日本財団 図書館


創立20周年記念講演会
少子・高齢社会とこれからの運輸・交通
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(株)ニッセイ基礎研究所
少子・高齢社会チーム
主任研究員 白石真澄
 
 皆様、只今ご紹介いただきましたニッセイ基礎研究所の白石でございます。本日は財団法人九州運輸振興センター創立20周年記念、誠におめでとうこざいます。
 本日は運輸関係者のプロフェッショナルな方々の前て何をお話していいのか、恐れ多い気持ちでございます。私は今の研究所に入ります前は、百貨店で2年間、新しい店舗づくりの企画をしておりまして、今の研究所に移りましてから11年が経過しました。その間、高齢化とか少子化という冠がつく調査研究、テーマはいろいろですが、高齢者の就労や、子供が少なくなる時代に、どういった住宅や地域の施設をつくるかといった調査を中心に担当しておりますので、今日はその中から、今後の少子高齢社会にむけた交通や地域づくりにはどういうことが求められるのかということをお話したいと思います。
 日本の少子・高齢社会というのは、経済成長が鈍るとか、年金や社会保障の若い人の負担か大きくなるという見方、つまり悲観的に捉えられることが多いわけでございますけれども、それは一面的な見方で、必ずしも暗い面ばかりではないと思います。ここにいらっしゃる方もそうだと思いますけれども、今後高齢期を迎えられる方、今の団塊の世代を含む新しい高齢者の方というのは、非常にお元気で働く意欲も旺盛で、やる気も満々で、今までの高齢者の方とはまったく異質です。
 今後は人口が減り、高齢者が多くなるという量的変化を経験しますが、その中身もガラッと変わり、この質的変化を考慮していかねばなりません。今まで高齢者というのは、ひとくくりで捉えられることが多く、余暇活動でも、温泉、ゲートボール、カラオケといった三種類が代表的でした。しかし、今後の高齢者というのは趣味の面でも非常に多様化します。趣味や生きがいを充実させることで、健康を維持させることができますから、住宅内部だけではなく、地域に社会参加すべく、どんどん外出していただく必要があります。60代では自家用車を運転できても、70代になるにしたがって公共交通機関にシフトしていく場合が多いですし、とりわけ、夫婦2入で暮らしていたときには、夫が車を運転して夫婦で買い物に出かけていたものが、妻が一入になると車の便というのがなくなる場合もある。そうすると公共交通機関のない地域では外出の機会がとみに減ってしまうわけです。そこで、高齢者も安全に車を運転できる、その次に公共交通機関にどうシフトさせていくか、また、公共交通機関を利用しにくくなる時点、例えば車椅子や寝たきりになると、個別輸送、つまりスペシャルトランスポートというものが必要な段階にはいってくる。この3つのプロセスをシームレスにつないでいく、どういう心身状況になっても移動を確保していくことによって、高齢者の生きがいを創出することもできます。
 日本の中で健康寿命というのを見ると、長野が一番健康寿命が長いのです。日本人の寿命は、男性77歳、女性84歳に近づきました。しかし、日本は世界一の長寿命国なんですが、日本は必ずしも年老いてずうっと健康でいるとは限らない、亡くなる前に寝たきりなど要介護期間も長いのです。都道府県別で比較すると、長野県はPPKと呼ばれる現象、つまり、ピンピン生きてコロッと逝く比率が高いそうです。元気な高齢者と移動との相関は高く、長野の高齢者は車を1人1台持っていて、移動の足が確保されている。つまり、自分で移動できるということがいろいろな社会参加の機会の確保につながり、生きがいを創出でき、健康も保てる。交通と健康というのはまったく別問題に考えられがちですけれども、移動性を確保していくということ、つまり、交通の面でお金をかけていくことが福祉分野での費用を圧縮していくことになると思います。
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会場風景
