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警察の被害者対策の現状 
〜犯罪被害者等給付金支給法の改正を中心として
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警察庁犯罪被害者対策室長 安田 貴彦
 警察は、最も多くの犯罪被害者と最も早い段階で接する公的機関として、いち早く犯罪被害者の支援に乗り出し、昭和五十五年から犯罪被害者給付制度を運用してきたほか、平成八年には「被害者対策要綱」を制定するなど、全国警察を挙げて各部門にわたって被害者の方々の支援に取り組んでまいりました。
 近年、被害者のおかれた悲惨な状況が広く認識されるに伴い、犯罪被害者を支援していこうとする社会的な機運は、かつてない高まりをみせています。
 警察庁では、こうした更なる被害者支援の充実を求める被害者の方々を始めとする多くの国民の声を受け、被害者支援都民センターの宮澤理事長や山上副理事長等、有識者の方々による検討会の提言なども踏まえて、犯罪被害者等給付金支給法の一部を改正する法律案を策定しました。同法案は、本年二月九日に国会に上程され、四月六日に可決・成立、同月十三日に公付されました。
 犯罪被害給付制度は、故意の犯罪行為により不慮の死亡または重傷害という重大な被害を受けた被害者又はその遺族に対して、社会の連帯共助の精神に基づき国が一般財源(税金)の中から給付金を支給することにより、その精神的・経済的打撃を緩和することを狙いとして制定されたもので、施行以来、平成十二年末までの約二十年間に、約四、五〇〇名の方々に約一〇六億円の給付金を支給し、我が国の被害者救済に重要な役割を果たしてきました。
 改正法は、制定以来初めての改正で、犯罪被害給付制度の大幅な拡充を図るだけでなく、被害者に対する援助の措置に関する規定の整備を行うなど全面的な改正となっています。同法の概要は、次のとおりです(一部は政令や規則で規定されています。)。なお、第一、第二については既に本年七月一日から施行されており、第三、第四については来年四月一日から施行されます。
第一は、法律の題名及び目的の改正です。
 従来の法律は、犯罪被害給付制度についてのみ規定していましたが、今回新たに被害者に対する援助の措置に関する規定を整備することとしたため、法律の題名を「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律」に改め、併せて従来の趣旨規定を目的規定に改め、この法律が「犯罪被害等の早期の軽減に資すること」を目的とすることを明らかにしました。
第二は、犯罪被害給付制度の拡充です(図1)。
犯罪被害給付制度(平成13年7月1日施行の新制度) (図1)
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一 重傷病給付金の創設等
 犯罪行為により重傷病(一カ月以上の加療及び十四日以上の入院を要する傷病)を負った被害者に対して、療養に要した被害者負担額(三ヵ月を限度とする保険診療による医療費の自己負担部分に相当する額)を支給する制度を創設するとともに遺族給付金についても同等の被害者負担額を合わせて支給することとしました。
二 障害給付金の範囲の拡大
 障害給付金の支給対象となる障害の範囲を、従来は障害等級四級までであったものを、労災等他の公的補償制度と同様に、十四級にまで拡大しました。
三 給付基礎額の引き上げ
 遺族給付金及び障害給付金の給付金額の算定の基本となる給付基礎額について、最低額については法制定時以来の物価上昇率(四十四%)分の引き上げを図るとともに、最高額については賃金上昇分を勘案して引き上げることとしました。
 なお、これらの制度改正の結果、将来的には、給付金の支給総額は従来の三倍程度に、支給対象被害者は七倍程度に拡大することが見込まれています。
第三に、警察本部長等の援助の規定の新設です。
 警察による犯罪被害者に対する援助を従来以上に的確に推進していくため、警視総監若しくは道府県警察本部長又は警察署長は、犯罪被害等の早期の軽減に資するための措置として、情報の提供、助言及び指導、警察職員の派遣その他の必要な援助を行うように努めなければならないものとし、国家公安委員会は、その適切かつ有効な実施を図るための指針を定めることとしました。
 この指針は、国家公安委員会の告示として、有識者や都道府県警察の意見を踏まえて、今秋以降に制定される予定です。
第四は、民間団体の活動の促進に関する規定の新設です。
 都道府県公安委員会は、営利を目的としない法人であって、犯罪被害等の早期の軽減に資するため、[1]被害者等に対する援助の必要性に関する広報・啓発活動、[2]犯罪被害等に関する相談活動、[3]犯罪被害者等給付金の申請の補助、[4]物品の供与又は貸与、役務の提供その他の方法による被害者等の援助(いわゆる直接支援)、の四種類の事業を適正かつ確実に行うことができると認められる団体を「犯罪被害者等早期援助団体」として指定することにより、民間団体による被害者支援、とりわけ「危機介入」といわれる早期の直接的な支援活動の促進を図ることとしました。
 いうまでもないことですが、被害者の多様なニーズに応えるためには、警察の活動だけでは不十分であり、民間団体による被害者支援が充実・拡大していくことが不可欠です。そこで、被害者が民間団体に対して、安心して援助を依頼することができる仕組みを創るとともに、警察から民間団体に対して、被害者等に関する情報を適正かつ円滑に提供できるようにして、被害直後の混乱やショック状態にあるために自分から民間団体に援助を求めることが困難な被害者等が迅速に民間団体の支援を受けられるようにする仕組みを創ることを狙いとしてこの規定を新設しました。
 この規定に基づいて、警察が民間団体に対して被害者等の情報を提供することにより民間団体が被害者に対して危機介入的支援を提供していくイメージは、図2のとおりです。なお、指定の手続等の詳細につきましては、今後年内をめどに、パブリックコメント等の手続を経て、国家公安委員会規則で定めることとしています。
新犯給法に基づいて公安委員会が措定した民間団体への情報の提供と援助の実施イメージ (図2)
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 我が国最大の民間被害者援助団体である被害者支援都民センターには、是非ともこの規定の施行後の早い段階で東京都公安委員会の指定を受けていただき、被害者支援活動を更に充実させていただくよう、心より期待しております。
 警察としては、被害者の方々の切実なニーズや期待に的確に応えていくため、今回の法改正で新たに盛り込まれた施策を積極的かつ適正に運用していくことはもちろん、従来から実施している様々な施策を第一線において着実に実践していくとともに、性犯罪、ストーカー、DV、児童虐待等の個別の被害類型に対応した支援策を一層充実させるなど、今後とも組織を挙げてきめ細かな被害者支援に全力で取り組んでいくこととしています。また、被害者支援都民センターを始めとする民間の被害者援助団体の皆様とも一層連携を深め、その活動を支援すると同時に、他の機関・団体との協力関係も強化し、社会全体で被害者を支援していける体制づくりに努めてまいります。今後とも皆様のご理解、ご協力をよろしくお願い申し上げます(なお、「検討会」の提言や法改正の概要等を含む警察の被害者支援については、警察庁のホームページhttp://www.npa.go.jp/higaisya/home.htmもご参照ください。)。








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