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5 新事業・新産業創出施策の課題
 新事業・新産業創出の成否は、いかに効率的に中小企業やベンチャー企業を育て、自立させることができるかにかかっている。これは、言い換えれば、いかに適切な支援サービスを提供しうるかということである。したがって、これまでインキュベータの設置などハード整備に偏りがちであった新事業・新産業創出施策の今後の課題は、ソフト面の充実ということになろう。 以下、新事業・新産業創出において重要なソフト面の課題について考えてみたい。
 
(1)優れた人材の確保
 新事業・新産業の育成にあたっては、総合的な相談窓口の設置、専門的な勉強会・相談会等の企画、外部とのネットワークの形成、公的な支援など、さまざまな中小企業やベンチャー企業に対する施策が必要となる。中小企業やベンチャー企業に対してこのような支援サービスを提供するのが、プロジェクトマネージャーである。
 企業が必要とするサービスは、技術面から経営面まで多方面に及ぶ。さらに、同じ業種であっても、取扱う製品が違っていれば、必要とされるサービスも異なってくる。したがって、企業が期待しているサービスを提供するためには、個々の事業に応じたオーダーメード型の支援メニューの作成が必要となる。
 このため、プロジェクトマネージャーには、広く創業に関する分野一般に通じているという資質が不可欠である。
さらに、支援メニューを、少人数のプロジェクトマネージャーのみで作成することは困難であるため、外部の支援ネットワークを持っていることも重要であり、外部の専門家との間の適切な役割分担のもと支援を行っていくことが必要である。
 こうした点から、企業活動に通じ、幅広いネットワークを有する民間の人材を積極的に活用することが有効であり、このような有能な人材が確保できるかどうかが、新産業・新事業創出の成功の鍵であるということができる。

(2)多様な産・学・行政のネットワークの形成
 プロジェクトマネージャーがその能力を十分に発揮するためには、プロジェクトマネージャーを中心に企業支援のネットワークが構築されることが必要となる。外部の支援ネットワークに含まれるのは、大学・公的研究機関、産業支援機関、経営コンサルタント、会計士、弁護士、ベンチャーキャピタル、インキュベータを巣立った企業などであり、プロジェクトマネージャーは、こうした外部支援ネットワークの構成者と中小企業やベンチャー企業とのマッチングを行うサービスを提供することとなる。また、外部ネットワークの構成者に対しては、新事業支援センターやインキュベータの運営などにも協力を求めることも必要である。
 この外部支援ネットワークの構築は、プロジェクトマネージャーの資質によるところも大きいが、かなりの時間と費用がかかるため、行政による積極的な関与が不可欠である。

(3)大学・公的研究機関と企業の双方にメリットのある提携関係の構築
 大学・公的研究機関は、優秀な人材だけでなく、その人材を生かした高度な技術・研究成果、各種の測定機器、内外の学術文献など、新産業・新事業を創出して行くうえで必要となる資源を保有している。しかし、これらの資源は多くの場合、大学・公的研究機関の内部に死蔵される傾向があり、地域の新事業創出には充分に活用されていないのが実情である。
 中小企業やベンチャー企業は、大学・公的研究機関に対して、こうした資源を開放して、蓄積した技術やアイデアにアクセスできる体制を整備したり、大学教官・学生、研究員による経営・マーケティング等のアドバイスやリサーチを提供したり、といった役割を果たすことを期待している。一方、大学・公的研究機関は、中小企業やベンチャー企業に対して、開発した技術・アイデアの事業化機会の提供、学生に対する実践的な教育の場の提供、地元貢献の機会の確保などを期待している。
 したがって、新産業・新事業に関する大学・公的研究機関の参画は、双方に利益をもたらすものであり、それを実現するための提携関係を作りあげることが必要となる。このような提携関係が構築されれば、大学・公的研究機関が、新事業・新産業創出を支援する人材や起業家の供給に大きな役割を果たす可能性が広がるものと考えられる。 

(4)地域のネットワークの構築
 地域の外部支援ネットワークのひとつとして、起業支援の各種専門家をメンバーにしたNPOの役割も重要性を増してくると考えられる。ただし、現在のNPO法においては、「まちづくり」の一環としての産業振興は特定非営利活動として認められるが、起業支援などの産業振興を目的とした活動は認められていないため、今後の法改正が期待される。
 また、新事業を創出しようとしている中小企業やベンチャー企業相互のネットワークを形成することも重要であろう。企業間のアイデアの交換や共同事業の企画、人材の共同雇用、高価な機器の共同利用といった協力は、創業を容易にする効果を持つものであるため、こうしたコラボレーションが促進される環境を作ることが求められている。
 さらに、新事業の創出に成功し自立した企業は、今後、創業しようとしている中小企業やベンチャー企業への助言者としても、また行政の新事業・新産業施策へのアドバイザーとしても適任であり、このような企業間のネットワーク形成も促進していく必要がある。








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