 日本の高齢社会というのは皆さんいろいろお聞きになっていると思うのですけれども、大体特徴はここにお示しした6つで表されると思います。今、日本の人口の6人に1人が65歳以上の高齢者です。何歳からが高齢者かというと、はっきりした定義はございませんが、国連では高齢者を65歳以上でみて、統計を取っております。私どもで「何歳からが高齢者か」という意識調査をしましたが、大体自分の年齢よりも5歳くらい、高齢期を後にもってきています。65歳の人は70歳といい、70歳の人は大体75歳。大体は「老いの拒絶感」がありますから、誰しも、自分を高齢者だと認めたくないわけですが、これからの高齢者は、ますます年齢概念がない人たちです。今は人口の6人に1人が高齢者ですが、後50年すると3人に1人です。これまでは高齢者は少数だったわけですけれど、高齢者マーケットが非常に拡大します。
6つのSで表現される日本の高齢社会の姿
・Scale:2050年には高齢化率32.3%
・都市部での高齢者数の増加と高密度化
・東京圏で2010年までに400万人増加
・多様化する高齢者像(経済力、健康面)
・ProductiveAging(生産的高齢者)の登場
・Speed:諸外国に比べて早いスピード
・Small:縮小する世帯規模
・2.99人(1990年)→2.25人(2010年)
・家庭内介護力の弱まり、介護者の高齢化
・扶養意識の変化
・Senior:後期高齢者、要介護者の増加
・虚弱、痴呆、寝たきりは現在の約2倍に
・障害を持つ高齢者も、慢性・複合化
・(Life)Span:寿命の伸び
・ライフサイクルの変化→人生90年時代
・老後の長期化と自立の必要性
・Stock Rich:資産に富むが現金収入は乏しい
・不動産、預貯金にとむ
・年金だけの世帯が約半数
 
 これは、今から約50年前と、正確には46年前ですけれども、平成8年、の寿命というのを比較しております。昭和30年には、男性の寿命が63歳、女性が68歳だったわけです。平成8年には76歳と83歳です。アメリカの科学雑誌などでは、今後、日本人は人生90年時代を迎えるだろうといわれております。2つの時代の寿命を比較してみますと、昔は初婚年齢が、男性が26歳、妻が大体23〜24歳であり、子供の数も多かったわけですから、だいたい3人程度の子供を産みました。3番目の子供が大学を卒業して結婚するのが、夫が59歳、妻が54歳のときです。3番目の子供が結婚して夫が亡くなるまでは大体4年間。妻は13年間です。
●寿命の伸びにより、人生の総時間が増加。少子化により子育て期間が短縮化、空の巣期間も増加
図表1:寿命の伸びに伴うライフサイクルの変化
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 平成8年の場合は、最近の出生率は1.34、約1.3人くらいなんですけれど、2人産むと仮定しましょう。そうすると、2人目の子供が結婚する時点が夫が60歳、妻が58歳。子供数が減りましたから、出産期間は50年前に比べて6年から3.6年くらいに縮まり、子供を扶養する期間、最初の子供が生まれてから3番目の子供、もしくは2番目の子供が大学を卒業するまで、親としての責任を果たす期間とお考えいただければいいと思いますが、これは26年から24年くらいになっている。夫が定年を迎え、夫が死ぬまでは8年、その間、退職金を取り崩し年金と併用して生活をしていればよかったわけですけれども、今はその倍の16年あります。寡婦期間、つまり、夫が亡くなって妻が1人で生活をしなければいけない期間ですが、それは4年から8年になりました。老後の長期化によって、経済的自立や身辺自立する期間が倍層し、女性がどう自立して生きるかということを突きつけられる時代になりました。
 現在、高齢者介護は多くの場合、女性の手によって行われてきましたが、子供が少なくなり、高齢者が増えるということで、さらに寿命自体も伸び、男性にも自分の老親の介護をする必然性が生じるのです。さらに、3番目の子供が結婚して妻が死亡するまで、雛鳥が巣立って、巣が空になった期間、つまり夫婦2人で過ごす「空の巣期間」を比べますと、昔は13年だったものが、今は34年です。これをいろいろな集まりでお話しますと、男性の方は「うん、34年か、じゃあ妻にはいろいろ苦労をかけたから、旅行にでも行って楽しめたら」と仰るのですけれども、女性の方は「わあ、34年もあるの」というふうに嘆かれる。男性、女性によって受け止め方が違うわけです。夫婦2人で共有する期間が長くなった、つまり、夫婦2人で、子育て期間以上の長い時間をどう向きあって暮らすかという課題に直面する時代になっています。
