日本財団 図書館


パネルディスカッション
○司会
 ただいまよりパネルディスカッションを始めさせていただきます。
 まずは、壇上の皆様のご紹介をさせていただきます。
(コーディネーター・パネリストの紹介)
 それでは、西村先生、よろしくお願いいたします。
 
○西村
 5時までの予定でディスカッションをしたいと思うのですけれども、今日のディスカッションはこういう形でやりたいと思います。
 もう既にすべての方は30分しゃべっていらっしゃるので、これ以上、たくさんしゃべってもらうということよりも、まずほかの方のプレゼンテーションも聞いていただいて、若干補足があるかもしれないので、補足も兼ねて少し短くしゃべってもらおうと思います。数分程度になると思います。
 その後、私は聴衆の代表として、質問したいことを皆さんの代表として何問か聞いてみたいと思います。それが一巡しましたところで、フロアにマイクを用意しておりますので、ご質問のある方はその場で挙手していただいて、直接ご質問をする機会を持ちたいと思います。ですので、もしこういうことを聞きたいという方がいらっしゃれば、今のうちから準備をしていただければいいかなと思います。
 今日、朝からのプレゼンテーションで皆さんもお気づきになったように、大変多様な形で観光まちづくり、コミュニティーに力を置いて、まちづくりの広がりみたいなのが見えてきたのではないかと思うので、その意味では、一つひとつのプレゼンテーションが方向は違うけれども、同じものを目指していて、なおかつ共通点がかなり多い。そしてかなりきちんとしたフレームが見えてきたのではないかという気がしております。特にこうしたセミナーやシンポジウムをやると、どちらかというと、あるプロジェクトの紹介だったり、ある地域でこういうことをやっていますという、ある単純な紹介に終わることが多いのですけれども、今日はそれぞれの方が一つのフレームを持って議論をされたし、なおかつ事例も非常にコンセプトがはっきりしている事例、まさにそれが我々がここで議論している観光まちづくりにつながるものではなかったかなと思うのです。
 ただ、全体として大きなフレーム、バルマさんがおっしゃったような世界の中での観光の動き、その中で実際にコミュニティーにつながる動きがどうなっているかという話から、具体的に日本の2つの事例がありました。綾町で企業観光、そして実際に山本さんは企業家の方であるわけですけれども、そういう一つの企業が大きなまちづくりのコンセプトの中でどういうふうな役割を果たせるかという立場、それから一方の近江八幡市の深尾さんは、今度は行政の立場ですけれども、行政の立場で官民協力をやりながら、単に観光という旗を振るだけでなく、やはりまちづくりというベースで結果として観光がいかにうまくいくかというところまでアプローチは違っている。しかしそこに来るお客さんが求めているものは割と似たようなある質のものを達成しているのではないかと思います。
 一つ、これは共通の問い掛け、また一つのフレームだと思うのですけれども、最後にイ先生がマスツーリズムとエコツーリズムを対比して非常にわかりやすい見取り図で我々に説明してくださいました。そのことを例えばモーガンズさんはマスツーリズムと言わないで、メインストリームツーリズムとおっしゃっておりましたけれども、やはり大きなツーリズムの流れがあって、それはこれから先、非常によく伸びていくだろう。それは数としても伸びていくだろうし、産業全体としても伸びていくだろう。その中にここで議論しているような観光まちづくりというものがどの辺に位置づけられていて、どういう役割を大きな中で持ち得るのかという問題が一つあるのではないかと思います。
 それはバルマさんもおっしゃったように、バランスとかが非常に難しいわけです。つまり規格製品がすべての地域に当てはまるというわけでは決してないわけで、むしろそれぞれの地域がそれぞれ独自のものをつくっていかないといけないということになってくると、それはそんなにたくさんのボリュームでやれないかもしれない。非常に手間がかかるかもしれないわけです。ですから、何十億という、これから先の大きなマーケットの中でどういう位置を占めて、どういう意味を持ってくるのかという問題が一つあるのではないか。そこが一つ、明らかにしたいという問題としてあると思います。
 一人ずつお話を補足をしていただきながら、議論を進めたいと思うのですけれども、残念ながら近江八幡市の深尾さんはどうしてもご辞退なさるということで、テーブルについていないのですけれども、質問の時にはいらっしゃるので答えてくださると思います。また、明日、ツアーに参加される方は実際に現場に行って説明をしてくださいますので、その機会はまた十分に持てると思います。ですから、質問の時は答えてくださるということで、その準備をよろしくお願いしたいと思います。
 午前中に日本の事例で、午後に世界、そのほかの事例を伺ったので、今度は順番を逆にしまして、海外事例のほうから議論を進めたいと思います。
 まず、モーガンズさんに、ほかの方のプレゼンテーションを伺ったことも含めて補足があればお願いいたします。そして今、私が全体として問いかけた話として、モーガンズさんはエコツーリズムとおっしゃったわけですが、エコツーリズムの広がりみたいなものは、モーガンズさんは量ではないのだと、こういうものがこういう幾つかの項目が満たされているのがエコツーリズムだとおっしゃったわけだけれども、やはり全体としてスケールが大きくなるようなものが実際にあり得るのか、しかしやはりそれは先進的な小さいもので、非常に手間がかかる。しかしこれが21世紀の観光の一つのリーダーになり得るものなのか、その辺の大きな中での位置づけも含めて補足をやっていただけるとありがたいと思います。
 
