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母親や子どもとの接し方のポイント
 大勢の中にいても、虐待の親子は何かが違い「何か変だ」と感じることがよくあります。この全体的な印象を大切にしましょう。
 健診の場面を想定して接し方のポイントを掲げますが、地域や家庭でもこれを応用してください。
 
健診での観察
子どもの身体症状(外性器もくまなく)、発育・発達、情緒行動はどうか
親子関係はどうか
親の育児はどうか
親・子のリスク要因はないか
 
 児の診察で異常がなくても、問診、指導などあらゆる場面で育児の問題を手がかりに、虐待を把握することができます。
 抱き方がぎこちない、子どもをほったらかし、子どもの表情が乏しいなど健診の場での観察は重要です。また、児の身体発育の評価は測定値よりも発育過程を重視して行う必要があり、生下時からの体重と身長を成長発達曲線にプロットして判断します。
 親と一緒にいるときの子どもの様子が重要で、母と児の表情や親子関係を観察しながら、母親の困っていることや心配していることから具体的な日常の育児方法や気持ちを把握します。たとえば、乳児期で虐待のきっかけになるのは「泣きやまない」「夜泣きする」が多く、「泣いたときはどうしますか」と対応方法を聞くことが大切です。
 また、育児の負担や夫婦関係の把握のために「育児は楽しいですか」「夜のほ乳はどうしていますか」「夫の協力はありますか」とも聞いてみましょう。愛着形成に問題がないか、「赤ちゃんが生まれたときどう思いましたか」と聞いてみてもよいでしょう。
 幼児期では「言うことを聞かない」、「ぐずる」「お漏らしをする」が虐待のきっかけとなることが多く、「しつけはどうしていますか」「子どもさんのことで困っていることはありませんか」と聞いてみましょう。
 もう少し大きくなると、「いたずらする」、「うそをつく」などがきっかけとなることが多いようで、これも「しつけで困っていることはありませんか」と聞いたらよいでしょう。
 母親に共感する態度で、こちらが一方的に話すのではなく母親に話してもらいます。
 ひどいことをすると思っても正義感を前面に出さずに、「そう、大変ね」と受け止めることが大切です。
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 育児観や育児方法が母親とずれていても、「それは間違っています」「○○しなさい」と一方的にお説教せずに、いつでも相談を受けられるという印象を持ってもらうようにしましょう。
 子育てに追いつめられているような母親には、「完璧な子育てはあり得ない」「手抜きすることも大事」と知らせることも必要で、しんどい子育ての愚痴の聞き役になれたらしめたものです。
 また、親と子にも相性があり、扱いにくい子どもがいることも事実です。子どもの気質の違いを教えて、母親に赤ちゃんがかわいいと思えないときがあっても当たり前と言ってあげることで、気持ちがずいぶん違ってくるでしょう。
 出産後には、マタニティ・ブルーという抑鬱気分が見られたり、産後鬱病で、育児が困難になる場合があります。
 この時期には乳幼児健診も始まっておらず、援助を求めようにも地域のどのような機関があるのかわからないということがあります。母子保健推進員は、地域にアンテナを張り、このような母親に援助を導入する役目を果たしたらよいでしょう。
 親子に出会ったそのときに、次に関わるきっかけを作っておく必要があります。その地域に住んでいる母子保健推進員に紹介したり、担当の保健婦さんに会ってもらったりします。
 健診では、健診に従事するあらゆる職種が“気づき”をもつことが重要で、受付の時から疑いを共有するようなシステムを作っておく必要があります。健診後のカンファレンスに参加できるようであれば、そこで気づいた問題点を出し合い今後の方針を決めましょう。虐待の気づき・疑いを共有すること、そして確実な援助につなげることが大切です。
 
虐待やその疑いのある親子を発見したとき
 
 児童相談所へ通告しますが、不安だったら保健婦さんに相談してからにしてもよいでしょう。正義感から虐待していることを認めさせようとすると、敵対関係になり次の関わりができなくなってしまうことがあります。虐待は必ずしも認めさせる必要はありません。
 しかし、ひどいことをする親にそのことを指摘すると、「しつけだからうちのやり方に口を出さないでくれ」と言われることはよくあります。
 今回の法律では、「第十四条 児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、その適切な行使に配慮しなければならない。」と明記されました。「あなたのやっていることは通常のしつけの範囲を超えていますよ」と親だから何をしても許されるわけではない、ということを言ってみてもよいでしょう。
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