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(2)「産業廃棄物税」(三重県)
 
[1]概要
 三重県環境部長 濱田 智生
(導入の経過)
 当初は、法定外目的税が設置できるということで、税務関係の若手の職員の勉強会という形で始まった。初めは産業廃棄物の埋立税という感覚が中心だった。そして、平成11年の9月頃から環境部も参加して本格的な勉強会となった。
 条例は平成13年6月末に成立し、平成14年の4月からの施行である。ただし、平成14年度中の産業廃棄物の搬入量に係る分については平成15年7月までの申告納付ということになっているので、平成15年度の税収となる。
 従って、意図していた環境施策は実施できないことになるが、この条例成立後において、財政調整基金から環境の基金に借入を行い、前倒しで施策を実施している。
 当初は、三重県としても平成12年の夏頃には、9月議会に産業廃棄物税の検討状況を報告し、12月議会で条例を成立させ、早ければ平成13年度から施行し、平成14年からでもすぐに税収が入るような仕組みにするという方針だった。
 実際は、12月議会、3月議会と提出を見送り、平成13年6月議会で、全会派全議員の賛成という形の中で成立した。
 産業廃棄物税ということでいろいろな議論がなされたが、非常に厳しい景気動向の中にあって、この税を付加するのはどうかということが、最大の議論だった。
 そうした中で企業の反対があり、一時は新聞等にも見送りというような論調があったが、企業の担当者ともひざを突き合わせて総務局、環境部一丸となって何百回もの対話を重ねて積み上げ、成立させることができた。見切り発車ではなく徹底した議論の中で成立させる結果となり、我々としてはよかったのではないかと考えている。
 
(廃棄物行政の仕組みと実態)
 廃棄物の種類は、市町村が処理する責任を持つ一般廃棄物と、企業が排出者の責任で処理する産業廃棄物とに分かれている。県は、産業廃棄物の処理についての責務を持っているのではなくて、いわゆる許認可等の規制行政が県の職務である。
 従って、許可手数料収入と、一般財源としての交付税措置がある。平成12年度決算ベースでみると、三重県の場合、手数料と交付税で、1億2,000万円ほどの歳入がある。しかし、この時点で三重県が既にこの分野へ投入している金額は4億を上回っている。これが廃棄物行政の実態であり、各県の行う事業と税財源の均等でない部分が出ており、この傾向はどんどん広がってきている。
 そうしたことから、いわゆる廃棄物行政に対して規制行政の枠を脱却して施策を進めるというような観点から、新しい税の創設に取り組んだ。
 廃棄物処分場は、どの県でも非常に逼迫した状態である。処分場不足で、いわゆる「入れ渋り」という事態が発生しており、産業廃棄物受入料が管理型の処分場で、関東地域で約5割増し、あるいは近畿地方では2倍に膨れ上がっているとの報道もなされている。
 要するに地域の方の反対もあって、なかなか処分場ができないということからの当然の経済原理で、このような状況になっており、これが現実の処分場問題である。
 産業廃棄物の処分について最も困っていることについての本県の1,000社のアンケート調査では、何が一番困っているかという質問については、「処理コストが高騰している」という結果がでている。二番目が「民間だけで適正処理を進めるのは難しい」。以降「自社で廃棄物を処理する技術がない」、「減量化・リサイクル技術の開発が難しい」という傾向がある。
 
(検討経過)
 こうした実態も踏まえて検討した結果、三重県の場合は、税率をトン当たり1,000円としたが、それは、
 ・産業廃棄物1トン当たりの処分料金が、1,000円〜2,000円のレベルではなく、5,000円〜1万円といったレベルの高騰状況にあること
 ・従来の枠を越えた事業を実施することにより処分場の円滑な確保を図ることが制度創設の目的の一つであること
等から考えても、税を納めても十分ある種のメリットがあるのではないか、むしろ産業基盤の整備と言えるのではないか、といった論点も前へ出して議論をした。
 当初議会へは自由な議論をして頂くという趣旨から、4案を提起するというあまり前例のない方法をとった。それが資料13であり、A案・A'案、B案、C案の大きくは三つのグループになっている。
ア.A案の概略
 排出事業者が納税義務者であり、排出事業者が埋立処分業者のところへ持って行ったときに課税する。中間処理業者のところへ持って行ったときは、一定の処理係数を設置して、その時点で課税する。
 なお、課税対象の中でも納税義務者は免税点で一定量のところで打ち切ることにしている。納税方法を直接申告納付としており、何万社という申請を受けつけると、物理的に徴収コストが膨大なものとなるためである。
 結果的にはこのA案が三重県の案となった。
イ.A'案の概略
 A'案は、排出事業者が納税義務者であるというところはA案と同じであるが、納税方法を特別徴収としている。A案と異なり、一定の搬入量での裾切りを行わずに徴収することとしているため、特別徴収制度をおかないと、物理的に事務処理ができないためである。
ウ.B案、C案の概略
 A案、A'案に対して埋立段階、埋め立てされる産業廃棄物を中心にして課税するものである。
 