○モーガンズ
 先ほどおっしゃったご質問ですけれども、私のコメント、規模ということですけれども、私が申し上げたかったことですが、時に人々がエコツーリズムのことを話し合う時、その言葉を使う時、よくいつも小さな規模であるとか、そういうことを話し合います。少ない旅行者の方々、それがガイドに沿って、例えば田舎の町、あるいは散策をするということ、これがエコツーリズムだということをおっしゃる方がいらっしゃいます。
 しかし、エコツーリズムというのはこの主要な要素をどれだけ遵守しているかということ、そのほうがスケールよりも意味があると思います。環境的に持続的可能性があるか、保全に対してどれだけ貢献しているか、教育、あるいは解釈を持っているか、文化的に責任があるか、社会的に責任があるかどうか、そしてもちろん小さな企業の中には自分たちはエコツーリズムの企業だと言っているかもしれませんが、しかしながらこの主要な要素に遵守していかなければ、あるいはそれを満たしていなければ意味はないわけです。たとえ非常に大規模な設備であったとしても、例えば熱帯雨林の中のロッジで300人の人々が入るような宿泊施設があったとしても、これらの要素を満たしており廃棄物やそれらに類するものを適切に処理する技術を有し正しく解釈をしていれば、それは、エコツーリズムということができるのです。
 ですから、規模では決めてはいけないと思います。それが私の考え方で、私が申し上げたかったことなんです。どれだけこれらの主要な要素に遵守しているかということなんです。
 ここで幾つか私のプレゼンテーションの中に付け加えたいことですけれども、私は非常に明確にエコツーリズムとは何なのかということを申し上げました。そしてさらに観光産業の中でも非常に大きな割合を占めるということを申し上げました。我々としては基本的な資源を保護しなければならない。そして、このエコツーリズムこそがベースになるということなんです。将来的に我々は観光を治めていくにはいつも文化、あるいは自然に対して尊厳を持たなければならない。そして地域社会に対して、地域社会がどれだけ恩恵を得ているかということも必要なわけです。ですから、エコツーリズムというのはまさにその一部であるということになります。そして、持続可能性ということが最も重要なんです。
 エコツーリズムですけれども、産業の一部であることには変わりません。そして地域社会がこれを包含していくべきものでありましょう。そしてエコツーリズムとして最終的には政府が関与していかなければなりません。自治体であろうが、連邦であろうが、そうなんですけれども、伝統的には政府がリーダーシップをとっていた、そしてもちろんその役割を果たしてきたわけですけれども、もちろん助成金を出すことも必要でしょう。そしてマネジメントを行うことも大切でしょう。しかしながら政府は地域の社会が自分たちが関与していけるような、そういった支援をしなければいけないということになります。まさにエコツーリズムというのは地域社会の所有のものであり、政府とパートナーシップを持つ、産官学のパートナーシップが必要なんです。
 
○西村
 クイーンズランドではマスタープランをつくって、エコツーリズムはこういうものであって、こういうことをやらないといけないということを言った後に、アクションプランみたいな形で、そこに書かれているものを実際に実施していくと、毎年12ヵ月ごとにチェックしているとおっしゃいました。あれは日本の中ではある計画を立てて、計画が具体的にどこまで進んだかというのをきちんとチェックしていくようなことはほとんどできないといいますか、難しいと思うのですけれども、具体的にはどういう形でアクションプランを実現していっているということをチェックしていくことになるのですか。
 
