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都市型新産業の育成:産業構造を踏まえた基礎的考察―産業連関分析による広島市のケーススタディ―
 広島市企画総務局企画調整課
 調査研究担当課長 吉岡 研一
 広島市の産業構造は、外需依存型であると言われる。海外や市外の経済活動が活発で需要が増加すると、それに牽引されて広島市の生産活動も活発となり、逆に海外や市外からの需要が減少すると、広島市の生産活動も減退する。
 近い将来、わが国の人口が減少に転じることが予測される中で、高齢者比率はますます高まり、労働力の確保や世代構成に起因する構造的な需要の減退が懸念されている。こうした社会経済構造の変化の中で、広島市の産業は、どのように適応していく必要があるのだろうか。
 広島市では、5年ごとに国に準じ産業連関表を作成・公表しており、これまで1985年表、1990年表、1995年表が作成・公表されている。産業連関表は、加工統計の一つであり、各種の統計調査の結果を利用し、推計により作成されるもので、産業構造の分析や生産波及効果の分析に広く利用されている。特に、産業連関表では、需要供給を通じた産業間の相互依存関係を見ることができ、含まれる情報が豊富である。
 本稿では、広島市産業連関表を利用し、産業間の相互依存関係や域内・域外の関係(域際構造)に焦点をあて、広島市の産業構造と産業の特性を計量的に分析し、これに基づいて、産業振興の方向について検討する。
 したがって、本稿は、広島市が現在行っている産業振興策について述べるものではなく、産業振興に関する広島市の見解でもない。本稿は、広島市産業連関表に基づく計量分析であり、本稿における分析や意見は、筆者の私見であることをお断りする。 
1 問題意識と目的 
 戦後、わが国では、経済の復興期から高度成長期にかけて、移輸出産業の振興が奨励された。同様の考えから、地域においても移輸出産業の振興が奨励された。域外に大きな需要がある産業を域内に立地して、域外から原材料を移輸入し、域内で製品を生産し、域外へ移輸出することにより、域内の生産を増加させ、所得を上昇させる。しかし、多くの地域が高度成長期に製造業を中心とする移輸出産業の立地により経済的成功を収めたが、戦後半世紀を経て、製造現場の海外移転や交易条件の悪化による移輸出産業の衰退とともに、かつて成功した地域の多くは、低迷を余儀なくされている。
 また、わが国の社会経済を長期的に見たとき、これまでの生産の持続的な拡大は、基本的に弾力的な労働供給により、また、需要の持続的な拡大は、人口の増加と経済成長に伴う個人所得の増大に支えられてきた。生産の増大も消費の増大も基本的に人口の増加により支えられてきたのである。ところが、人口は、これまで一貫して増加してきたが、数年後には減少に転じることが予測されている。しかも、人口の減少とともに、年齢構成において高齢者比率がこれまでになく、大きなものとなる。こうした人口の変動は、消費の数量とともに内容を変化させる。こうした社会経済構造の変化は、成長に重きを置く社会から安定に重きを置く社会へと価値観の変化を求めているのではないか。
 広島市産業連関表によると、市内生産額(名目)は、1985年6兆2006億円、90年9兆1042億円、95年9兆3047億円であり、5年間の成長率は、85年から90年が約46.8%、90年から95年が約2.2%となっている。
 この期間は、いわゆるバブルの時期と平成不況の時期、言い換えれば長期の成長と長期の不況の両方を経験した時期である。同じ期間におけるわが国の経済活動を産業連関表で見ると、国内生産額(名目)は、85年678兆5382億円、90年872兆2122億円、95年937兆1006億円で、5年間成長率は、85年から90年が約28.5%、90年から95年が約7.4%である。
 85年から95年を前半(バブルの時期)と後半(平成不況の時期)の2つの期間に分けて見ると、広島市の市内生産額は、国内生産額の変動より前半は大きく成長したが、後半はより低い成長であった。市民経済計算、国民経済計算の各年の成長率を合わせて見ると、広島市経済は、景気拡大期には国より高い成長、景気減退期には、国より低い成長という傾向が見てとれる。こうした景気の変動に対する特性は、広島市の産業構造に起因したものであろうか。もし、そうであるとすると、どのような構造が原因であろうか。
 本稿の問題意識は、現在行われている地域の産業振興策が、交易条件の変化に伴う生産拠点の海外移転に伴う地域産業のあり方といった点に重点が置かれており、わが国の国内産業と国際産業との間にある生産性格差の問題や長期的な社会経済構造の変化への対応といった面に目があまり向けられていないのではないかという点にある。バイオやITといった先端産業の振興で、近い将来直面するであろう国内需要の変質に地域経済が対応できるのであろうか。
 こうした疑問に対して、本稿では、これまでの産業振興策の論理とは、全く別のアプローチをする。まず、産業連関表を利用し、広島市の産業構造や産業の特性を計量的に分析する。そして、得られたデータを利用して産業構造の面からどのような特性を持つ産業が将来の安定を重視する経済にとって望ましいのか、その検討材料を提供する。








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