 
 
資料13
産業廃棄物に係る税の検討(試案)
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(産業廃棄物税の概要)
 上記のこの四つの案を提示して、議論を重ねた結果として、三重県産業廃棄物税条例として成立した。
・課税の根拠
 条例第1条で定め、法定外目的税としている。
・納税義務者
 納税義務者については、産業廃棄物を排出する事業者(県内・県外問わず)としている。
・課税対象
 課税対象となるのは、県内にある産業廃棄物の中間処理施設あるいは最終処分場への搬入であり、その搬入の時点である。
・課税標準
 課税標準としては、最終処分場への搬入の場合は重量である。中間処理施設への搬入の場合は、そもそも中間処理施設において、脱水処理等を行うことにより、重量等が減少する場合があるため、一定の係数を乗じて課税標準となる重量を計算する方法をとり入れている。
 また、9割方がリサイクルに回るような再生施設の場合は、課税免除することとし、そういった施設は認定施設として扱うこととしている。
・税率
 税率は1トンにつき1,000円としている。
・免税点
 4月から3月末までの1年間に1,000トンに満たない場合には、課税しないこととしている。この当時に想定した課税対象社数は県内51社、県外40社の計91社である。これに対しては多くの議論があり、1,000トンでは不公平ではないかとか、あるいはもっと小さいところがら拾った方がインセンティブも働くのではないかといった指摘もあった。
・徴収方法
 徴収方法は申告納付制度を採用している。
・使途
 使途としては、産業廃棄物の発生抑制、再生、減量その他適正な処理に係る施策に要する費用に充てることとしている。
 特に議論になったのは、いわゆるこの適正な処理の範囲をさらに超え、俗に言う負の遺産的なものとして放置された、違法処理された産業廃棄物の処理にも充てることを環境部としては強く主張したが、現行では、そこへは充てないということになっている。
・施行期日
 施行期日は平成14年の4月1日から施行することになっている。
・検討
 やはり税率や免税点について、多くの議論があったので、5年よりは短い期間で実態に即した見直しを行うべきではないかということが議会における主だった議論となった。
 
(産業廃棄物税の理念)
 三重県の環境施策の場合に、環境と経済を同軸にとらえた環境経営というものを打ち立てていきたいということで、「環境に配慮していては経済は成り立たないという従来の考え方を改め、環境と経済を同軸に捉えた環境経営の理念のもと、環境に配慮した方が経済的にも有利になる、環境に配慮しない企業活動は存続し得ないということを明確に打ち出していく必要がある」という考えに立脚し議論を行っている。
 三重県ではこの「産業廃棄物税条例」のほかに、「三重県生活環境の保全に関する条例」と議員提案で全国初の「三重県リサイクル製品利用推進条例」の3つの条例が制定された。
 今後は、循環型社会の構築を目指す中で、産業廃棄物の処分場自体も処分場という捉え方ではなく、それは産業基盤の一つとして円滑な確保を図る必要があり、そのためには、「従来の施策の枠を越えた新たな産業廃棄物対策には新たな財源の確保が必要であり、法定外目的税として産業廃棄物税を創設し、企業活動がより活力あるものとなり、今後長期にわたり円滑な事業活動を進めることができるようにしていきたい」と考えている。
「なお制度の効果として産業廃棄物の発生抑制、リサイクル等を推進することも期待」していると、インセンティブ効果も期待している。
 
(産業廃棄物税の使途)
 賦課徴収経費を除き、大きくは二つの項目がある。
 一つは、環境の21世紀に通じる産業活動への支援ということで、今まで実施していなかった、どちらかといえば大企業も含む色々な産業への対応という部分の事業である。
 二つ目は、産業廃棄物による新たな環境負荷への対策という項目である。少し思い切った事業への移行ということで、特に議論があったが、産業廃棄物監視強化対策事業として強化を図った。三重県の場合、警察官が5名、県のいわゆる一般職職員が5名の計10名の体制だったものを、この産業廃棄物税の導入により、倍増し20名体制とした。この増員分の経費についてこの税を充てている。
 
(環境廃棄物税の収入見込み)
 この税の検討を始めてから2年半程経過したが、税収は恐らく4億円は入らず、3億円程度になるのではないかと見込んでいる。要因は二つあり、一つは、上位10社ぐらいを見ると、一番多いところが半減するなどの廃棄物処分量の削減努力が見られること。
 もう一つの要因は、物理的なもので、三重県の場合、県外からの産業廃棄物が多いが、その県外産廃が減少している。それは、入ってくる産業廃棄物がなくなったのではなく、受け入れる処分場がなくなってきたというのが正しい姿である。三重県の場合、いわゆる近畿圏、大阪からの産業廃棄物、それから愛知県からの産業廃棄物が多いが、それらの処分場がほとんどなくなってきている。そのため、これ以上無制限に入れると、民間の企業としてそこが終息しなければならないという状況となっている。
 この二つの要因から、恐らく税収は3億円程度となるのではないかと見込んでいる。
 
