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「神戸医療産業都市構想の取り組み状況について」
 安藤 直哉(神戸市企画調整局企画課長)
1.はじめに
 21世紀は、医学、特に生命科学の分野が飛躍的に進歩するといわれている。急速な高齢化、先端医療研究の進展、技術革新等のもとで、医療関連産業は、市場・雇用規模が最も大きくなる成長産業と予測されている。
 「神戸医療産業都市構想」とは、医療関連の大学・研究機関、企業を神戸・ポートアイランド第2期を中心に集積することで、市民に高度な医療サービスを提供できるようにし、また、既存産業の高度化を図るとともに、新産業を創出するごとにより、雇用の場を確保し、神戸経済を活性化すること、さらに、海外、特に中国やアジア諸国等の医療技術の向上を通じて、国際社会に貢献することを目指している。 
2.背景
 本市が医療産業都市構想を推進するにあたっては、大きく分けて3つの背景があった。
 1つは、21世紀、日本は急速に高齢化社会に向かうという点である。今から26年前の1975年、日本の65歳以上の人口は、総人口の7.9%であったが、25年後の2000年には、17.5%と2倍以上を占めている。日本社会が活力を維持していくためには、高齢者が1日でも長く健康を保って存分に活躍していくこと、健康で質の高い生活の確保が肝要であり、医学の重要性はさらに増していく。さらに世界保健機関(WHO)も、2000年6月に、初めて、新しい寿命指標として「健康寿命(病気やけがで健康が損なわれている期間を平均寿命から差し引いたもの)」を発表した。191か国の調査の結果(1999年)、日本の平均寿命は80.9歳、健康寿命は74.5歳で、ともに世界一であるが、より高度な医療サービスを、安全速やかに医療の現場に提供していくことで、その差6.4年間をさらに縮めていくことが必要である。また神戸市においても、第4次神戸市基本計画において、「WHO神戸センターを核に、超高齢社会に向けて発展が見込まれる健康福祉産業の振興を図る」と位置づけており、既に健康・スポーツという観点では、子どもからお年寄り、障害者などすべての市民がスポーツを通じて健康づくりを進める神戸アスリートタウン構想も推進しているところである。
 2つめの背景としては、神戸経済は、阪神・淡路大震災の影響、さらに生産拠点の海外移転など日本全体の産業構造の転換などにより、重厚長大型産業や港湾関連産業に依存した経済構造では、持続的な経済発展が難しい状況にある。1997年に閣議決定された「経済構造の変革と創造のための行動計画」では、21世紀に市場・雇用規模が最も大きくなる産業として、医療・福祉産業分野の市場規模が、1997年の38兆円から2010年には91兆円と2.4倍になると見込まれている。特に、医療機器、医療材料、製薬等の医療関連産業については、市場規模も格段に大きく、健康・福祉産業のみならず、情報処理、電子機器、新素材等の幅広い関連産業への波及効果が期待されている。神戸経済を活性化させる新たな産業の振興が最重要課題である神戸市にとって、この点で、ライフサイエンスは21世紀に飛躍的進歩が予想され、医療関連産業はすそ野も広いことから、産業面での成長株として着目したわけである。
 3つめは、神戸は、もともと、地域的に優れた特徴を兼ね備えていた点である。関西には、京都大学、大阪大学、神戸大学など日本有数の大学の医学部や国立循環器病センターなどの医療機関、製薬会社が集まっている。また、古くから海外に開けてきた神戸には、教育施設をはじめとして外国の研究者や企業の人たちが暮らしやすい環境が整っており、日本全国につながる道路網や港、空港など交通・物流ネットワークも整備されている。さらに、造船や鉄鋼業などで培われた高い技術力を持つ地元企業も数多くある。これらを活用することで、医療関連の機関や企業の集積が図られると考えたのである。








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