 老後の長期化、子育て期間の短期化によって個人が持つ自由時間も延びてまいります。定年までの働いている時間が10万時間ありますけれど、定年以降の余暇時間というのも10万時間です。これをどのようにすごしていくか、旅行に行くこともありましょうし、地域活動やボランティアに参加することもありましょう。これだけ長い老いの期間を、どれだけ自分というものを確立しながら生きるかというのは、65歳になってから準備するのでは遅いのです。既存調査によれば、40代くらいから老後の余暇の準備してきた人のほうが、やはり高齢期の満足度が高いという結果が得られています。老後の問題というのは65歳以降の問題ではなく、経済的な面や生きがい、また親世代の介護の問題も含めて40歳代からの心の準備が必要ではないでしょうか。
●高齢者は多様な存在
高齢者は多様であり、生物学的な年齢だけではなく、生きてきた時代背景によってその生活様式や価値観は異なる。今後、増加してくる団塊の世代を中心とした高齢者は、これまでの弱者、要援護者といった高齢者イメージとは全く異なる
時点 65歳 75歳 過ごしてきた時代
2000年 1935年(昭和10年)生まれ 1925年(大正14年)生まれ 思春期に日中戦争、太平洋戦争を経験、戦後経済復興の柱
2010年 1945年(昭和20年)生まれ 1935年(昭和10年)生まれ 戦争知らない子どもたち、高度経済成長の担い手、団塊の世代
2020年 1955年(昭和30年)生まれ 1945年(昭和20年)生まれ オイルショックを経験し、バブル経済の中心となった
2030年 1965年(昭和40年)生まれ 1955年(昭和30年)生まれ バブル経済とその後の平成不況を体験、高齢化の波が押し寄せる
2040年 1975年(昭和50年)生まれ 1965年(昭和40年)生まれ 平成不況の中での復興を体験
2050年 1985年(昭和60年)生まれ 1975年(昭和50年)生まれ 21世紀の方向と基礎を築く
資料:既存資料よりニッセイ基礎研究所で作成
 高齢者は多様な存在だということを示しております。本日も20代の方から60代、70代の方がいらっしゃると思いますけれども、年齢というのは靴のサイズのようなもので、人間の特性をあらわす一つの目安です。60歳で痴呆が進行している方もいますし、体力は40歳並みの方もいらっしゃいます。体力面でもスポーツ歴を持っているか否か、健康にどれほど気配りをしてきたかによって、非常に多様化しておりますし、時代に対する価値観みたいなものも老後観に大きく影響してまいります。
 2000年時点で65歳になる人というのは昭和10年生まれ以降、昭和二桁生まれの方ですね。この方たちは思春期に日中戦争、太平洋戦争を経験してきましたし、戦後経済復興の柱になりましたから非常に忍耐強く、多少のことは目をつぶって我慢しよう、特別養護老人ホームの居室が6人部屋、4人部屋であっても入れていただけるだけで有り難いんではないかと考えてしまう。
 しかし、2020年、2030年に高齢期を迎える世代は、バブル経済を経験し、非常に物欲も満たされ、豊かな時代を経験している人たちです。住宅や生活の質の面においても豊かさを追求し、自分の嗜好に合うものについては消費を惜しまない人たちです。相続に対する意向をみましても、昭和10年生まれ以前の人たちというのは非常に相続意識が強く、自分が我慢をしてでも子孫に美田を残したい、財産を残したいという人たちが多いんですけれども、昭和22年、23年、24年、つまり、団塊の世代の人たちは非常にドライで住宅は自分たちで使い切る、「子孫に美田を残さず」みたいな価値観が強いわけです。一方で今の若い人たちは、住宅についてどうするかというと、住宅というのは親から相続するものだというふうに割り切っている人たちが経年的に増えています。
 じゃあ、親の介護はどうするかというと、これは国際比較でもおもしろい結果が出ていますけれども、アジア、中国とか韓国の人たちはどんなことをしてでも看るという人たちが8割、9割なんです。日本人は出来る範囲内で看ると、自分たちの生活が非常に大事と、自分たちの生活がまず、中心にあって出来る範囲内で親の生活を見るという若い人たちが増えている。ですから、扶養意識の変化で子供があっても老後は子供に頼れない時代です。老後が長期化し、周りも高齢者だけの世帯が増えていく。そこで、高齢期にいかに自立して生活していくか、車椅子に乗ってでも近所に買い物に出たり、身の回りのことは出来る限り自分でしていく必要性が生じてきます。
