「E・M・T」
Emergency Maneuver Training
Rich StowellのEMT (Emergency Maneuver Training) No.10
鐘尾 みや子
第4章 ピッチとパワー
速度のコントロールはどの操縦系統で行うのでしょうか?
また、高度のコントロールはどの操縦系統で行うのでしょうか?
これらの疑問に対する答は、操縦訓練中において曖昧なままにされています。また、教本などを参照しても、パワーが速度をコントロールする、あるいは高度をコントロールするというような説明がされていたり、ピッチが高度をコントロールするかのような記載があったりして、よくわからないというのも事実です。
しかし、ピッチとパワーの果たす役割をよく理解していなかったために、危険な状態に陥ったときのパイロットの対応が不適切なものとなり、しばしば自らの機体と生命を危うくすることがあります。そこでピッチとパワーについてあらためて吟味し、これらが高度と速度にどのように係わってくるのかについて、明確に認識しておかなければなりません。
わかりやすくするために、まずパワーを切り離して考えてみます。パワーなしの場合で高度と速度について考えるとき、「エネルギー」という要素の2つの側面に着目します。一つは「位置エネルギー」で「高度」に対応し、もう一つは「運動エネルギー」で「速度」に対応します。そして「飛行する」ということは、「高度」である「位置エネルギー」と、「速度」である「運動エネルギー」とを絶え間なく互いに変換する作業であるということができます。ここでは、一方を得るためには必ず他方を消費しなければなりません。いいかえれば、高度を失わずに速度を得ることはできませんし、速度を減らさなければ高度を得ることはできないのです。
グライダーを例にとって考えてみましょう。条件としては無風で、サーマルの発生もないものとします。私たち自身の運動エネルギーを使って、機体を丘の上まで押し上げることにより、機体には位置エネルギーが蓄えられます。
図4−1 運び上げることによる位置エネルギーの増加
丘の上から機体を発進させると、私たちが運び上げることによって獲得した機体の位置エネルギー(高度)は飛行時の運動エネルギー(速度)に変換されます。エレベーターの位置にかかわらず、機体は一つの方向、つまり下向きにしか発進できません。降下経路は、どのような速度を選択するかによって決まります。実際には、最良滑空速度のときに一番遠くまで到達する経路となり、この速度よりも大きくても小さくても、到達距離が短くなるような経路となります。
図4−2 高度から速度への変換
安定した「飛行」のためには空力的な力のバランスをとることが必要です。グライダーは抗力とつり合う推力を生む動力源を持っていませんので、抗力を打ち消すには地球の引力に頼るしかありません。機体自身に有する質量に対して重力が機体を地面方向に引っぱることにより、高度を速度に変換しながら飛行します。
図4−3 滑空中に均衡する力
滑空中エレベーターを操作することにより、私たちは高度と速度の変換を位置エネルギーと運動エネルギーとの間のやりとりとして観察することができます。しかし実質的な結果はいつでも同じで、常に降下を続けるだけです。位置エネルギーは抗力を打ち消すのにも使われるので、出発したときの高度には決して戻ることはできません。
図4−4 累積された抗力による影響
(以下次号)