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II 自己攪拌型油分散剤の使用方法等に関する文献調査
II-1 メキシコ石油イクストックI油井流出油に対する分散剤の空中散布
1 概要
 1979年6月3日、メキシコカンペチェ湾南部にあるメキシコ石油のイクストークI号試掘井が暴噴を起し、掘削プラットフォーム、掘削パイプを損壊した。
 原油は、約49mの海底から噴出し、流出した油は、メキシコ湾を北上して8月6日(事故後65日目)には直線距離にして約500海里離れた米国テキサス州沿岸に漂着した。
2 史上初めての大規模な空中散布
 この油流出事故に関しては、史上初めての大規模な空中散布が行われ、自己攪拌型分散剤を航空機から空中散布して相当な効果をあげたとされている。
 散布に使用した航空機は、ダグラスDC-6B及びDC-4型機で、延べ493回出動し(DC-6B:425回、DC-4:68回)、飛行時間1,000時間、使用分散剤5,700klであった。
 平均散布率は、19L/haで1,600kmの海岸線にわたる2,850km2の海域の油を処理した。
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写真II-1 空中散布中のDC-6B
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図II-1 空中散布の行われた海域
3 使用した分散剤
(1)油分散剤は、6月9日(事故から7日目)から散布作業が開始された。
 この作業は、カナダの航空会社に一任し、ダグラスDC6B型機から原液のまま空中散布されており、油分散剤は、米国エクソン・ケミカル社のCOREXIT・9527、COREXIT・9517、COREXIT・7664を使用した。
(2)使用した油分散剤の概要は、次のとおり。
[1]COREXIT・9527
 界面活性剤の量が極めて多い油分散剤である。自己攪拌(self-mix)タイプなので散布後の攪拌を必要としない。
[2]COREXIT・9517
 9527と同じく界面活性剤の量が多い油処理剤で、溶かす場合は、水又は灯油を使用する。
[3]COREXIT・7664
 低毒性の油分散剤で、界面活性剤を水に溶かした物。
4 使用した航空機
 ダグラスDC6B型機
 重量:27トン 長さ:35m 高さ:12m
 巡航速力:225ノット 散布速力:140〜200ノット
 航続距離:3,500海里(無荷重)、1,375海里(荷重13.6トン)
 この他、油分散剤タンクを備え、34mの散布用ブームが両翼にわたって取り付けられている。
 散布幅は風速等によって異なるが、80から120mにわたる。
 今回の作業では、海面上15mを150ノットの速力で飛行して毎分1.3klの割合で405m2当たり6.8から11.4Lの油分散剤を散布している。
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写真II-2 航空機散布のため集積された分散剤
5 分散剤の効果
(1)油分散剤は、流出油の主塊から離脱した油と保護区域に侵入するおそれのある油に的を絞って空中散布された。
(2)米国は、8月10日、油分散剤の使用を北緯25度以南の海域に限定するようメキシコ石油公社に申し入れた為、25度以北では油分散剤は使用されていない。
(3)この油分散剤散布作業は、油の分散に効果が上がっていると報じられているが、室内実験では、COREXIT・9527を0.5c.c.使用してイクストークI号のエマルジョン油10c.c.を直径約1mmの油滴に分散したが、それ以上小さくすることは、出来なかった。
 COREXIT・7664は、9527と9517のストックが減った時に使用されてきたが、界面活性剤が少なく、散布後に油面を強く攪拌しなければならないため攪拌作業を伴わない航空機散布では効果が上がらなかったとされている。
(4)以上の様に、1979年6月のメキシコ湾における海底油田の暴噴による大量流出油事故については、史上初めて航空機からの自己攪拌型油分散剤の空中散布が大規模に行なわれた。
 しかし、その効果については、文献により評価が分かれる。








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