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サイエンスシティ川崎へ〜川崎市の都市型産業育成方策
川崎市総合企画局都市政策部参事 大矢野 修
はじめに
 川崎市は、京浜臨海部に位置し、高度経済成長期には日本経済の牽引車として、わが国の成長を支えてきた。現在でも、エネルギー産業等を中心に、依然としてわが国で大きな役割を担っている。しかしながら、経済構造が「重厚長大」から「軽薄短小」へと変化し、経済のグローバル化が進むとともに、景気低迷が長引く中で、企業のリストラクチャリングに伴う工場閉鎖やアジア諸国への移転による空洞化が顕著となりつつある。実際、工場跡地を含む遊休地は220haとなっており、京浜臨海部の空洞化が進んでいる。
 また、世界に視点を移すと、市場経済におけるグローバル化の波は、アジア諸国のみならず、国、地域をまきこんだ大競争時代の到来をもたらしつつあり、これまでの社会経済パラダイムを根底から覆そうとしている。さらに、IT革命に象徴されるように高度情報社会への進展は、生産様式だけでなく、市民生活の様々な分野に大きな影響をもたらし、これまでの生活様式を大きく変容させようとしている。ここでの重要な視点は、高度情報化社会では、情報や知識が大きな力を持ちつつある点にあるといえよう。
 一方、我が国の経済発展を支えてきた製造業の空洞化が指摘される中で、科学技術を活用した産業の活性化への期待が高まっている。特に、豊かさの実現とともに、「地球環境問題」や「持続可能な開発」といった人類の最重要課題に対して、社会全体として科学技術創造立国へ向けて取り組んでいくことが重要であると考えられるようになってきた。
 さらに、自治体レベルの新産業育成について見れば、新事業創出促進法が施行され、地域プラットフォームを構築し、積極的に取り組んでいる自治体も多く見受けられ、新産業育成の動きが加速しているともいえる。実際、こうした動きは、地方分権の流れの中で、地方自治体が中心となって、地域の新産業育成に関する支援機関の円滑なネットワーク構築を進め、支援機能のワンストップ化を図ることで、地域の産業振興に寄与するとして大きく評価されるべきであると考えられるものの、画一的な施策の押しつけは国主導の産業振興策であるとして、多くの問題点を指摘するものもある。この動きについては、今後各地域の実践を通じてその評価が決まっていくものであると思われるが、公設試験研究機関といった研究機関や行政の有する支援機関がネットワークを構築することでイノベーションに関するシーズやニーズが適切にマッチングしていけば、大きな成果を得ることができると考えられる。
 こうした状況を踏まえれば、今後の都市経済の活力は、地域の特性を活かしながら、知識活用型産業とともに、科学技術の成果を活用して起業が行われるような産業育成のシステム、つまりサイエンスシィ・システム(SCIENCE CITY SYSTEM)の形成にあるといえ、このポイントは様々なネットワークが構築され、そのネットワークの中で、先端の科学技術の成果が次々と生み出され、その事業化が継続するシステムが構築される点にあるといえる。
 川崎はこれまで培ってきた「ものづくり基盤」やこれまでの都市型産業育成施策の成果を活用しながら、一歩進んで「サイエンスシティ」という観点に立って、平成13年度から産業技術総合研究所の吉川弘之理事長を中心とするサイエンスシティ戦略会議を設置し、地域産業を育成していく試みを進めている。
 本稿では、これまでの川崎の新産業育成方策、特に現在すすめられつつある新川崎創造のもり計画について紹介するとともに、現在のサイエンスシティ構築に向けた取組みについて紹介することとしたい。なお、本稿での意見は筆者のものであり、川崎市のものでないことをあらかじめお断りしておく。








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