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 ここではいくつか海外の企業の例をお示ししたいと思います。まず、ソレクトロンという会社の例でございます。この会社、皆様ご案内のことと思いますが、黒字会社でございまして、ここにございますようにIBMとかApple、ヒューレットパッカート(HP)等々、いわゆるビッグネーム、巨大企業の生産部分、試作品ですとか部品調達、量産、そういったものを行っている企業でございます、特に最近の例ではソニーの東北地方にある工場を買収したことで、去年の10月の例でございますが、新聞にも登場したところでございます。この会社の場合にはサプライチェーンマネジメントの代表的な企業としてよく紹介されておりまして、非常にきめ細かな、オーダー単位でのリアルタイムの生産進捗管理を実現しているということでございます。先ほどございましたような、急な変更に対してもほぼ100%に近い納期達成率を誇っている、ということでございまして、それによって顧客の信頼を得ることができ、世界の著名な大企業の委託生産を行っているということでございます。先ほどソニーが東北地方で保有していた工場の買収例を申しましたが、今後とも日本での工場取得に積極的にコミットメントしていきたいというようなお話でございます。ソレクトロンに限らず、同業他社でもこのような動きを加速しているということでございます。
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 特にポイントとしまして、注文を受けてから最短4週間で生産準備に着手可能ということでございまして、通常であれば先ほどの例ではございませんが、年間の工場の計画を作って生産していくということが多いのですが、ここでは注文を受けてから生産ラインを変えてしまうということでございます。すなわち、いろいろな企業の製品を作っているわけですから、ある1社のためにラインを独占しているわけではなく、順次切り替えていく、それを非常に速やかに出来る体制を整えているということでございます。
 また、在庫回転率も6回転から7.5回転でして、最先端のソフトウェアを導入いたしまして、非常に高いパフォーマンスを達成しているということでございます。さらに、部品供給会社、約70社、それと顧客が先ほどもいいましたように著名な企業、こういった流れの中で徹底した最適化戦略、それも工場は全世界に21ヶ所ございますので、それらを1つのネットワークで結びまして全体最適化をはかっているということでございます。
 次に物流関係で若干ご説明をいたします。物流サービスヘの要請ということで、よくいわれているのが確実に計算できるリードタイムの短縮と、貨物トラッキング情報、在庫情報のリアルタイム化ということでございます。サプライチェーンマネジメントについては必ずしも製造業に限った話ではなく、物流サービスの分野でも非常に進んでいるということでございまして、ここではいくつかの例をご紹介したいと思います。
 物流といったものが、サプライチェーンマネジメントの中で、どう位置づけられるかといったことですが、先ほども申しましたように部品等の供給者、サプライヤーと顧客、これを結ぶ一連の連鎖がサプライチェーンマネジメントであると申しましたが、その中で資材調達、購買、生産、販売というような形での流れがあるわけでございます。当然、この中で例えばサプライヤーと工場をつなぐところ、ここで輸送、在庫管理といったものが発生いたしますし、また生産工場から販売会社、販社への引渡しのところでも輸送及び流通在庫管理といったものが当然発生するわけでございます。これを注文ベース、オーダー単位で計画を再調整していく。すなわち、先ほどダイナミックな調整といったことを申しましたが、頻繁に変わる、このオーダーの変更に対してダイナミックにオーダー単位で計画の再調整をいかに行うかが、特に輸送全体のサプライチェーンの中では重要になってきます。
 物流というのはまさに企業間の情報共有ネットを作っていく。これが例えば物流会社の場合には、いかに自社が主導的に生産と販売を結ぶ、この一連のチェーンの中で優位なポジションニングを得ることが出来るかどうか。これによってサプライチェーンの完成度が高まるということです。特に先端ITによるサプライチェーンマネジメントと書いていますが、先ほども申しましたようにこの企業間情報共有ネットワークをどう作るかということがポイントになってくるわけでございます。
 これはある海外の例でございますが、インターネットのオープンなシステム、あるいはヨーロッパでは付加価値通信、VANといっているものが、まだかなり力がありますが、こういった企業間のネットワークの中で、そこに登場するのが、例えば金融機関もありますし、先ほども申しましたようにモノの流れだけではなく、情報の流れ、お金の流れということで申しますと、このネットワークの構成要素の中に金融機関もございますし、あるいは一連の物流の中で官公庁といったものも当然出てきます。また、物流会社、それから親企業、子会社、事業者、こういった一連のプレイヤーがいるわけでございますが、こういった方々をどううまくつないでいくのか、それも大企業、中規模企業、小企業とそれぞれ、例えばサプライヤーまで含めますと、さまざまな規模の企業もあるわけでございますので、これらをどうつないでいくのか。この成否はまさしくサプライチェーンマネジメントの成否につながってくるということでございます。
