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2 都心部の新しい産業集積の状況と行政の役割
 都心部に集まり始めている新しい産業とはどのような産業なのだろうか。そこではどのような仕事を行い、なぜ都市の中心部に集中する傾向があるのだろうか。 
(1)コンテンツ産業とインターネット
 コンテンツ産業とは、たとえばインターネットのホームページや携帯電話のアプリケーションの制作を行う業態です。ブロードバンドの普及などに伴ってインターネットは、今後確実に伸びるものと予測され、コンテンツ産業は不可欠な存在となりつつあります。
 ネットバブルの崩壊によりITブームは下火になったという見方にもかかわらず、最近の調査でもインターネット関連企業は前年比で74.3%、1年半前との比較では4倍以上に増えています(13年3月、国土交通省−ソフト系I T産業の実態調査)。
 では、典型的なコンテンツ産業はどのような仕事の仕方をしているのでしょうか。 

(2)コンテンツ産業の集積メカニズムは
 大がかりなe−コマースのホームページの制作には、消費者がインターネットで商品の注文ができるだけでなく、社内向けには顧客データベースの管理、在庫管理、商品発送、代金回収等などのバックヤードをトータルに管理できるシステムでなくてはなりません。
 制作会社はデザイナーやプログラマー、翻訳者、更に配送業務や在庫管理、代金回収システムの専門家などを集め、プロジェクトチームをつくります。
 これらのメンバーの選定は顔見知り同士のネットワークで行われるのが一般的であり、気に入った仲間で臨時のバンドを作るようなノリで行われます。
 このため、コンテンツ制作者はお互いによく気心が分かり合えるような環境を求め、仲間の集まるイベントやたまり場に出入りするようになり、一定の地区にこれらの関係者が集まりやすいメカニズムが生まれるようになります。

(3)なぜ都市の中心部に集積するのか。
 なぜ、都心でなくてはならないのか。東京青山の表参道にかけての一帯は海外の有名ブランドから日本のデザイナーズブランドまで、ブティックが軒を連ねる一帯です。「歩いているだけでトレンドが解る」街はデザインなどを仕事にするクリエーターにとっては、極めて魅力的です。
 シリコンアレーやマルチメディア・ガルチもいづれももともとはデザイナーや芸術家、アーチストが好む街でした。これらの地域は大都市ならではの雑踏や盛り場、劇場、バー、レストランなどの都市的アメニティがアーチストをひきつけてきました。
 コンテンツ産業は技術一辺倒のシリコンバレーと異なり、デザインやアートの感覚が重視される仕事です。たとえば、消費者が次のクリックを行うまでの時間は、平均7秒以内といわれています。7秒間できちんと情報を伝え、最終的には商品を買うという選択にまで消費者を動機付けられるデザインが優れたデザインとされます。
 洗練されたサイトのデザインはコンピューターの専門家やシリコンバレーでは生み出せません。美術やデザインなどを先行した人材がコンテンツの作り手です。ソフトウエアの進歩によってコンピューター操作が容易になったこともアーチストのデジタルコンテンツづくりへの参入や転換を容易にしました。
 こうした人材は生活のアメニティとして、自らの好みにこだわり、時代の空気を吸って仕事をすることを好み、仲間と情報交換を行いながら、気にいったプロジェクトに適宜参加するようなクリエーターに居心地のいい場所がある都心の環境に集まってきます。 

(4)横浜関内地区の現状と魅力
 横浜市内のオフィスビルの平均空室率は、平成13年12月末現在、9.86%となっていますが、関内・山下地区は11.45%であり、その原因としてビルの情報化対応の遅れなどが指摘されています。
 一方では、同地区にSOHOなど小規模事業者の集積が見られはじめ、インターネット関連やソフトウエア開発など、新しいビジネスが動き始めている状況もあります。
 新しい産業の担い手としてのアーチストやクリエーターは、都市の持つアメニティに惹かれて自然に集まってきます。渋谷には盛り場や学生時代の馴染みの店があり、オフィス街にはない遊び感覚があります。青山には世界の最先端のファッションがあります。
 横浜関内地区の魅力は、港をはじめとして近代建築、銀杏並木、中華街、元町、レストランやバーなど関内以外では求めることができないアメニティがあることです。
 更に、平成15年には、東急東横線から直通で元町に至る「みなとみらい21線」が開通する予定であり、これによって横浜の関内地区が東京都心と結ばれ、利便性の向上により集客機能が高まり、地区の活性化が図れるものと期待できます。
 これらの資産を十分に活用することができれば、新しい産業、新たな企業家の集積を呼び込むことができると考えます。 

(5)地区のブランドイメージの向上を図る
 関内を横浜を代表するクリエイティブな地区に再生するために最も重要なことは、地区のブランドイメージを向上させ、地区内の事業者が一体感を持ち、優れたアメニティの中で活動しているという自覚を持ってもらうことです。
 このキャンペーンには、横浜市と地区のリーダーが共同であたることが必要であり、横浜市はマスコミなどの協力を得てパブリシティを展開し、地区のイメージアップを図ります。民間の地域リーダーは地区の主役として新しい産業が関内で始まっていることを事業者の立場でアピールします。
 また、横浜市の産業振興メニューの活用と合わせて、民間事業者の自立的活動を側面から支援し、みなとみらい21地区の企業とのマッチメーキング機会の提供をしたり、地区の事業者が横浜で仕事がしやすいような環境を意識的に作りあげていくことが必要になると考えています。 








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