○モーガンズ
 先ほど申し上げましたように、もちろん時に問題になることがあります。プランをたてること、そしてそのプランが実際に実行されているかということを見ていかなければなりません。そして実行するということで、これはかなり成功裏にやっているわけです。これは何も我々はリーダーシップを持っているだけではなく、パートナーシップを持っている。パートナーシップというのは既存の観光産業であるとか、あるいは教育を施しているということ、そしてローカルのコミュニティーとパートナーシップを持ってやっているということなんです。ローカルコミュニティーのネットワークも関与している。そしてそれが観光に導いているということなんです。
 モニタリングですけれども、これに関しましては幾つかの方法でやっています。基本的にはまずアクションが実際に行われているかと、そしてメカニズムはどうか、このアクションが実際に行われるようなメカニズムがあるかどうかということもモニターしています。もし成功していないということであれば、別の方策をもってこのアクションが実際に実行につながるようにということを促しているわけです。
 そして、我々といたしましてはこれらをやることによりまして、認可プログラムということを申し上げたと思います。すなわちその基準に達しているかどうかを見るわけです。そしてそれに達していないということであれば認可をしないということになります。
 それから、企業に対しての出版物なども提供しているわけであります。こうすることによってパートナーシップを持っている。すなわちモニタリングというのは何なのかということを忠実に伝えているわけです。モニタリングというのは非常に科学的なプロセスでもあり、そして観察をしていく、そして開発の進捗状況はどんなものか、そしてその状況はどんなものかということを経時的に見ていくわけです。例えば写真を撮ったり、実際にそこに観察に行ったりするわけであります。そして何か自然散策のところに劣化があるということであれば管理をしなければならない、あるいは保護をしなければならないというような方策が立たれるわけです。非常にシンプルな形でやっているわけですけれども、コミュニティーもそれに参画できるという形でもっています。そしてコミュニティーの求めるものを実行プランの中にも実際に実行させていくわけであります。そしてこれこそが私が思いますやり方だと思います。実際にモニターしなければそれはまさに時間の無駄ということになります。今、我々が非常に成功裏に行っている一つの理由だと思います。
 
○西村
 単純な質問であれなんですけれども、今の話の中にアクリディテーションというのがあって、エコツーリズムを3つの段階に分けましたね。例えばああいうことは日本でも一時、宿泊施設の格付けをしょうということを議論したことがあるのですが、反対が多くてなかなかできないわけです。どうしてそういうことがクイーンズランドでは可能になったのですか。
 
○モーガンズ
 オーストラリアでも同じ問題がありました。このような認定プログラムには問題がありました。私たちのクイーンズランドの観光局でありますが、私たちのところではそういった認可レベルでありますが、オペレーターのレベルでこういったマーケティングの雑誌に載せてやったわけです。ほかのエコツーリズムのオペレーターなど文句を言っていました。どうしてこのようなプロファイルをオペレーターに与えるのかということなんです。私たちのこういったビジネスを奪おうとしているのか。すなわち消費者というのは認可したところしか選ばなくなるから、私たちの商売が上がったりだというふうに文句が出たわけです。私たちの答えは簡単で、もし、ビジネスをやりたければ、早く行って承認を得てください。なぜなら、それが認可制度なのだから。すなわち、このような場合に観光の質が高いという証明になるのです。クイーンズランドにおいても確かに私たちはもっともっと観光客に来てほしいと思っていますけれども、しかしながら持続可能性ということも大事であります。すなわち量だけではだめです。私たちは質も求めている。したがって、その一つのやり方として認可制度があるわけでありまして、観光業の質を高めるための努力であります。
 
○西村
 バルマさんにお伺いしたいのですが、バルマさんにもほかのプレゼンテーション、日本、それからオーストラリア、韓国のプレゼンテーションをお聞きになって、バルマさんはアジア太平洋地域の責任者なので、いろいろな国を見ていらっしゃると思うのですけれども、今日のご感想と、またほかの国でも同じような動きなのか、それともここで言っているような話はかなり特殊な東アジア的なコンテクストで語られているのか、その辺、感想も含めてコメントをいただけますか。
 
