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「E・M・T」
Emergency Maneuver Training
Rich Stowell のEMT (Emergency Maneuver Training) No.6
鐘尾 みや子
第3章 ロール、ヨー、ピッチ
 飛行機で空を飛ぶ、ということは平面(2次元)の世界から立体空間(3次元)の世界へと移行することを意味します。この移行への対応は、私たちが平面の世界に毎日慣れ親しんでいるだけに、容易ではありません。しかし、飛行機を安全に飛ばすためには、これを上手にやらなくてはならないのです。
 私たちは生まれてからずっと、地平線で区切られる見かけ上平面的な地球上で生活することを学んできており、本能的に、全てのことがらを地平線を基準にして考えようとします。これは、左、右、上、下という言い方からもわかるように、自身の平衡感覚や地面の上のあらゆるものを手がかりとして何が「あたりまえ」なのかを決め、平面の世界での感覚を強固なものにしています。
 しかし、いったん空に上がってしまうとどうなるでしょう?私たちは平面(2次元)の世界から立体空間(3次元)の世界へ放り出されることになります。そこには何の束縛もありません。しかし、ここで問題なのは、私たちが束縛された平面の世界での感覚をそのまま立体空間の世界へ持ち込み、これを飛行機に押しつけることです。ところが飛行機は何が「あたりまえ」なのかも、右も左も上も下も識別できず、ただ、「いかなる方向からのものであっても、相対風に反応する」だけなのです。
 飛行機と良好なコミュニーションをとるためには、私たちは3次元の環境に自身を適応させなければなりません。3次元の世界を自由に動くように作られた機械に2次元での考え方を押しつけると、パイロットと飛行機との連繋はうまくいかなくなります。「操縦に熟達している」ということは、飛行機が「考える」であろう様に考えることができる、ということなのです。これができてこそ初めて、飛行機はその意志を主張していた機械から私たちの手足へと変わり、私たちはこの大空を自由に飛ぶことができるのです!
 私たちがまず始めに認識しなければならないのは、全ての飛行機は同じ空力上の原理に従っているということです。アクロバット機であろうが、初心者用の練習機であろうが、ジャンボ機であろうが同じです。機種により性能や運用限界は異なりますが、ロール、ヨー、ピッチ、迎え角、揚力や抗力の作用は皆同じになります。また、飛行機側からみれば「通常の姿勢」と「異常な姿勢」とが区別されているわけではないので、どんな機体でも「異常姿勢」に入り得ます。
 私たちはエルロン、ラダー、エレベーターを操作して相対風の流れを変化させ、ロール、ヨー、ピッチの動きをコントロールします。したがって、飛行機の全ての運動は、ロール、ヨー、ピッチという三軸まわりの動きによって構成されます。これらの軸はCG位置で交差するので、CG位置はロール、ヨー、ピッチ運動の基点となります。(図3−1)
 「姿勢」とは地平線を基準にした飛行機の位置のことであり、ロール、ヨー、ピッチの動きはこの「姿勢」とは無関係です。操縦桿を動かせば、機体はその影響を受けますが、その結果機体が三軸まわりをどのように動くかということと、地平線がどこにあるかということとは全く関係がないのです。
 飛行機を正しくコントロールするためには、ロール、ヨー、ピッチの動きを正確に機体に伝えなくてはなりません。私たちのイメージする機体姿勢は、そのまま飛行機の動きに影響を及ぼすので、地平線を基準とした飛行機の動きではなく、パイロットの位置を基準とした飛行機の動きを理解できるようになれば、機体がどのような姿勢になっても正しくコントロールできるようになります。
 それではここで、コックピットのパイロットから見たロール、ヨー、ピッチを定義してみましょう。
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図3−1 飛行における三軸
ロール:エルロン操作
 機首と翼端は頭から腰の方向あるいはその反対の方向に回転する(図3−2)
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図3−2 パイロットから見たロール
ヨー:ラダー操作
 機首と翼端は片方の耳の方向から反対側の耳の方向に回転する(図3−3)
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図3−3 パイロットから見たヨー
ピッチ:エレベーター操作
 機首と翼端は頭から足の方向あるいはその反対の方向に回転する(図3−4)
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図3−4 パイロットから見たピッチ








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