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4 現在の状況とその問題点
(1)12カイリ領海に対する沿岸国の責任
 1958年に領海条約が採択された時代は、領海幅員が3カイリないし6カイリの時代であったが、1982年の国連海洋法条約では領海幅員は12カイリに拡大されている。領海幅員の拡大に関する議論は、1950年代においても現れてきていた。たとえば、1958年3月11日、第1次国連海洋法会議第一委員会第10回会合において、米国代表Deanは、領海幅員12カイリへの拡大に反対して、その理由として次のように指摘していた(13)
 
7. 3カイリ限界のメリットの一つは、それが航行にとって最も安全だったことである。領海が12カイリに拡張されれば、多くの問題点が生じることになる。今日でも小型船舶の視認目標として用いられている多くの物標は、12カイリ範囲では視認できない。世界の灯台のうち、その距離を越える到達光度を有するものは20%にすぎないし、12カイリを越えればレーダー航法を用いても限界領域での使用となり、かつ(領海に入る予定のない)多くの船舶は、12カイリ境界外の通常見られる水深において投錨することができる錨鎖又は装置を備えてはいない。
8. (中略)加えて、領海幅員を拡張すれば、広大な区域をパトロールするためのコスト増大をまねく。長い海岸線を有する国の場合、領海の3カイリから12カイリヘの拡大は、毎年、おそらく何億ドルもの追加支出を伴うことになる。
9. 領海拡大に対するもう一つの反対は、戦時下、中立国はその一層拡大された領海帯においては、交戦国船舶の侵入を防護することが一層困難になるということである。
 パラ7は、船舶にとっては、領海内の航行に比べて公海の航行がより一層「航行の自由」を享受できることを前提として、領海の拡張が、航行する船舶にとって安全が阻害されることになることを指摘し、パラ8は、領海の拡張により、領海における航行の安全を確保するという沿岸国の領域管理責任を果たすことができなくなるという主張である。それは、沿岸国の自国領域に対する管理責任を直接に論じたものではないが、その管理責任を果たすことができないことを理由として、領海幅員3カイリを12カイリに拡大することへの警鐘を鳴らした発言であった(14)
 このような指摘は、その後も、行われている。漁業管轄権事件判決において、フィッツモーリス裁判官の反対意見は、次のように述べている(15)
 
 領海は権利と並んで責任をともなうが、多くの国家は比較的狭いベルト帯の外側では、充分にその責任を果たすことができない。たとえば、秩序の維持と取締り、航路や暗礁、砂洲その他の障害物に対するブイ及び標識の設置、可航航路の啓開、航行に対する危険の告知、救助サービスの提供や、灯台、灯船、打鐘浮標等の設置などである。








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