 それでは、そういった中で最後に物流革命による新しい事業機会の創出につきまして、ご説明をさせていただきます。
 ここでもITの役割とは、例えばアジアの工場、生産拠点から日本までといったことで考えてみますと、発荷主から受け荷主まで、シッパーからコンサイニーまでの間で保険、銀行、通関、港湾への届け出、船会社代理店、フォワーダーなど、いろいろな関連主体、関連機関が登場するわけでございます。こういった一連の方々と、どう上手く情報をつないでいくか、ネットワーク化していくか、といったことがポイントになってくるだろう。特に輸入物流ということでいえば、ポイントになってくると思うわけでございます。
 官公庁側でも先ほど、政府を挙げてIT革命に取り組んでいるということを申し上げましたが、ここで一例といたしまして、財務省の方で入港から通関許可までの処理時間の推移を数年毎に調査した結果をお示ししております。ここにございますのは、かつては入港から許可まで168時間かかったものが、最近では86時間ということで半分以下に減ってきたということでございます。これは通関システムとして昭和53年にNACCSというシステムが出来たわけでございますが、これを更改するたびに性能アップいたしまして、99年の更改Sea-NACCSでは物流情報も含めて対応できるようになってきたということでございます。また、平成13年度には国土交通省の港湾EDIとの接続、平成14年度には経済産業省の輸出許可システムとの接続も予定されておりまして、まさしく行政側でもこの物流部門、国際物流の分野でIT化を進めているということでございます。
 こういった形で効率化が進んできますと、いろいろなサービスが期待できるわけです。例えば有名な例として、フェデラルエクスプレスがあります。この会社の場合にはいち早く、貨物の追跡システムといったものをネット上で実現いたしました。このあたりにつきましては、テレビCM等でも流されていますので、ご案内のとおりでございますが、実はこの会社の場合には空港間の航空輸送だけではなく、空港から受け荷主あるいは発荷主から空港までの端末部分も自社で行っているということで、いち早く貨物の追跡システムというものを確立することが出来たわけでございます。こういったサービスも先ほど申しましたように、IT革命といったものによって達成されてきたところが非常に大きいわけでございまして、このフェデラルエクスプレスの事例をいろいろな所でご紹介しますと、彼らがSCMを物流の面から変えていくと多くのトップの方は共感されています。
また、外国の船会社、OOCLの例でも同様でございます。基本的には港間の情報伝達、港間の輸送に対しての貨物の追跡システムを構築しているということですが、この会社の場合にも先ほど申しましたようにIT革命、インターネットによるネットワークの仕組みを入れて、いち早く物流の効率化に取り組んだということでございます。
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 フリッツというアメリカの会社、この会社は実は最近UPSという会社に吸収されたのですが、この会社の場合、面白いのは先ほどのフェデックスですとかOOCLと違いまして、自らの会社が輸送にかかわる資材を持っていない、すなわち船とか航空機を持っていないわけでございますが、この会社は情報システムを用いまして、他社の輸送機器、システムをつなぎ合わせて顧客にトータルのサービスを提供している、いわゆるサードパーティロジスティクスと呼ばれている企業でございます。
 何故そのようなことができるのかということについていえば、先ほど申しましたようにいわゆるSCM、発荷主から受荷主まで一連の流れの中で、特に物流部門について、自社ではトラックなり、あるいは船を持っていないけれど、情報システムで異なる主体をつなぎ合わせまして、管理、物流の最適化を図っている、あるいは荷主に提案をしているということでこざいます。このような形で運輸サービスに付加価値をつけるということで、必ずしも自社で専用の施設、機器を持っていなくてもIT化によりまして、そのようなことが可能になってきているというのが実態でございます。