 次がプロダクティブエイジングについてのデータです。私どもでは都市部の団塊の世代の調査をしましたが、団塊の世代の人たちというのは、高校入試も大学受験も競争社会をかいくぐってきたわけですから、それなりにくたびれない人たちなんです。
 団塊世代は、大学進学や就職で都市部に出てきて、定住した人たちが多いんですけれども、年をとっても田舎には帰らない、今いる自分の地域で住みつづけたいという人たちが多いのです。その理由は「持家がある」、「住み慣れた地域に人間関係が出来ている」というものが多い。老後、夫婦で現住地で暮したいという人たちが多いのです。
 男女別にみると非常に面白くて、男性はやっぱり自分が最初に逝くと思うんでしょう、あくまでも強気志向で郊外の持家一戸建てに妻と2人で住むという人たちが多く、子供とは同居志向。男性は寂しがりなのでしょうか、老後も妻に世話をしてもらって子供と孫に囲まれて暮したいという人たちが圧倒的です。
 妻のほうは自分は老後、1人になるという自覚をした上での回答でしょうか。郊外の持家一戸建てから都心部に移り住みたいという都心回帰志向を持っています。一戸建てというのは間取りも自分に広すぎるし、設備も老朽化しているから、友達と住める都心部近くのマンションがいい、医療施設や商業施設にも近く、映画館や文化施設もあり、緊急対応や余暇時間の充実を考慮しています。子供とは近居志向で、介護サービスは専門家にゆだねたい、自分が介護の経験がある人ほど子供には絶対介護させたくない、介護経験によって子供に対する介護の依存意識が違います。
 現在、日本の中で高齢者のためのケア付住宅、住宅に何らかのケアサービスがついている住宅というのは、高齢者人口の数%程度しかありません。経年的に見れば、老後、「自分がひとりになれば、持家一戸建てを売って特別養護老人ホームという福祉施設やケア付き住宅に移り住みたい」という人たちが確実に増えています。これまでは、介護を他人の手に任せることについての偏見、他人を家に入れ、介護してもらうことについて抵抗もあったわけですけれども、介護保険が導入された事によって、介護サービスは社会が提供するものとして捉えるような意識が出来上がりつつあります。老後にふさわしいバリアフリー住宅に移り住み、老後の自分のケアは他人の手で、家族は精神的なサポートをして欲しいというふうに変わってきていますから、高齢者の身体機能に配慮した住宅戸数を増やしていくことが緊急課題です。
 また、ハッピーリタイアメントという概念のある欧米に比べ、わが国では高齢者の就労意欲が旺盛な点は特筆すべきことで、65歳を過ぎても仕事をしたいという人たちは7割を超えています。現在でも、65歳以上の4割が就業しています。今後、年金支給開始年齢が引き上げられて、60歳から段階的に65歳になりますから、この5年間の経済的自立をどう図れるかということが重要です。高齢者の多くは、比較的、単純作業に就いています。シルバー人材センターの紹介で、葉書の宛名書き、清掃、植木の手入れといった作業的なものが多いでしょう。今後、ホワイトカラーの就業意欲をどう充足させていくかということが課題になっています。知的欲求を満たし、自己充足をはかれ、なおかつ好きな曜日や時間帯だけ働くといった、ワークシェアリングや専門能力を生かせる派遣制度の充実も必要でしょう。
 要介護の定義は、虚弱、寝たきり、痴呆ですが、現在、大体260万人位ですが、あと50年すると520万人に倍増します。さらに、障害を持つ高齢者が増える。現在、障害者手帳を有する障害者は日本に400万人ですが、この人たち以外に、どことなく見守りが必要だという方も含めればもう少し増えていくでしょう。障害者の6割が65歳以上の高齢者で、高齢化することによって、やはり一つの障害だけではなく、車椅子で白内障で視力低下とか、人工透析をしており、聴力が衰えているというふうに、障害の重度化、複合化、慢性化が増加しています。
 経年的にみますと、後天的な障害、つまり自動車事故で視力をなくしたとか、発生時期が18歳以降という比率が高まっています。それはどういうことかと申しますと、ある日突然視力を失ったことによって点字が読めない。年をとってから生活習慣病で何らかの障害を抱える人たちも増えていますし、最近はリストラ等も行われ、心の病を持つ人たちも増えています。心の病、交通事故、生活習慣病による後天的な障害の増加はとりわけ今後高齢者が増加することによって、比率が高まるといわれています。
