2 新産業育成方策導入の要因(産業振興施策推進の必要性)
(1)政策指針
北九州市は1992年の「地球サミット」において「国連地方自治体表彰」を受賞するなど、環境国際協力で国際的に高い評価を得ている。
環境未来都市の創造に向け、本市の環境保全全般に関する政策の行動指針である「アジェンダ21北九州」を平成8年3月に制定した。
当指針に基づき、市民、事業者、市の役割分担のもと、自主的、積極的な取り組みを行うとともに、さらに、これらの取り組みを推進するため、平成13年1月に「環境基本条例」を制定し、「環境への負荷の少ない持続可能な発展する都市」の構築を図ることとしている。
《アジェンダ21北九州の全体構成》
●基本理念
・ 環境への負荷の少ない持続的発展が可能な都市の構築
・ 都市、生活型郊外の克服と快適環境の創造
・ 環境国際協力の推進
●基本的方向
・ 環境との共生による地域発展が図れるまち
・ 環境に配慮された地域社会や市民生活が形成されるまち
・ 公害のない、健康で、快適な生活環境が確保されるまち
・ 恵み豊かな自然が保全され自然とのふれあいが確保されるまち
・ 地球環境保全で世界に貢献するまち
【アジェンダ21北九州の概念図】
(2)環境産業施策
本市は鉄鋼業を中心とした産業都市として成長した経緯から大量生産型社会の象徴的な存在であった。
そのため、生産・消費活動から排出された廃棄物については、利用価値の存在しないものといった観念が形成されていった。
しかし、公害を克服した経験や、世界的な環境に配慮した取り組みなど時代の潮流により、この価値観を180度転換する必要が生じた。
基本的に環境産業は生産・消費が終了したものの再利用で、動脈産業と同様な経済効果等を期待することは困難であり、また、コスト削減が常に求められるため、再生したものの利用効率を上げることができるよう、社会のリサイクルシステムの構築も必要な産業である。
更に廃棄物といった言葉が持っているイメージを払拭し、施設等を整備するうえで、住民の誤解を招かないような方策を講じる必要がある。
環境産業は、ITベンチャーのように新たに市場を開拓していける産業ではなく、既存の市場のサイクルを変える産業である。
このため、リサイクルコストの削減、消費者のリサイクルに関する意識の高揚等に関し、インセンティブを与えることが事業成功の重要なポイントなると考えられる。
現在、本市では、北九州エコタウン事業として、環境産業の集積が図られており、12社(3組合を含む)が進出し、539名(非常勤研究者を含む)が雇用されている。
環境産業の創出に向けては、大別して[1]環境がビジネスとなるための事業者側の体制整備、[2]リサイクル製品の市場規模拡大といった2つの課題を整理する必要がある。
まず、環境がビジネスになるための体制整備に向けた施策について説明する。
ア ストックの活用
本市では、重化学工業を中心とする生産活動により排出された廃棄物を適切に処理する必要があったことから、まず、昭和10年に日本製鐵(株)(現新日本製鐵(株))が市の北側に位置する若松区の響灘地区を最終処分地として整備し、その後関門航路の浚渫土砂の処分場、廃棄物処分場などとして海上の埋め立てが行われた。
その結果、約2,000ヘクタールという東京都の港区や新宿区とほぼ同じ面積の広大な土地が誕生した。
この巨大用地の活用方法については、港湾物流基地、企業団地等が計画されているが、用地費が安価で市街地から離れていることや、港湾機能も利用できることから、環境産業の用地としては市内で最も適切な場所であると考えられた。
このため、この用地を活用した循環型産業システムの構築を図ることとした。
イ 循環型産業システム
循環型産業システムを構築するために、
[1] 環境に関する基礎研究を行う「北九州学術研究都市」
[2] 基礎研究結果等を元に具体的なリサイクルの手法を検討するための技術開発や実証研究を行う「実証研究エリア」
[3] 実証研究エリアで事業化の目処がついたものを産業として興していく「総合環境コンビナート」、「響リサイクル団地」の整備を行うこととした。
上記[2]及び[3]が北九州エコタウン事業であり、平成9年に通商産業省(当時)によりエコタウン地域1号に指定され、ハード及びソフトの整備を図ってきたところである。(本市と同時に指定された地域:川崎市、岐阜県、飯田市)
