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II-2 ヴァルデス号以後の流出油防除技術の進歩
1 ヴァルデス号事故における分散剤の使用
(1)ヴァルデス号事故における流出油処理
 1989年3月24日に米国アラスカで発生したエクソン・ヴァルデス号事故における流出油処理に関しては、夏期のみしか防除活動の出来ない北方海域特油の現場気象条件の制約から多数の人員が投入され、あらゆる防除法が試みられた。
(2)事故直後の流出油処理
 油回収の初期ならば、油膜の面積が限られており、油層が厚いので、機械的回収、分散剤の適用、現場焼却などあらゆる防除手段を適用しうる可能性があったが、いくつかの不都合が重なり、回収油を貯蔵、輸送するバージも修理中で、事故直後は、海面上の油膜には分散剤の適用が唯一の方法であった。
(3)全米唯一の事前承認域
 1989年当時、アラスカ州は、コーストガードのFOSC(Federal On-Scene Cordinator、連邦現場責任者)の決定のみで、すなわち環境保護庁(EPA)あるいはアラスカ州政府の承認を必要としないで分散剤の使用が可能な、全米唯一の事前承認域と定められた州であった。
(4)分散しうることの立証
 FOSCは、この決定を下した後、出来る限り速やかに関係機関に決定した旨を通知するだけでよかった。
 しかし、アラスカの分散剤使用決定マトリックス(図II-2-1)には、広域使用の承認を同意するに先立ち、流出油のタイプと使用状況が確かに分散しうることを立証しなければならないステップ(図中の太矢印)が設けられていた。
(5)フィールドテストの要求
 ヴァルテース事故では、ローカルFOSCは、全面的配備を認可する前に流出油を分散させうることを立証するフィールドテストを要求する道を選んだ。
(6)分散剤使用適時を失する
 分散剤使用許可が得られる時までに流出油の一部は事前承認区域外に拡散し、さらにわるいことにストームが来襲し、分散剤使用適時の窓は完全に閉ざされてしまったのである。
2 自己分散型(自己攪拌型)Corexit9500の開発
(1)疑念を抱かせない分散剤の開発
 エクソン社は、アラスカで分散剤使用適時の窓が失われた根本原因が、ANS原油(Alaskan North Slope crude)への分散剤適用効果に関する疑念にあったとして当時進行中の流出油関連研究開発計画を急遽変更して、今後は規制者側で流出油の分散能に疑念を抱かせない極めて効果的な分散剤の開発を行った。
(2)Corexit9500の開発
 その結果完成させたのが、散布後の攪拌を必要としない自己分散型(self-Dispersible)Corexit9500である。
 この分散剤は、1996年のBattelle Ocean Sciencesのラボテストで、80,000cPの高粘度油にも有効なことが証明(図II-2-2)されており、これに続く北海でのフィールドテストでは、ANS原油、North Sea Forties原油、IFO-180舶用燃料油に対しても有効であったとしている。
3 ビーチクリーナCorexit9580の開発
(1)Corexit9580の開発
 ヴァルデス号事故処理では、漂着油で汚染された海岸の清掃に多数の人員と資器材が投入された。
 エクソン社では、事故直後に市販のビーチクリーナー約100銘柄について、それらの性能及び対生物毒性をテストしたが、満足すべきものがなく、事故発生後わずか数ヶ月の間に、高性能・低毒性のCorexit9580を開発した。
(2)政府当局の許可
 しかし、政府当局からは分散剤の一種として解釈されたため、ヴァルデス号事故処理では、その使用は許可されなかった。
(3)生物に対する洗浄効果
 本剤は、その後フィールドテストや他所で発生した事故処理では、マングローブの吸収根の吸収孔を塞ぐ付着油を洗い落として蘇生させ、塩沢植物の葉の気孔の目詰まりを解消して光合成を回復させるなど海岸の岩礁や砂利・砂の洗浄に有効であるばかでなく、生物に対しても低毒性で洗浄効果が高いことが証明されている。
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図II-2-1 1989年当時のアラスカ州分散剤使用決定マトリックス
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図II-2-2 Corexitの分散性能








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