○バルマ
 基本的なこのような地方分権化の方針というのは、世界のすべての地域に適用できるものだと思います。私のプレゼンテーションの中でも言いましたけれども、政府というのはもはやすべてをやるわけではありません。毎日毎日の積極的な役割を例えばこのセクターのオペレーションとマネジメントでやるわけでありません。したがいまして、アフリカからラテンアメリカ、それからまた東ヨーロッパまで政府というのはどんどん役割が少なくなっているということなんです。毎日毎日の役割から引き下がっているということでありまして、観光業の運営と管理からは遠ざかっております。そのかわりにサポートセクターということで、政府は積極的な役割から自動的な役割になっております。
 それでは、誰がこのような秩序ある観光開発の責任があるのか、例えば科学的システィマティックなこのようなフレームワークに対して誰が責任があるのか、この議論があります。この20年間、こういった責任範囲についての議論は進んできました。しかしながらそれと同時にますます欲求は高まっております。地域社会からです。参加したいと、全体としてのこのような計画であるとか、開発に参加したいというような希望があります。このような地域社会の望みでありますが、今日ますます意識が高まっております。すなわち観光業が何をもたらしてくれるのか、マイナスの側面もプラスの側面も含めてです。もし資源がその地域社会の中にあるのであれば、例えば文化的な資源、それからまた自然資源であったとしてもであります。こういったものを地域社会に存在しているわけでありますから、ですから彼らはコミュニティーの一部といたしまして、参加したいと考えているわけです。全体の開発プロセスの中の一員となりたいと望んでおります。そして彼らがリーダーシップをとるということです。
 そして、多くの場合におきまして、やはり観光業というのはプラスとマイナスの側面があります。結果についてもいい面と悪い面があります。これまで私が関わってきたマスタープランというのもあります。これはスリランカの実例なんですけれども、私たちは非常に有名なところに行きました。そしてコミュニティーで5,000人ぐらいでしょうか、そして6つの村に広がっているようなコミュニティーでした。大変美しいところです。そして自然もそのまま手つかずで残っております。美しい森林もあります。そして本当に目をみはるような仏教のモニュメントがあるわけです。ということで、この資源を評価することになりました。そしてこうした資源をどうずれば一番観光業のためにうまく使えるかということをやりました。
 その地域社会のリーダーの人なんですけれども、「どうもありがとうございました、バルマさん。私たちはこのコミュニティーに観光業は求めておりません」というのが答えでした。すなわち「人に来てほしくない。私たちの感受性を傷つけてほしくない。そして汚染もほしくない。私たちの地元の文化を汚してほしくない。私たちは観光業が例えば経済の効果はよくわかっているけれども、しかしながらでも私たちは求めていません。私たちは観光業に入ってきてほしいとは全然思っていないのです」ということでした。そして中央政府に行きました。「この地域におけるプランに対して反対です」と言いました。
 また一方で、田舎、例えばマレーシアの田舎とか、インドネシアの田舎の地域、フィリピンもそうです。インドもそうかもしれません。地域社会は努力をしております。そして地域、それからまた当局でこういった資源がある。したがって、私たち最終的にどのように開発するかということは私たちが決めるのだということであります。例えば自然であるとか、開発の範囲、それからどのような範囲で開発するのか、それからどのような観光客を求めているのか、地元が決めたいということを彼らは言っているわけです。
 したがって、一方で政府の役割はだんだんと減じております。積極的に観光業に参加することはなくなっている。それとは対象的に地域社会がもっともっと積極的に関わりたいという機運が高まっております。また全体としての開発プロセスで参加したいという気持ちが高まっている、これは普遍的な現象であります。そしてその結果といたしまして、アフリカの国、例えばケニアの国、タンザニアなどに戻るべき変化があります。ザンビアもそうかもしれません。ここは完全に田舎の資源に依存して生きているところであります。生存がかかっております。そしてまた開発計画をすることによりまして、このようなバッファーゾーンをつくることで地域社会のリハビリテーションを図ろうとしているということであります。しかし、政府はそんなことを期待したのかもしれません。それからまた全体として彼らのコミュニティーの望みとは違った形で進むかもしれない。こういった現象というのは全世界的に起こっていますし、また、私たちも予測しております。
 したがいまして、WTOはすべてのパートナー、エージェンシー、例えばESCAPとか、パタとか、WTTCとか、あるいはその他、地域の組織と協力いたしまして、私たちは草の根レベルに行動しております。最早私たちはマクロレベルの話をしているわけではありません。国家開発のためのマスタープランではありません。私たちは草の根であります。ミクロレベルでやっていこうということです。この計画を立てる時にも協力をして、そして地域社会と一緒にやろうというものであります。
 ここで一つ、先ほどステーツメントでおっしゃった点に触れたいと思うのですけれども、これはバランスとハーモニー、調和についてのことです。私のプレゼンテーションの中でも少し触れたと思うのですけれども、確かにおっしゃるとおりよいバランスを達成するというのは決して簡単なことではないということは認めます。私はアジア太平洋地域では44カ国を担当してまいりました。そしてこれまで見たように、適切なバランスを達成するのはいつも可能だというわけではないのです。
 しかしながら、私がここで申し上げたいのは、だからといって努力をしてはいけないということではありません。努力は必要ないということでは全くないのです。実はこういったことはどのようなものであったとしても、計画段階の出発点であります。どのようにバランスを見つけるのか、ニーズであるとか、要求条件、ビジターの求めているものと、その一方でのホストコミュニティーが求めている、その観光に求めるものとの間のバランスをとることが大事であります。それがスタート地点です。どうしてこのような状況の中で紛争であるとか、対立が起こるのでしょうか。ホストのコミュニティー、彼らは開発に対しての抵抗があるわけです。それからまた観光客であるとか、観光に対する抵抗が起こる、こういった対立があります。ですから、最初の段階から私たちはアプローチとしてやはりこのような調和のとれた開発ができるようなことをしなくてはならない。そしてまたできるだけバランスのとれた形でなければいけないということなんです。
 おっしゃるとおり、私はこれまで100%完璧にできてきたわけではありません。常に成功しているわけではありません。しかしながら、私たちはそれを意識しております。真剣にこの方向に向けての努力はしているわけです。だからこそこれはすべてのプランの核でなければいけないと考えております。そしてどの程度成功するかということについてはまちまちです。国によって違います。地域によって違います。そしてまた地域社会によっても成功の度合いは違うでしょう。しかしながら、究極の目的というのはどのような開発プロセスでも全く同じであります。
 