このシステムは、大学や研究所などで研究されたシーズが実証研究という孵化装置を経て、産業として成り立っていくようなプロセスを形成しており、産学連携の一つの形としても有効なものと思われる。
これら[1]〜[3]の流れを整備することにより、環境産業の確立に向けた事業者側からのアプローチを行ってきたが、その追い風となっているのが、世界的な環境への配慮であることはいうまでもない。
次項から、システムを構成する要素について説明する。
【北九州エコタウン事業の概念図】
ウ 北九州学術研究都市
北九州学術研究都市は、アジアの中核的な学術研究拠点の形成と新たな産業の創出、技術の高度化を図ることを目的としている。
地方単独の事業であるため、総合大学を目指すのではなく、情報及び環境に関する先端科学技術分野に特化したものである。
国内外を代表する大学・研究所を一つのキャンパスに集積させ、研究者や学生が日常の交流を通じて互いに協力し、キャンパス全体として総合力を発揮させようとするものである。
平成13年4月に大学ゾーンがオープンし、現在、大学院と大学がそれぞれ1つ開学するととともに、4つの研究所が開設している。
さらに平成15年度までには、2つの大学院が開学する予定である。(<参考>北九州学術研究都市の概要参照)
環境分野への取り組み状況は次のとおりである。
名前 |
概要 |
研究分野 |
組織等 |
北九州市立大学国際環境工学部 |
環境工学や情報メディアの分野における高度な学際的教育を実施 |
環境化学プロセス工学科 |
入学定員 250人 収容定員 1,000人 |
環境機械システム工学科 |
情報メディア工学科 |
環境空間デザイン学科 |
福岡大学大学院工学研究科 |
物質文明社会と自然環境の調和を配慮した社会システム、産業システムを構築するという社会的要請に応えられるような学際的工学研究と教育を実施 |
資源循環工学 |
入学定員 10人 収容定員 20人 H14.4 開設予定 |
環境化学制御 |
環境生態制御 |
地域環境 |
英国クランフィールド大学北九州研究所 |
建築物における省エネルギー・環境配慮について、研究 |
情報通信 |
研究者 若干名 学生 若干名 |
環境 |
バイオ |
早稲田大学理工学総合研究センター九州研究所 |
環境と建築の学問的融合をテーマに、先進的研究を推進 |
環境 |
研究者 20人 大学院生 100名 |
建築 |
情報通信 |
エネルギー |
福岡県リサイクル総合研究センター |
資源循環型社会の構築に向け、環境・リサイクル技術と社会システムを研究開発し、情報発信を実施 |
リサイクル技術と社会システムのマッチングした実用的な研究分野 |
研究者
16人 |
エ 実証研究エリア
実証研究エリアは、研究を開始して概ね3年以内に事業化が見込めるものを対象として、企業、行政、大学の連携により、最先端の廃棄物処理技術やリサイクル技術を実証的に研究する機関を集積し、環境関連技術開発拠点を目指すものである。
実証研究エリアの場所は、響灘地区で約6.5haの敷地に整備されている。
平成14年1月現在において、焼却灰の無害化やリサイクル、食品残さのリサイクル、最終処分場に関する研究等18のプロジェクトが進行しており、また、2つのプロジェクトが今後加わる予定である。
(<参考>実証研究エリアの概要参照)
オ 総合環境コンビナート、響リサイクル団地
実証研究エリア等で研究された内容を含め、環境産業の事業化を展開するエリアで、24.5haの用地に総合環境コンビナートと響リサイクル団地が配置されている。
また、各事業所が集積することに伴って各事業所相互の連携が図られ、ゼロエミッション型の環境産業コンビナート化を図ることによって、環境産業の拠点化を目指すものである。
現在の進出状況としては、総合環境コンビナート(19ha)の中にペットボトルのリサイクル事業、OA機器のリサイクル事業、自動車のリサイクル事業等6つの事業が展開されている。
また、今後4つの事業の展開が図られる予定である。
響リサイクル団地は、フロンティアゾーン(2.5ha)と自動車リサイクルゾーン(3ha)に分かれている。
フロンティアゾーンは、地元の中小、ベンチャー企業を対象とした区域であり、現在、独創的・先駆的な技術やアイデアを生かした各種リサイクル事業が展開されている。
また、自動車リサイクルゾーンには、市街地に点在する自動車解体業者が集団で移転し、平成14年4月からより適正で効率的な自動車リサイクル事業に取り組むこととしている。