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奨励賞入選論文(要約)
沖縄・竹富島における自律的なツーリズムに関する研究
―地域課題の克服に貢献するツーリズムシステムの構築において―
池ノ上 真一
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要約
 
1. 研究の背景と目的、方法
 竹富島は、沖縄県の南西端に位置する八重山諸島の島である。ここでは、伝統的な集落景観やサンゴ礁のビーチを舞台としたツーリズム(≒観光活動)が行われている。本土資本が主導権を握っていることの多い沖縄の観光地において、土地の売買やツーリズム形態、地域資源とのかかわり方等において自らを律することにより、独特のツーリズム形態を形成している島である。
 しかしこのツーリズムによって、島の産業構造やツーリズム資源である島の自然環境・文化環境への影響が発生するようになっている。また近年、ツアー・エージェント(以下、エージェント)が島のツーリズムの主導権を握っていることによって自律性を保つことが困難な状況となっており、様々な影響が発生している。
 そこで竹富島におけるツーリズムの自律性を確立するために必要な条件の明確化を行うことを目的とする。
 そのため、沖縄、八重山地域のツーリズム開発の経緯、竹富島のツーリズム開発の経緯やツーリズム形態の変遷を、島の社会・産業構造の変遷や文化面での取り組みとの関係性において分析することにより、島におけるツーリズムの位置づけを明らかにする。また現状のツーリズム現象を経済、産業構造、関連組織、対外関係、ツーリズム形態、動線・移動手段に関して分析を行うことにより、竹富島における現行のツーリズムシステムの構造を把握する。そして現在起こっているツーリズムによる問題点をもとに、自律性のあるツーリズムシステムとするために必要な条件の明確化を行う。
 さらに、島環境や島社会の維持・発展のために必要とされている条件を参考に、竹富島における新たなツーリズムシステム構築の際に満たすべき課題点を提案する。
 
2. 竹富島のツーリズムの位置づけ
 分析の結果、竹富島のツーリズムの特徴は、1)沖縄・八重山地域において数少ない、伝統的な集落景観・文化を主なツーリズム資源としていること、2)外発的な開発に完全に依存しておらず、住民側の意識、社会組織に自主性があること、3)ツーリズム関連業が新たな雇用を創出し過疎化を抑制していること、また4)外部ツアーエージェント主導によるツーリズムの商品化のため、ツーリズム資源の扱い方や演出方法、入り込み数に関して地元に主導権がないこと、5)ツーリズム関連業の島の産業構造に対する占有率が拡大するほどコミュニティの結束が弱まる傾向にあること、などが挙げられる。
 