 特にここでサードパーティロジスティクスという言葉、これも皆様方すでにご案内のことと思いますが、日本でも、これもまた使う人によって、若干ニュアンスの違った説明をされることが多いのですが、私どもはこの意味合いといたしまして、お客様、荷主のロジスティクスを理解した上で、自社の有するノウハウを活かして、荷主に対してロジスティクスの効率化を提案する。そういった企業を3PL、サードパーティロジスティクスと定義させていただいています。すなわち、先ほどのフリッツのように全く自社で、何も輸送資材を持っていない会社も3PLになることができるのです。また、倉庫会社の方が、倉庫という自社の保有する施設だけのビジネスを考えるのではなくて、倉庫のノウハウを活かしながら、運輸部門も含めてトータルのサプライチェーンマネジメントの中での物流のサービス提案をするということも3PLであります。また、船会社の方が港間だけの輸送だけでなく、陸上部分も含めてトータルの提案をする。これも3PLというふうに考えております。従いまして、自社でここまでしか出来ませんというような限定的なビジネスをするのではなく、今まで培ってきたノウハウをさらに活用しながら、ビジネスの範囲をトータルの供給サイドのチェーンにつなげていく、というのがこの3PLということだと思うわけでございます。その中では例えば、輸送モードや運送事業者、輸送ルートの選択、ベンダー主導型の在庫管理といったことまで行っていくということで、荷主にとって最適な物流の選択、提案を行っていくということでございます。従いまして物流事業ということではなく、物流に係わるコーディネイター、あるいはコンサルタント、そういった意味合いがこの3PL、サードパーティロジスティクスの意味合いとしては、特にアメリカでの使い方を考えますと、重要だと思っております。実運送に付加価値をつける、といったことでこの3PLという言葉を使わせていただいております。
 次にロジスティクスチェーンですが、難しいのは先ほど冒頭で申しましたように、まさしく今、ビジネスはボーダレスでございますので、ビジネスを日本の国内だけで考える時代ではなくなってしまったということでございます。ここに海外、日本と書いてございますが、モノの流れ、情報の流れを日本への輸入を例にして書いてございます。こういった供給側の連鎖の中で、どういったところに自社のポジションを置くのかといったことを考え、最終的にはやはりトータルでサービスを提供していく。1社で無理な場合にはパートナー企業を見つけて最適化を図っていくといったことが、まさに今の時代に要請されていることではないかと思うわけでございます。
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 実はこういったことに対しては、日本だけでなく海外の企業も当然考えておりますし、あるいは半官半民のようなセクターでも考えているわけであります。ここに国際ターミナルオペレーター別コンテナ取扱量ということで、香港、シンガポール、ブレーメン、シドニーと書いてございます。このように全世界的に見て取り扱いの大きなターミナル事業者は、それぞれの国、地域の拠点港での取り扱いだけでなく海外にそのノウハウを持って進出するというのが、まさしく今の動きでございます。例えばシドニーのP&O Portsの場合には海外13ヵ国に進出しているというようなデータもございます。香港あるいはシンガポールのターミナルオペレーターも同様な動きをしているということでございます。ご当地、北九州港におかれましてもこのような海外からのオペレーター進出のお話があるということを承っておりますが、まさしく海外のこういった事業者からみれば、アジアの生産拠点の港の管理をするだけではなくて、受け手側の日本にも進出してくる。あるいは、ほかのアジアにも進出するということで、トータルのネットワークの中で自分たちのステータスを拡大していく、あるいは、それぞれの国のマーケットが限られている中で、次の展開を図るうえでより新しいマーケットに進出していく、といったことを考えているのではないかと思うわけでございます。
 次に、こういった海外とのつながりが進んでいく中で、注目すべきことは先ほどのサプライチェーンマネジメントもそうなんですけど、その情報のやり取りのフォーマットの標準化が進んでいるということでございます。ここにUN/EDIFACTという国連が決めた世界標準のメッセージについて書かせていただいておりますけれども、要は先ほどの国を越えたサプライチェーンマネジメントを考える場合に、例えば日本の企業の場合、進出した先の現地法人、海外子会社と日本の親会社の間の情報伝達であれば、これはある意味で国内取引と同じように社内システムで一元管理できます。ところが、海外のサプライヤーとつないでいくということを考えた場合には、当然、国によって帳票伝票が違うわけですので、そう簡単にサプライチェーンマネジメントで一体的に管理するといっても実際には難しいわけです。しかし、国連が提唱しているメッセージの標準化が進めば、同じルールの下に異なる国々の企業がデータ交換をするようになってまいりますので、これはまさしく国内企業あるいは自社の海外現地法人との間のやり取りと同じような、情報の伝達が可能になってくるということでございます。このように標準化が進むと、先ほど申しましたようにコンペティターは国内の同業他社だけではなくて、海外の企業がライバルになって登場してくるということでございます。
 これまで日本の場合には、いろいろなドキュメンテイションのやり取りが紙ベースで行われているわけでございますが、これからIT革命によって行政でも電子化が進もうとしています。先ほど申しましたように、港湾での滞留時間も短縮する動きが強まっているという中で、おそらく、海外のコンペティターも今まで以上に日本市場といったものに注目し、進出してくるというようなお話が、今後益々出てくると思います。