○西村
 もう一つ、私のほうからスリランカについての質問なんですけれども。
 スリランカでは地域のコミュニティーがそういう観光開発はいらないと、断られたとおっしゃいました。地域がそれを選択しないのだったら、それはそれでもいいのじゃないかという気もするのですが。すべてのところがすべて観光戦略を持たなくても、観光とは違う道を選ぶのだというコミュニティーがあれば、それはそういうのを尊重するというのも一つの考え方ではないかと思うのですけれども、それはどういうふうにお考えになりますか。
 
○バルマ
 全くおっしゃるとおりです。私もこのような観光業についてのマスタープランを書いていた時なんですけれども、マイナスの評価を書いたことがあります。私のプロジェクトについて、マイナスの評価を下したことが一度あります。
 そして、その理由ですけれども、その地域、あるいはコミュニティーというのは、例えば観光のアトラクションがあるからといって、だから観光を開発しなければならないということにはならないというふうに考えたからです。
 多くの要因があります。いろいろな要因があって、地域社会の意思決定に影響があります。スリランカの場合ですけれども、この地域社会の場合はマイナスのインパクトがあるということを観光に見たわけであります。このような隣のコミュニティー、例えばドラッグとか、ブラックマーケットとか、売春とか、それから児童の売春とか、そういう問題があると考えました。悪い影響があると考えたわけです。麻薬もそうです。そしてまた地元のいろいろな習慣がありますけれども、それが西洋によって脅かされるかもしれないということです。結局その言葉も失われる。ブロークン外国語になってしまうということです。そのようなコミュニティーの人と話をいたしますと、私の言葉で話そうとしても拒否されてしまいます。例えば英語で言ったり、あるいはフランス語で言ったり、ドイツ語で言ったり、すべてブロークンの言葉でしゃべることになってしまいます。
 そのようなことが起こることを私たちの社会で誰が求めていると思うでしょうか。十分経済的な代替案はあるわけです。農業もあります。それで相当な収入があります。漁業もあります。漁業もかなり収入がいいわけです。それで若い人たちはちゃんと成長しております。そしてまた若い人たちは文化的な価値を理解しつつ、幸せに育っているということ、それからほかにも経済的な代替案もあるということで、観光業なんてまっぴらだと、いりませんということです。それで「結構です」と、私は申し上げました。
 
○西村
 イ先生にお伺いしたいと思うのですけれども、プレゼンテーションを聞いていると、日本でも同じようなことがあるなと感じるのです。ホエールウォッチングもあれば、さまざまな海岸でのそういう自然観察をもとにしたツーリズムというのもあり得るし、エコツーリズムの発展という意味で非常に似ているところがあるのではないかと思うのです。
 日本では一昨年でしたか、エコツーリズムの推進協議会というのができて、全体としてそういうネットワークをつくっていこうということがようやく揃ってきて、一つひとつのエコツーリズムの動きというのは、それなりに広がってきてはいるとは思うのですけれども、全国的なネットワークをつくるのがようやくこのところだというような状況だと思うのです。
 それで、韓国の例は、韓国の中では非常に先進的なんでしょうか。今日、ご発表を我々にしてくれたものがどのくらいの位置づけにあるのか、ああいう地域でそういうことがまさに今、動こうとしているのか、非常に先進的な例なのか、ああいうのはたくさんあるのか、エコツーリズムが全体の中でどれくらいのものかということを少し説明していただければと思うのですけれども。
 