3. 自律性の確立のために
(1) 現状の問題点
 竹富島の現在のツーリズムの問題点を整理すると、1)共同体意識の低下の助長、2)利潤効率優先による観光客の満足度の低下、3)住民の就業斡旋体制の不足と他地域からの臨時就労者(ヘルパー)の増加、4)入り込み数の増加に伴うサービスの質の低下や環境負荷の増大化、5)ツーリズム形態(バス観光等)による環境負荷の増大化やツーリズムの質の低下の助長、6)対外交渉や島内の観光業者の統括・調整等を行うツーリズム統括機関の欠如、が挙げられる。
(2) 自律性確立のための課題
 具体的に竹富島のツーリズムにおいて自律性を確立するためには、a)公民館組織内におけるツーリズム統括機構の設置、b)ツーリズムによる利潤の再配分システムの確立、c)島の振興・保全など様々な目的によって得られる資金・施設のツーリズムシステムヘの組み込み、d)島内環境の維持管理システムの確立、が必要課題であると言える。 
エコツーリズムの推進におけるNPOの役割
―屋久島と霧島の取り組みから考える―
佐々木 一成
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要約
 本論文は、鹿児島県の事例研究(屋久島・霧島)を踏まえながら、地域におけるエコツーリズムの推進体制について新たな視点から提言を行うものである。
 現在わが国の地域経済は、地方分権の進展等によりこれまでの中央依存型経済から地域資源を活用した自立型経済への転換を強く求められている。この為、過疎化と高齢化が加速する地域の活力を維持していくためには、観光等の交流経済の振興が重要な施策となる。
 一方、わが国の観光形態は、かねてよりマスツーリズムが一般的である。ところが、マスツーリズムは、観光地とその周辺地域に様々な環境的弊害を引き起こすとの指摘がなされている。そして良好な自然環境が、観光開発と観光活動の拡大によって汚染され、破壊されるというジレンマが生みだされるようになってきた。
 そこで近年、注目されているのがエコツーリズムである。エコツーリズムは自然や文化・歴史など固有の地域資源を活かしながら持続的に利用することを前提とし、地域振興に貢献することをめざす新たな観光の考え方である。わが国では、今後、エコツーリズムの理念を観光活動全般のなかに着実に定着させていくことが重要な課題となっている。
 エコツーリズムは、すぐれて地域主導の観光概念である。この為、地域住民の参加と協力が不可欠となる。とりわけ地域資源を知悉した地域住民には、地域資源と旅行者の仲介者(インタープリター)としてのガイドの役割が期待されている。しかし、現実にエコツーリズムを推進していくにあたっては、ガイドの組織化と人材育成のあり方が大きな課題となっている。私は、それらを解決するための鍵概念としてNPO(民間非営利組織)の活用を提言したい。
 NPOは、「利益よりも社会的な使命を大事にし、優先させる」ことをその目的としている。地域住民が、ガイドとしてエコツーリズムの実践にかかわる場合、その組織化の手段としてNPOには大きな役割が期待できよう。何故なら、エコツーリズムは本来、行政では十分なサービス面の対応が難しく、民間事業者が進出するには収益面で困難とされる典型的分野の一つだからだ。この点で、官と民の中間に位置し、官民どちらもが十分な役割を果たせない空白領域を埋めるNPOに、エコツーリズムの推進主体としての大きな役割が見出せるものと思われる。鹿児島県の事例においても、屋久島は未だにマスツーリズム的手法に依存するところが大きい。それに対し霧島は、NPOを活用することによって地元自治体や地域住民との円滑な連携を実現している。霧島の取り組みは、今後のエコツーリズム推進における1つの有力なモデルケースとなり得よう。
 また、ガイドの人材育成や教育訓練については、大学とNPOの連携が有効であろう。特に地域資源をよく把握でき、住民とも密接なつながりを保ち得る地方大学がNPOと連携し、エコツーリズム推進にかかる人材を育成強化していくことが不可欠となろう。 
日本ホテル企業の海外展開に関する事例研究
四宮 由紀子
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要約
 本稿は、日本ホテル企業の海外展開の特徴を、事例研究により明らかにしようとするものである。
 これまでの国際ホテル研究において、ホテル企業の海外展開の特徴がいくつか明らかにされてきた。なかでも、国際ホテル産業は一般に自国の旅行者の旅行目的先に好んでホテルを展開する、つまり「本国の顧客志向」であると言われている(Dunning and McQueen 1981、Erramilli and Rao 1990、Go et al 1990、Dunning and Kundu 1995、Contractor and Kundu 1995、Go and Pine 1995、Rispoli 1996、Kundu and Contractor 1999)。日本のホテル企業に対する海外展開のアンケート調査においても、日系海外ホテルの8割が北米・アジア太平洋地域に集中して立地するなど、日本人海外旅行者の旅先に多く展開していることが明らかにされている(四宮1998b)。また、ホテル産業に特有の事象として、「出資を伴わない」運営形態による海外展開も大きな特徴である。
 しかしながら、従来の先行研究では、一時点のアンケート調査や一般データを統計分析したものが多く、マネジメントの側面には焦点が当てられていない。企業の海外展開や国際経営行動は、本来、一連のプロセスの中で起こりうるものであり、どのような動機、要因、経営環境が合わさって海外展開に至るのか、また刻一刻と変化する環境の中でどう国際経営を行い問題に対処するのか、時系列で見ていく必要がある。企業により、組織、戦略、優位性、取り巻く環境は様々で、ゆえにその海外展開の動機やプロセスも異なるはずである。
 そこで本稿では、事例研究により、日本ホテル企業の海外展開や国際経営行動の特徴を考察した。航空系、鉄道系、ホテル専業会社の3事例から、日本のホテル企業の海外展開には、「親企業と日系ビジネス・パートナーの影響が大きく作用していること」、「必ずしも全てのホテルが顧客志向により展開されているのではないこと」などが明らかになった。また、日本のホテル企業は欧米企業に比べてまだまだ劣位にあり、マネジメント能力だけでなく、ホテル事業としての戦略ビジョンや事業コンセプトの欠如、総合的なチェーン力の強化、総支配人への権限委譲などの問題において早急な改善が必要である。
伊豆高原地域における美術施設の集積過程とその背景
古本 泰之
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要約
キーワード:伊豆高原地域、美術施設、リゾートコミュニティ、観光地化、内発的観光開発
 
