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4.先端医療センター
 中核施設である先端医療センターは、経済産業省の新事業創出促進法に基づく新事業支援施設として、1999年12月、2000年12月の国(地域振興整備公団)の補正予算、1999年12月、2001年3月の市の補正予算、さらに民間企業あわせて計102億円の出資を受けて、「神戸都市振興サービス(株)」が整備を進めている。運営主体としては、2000年3月に、市や兵庫県、民間企業が計1億3,750万円を出捐して「先端医療振興財団」が設立された。2001年3月には、センターの一部である「医療機器棟」が完成し、今後「研究棟(細胞培養センター含む)」が2002年3月に、60床の臨床病床を有する「臨床棟」も2002年度には完成予定である。ここでは、大学・研究機関の研究者と医療関連企業が共同で研究を進めることにより、基礎から臨床応用、産業化への橋渡しを行う。倫理性に十分配慮しながら、次に挙げる3分野の研究に取り組み、この研究成果を、いち早く実際の医療や産業化に生かすことを目指している。
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「先端医療センター」完成予想図
〔医療機器の研究・開発〕
 医療機器棟は、関西の医学者・工学者の共同研究拠点として、オープン型や超高磁場のMRI、PET、CT−ライナックといった、体の各器官の形状や働きなどを画像化できる日本有数の最新鋭の医療機器を整備している。これらの機器を使って、当面3つの事業を進めていく。
 1つめは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託事業として、医学・工学連携型(ME)研究事業に取り組む。テーマは「高次生体情報の画像化による診断・治療支援システムに関する基盤研究」で、NEDOが計上する予算額は、1999年度から5年間で、計12.7億円である。主な研究内容は、超高磁場MRIを用いた、より精度の高い脳機能等の障害や前立腺等の腫瘍悪性度等の診断、オープン型MRIを利用した画像を見ながらの外科手術システムやIVR法(カテーテル等を用いた低侵襲な治療法)の開発、悪性腫瘍に対して、呼吸等による臓器の動きにかかわらず放射線、超音波等を的確に照射するための治療支援システムの開発などである。
 2つめの事業は、がん等の疾患の診断や早期発見が可能なPET診断サーヒス事業で、2002年1月より実施している。
 3つめは、CTで患部の位置を確認しながら、がん細胞にだけ集中して放射線を照射することにより、正常細胞にはできるだけ影響を与えない放射線治療が可能となるCT−ライナック治療事業で、2002年春からの実施を予定している。 
先端医療センター医療機器棟に整備された各機器
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 PET:
 ポジトロン断層撮影法(Positron Emission Tomography)のことで、サイクロトロンで作られる陽電子(ポジトロン)放出核種を目印とした薬剤を体内に投与し、その体内分布を検出器を用いて映像化するもので、身体の生化学情報を得ることができる。がん、アルツハイマー病等の早期発見に有効。
 オープン型MRI:
 (MRIとは、Magnetic Resonance Imaging〔磁気共鳴画像法〕):2つの超電導型磁石を縦型に並べその間が開放された形状であり、リアルタイムの画像を見ながら手術を行なうことができる。滋賀医科大学付属病院に次いで、日本では2台目の設置。
 CT−ライナック:
 ライナックとは、電子線直線型加速器のことで、高エネルギーのX線を電子的に発生させ、悪性腫瘍に照射することにより治療を行う。CTライナックとは、CTとうイナックを一体化させることにより、CTで患部の位置を確認しながらより高精度(で副作用の少ない)の放射線治療が可能となる。
 超高磁場MRI:
 通常用いられているMRIよりも、非常に高い磁場を発生させることで、より鮮明な臓器等の画像を得ることができ、臓器内の血流分布などの生理機能や生化学情報を得ることができる。

[医薬品などの臨床研究(治験)の支援]
 治験は、新たに開発される薬の安全性や有効性を確認するために欠かせない。すでに2000年10月に診療所を設け、モデル的に国の新しい基準(新GCP)による安心で信頼できる外来の治験を始めている。また、地域の病院や診療所などと先端医療センターが協力し、身近な病気である生活習慣病などを対象にした治験を行う仕組みをつくるため、地元の医師会とも検討を行なっているところである。さらに、2001年3月からは、医師と患者さんの間に立ってインフォームド・コンセントの徹底を図る「治験コーディネーター」の養成講座も始めている。 
[再生医療等の治療への応用]
 細胞などを分化・増殖させ、傷ついた組織や臓器の機能を回復させる「再生医療」は、21世紀の夢の医療といわれている。すでに、皮膚や軟骨の培養による治療は実用化のレベルに達している。
 先端医療センターでは、文部科学省の科学技術振興事業団(JST)の委託事業として、地域結集型共同研究事業に取り組む。JSTが計上する予算額は、2000年度から5年間で計18億円である。
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発生・再生科学研究センター完成予想図
既に、2000年2月に神戸設置が正式決定し、現在隣接して建設が進んでいる、再生医療の基礎研究を進める世界的な研究機関である理化学研究所の「発生・再生科学総合研究センター」と連携協力しながら、「再生医療にかかる総合的技術基盤開発」をテーマに、京阪神の研究者や製薬・バイオ関連企業、さらに地元企業等のすぐれた人材が結集して、世界的レベルの産業化に向けた共同研究が始まっている。具体的な研究内容は、さい帯血の増殖による白血病治療や皮膚・軟骨・骨の再生、神経細胞・すい臓細胞・血管組織の再生などである。2001年9月からは、トランスレーショナル・リサーチ・コミュニティ(TRC)と呼ばれる、再生医療を中心に先端医療をテーマとして、研究機関、医療機関、企業、市民の方が専門用語の翻訳機能を活用して、意見交換ができるインターネットサイトの運用も始まっている。
 さらに、先端医療センター内には、大学の研究者と企業が共同で、「再生医療」の研究成果を実際の患者への治療に活用するための取り組みを行う日本初の「細胞培養センター」を整備中で、すでに多数の国内外の再生医療関連のベンチャー企業等が進出を希望している。
 これらの2施設と、関西圏の大学や、尼崎に建設中の、産業技術総合研究所が運営する「ティッシュエンジニアリング研究センター」などと連携して研究と産業化を進めることによって再生医療の世界の拠点を目指していく。ティッシュエンジニアリング研究センター
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再生医療にかかるネットワーク図
[倫理面の審査について]
 これら3つのテーマが取り扱う医学研究及び医療は、最先端の医療技術で、高度の専門性を有することから、先端医療センターでは、関係法令や政府のガイドラインや指針に基づき、十分な配慮を行っていかなければならない。
 そして、倫理性の確保は研究成果を円滑に医療の現場に橋渡し(トランスレーショナルリサーチ)していくための、基盤づくりである。一般市民の代表の方など広く外部の方に参画していただいて、研究分野別に、倫理性、科学性等を審査する委員会として2000年11月に、厚生労働省の基準に基づく「治験審査委員会」を立ち上げ、2001年8月には「映像医療審査委員会」も設置した。
「再生医療審査委員会」も進捗状況に合わせて設置していく予定である。
 また、先端医療センター全体の倫理性についての統一的な指針の策定や、分野別審査委員会の審査結果等について倫理上の必要な助言や関係者に対する情報提供などを行なう「生命倫理審議会」が、市民の代表の方などの参画も得て、2001年の9月に設置された。今後、徹底した情報開示のもと、基盤づくりに取り組んでいく。








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