 障害ということについては、それに対する偏見みたいなものが社会に根強いのです。障害に対する偏見、無理解が多く、例えば車椅子でも手動であるか、電動であるかによって全く必要とされるスペースが違いますし、車椅子でトイレまでは行って、そこから歩けるのかとか、全く車椅子を降りることが出来ないのかによって、介助も全く異なってくるわけで、非常に個別性が強い。あまりにも今の日本の社会のでは、バリアフリーを進めていく上で障害者の姿が画一化、ひとつの像に集約して考えられていることが多いような気がします。視覚障害者のほとんどが弱視です。視覚障害者イコール全盲ということではないので、弱視の方への配慮としては、点字ブロックではなく、文字を大きくするとか、色弱の方に関してはコントラストをはっきりするとか、そういう配慮が必要ですが、全て視覚障害者イコール全盲というふうにとらえられた配慮がすすんでいるような気がいたします。
●障害別にみた対応
対象者 特性 施設整備上で配慮すべき点
歩行障害者 車いす使用者 ・座位で移動
・車輪で移動
・狭い幅員での移動が困難
・手で車いすを漕ぐ
・視点が低い
・高い所は手が届かない
・数センチの段差が乗り越えられない
・車輪が溝にはまりこむ
・スペースが必要
・傾斜路では負担が大きい
  杖使用者 ・杖の接地面積が小さい
・杖の振り幅が必要
・垂直移動がやや困難
・滑りやすい
・狭いと通りにくい
・移動時は手がふさがっている
・段差は危険
視覚障害者 全盲 ・空間把握が困難
・視覚による危険予知が困難
・路上、空中の衝突の危険性
・位置や方向の把握が困難
・複雑な地点では行き先判断が困難
  弱視   ・小さな文字が読めない
・路上の凹凸がわかりにくい
・色の明度差が小さいと識別困難
聴覚障害者   ・聞き取ることが困難 ・表示や案内を頼って移動
・視覚による危険表示が必要
健常高齢者   ・筋力が低下する
・情報伝達が悪い
・行動がゆっくりしている
・平衡感覚に劣る
・環境適応力に劣る
・不安感が強い
・指先や四肢の力が弱まっている
・視覚による危険予知がしにくい
・スピードのあるものについていけない
・新しい複雑なものが認知しにくい
・所在をあきらかにする
その他 子供 ・判断力が未発達である
・体の重心が高い位置にある
・活動的で不意の行動に出る
・生活経験が少ないので類推できない
・難しい言葉や文字がわからない
・目的地に到達しにくい(道草)
・高いところは手が届かない
  妊産婦 ・足元がみえにくい
・重い荷物が持てない
・行動がゆっくりしている
・階段の昇降等がしにくい
・混雑のなかでは移動しにくい
  荷物をもった人 ・手がふさがっている ・長時間、歩行できない
・混雑のなかでは移動しにくい
出所)「大阪府福祉のまちづくり条例 設計マニュアル」(社団法人 大阪府建築士会 1953年)
「図解バリアフリーの建築設計 障害者・老人のための設計マニュアル」(彰国社 1981年)
「高齢者の住まいと交通」秋山哲男編
 障害別にみた対応です。先ほど障害者は多様化しているということをお話しましたが、順に歩行障害、視覚障害、聴覚障害、上から6つ目の段の健常の高齢者をご覧いただきたいのですが、まず、高齢者は筋力が低下し、重いものがもてない、情報伝達も悪い。若い人だと、あるサインをみて、すぐそれが脳に伝わって機敏な行動にでるわけですけれども、サインの認識力が落ち、行動がゆっくりしていく。平衡感覚に劣る、環境適応力に劣る。新しい情報機器等を導入してもそれが使いこなせない場合も出てくる。さらに不安感が強く、自分の位置確認をひんぱんにする、そういった行動がでてきます。指先とか四肢の力が弱まってきますから、握ることが不得意であったり、視力も低下しますので、わかりやすいサインを出さない限り、危険を予知しにくい。危険が起こったときに、転倒したりぶつかったりする際に衝撃を回避するような策を生じてないと、大事故につながる可能性もあるわけです。スピード感のあるものについていけないこともあります。
