガイドライン」を示した。これらは情報提供の基盤となる一連の流れとして位置づけられる。看護の水準を維持・向上するためには組織の概念を一施設という概念から、日本における看護組織という組織概念を導入し、これらの指針を実現することが課題である。
 政策的にも、日本看護協会会員として一人一人のあり方・役割が問われる時代を迎えた。
 
3.本質や概念および目的を重視することの重要性
 診療情報提供をめぐり、診療記録の開示の目的にかなう記録という基本的な考え方をスキップして、どのように書くべきかに走りだす傾向がある。
 診療情報が記載されている診療記録、そして、その中に含まれる看護記録には、看護実践の過程が記載される。看護記録を構成する要素とその中に含まれる多くの用語とその本質(欠くことができない要素、必然的な働き)概念(言葉の意味・内容)目的(めざすもの)という土台・基本を重視するべきである。決してHow toだけにに走ってはならない。自ら考えるということはこれらの基本を重視しない限り発展は難しい。
 
4.すでに診療情報提供は始まっている
 「入院の際に、医師、看護婦、その他必要に応じ関係職種が共同して総合的な診療計画を策定し、患者に対し、入院後7日以内に説明を行う」という入院診療計画書は、診療情報の提供の手段でもある。入院診療計画書中で看護は、何を記載し、どのように説明しているのだろうか。個別的な看護を強調する看護職者として、看護をどのように記述し、説明しているだろうか。








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