○イ
 決して進んだ例というわけではないと思います。韓国におけるエコツーリズムは、これはショッピングリストのようなものだと思うのです。例えば5年後になったら、あるいは3年後になったら、韓国の国内旅行者も例えばこういった中からエコツーリズムを選ぶことができるということだと思います。複数の体験もあるかもしれませんが、例えば恐竜の足跡であるとか、いろいろありますが、選ぶことができるようになると思います。
 ただ、一つのロジックといたしまして強調したいのは、韓国におきましてのエコツーリズムというのはどんどん幅広くなっております。そして体験としても観光客が楽しむことができます。これが国内であったとしても、あるいは外国からの旅行客でも同じであります。昨年、新聞の記事を読んだのですけれども、韓国にやってくる日本の旅行者です。その男性は怒っていました。なぜならば韓国に10年前に来たことがあって、その時と全く同じなんです。10年前と今年と何も変わっていないということでその人は怒っていたわけです。韓国の観光が全然変わっていない。これでは韓国に2回来ても仕方ないじゃないかということです。
 同じようなところに行くと、ショッピングをしてジンセンを買ったりとか、宮殿に行ったりとか、いつも同じだと、ただ問題は外国から韓国にやってくる人たちの80%はソウルにしか行かないと、そしてソウルだけ訪れて、また帰ってしまうということですけれども、韓国はそれだけではないのです。ほかにもいろいろ魅力的な資源がありますし、また地方にもいいところがたくさんあるわけです。ですから、もっとエコツーリズムをプロモートすることで、またほかの体験をしてもらうことができれば、韓国の観光も空間的に広がりを見せてくると、外国の旅行者に韓国のいろいろなところを見てもらえると思いますし、また幅広い体験をしてもらえるというふうに考えています。
 もう一つの質問は何でしたか。
 
○西村
 ソウルに80%とおっしゃいましたが、日本だと東京は外国のお客様は60%ぐらいです。日本よりももっとソウルに集中してしまうということがあるわけですね。
 
○イ
 そうです。
 
○西村
 今度は、今日のエコツーリズムというのはどちらかというと、自然を中心にしたコミュニティーをベースにした話になると思うのですけれども、韓国にも日本と同様にさまざまな、もう少し文化的な、伝統的なバックグラウンドを持った資源というのはたくさんあると思います。そういうものをうまくツーリズムの中に生かしていくというようなことはやはり行われているのでしょうか。
 
○イ
 そうだと思います。それほど組織だってやっているわけではないと思うのですけれども、韓国では小規模な旅行代理店、小さな会社ですけれども、例えば1人で社長が切り盛りしているようなところです。1人、歯医者さんだったんですけれども、いつもは歯科医をしているのですけれども、ウィークエンドになりますと、小さなグループを組織いたしまして、いろいろ遠くに出掛けていくのです。グループの半分の人たちはメンバーとしては外国からやってくるバックパッカーの人たちです。すなわち若い人たちです。大学生とか、ほかにも若い人たちで外国人と友達になりたいという人たちがやってきます。そのグループなんですけれども、大変有名になりました。歯医者さんがやっているツアーというのが、今度はリモートエリアのところで紹介されたということ、それからこれは本当の韓国のライフスタイルが見れるということで有名になりました。ですから、ツアーに参加した人たち、エコツーリズムのツアーに参加した人たちがまた自分の国に戻って大変満足したということだったのです。
 ただ、ここでの問題は、韓国の旅行産業の構造というのがかなり大変有名な大きな旅行代理店に一極集中しているということでありまして、そういった大規模な旅行代理店というのは遠くには行かないわけです。すなわち儲からないからです。
 もう一つの問題は、まだインフラの問題があります。宿泊であるとか、あるいは食べ物など問題があります。ソウルメトロポリタンでは問題はないのですけれども、僻地に行きますと、かなり深刻な問題になります。基本的なインフラが整備されていないということで泊まるところも食べるものもないということが問題になることがあります。
 