 障害者に対する対応は個別的であって非常に複雑で、それぞれの障害の人に対して個別に配慮していくというのはバリアフリーというふうに言われています。例えば、ここに、私が段を上がってくる中で、2段、階段がありますね。もしここに車椅子の人が講師で来られるとなると、ここをあがれないわけですから、そこにスロープつけましょうというのが、バリアフリー対応です。視覚障害者の人がきて、ひょっとしてここにつまづくかもしれない。車椅子も視覚障害も、健常者も利用しやすいように、台を最初から置かないようにしましよう、誰にとっても共通解を見出していこうという考え方が徐々に広まっています。目の前にあるバリアをとっていくバリアフリーに対し、最初からバリアを作らない、そういう考え方を「共用品」といったり、「ユニバーサルデザイン」というふうにいったりします。高齢者であってもお元気でかくしゃくとなさっている人もいれば、虚弱や寝たきりであったりする人もいるし、非常に体力においても多様性が進んでいる。高齢で車椅子の人もいるかもしれないし、高齢で視覚障害のある人もいるかもしれない。そういう人達を全部含んだ概念として捉えて、全ての人に利用しやすいような社会環境を作っていこう、サービスの面においてもそうです。車椅子だけのための配慮だけではなく、高齢者から子供まで、妊産婦や外国人まで全ての人が利用しやすいようなものにしていこうという考え方で、「ユニバーサルデザイン」を原則にした発想がコストの面でも疎外感を感じさせない意識の面においても非常に重要です。
 今後、高齢者が3人に1人になるという時代に、高齢者は大きなマーケットであるとして、各種産業がユニバーサルデザインやユニバーサルサービスというものに着目し始めています。後で少し旅行行動のところをふれようと思うのですけれど、ホテル業界でも人口減少が始まり、高齢者が増える時代に、高齢者に固定客としてリピーターになってもらう必要性がある。例えば、ホテルオークラは、老人ホームを運営する「伸こう会」という企業と契約をしまして、ホテルに泊まっていただいた方の外出支援をしたり、付き添いサービスをしている。パレスホテルは、7階の客室の一部を改装してマスターズフロアというものを作り、バスタブに非常用のコールボタンをつけたり、家具類の取っ手等も高齢者の弱い握力でも引き出せるようになってたり、バスタブの床に滑り止めのゴムが最初から貼ってあります。こういうサービスは確かに高齢者の増加、高齢者に安心して泊まっていただくことを狙ったものですが、必ずしも高齢者だけを満足させるものではなく、全ての世代にとって安心感を提供するものだというふうに考えます。高齢者への対応ということを考えるとたった人口の3人に1人、高齢者だけのためにお金をかけることはすごく無駄な投資かもしれないけれども、これは高齢者だけではなく、全ての世代に共通の商品であり、サービスであるという考え方で整備をしていけば、投資効果というのはより拡大してくるはずです。個々の障害別にみて着目しますとさまざまな配慮は異なってくるわけですし、高齢者自体も多様化しているわけですから、そこについて個々に対応していくというのは困難なことかもしれませんが、より多くの人が使いやすいような商品、デザイン、サービスを提供していこうという行動が今、多くの産業界に広がっています。
 少し少子化のこともお話しなくてはいけませんので、少子化のグラフをお付けしました。少子化は今に始まったことではなく、戦後のベビーブームの直後以降、少子化傾向が続いています。谷が2つありまして、皆さんがご存知のように団塊の世代が生まれた直後に1つ目の谷がきまして、そして2つ目の谷がここ10年くらいです。しかし、1つと2つ目の谷というのは、全然性格が違い、1つ目の谷は有配偶出生率の低下です。つまり、結婚をした人が産まなくなった時代で、今回の谷は、結婚しない人が増えた、遅く結婚して1人しか産まない人が増えたことによる少子化です。戦争が終わって豊かになった時代には子供を豊かに育てたい、いい会社に就職させて一生を安定させるためには教育をつけなければいけない、昔は子供は一家の稼ぎ手だったわけですけれども、豊かに育てるために子供は消費者になってしまった。つまり、子供を産むことによる経済的合理性がなくなってしまったのです。妻は2人程度の子供を産み、教育をつけて大事に育てていく時代、乳児死亡率も戦争が終わって、衛生状態も良くなって改善されたので、子供数を減らしても安心できる時代でした。
 最近の少子化というのは、非婚と晩婚が原因と言われています。一生結婚しない人や遅く結婚してひとりしか生まない人が増えたのです。現在の初婚年齢は女性27歳、男性29歳です。東京都のデータでみると、30代の前半の男性の5人に3人が未婚、20代後半の女性の3人に2人が未婚です。遅く結婚したために、年齢が高くなって子供を持つことに対する抵抗があり、1人しか産まないとか、自分のキャリア追求のためや自分の人生を楽しむために子供を持たない選択をした人も増えている。理想の子供数を産まない理由というのが、一番に経済的に困難、子供に金がかかる、教育費に金がかかる。次に健康や住宅問題がきています。