1. 本研究の内容と目的
 本研究は、静岡県伊東市に位置するリゾートである伊豆高原地域において1990年代から起こった美術施設集積の過程とその背景を明らかにすることを目的とした。
 既に別荘地・リゾートとしての開発が一定段階に達していた伊豆高原地域にわずか10年間で60もの美術施設が集積した背景には、東急電鉄系の伊豆急行を中心とした別荘地開発が行われこの地域に移り住んだ芸術家と初期に設立された美術施設の関わりあいの中で生まれた活動が原動力となり、伊豆急行開発時の計画にはなかった新たな地域発展の方向が見えてきた、という流れを見ることができる。そこで本研究では、この「動き」には芸術活動に携わる人々の「関わりあい」、つまりリゾートコミュニティの果たした役割が大きかったという仮説を立て、実証を行うことを試みた。
 
2. 美術施設の集積過程とその背景
 美術施設・芸術家へのヒアリング・アンケートを通じて、伊豆高原地域に美術施設が集積するに至るまでの流れを時系列に沿って整理すると、大きく4つの時期に分かれることが明らかになった。そこで4つの時期を「原初形成期」「萌芽期」「開花期」「成長期」とし、「原初形成期」「萌芽期から開花期」「開花期から成長期」の3つの段階に起こったことをまとめ、各段階におけるコミュニティの動きを検証した。その結果、原初形成期に芸術家が伊豆高原地域に集まり始め、萌芽期に彼らと早い段階で設立された美術施設とのコミュニティが形成され、開花期にはさらに美術施設が設立されると共に、コミュニティの手による「伊豆高原アートフェスティバル」の開催を通じて、この地域は「芸術の地域」として認知されるようになり、施設設立ラッシュが起きたことが分かった。
 それに伴い地域全体に「観光地化」が進行し、さらに美術施設が集積、成長期を迎えた。観光地化は「正の影響」も及ぼしたが、一方で地域全体の雑駁さや、類似の美術施設が林立することによる競争の激化、展示内容の「質」といった点について、批判を受けるようになった。そのような集積を巡る流れの中で、当初のリゾートコミュニティだけではなく、芸術に関する様々な主体が現れるようになり、現在では各々の意図する方向で活動を行っている。
 
3. 結論
 前述してきたように本研究では、伊豆高原地域に美術施設が集積してきた過程には「原初形成期」「萌芽期」「開花期」「成長期」という4つの時期があり、集積の原動力となったのは伊豆高原地域に製作拠点を置いた芸術家と早い段階に設立された美術施設とで形成されたリゾートコミュニティの活動であったことが明らかになった。また、美術施設の集積が進むと同時に「観光地化」も進行した。それに従って、当初のコミュニティの動きも徐々に変化していった。この流れを、既存研究を元にモデル化を試みた。
 また、近年わが国の観光研究で注目されている「内発型観光開発」の概念を整理し、伊豆高原地域における美術施設の集積は、この内発型観光開発で説明が可能なことを指摘した。内発型観光開発に基づいたリゾート開発では「成長の管理」が重要であるとされているが、伊豆高原地域にもこれが当てはまると言える。
 最後に、本研究で得られた知見を元に、「滞在者の自律的活動を考慮したリゾート開発計画」「多様な主体の視点を包摂した観光開発理論」の必要性に触れた。








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