○バルマ
 私のほうからも追加的にお話ししていいでしょうか。
 イ先生がおっしゃったことへの追加ということなんですが、韓国の観光業、過去20年ほど観察してきました。問題は、韓国の場合、ほとんど75%の外国人がやはり韓国に来る場合には、一つの点、すなわちソウルにのみ留まるということです。その結果、観光業全体が一つ固まってしまうと、都市のツーリズムということだけに絞られてしまうのです。例えば済州島ですが、非常にいいリゾート地です。また美しいビーチがあります。そこには400万人ぐらいの観光客が来ます。その中で7%が外国人であるという結果になってしまうのです。ただ、済州島は国際空港もありますし、またフライトのコネクションもいいです。接続もいいです。ソウルとの接続はいいのです。ただ、今まで意識的な努力がなかったと思います。中央政府のほうにしても、あるいは地方政府にしましても、自治体としても例えば済州島を一つの主要な観光地にしょうというマーケットでの展開がなかったと思うのです。それはやはり政策決定の問題でもありましょう。つまり韓国政府の問題であります。多様化しようということ、すなわち観光業で提供できるものをもっと広範にしょうと、そういう姿勢が必要ではないでしょうか。
 ただ、率直に言いまして、私は批判しようということではないのです。批判のために言っているのではないのです。個人的に見まして、韓国はまだ製品をうまく組織化していないということなんです。いろいろな製品開発、観光業の話ですけれども、イさんがお話になりましたように、非常に大きな旅行業者のみに限られています。ハンナラで大体そこが1,000万ぐらいのデパーチャーが司られているわけです。したがって、独占という状況でありましょう。したがって、需要の解釈、あるいはコーディネーションというのがリミットされているということです。
 ただ、今、政府のほうが意識をして多様化する、そしてまた広げようということで、さまざまな多様なものを盛り込んでいけばと思います。一つの強いオプションとして今、対応しつつあるのは、やはりエコツーリズムの開発ということではないでしょうか。その推進だと思います。小さな規模で市場に導入し、そしてまた特別な旅行業者がそこを司ったらどうでしょうか。そうすることによってこの製品を魅力あるものに育て上げることはできると思うのです。
 ポリシーがもうつくられました。そしてまた戦略がつくられました。ですからうまくいくようにということを祈っています。
 
○西村
 今日のオーストラリア、それから韓国、今日は来れませんでしたけれども、インドネシア、日本も含めて4国は大体海外からのインバウンドが同じぐらいなんです。大体400万人ぐらいで同じぐらいなんです。ところがやはりそれぞれ違った問題を抱えていて、違った戦略を持っているということが、その違いというのも今のお話でよくわかったような気がします。
 それでは、日本の話題に戻しまして、山本さんに少し伺いたいのですが、綾という町は20年ぐらいずっと地域の環境を守っていくようなことを続けてこられた。ある意味で言うと、グリーンツーリズムということですね。ところが、グリーンツーリズムという言葉がない頃からそういうことをやられていたというふうな理解でよろしいのでしょうか。
 
○山本
 今日、お話しをした中にございましたように、やはり9,000人もいた町の人口が約1,000人ぐらいが急激に減っていくというのは、それなりに何か原因があるわけですが、やはり山間部でございますので、約80%が山林、残り20%が耕作地であって住宅地という中では、なかなか所得的にいろいろな企業もないということで、流出される住民が大変多いということの危機感の中で何かやらなければいけないということから発想しております。
 ですから、40年代に入りまして、その頃の首長が大変照葉樹林という、水をつくり、いろいろな伝統工芸産業をつくってきた文化がこの照葉樹林から生まれてきているということから手づくり工芸を始めたと。ただ、手づくり工芸だけでは活性化がなかなか難しいということで、やはり自然の生態系を守るような農業を手掛けたいということで、積極的にその頃、あまり先見的にはなってなかった有機農業を実践してきたと。それについては全国から着目を浴びるようになって、お客様と見学に来たり、そういった方が増えてきたのですが、やはりそれだけではまだ活性化が足りないということの中で進めてきたのが私たちなんです。
 そういう背景の中で進めてきたものが、その頃はグリーンとか、ブルーとか、エコとか、そういうツーリズムが言葉としてなってなかった時代に既に始めていたということで、つい最近では20年前に先取りをしていたと、そういうことです。
 
○西村
 今日のお話の中で、「産業観光」という言葉が何度も出てきたわけですが、そこで言う産業というのは、今おっしゃった有機農業とか、木工、そういうものまで含めた伝統的な産業ということですか。
 