 最後に、まとめに入らせていただきたいと思います。
図表:団塊の世代など新しい都市型高齢者の登場と求められる地域・交通施策
【多様化する選択肢のなかから自ら選択する自己責任社会へ】
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(出所)高齢者会における住まい方に関する調査」(1998年7月)、「日本の家族はどう変わったのか」(NHK出版)ニッセイ基礎研究所、他既存資料から作成
 まず、高齢者の基本ニーズというのは、真中にお書きしました4つに収束できます。高齢者というのはある日突然高齢者になるわけではございません。徐々に年齢を重ねていって、かつ年齢的自覚のない存在です。その人達にとって一番大事なことは何かというと、普通の生活を継続することです。昨日までの生活と同じペースで明日以降も生活していく。若干の虚弱や障害と付き合いながら、生涯をすごしていくということで、普通の生活をどう担保できるか。
 次に健康を守ることに対する欲求は非常に大きい。働くことに対しても、欧米諸国と比較しても収入目的プラス生きがい、健康増進ということで、非常に意欲旺盛です。高齢者の単身や夫婦のみ世帯が増える中で、家の中に閉じこもらず外に出て、社会的な交流、これを機会財といいますけれど、交流の機会を提供していけるか、これが健康を守ることにもつながりますし、普通の生活を継続することにもつながっていくわけです。
 一番左側に、住まう、働く、余暇、交わる、家族、コミュニケーションというキーワードだけを抜き出してみました。これについては個々にご説明をしている時間もないですけれども、たとえば、「住まう」のところをご覧ください。住宅すごろくのあがり、つまり「終の棲家」ですが、家族に囲まれて人生の終末期を過ごす住宅はかつて、持家一戸建で十分に機能してきたわけですが、単身になれば安心を求めて都心で仲間と住んだり、サービス付きの住宅に移り住む、集住傾向に変わってきています。昨日発表された地価は、下落傾向がこれまで続いていましたが、都心部のある地点ではもう上昇に転じています。今後は高齢者の都心回帰が進み、集まって住むことに対する社会的価値が高まってくるわけです。今までは郊外に住み、都心で働くというようなライフスタイル志向の社会基盤に対して投資していたわけですが、都心の「働く」という機能に加え、中心部に集まって住める、歩いたり車椅子でも買い物に出かけられる街づくりにするための機能更新が必要です。働くということに対しても、高齢者は非常にわがままです、出来ればSOHO(Small Office/Home Office)で、自宅や自宅から徒歩15分以内でとか、自転車でいける地域というふうに職場の選択も職住近接志向です。今までのように満員電車に揺られて1時間半も通勤したくないのです。多くが就労希望を持ってるわけでございますけれども、収入だけが目的ではなく、生きがいや社会参加とか社会貢献とか、自分の持っている知識を伝承していくという欲求が非常に強いわけです。
  私はここ3年、産業別に高齢者を雇用するための方策を検討する調査を担当しておりますが、運輸関係は他の業界と比べて、従業員の高齢化が進んでいます。この事業は、職場の中で若い人達が出来ることと、高齢者が出来ることを明確に分業化し、高齢者の経験や知識が生かせるような職務を見出し、高齢者の希望にかなった雇用管理制度をつくっていこうとするものです。3年前からシティホテル業界での検討を始めました。全国のシティホテルを回っていろいろとご意見を伺いますと、従業員のほうは定年後も今の職場で継続して働きたいという意向が強いですが、定年前と同様に働くのではなく、趣味の合間に、また孫の運動会には休みを取りたいといった自由な働き方を志向するわけです。
