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9 今後の展望
 (1)京都市において取り組んでいるベンチャー育成方策のうち特徴的なものを紹介してきたが、最後に、これらの取組についてどのように評価するかについて考えてみたい。これらの取組は、ほとんどがまだ日が浅く、数字で明確に成果として指し示すものを見出すことは難しい。
しかし、これらの取組は、起業家やその予備軍である人たちにとって今まで満たされなかったニーズをある程度充足する試みであると評価できるのではないかと考える。また、これらの政策は、京都市政の産業行政分野における政策形成能力が発揮された独自性高い意欲的な試みであるとも評価できると思う。
 しかし、いかなる政策にも完全や完成形はないであろう。京都市は、昨年3月に、今後、京都市版行政評価システムを構築し、これを21世紀の市政運営の中心に据えることを対外的に宣言した。そして、平成16年度からの本格施行を目指し、現在、制度構築を進めているところである。産業政策、そしてそのうちの各種ベンチャー育成策についても、もちろんその対象となり、達成度評価をはじめ、公民の役割分担、必要性、効率性等多角的な観点から評価されることとなる。したがって、単に施策の先進性や独自性に満足するのではなく、PLAN−DO−SEEのサイクルの観点から厳しい点検評価を加え、不断の改善を目指して努力する必要があると考える。

 (2)ベンチャーに対する国民の意識は、随分様変わりしてきた。それは、従来の中央官庁や大企業志向すなわち安定志向がある意味で神話として大きく揺らいできていることとも密接に関係するものと思われる。あり得ないと考えられていた大銀行の破綻や独自のビジネスモデルによりかつて栄華を極めていた大手スーパーの破綻は、「大企業=安定」という図式を吹き飛ばした。そして、道なき道に挑戦することこそ真に自己実現を図る道であると思い始めた若者達が増加してきている。
 社会全体が直線状の人生双六でない生き方、また、挑戦に失敗した者のやり直しを認めるような価値感を持ち始めてきている。このような状況の中で、既存の企業ではまだ満たされていないニーズやこれからの開拓を待つニーズは、数多く存在しており、ベンチャー企業が存在し得る場所は、実はたくさん存在していると思われる。そうした社会のニーズをベンチャー企業が満たすとともに、その中から画期的なアイデア、技術などにより、爆発的なニーズを探り当て、新たな産業を起こすことにつながる企業が京都から多く生まれ、京都経済を牽引し、関西圏の再生にも寄与し、ひいてはわが国の経済発展にも寄与することが強く望まれる。
 京都については、多くの人が多くのことを語っている。京都の衰退、京都の危機を叫ぶ声もある。しかし、京都は、今なお都市として比類ない魅力を有している。住んでみたい都市の上位に位置付けられる都市でもある。日本人の心のふるさととして歴史と文化に彩られた古都、そして、現在も147万人もの市民が暮らし続ける大都市である。また、京都大学という巨大な知的集積を中心として多くの大学が存し、そこには、「京都学派」という言葉に象徴される優れた人材、そして情報が集まってくる。
更に、高度な技術とチャレンジ精神を持った優れた企業を数多く輩出してきた産業風土がある。このようないくつもの利点、アドバンテージをフルに生かすことができれば、京都の魅力を将来に渡って支えていく京都経済の発展、安定は、十分可能であると考える。
 国の大学政策の転換が行われ、学生数の減少も将来見込まれるという大学にとって厳しい環境が生まれてきたことから、大学の産業界に対する意識も様変わりしてきたと言われる。京都で一時大いに危倶された大学の市外流出も、京都大学の新キャンパスが市内西京区に建設されることとなったことをはじめ、京都市の懸命の努力もあって、一応終息した模様である。また、工場の新増築等を規制していたいわゆる工場等制限法も、既に使命を終えたものとして、廃止が見込まれている。こういった状況の中で、京都ならではの産学連携、そして行政も加わった産学公連携を強力に進めるチャンスが到来していると言える。

 (3)現在、京都市では、前記の産業振興ビジョンに代わる新たな産業振興ビジョンの策定に取り組んでいるところである。昨年(平成13年)6月に有識者で構成する策定委員会が発足して、検討を開始し、平成13年度末をめどに新たなビジョンが策定される。京都市が行ってきたものづくり産業の振興策は、改めて新しいビジョンに位置付けられて実施されていくことになる。
 私どもが籍を置く総合企画部門も、経済の活性化が京都の魅力の基盤であるという認識に立ち、新たに策定される産業振興ビジョンをベースに産業政策部門と連携を深め、戦略的な新産業創出、ベンチャー育成、産学公連携の推進に貢献しなければならないと考えている。 

(参考URL)
 京都市産業観光局商工部産業振興課 http://www.city.kyoto.jp/sankan/sanshin/
 京都市ベンチャー企業目利き委員会 http://web.kyoto-inet.or.jp/org/venture/
 女性起業家セミナー「京おんな塾」http://www.city.kyoto.jp/sankan/sanshin/venonsi.htm
 京都市ベンチャービジネスクラブhttp://web.kyoto-inet.or.jp/org/kvbc21/
 (財)京都高度技術研究所http://www.astem.or.jp/








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