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 これが今、言われております行政のワンストップ化のイメージでございまして、例えば先ほど申しましたように、税関のシステムあるいは港湾のシステムといったものがだんだんつながっていく。ワンストップ化といったものが進んでくると、船会社、通関事業者、海貨事業者といった方々も、先ほど申しましたように自社のこれまでのビジネスの範囲を越えて、サプライチェーンマネジメントの中でビジネスの拡大といったものが要請される。この全体の業務のやり取りが日本企業の中だけでなく、海外の企業も含めて一層激しい競争関係が起きてくるというふうに思っております。
 また、国際物流、国際商取引、荷主、トラック業者、船会社、フォワーダー、官庁など、要はモノの流れ、お金の流れ、情報の流れの接点というのが、非常に拡大してくるということでございます。従いましてどこの業界におられる方々も、やり方次第によっては、いろいろな分野に参入しやすくなっていく。また、官公庁側では、IT化によりまして、スムースな行政手続きあるいは電子化という形でIT化に対応した施策を展開されていくという形になりますと、まさしくこの一連の流れの中で、どのようなポジションを各社かお取りになるのかが、これからのビジネスを展開する上での非常に大きなポイントだということでございます。
 実は私どもでは昨年、プレジデント社から、「港湾IT革命」という、大前研一さんが監修された本を出版いたしましたが、この中で4点ほどポイントを述べております。
 1つはSCMということで、まさしく一連のつながりといったものを荷主側が求めていく中で、行政側としてはプラットフォームを統一して、SCMを海外と日本の間でやり易くするサービス、システムを作る必要があるということでございます。これにつきまして先ほど申しましたように、Sea-NACCSをはじめ、そういった方向にあるということでございます。
 次に、日本発のビジネスプロセスの構築をすべきであるということ、これはどういうことかといいますと、先ほど申しましたように、何もしないでいると、残念ながら今の状況では、海外のコンペティターが日本に参入してくる可能性あるわけで、もちろんそういった企業とパートナー契約を結んでビジネスを行っていくということもあるでしょうが、ただどうしても海外の企業が出てきた段階で、日本側として、躊躇していると主導権を握れないということがあります。そういった意味で、むしろ日本側から逆に打って出るような、そういったサービスというものをいかに作れるかということだと思います。日本の標準を世界の標準に、とちょっと大それたことを書いておりますが、IT革命というのは、昨日の勝者は明日の敗者ということが言われるように、ダイナミックに変わっていく中でいつまでも同じ基準、行動規範ではやっていけないということです。従いまして日本の場合、90年代が失われた10年といわれるように、IT化の流れの中で若干遅れをとったところはあるわけでございますが、ただそれがこれからも続くかというと、いや、決してそうではない。すなわち、これから巻き返しを図れば日本主導でいろいろなネットワークを組んでいく、そういった可能性はあるわけでございます。
 次に国際物流ノウハウを蓄積し、世界に輸出せよと書いてあるのは、何かといいますと、確かに日本市場はこれまでは右肩上がりで成長してきましたので、国内市場だけでもビジネスをやっていけるだけのマーケット規模はあったかと思いますが、ここにきて、日本企業が海外に製造拠点を移管していく、あるいは日本を外して第三国間の取引が増えていくという話になると、必ずしも今まで培ってきたビジネスモデルだけでは、これからの時代、非常に厳しい局面を迎えざるをえないと思うわけでございます。そうであるとするならば、いかにして日本の物流に携わる方々がそのノウハウを蓄積して、世界で通じる仕組みを作るかということだと思います。ある方は海外、アジアを中心に拠点を作って展開していくということもあるでしょうし、ある方はコンサルティング、あるいはコーディネイトということで、ソフトの面で進出されることもあるでしょうし、またあるところでは海外の企業を買収するという話もあるかもしれません。それは、各社、皆様方のポジションによって、そのアプローチの仕方は違うとは思いますが、いずれにしましても今の時代、海外、国内ということ自体がほとんど意味がなくなってきた。こういったボーダレスの時代において、いかに迅速に対応できる経営を、グローバルな枠組みの中で構築できるか、これがこれからのポイントになると、このように思っております。
 時間が超過して恐縮でございますが、以上でご説明を終わらせていただきます。ご清聴、誠にありがとうございました。








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