 一方ホテルのほうは24時間稼動していますから、夜勤専門で雇いたい、フロント対応で雇いたいといった職種、時間限定の希望もある。シティホテルは現在、すごく厳しい経営環境で、スーパーホテルと呼ばれる、カードでチェックインできるところが出てきていますので、削れるコストは全て削って、今後は人件費をさらに削っていくかという段階にきている。そうしますと、20代の若手をフルタイムで採用するよりも、定年を迎えた人に朝・昼・夕食の忙しい時間帯だけレストランで働いてもらうとか、レストランの空き時間以外のところではリネン交換に回ってもらうとか、高齢者を多能化させて活用し、そして公的な助成金を活用して、高齢者の収入を大幅に下げることなく、人件費の圧縮が可能になります。助成金を活用することによって、同じコストでもう一人分雇えるような仕組みもありますから、高齢者雇用がサービスや生産性向上につながるのです。高齢者が働くことは健康寿命を延ばすことにつながっていきますし、企業の方も生産性向上や効率化を考えれば、今の時代から高齢者をどこで役割発揮してもらうかとか、若い人たちへの教育的効果を期待するといった具合に、高齢者活用を真剣に考えることに着手していかなければなりません。
 社会性余暇のところは先ほど申し上げたとおりです。余暇も、今後は自分本位から自己実現へと変わってくる。自分も楽しまなればいけないんですけれども、人様のお役に立って何ぼという人たちが増えて、社会性余暇というものが定着してくるだろう。こうした活発な行動を手当てしていくためにも、移動の手段は必要不可欠です。
 それでは求められる交通政策というものはどういうものなのか、まず、生活交通の確保です。歩いていける街づくりということが全国各地で行われていますけれども、車を運転出来る間というのは60代後半から72、73歳くらいまで。そうすると車の運転をあきらめたときに、地域の中で買い物に行ったり病院に行ったり、友達のところに出かけたり、生活に必要な施設を結ぶ、きめ細かな静脈交通をどう確保していくかということが重要です。
 バリアフリー法が去年の5月に成立し、11月から施行されていますけれども、まだ一層の推進が求められるだろう。いろいろな駅を同じレベルに整備していくには時間も費用もかかりますし、投資の重点化を検討する必要があるだろう。ひとつの駅は完璧にバリアフリー化をして、後はやらないのではなく、他の手段で手当てしていく。東京であれば乗降客数5千人以上の所というのは多いわけですけれども、乗降客数100人位のところにエレベーターやエスカレーター設置してもしょうがないですから、地域の中で、重点駅を決め、そこまではマイカーやタクシーで、またはミニバスなど静脈交通が必ず、アクセスしていることが重要でしょう。
 今後は地方では、今までのように過密社会ではない、過疎の社会になってきます。施設を分散させるのではなく、高層化することによって立体的に街を利用していこうというような発想が必要ではないか。駅の上を有効利用してデイサービスセンターを作ったり、保育園を作ったり、今もいろいろ動きがありますけれども、社会人教育がだんだん出てきている中で、駅の上に生涯教育機関があったり、痴呆性のグループホームがあったり、立体的に都市を作っていく、オープンスペースは緑化したり、災害用の用地として十分に確保しておく、そういう発想の転換があってもいいだろうと思います。
 さきほど後期高齢者が増加すると、公共交通機関を使う人たちが増えていくということを申し上げましたけれども、それにも乗れなくなってきた人たちについては、STS、スペシャルトランスポートサービスを活用していく比率が高まるだろう。現在、福祉タクシーも全国各地で出来てきてはいるけれども、予約が必要だったり、費用的にまだ高かったりする。例えば今、タクシーを使って福祉サービスを実施している自治体さんがありますけれども、今後こういうものについてもドライバーさんに介護教育等をし、病院に行って薬を貰ったりとか、デイサービスセンターへの送迎とか必要なときに即時性、緊急性のあるようなサービスを確保していく必要があるだろうと思います。メディスという事業者が行っているケアドライバーのような制度もまだまだ量的拡大が必要です。
 次に、シルバースター制度など、高齢者が泊まりやすいようなホテルが出てきておりますけれども、これは施設だけではなく、食事やサービス提供の面でも高齢者に配慮された宿泊施設です。今後、余暇需要が活発化していく中で、余暇に関する情報提供もさらに充実していく必要があるだろうというように思います。 以上、長時間にわたりご清聴いただき、ありがとうございました。








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