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早期退院に向けて当院の取り組み
 山口県立大学者護学部教授 高野 静香
はじめに
 山口市は人口14万人、高齢化率は17.6%、独居者数は2,844人である。病院は急性期の中核病院で病床数524床、外来18科、病棟10単位、外来患者一日平均1,200人、稼働率95%、平均在院日数20.4日である。
入院患者の件数
 入院患者は各種癌の手術後あるいは治療、生活習慣病、脊髄損傷、各種の骨折脳血管障害、呼吸器疾患、膠原病、血液疾患、透析患者、精神疾患患者等である。したがって、退院後も医療支援を必要とする患者や合併症を多く持つ患者、そのために長期にわたる(1カ月以上)入院患者が月平均30人は常時入院している。さらに65歳以上の高齢の患者は52%を占め、退院後は独居のため、施設を希望する患者が多い。
 退院後も医療的支援を必要とする患者は、気管切開、人工呼吸器装着、酸素吸入、中心静脈栄養、疼痛コントロールの持続皮下注射の管理、インスリン注射、褥瘡処置、透析、装具装着、その他一般的な生活指導などである。
早期退院へ向けてのシステムづくり
 早期退院の取り組みは、患者にとっては追い出されたという感情的なしこりを残してしまう。当院のように医療的支援を必要としている患者の在宅への退院は、さまざまな問題を抱えているために、その不安も大きい。その不安を解消しなければスムースな退院はありえない。まず早期退院ヘスムースに移行するためのシステムづくりから始まった。
1.システムと連携
 看護部では、ネットワーク委員会の設置、退院調整会議とそのマニュアルと体制、退院前訪問実施体制、介護教室の開催プログラム、夜間・救急時の連絡・受け入れ体制、社会事業部ケースワーカーとの連携体制、地域医療施設との連携、非医療サービス業者との連携などのシステムをつくり成文化した。
 ネットワーク委員会は、委員長を副看護部長とし、各病棟と外来に委員を設置し、月1回の会議で情報交換や退院調整会議や連絡システムのマニュアルづくりをした。また、委員長は院内の情報や施設状況把握のために院外の病院・施設や保健センターの保健婦などの集まりである委員会に出席し、院内と院外の橋渡しをした。さらに看護部だけでは、社会的資源の活用や時機を得たアドバイスが後手にまわる。それを避けるために、ケースワーカーの看護部委員会に部門を越えて出席できるシステムをつくった。
 新しい診療報酬の改正で、退院前の訪問が点数化された。在宅療養に不安を持つ患者の自宅を訪問し、自宅での生活に近い退院指導ができるように、プライマリーナースかネットワーク委員が退院前訪問できるシステムをつくった。
 一方、妻や家族が自宅でもできる日常生活の介護技術を修得するための介護教室を開き、なるべく退院後の不安をなくすようにした。プログラムをつくり院内の入院患者の家族を募集し、指導者を決めて行うことにした。
 患者や家族は、緊急時や夜間病状が急変した時、入院と同じように病院が対応してくれるだろうかという不安は大きい。不安を解消するため、夜間や緊急時に対応できるシステムをつくった。患者の状況により対応の仕方は異なる場合が多い。そのため、基本的システムを状況に応じてアレンジし、成文化したものを必要個所に配布するように徹底した。
 また、ME機器を使用する患者の退院に向けては、非医療サービス(救急車、ヘルパー、器械供給会社、電力会社、電話会社など)の協力が必要である。依頼や連携などのマニュアルを作成し、状況に応じて依頼できるようにした。
 院内ケースワーカーの役割は、早期退院へ向けての役割は大きい。先のネットワーク委員会への出席のほか、病棟ラウンドを3人のローテーションで行ってもらい、ケースの早期発見と対応、病棟の相談や施設の紹介、カンファレンスへ参加して積極的に退院へ向けて働きかけている。
2.実践事例
 システムづくりと各種マニュアルを作成し実践して2年半になる。この2年間での実績は50%が自宅へ、残りは各施設あるいは他の病院への転院である。このシステムを活用して成功した事例を次に紹介する。
 脊髄損傷のある患者は、退院するには排泄が不安で退院が延びている患者がいた。看護婦が自宅訪問し、状況を把握し退院調整会議で報告した。排泄に関しては妻への指導、入浴は社会的資源を利用することで納得退院された。
 人工呼吸器使用の患者の場合は、システムを最大限に活用することで退院後在宅療養が可能となった。時には妻の介護の疲労を解消するために、2人同時に病院に入院してもらうなどの家族ケアにも配慮した。
 無酸素脳障害の子供のケースは、退院までの生活指導プログラムに力点を注ぎ、緊急システムを小児科医師に切り替え退院した。
おわりに
 早期退院へ向けてシステムをつくり実践してきたが、課題も多い。施設への移行や地域社会への働きかけにも老齢化が進み限界がある。現状は在院日数20日前後の確保しかできない状況である。
 しかし、介護保険制度の導入で新たな展開を見せてきた。制度を利用する人々が増加することで社会的資源の活用が今より一層増加すれば、早期退院への支援も現状打開が可能ではないかと考えている。








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