[2]主な討議
問 産業廃棄物税を確実に執行していくためには、受け入れる処分場の方からも確実な情報を入手することが不可欠だと思われるが、三重県はどういうことを検討しているのか。
 
答 制度的にはマニフェストという制度があり、産業廃棄物行政の中で対応可能と考えている。三重県の場合、これまでの蓄積があり事実上処分場の方からの協力は得られている。
 
 
【参考】 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(抜粋)
 
 (産業廃棄物管理票)
第12条の3 その事業活動に伴い産業廃棄物を生ずる事業者(中間処理業者を含む。)は、その産業廃棄物(中間処理産業廃棄物を含む。第12条の5第1項において同じ。)の運搬又は処分を他人に委託する場合(環境省令で定める場合を除く。)には、環境省令で定めるところにより、当該委託に係る産業廃棄物の引渡しと同時に当該産業廃棄物の運搬を受託した者(当該委託が産業廃棄物の処分のみに係るものである場合にあつては、その処分を受託した者)に対し、当該委託に係る産業廃棄物の種類及び数量、運搬又は処分を受託した者の氏名又は名称その他環境省令で定める事項を記載した産業廃棄物管理票(以下単に「管理票」という。)を交付しなければならない。
2 産業廃棄物の運搬を受託した者(以下「運搬受託者」という。)は、当該運搬を終了したときは、前項の規定により交付された管理票に環境省令で定める事項を記載し、環境省令で定める期間内に、同項の規定により管理票を交付した者(以下「管理票交付者」という。)に当該管理票の写しを送付しなければならない。この場合において、当該産業廃棄物について処分を委託された者があるときは、当該処分を委託された者に管理票を回付しなければならない。
3 産業廃棄物の処分を受託した者(以下「処分受託者」という。)は、当該処分を終了したときは、第1項の規定により交付された管理票又は前項後段の規定により回付された管理票に環境省令で定める事項(当該処分が最終処分である場合にあっては、当該環境省令で定める事項及び最終処分が終了した旨)を記載し、環境省令で定める期間内に、当該処分を委託した管理票交付者に当該管理票の写しを送付しなければならない。この場合において、当該管理票が同項後段の規定により回付されたものであるときは、当該回付をした者にも当該管理票の写しを送付しなければならない。
4 処分受託者は、前項前段、この項又は第12条の5第5項の規定により当該処分に係る中間処理産業廃棄物について最終処分が終了した旨が記載された管理票の写しの送付を受けたときは、環境省令で定めるところにより、第1項の規定により交付された管理票又は第2項後段の規定により回付された管理票に最終処分が終了した旨を記載し、環境省令で定める期間内に、当該処分を委託した管理票交付者に当該管理票の写しを送付しなければならない。
5 管理票交付者は、前三項又は第12条の5第5項の規定による管理票の写しの送付を受けたときは、当該運搬又は処分が終了したことを当該管理票の写しにより確認し、かつ、当該管理票の写しを当該送付を受けた日から環境省令で定める期間保存しなければならない。
6 管理票交付者は、環境省令で定めるところにより、当該管理票に関する報告書を作成し、これを都道府県知事に提出しなければならない。
7 管理票交付者は、環境省令で定める期間内に、第2項から第4項まで又は第12条の5第5項の規定による管理票の写しの送付を受けないとき、又はこれらの規定に規定する事項が記載されていない管理票の写し若しくは虚偽の記載のある管理票の写しの送付を受けたときは、速やかに当該委託に係る産業廃棄物の運搬又は処分の状況を把握するとともに、環境省令で定めるところにより、適切な措置を講じなければならない。
8 前各項に定めるもののほか、管理票に関し必要な事項は、環境省令で定める。
 
 
 
 
問 税率についてトン当たり1,000円であり、課税標準1,000トンが免税点というのは、産業廃棄物の抑制という目的からすれば、効果が薄いのではないか。また、設定の根拠は何か。
 
答 産業廃棄物の処分料金の高騰により、事業者は産業廃棄物自体を減らさなければ事業運営自体が苦しくなるという状況にあり、産業廃棄物税がなくとも、事業者は排出抑制努力をやらざるを得ない。
 県としては、規制行政の枠を越えて、企業のリサイクル関係の事業化への補助金など支援していきたいと考えている。
 免税点については様々な議論があったが、大量排出事業者が処分場を県内で一番活用しているという認識から、上位者から取っていく方式を採用することとした。実は500トンあるいは、100トンぐらいまで下げた方がいいのではないかという議論もあった。
 結果的には色々な企業あるいは議会等の議論の中で、1,000トンの水準で合意がついた。








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