○山本
 そうです。ですから、手づくり工芸というのは、今は44ございます。いろいろな伝統工芸家の方です。それはもともと綾町にいらっしゃった方は18社ぐらいなんです。あとの方は町外とか、県外で、ぜひ綾町で自分の工芸を伸ばしたいということでお越しになりまして、それを町は手を広げてできるだけお越しいただいて、生活がなるように、いろいろな施策もとっていらっしゃいました。そういうことで、手づくり工芸も増えてきましたが、それは商工業的な産業です。それから、農業につきましては、有機農業ですから、それも一つの農業産業でございます。
 ただ、それだけではまだまだ産業観光としては町の活性化にちょっと足りないということで、自然と水ということの中で、酒造りはどうかということで、私どもの会社にお声が掛かったということになるわけです。それで「酒泉の杜」が現在あるということでございます。
 
○西村
 酒造りを含めて「酒泉の杜」のことを伺いたいのですけれども、規模としてかなり大きな規模にいろいろなものが広がってきますよね。そうすると、ある意味でその規模を維持するためにはある程度のお客さんが来ないといけないという意味では、先ほどの話で言いますと、メインストリームのツーリズムといいますか、ある程度ちゃんと確保しないとなかなかうまくいかないので、それを努力するというふうに、そこと具体的に今おっしゃったような地域の産業観光といいますか、どういうふうにバランスをとるのでしょうか。
 
○山本
 企業としてお話をさせていただきますと、小さな企業でございますが、どちらにしましても酒造りというのが一つの専門でございますから、その中で観光に手を出したわけで、それは町の姿勢というものが私どもオーナーにとりましては大変興味をそそったということと、我が社にとりましては水が命でございます。それについて大変いい酒ができるということからつくっていくわけです。
 ただ、焼酎が私どものメインでございますから、焼酎だけでございませんで、清酒も手掛けていきまして、日本では一番最南端の酒蔵と言われている清酒がございます。それと同時に、やはり地域に根ざした企業ということが一つの理念でございますから、綾町というところに進出してきたということは、もともと宮崎県内の企業ですから特別のあれはないのですけれども、地場のサツマイモ、トウキビ、コメ、ムギ、それから果実あたりにつきましても綾町を中心としまして宮崎県はかなり果実がたくさんなります。特にブドウは生食のブドウがありますし、原料には事欠かないことがあるわけです。それは私どもの技術で何とか産業として達成させて、そして観光に結びつけるということにつきましては、綾町は最適な場所であるということもあります。
 それから、何といいましても成功させなければいけませんので、施策としましては、やはり綾町という町の癖といいますか、環境や動きというものを十分理解しなければいけないということで勉強させていただきましたが、ここは有機農業とかクラフト、伝統工芸が大変盛んなものですから、どちらかというと男性が来る町ではないのです。女性が好まれる町ですから、女性が好まれるような施設づくりをしょうというのが一つのコンセプトにございます。
 それから、皆さんよくご存じのように、テーマパークも一つできますと、5年経つと新しいものが、またそれを超すものができるわけですから、だんだん大きくなってきまして、古いものはだんだん淘汰されていくというのがだんだん今の現状でありますし、まして第3セクターでやるとなかなか難しいというのがございます。
 そういったところも我々は勉強させていただきまして、一応中規模でつくって、第2次、第3次とつくっていこうと、その第2次、第3次につきましては、やはり地域に根ざしたものを使おうということになっておりましたから、まずそういったことをやりながら入場料を取らないで、不特定多数のお客様、どなたでも自由にお越しいただけるような仕組みをつくろうと。実はオープンしまして、お客様がどんどん来ますと欲が出まして、100万人来ますと、300円取りますと、はっきり言って3億円の売上が上がるわけでございますが、時々入場料を取ろうかなと思ったこともございます。ただ、我慢してやってきまして、ここにきまして大変テーマパーク厳しい状況ですが、入場料でお客様に大変負担がかかるというようなことから、不景気の中では我が社みたいなところに自由にお越しになるのが大変多うございまして、そういう中では入場を取らなくてよかったなとか、そういう施策も一部ございます。
 そういうことで、第2次計画あたりは当初の5年計画の中でできるのですが、やはり企業としては10年先を見ることというのは大変難しいのです。ただ、5年先を考えることはできます。特に観光としまして、宮崎県の観光に付随するもの、例えば高速道路のアクセスとか、大型施設のシーガイアがいつグランドオープンするとか、最初にちょっとだけつくって、あとはグランドオープンがいつ頃だとか、それから港が国際化になるとか、あるいはJALが宮崎空港に入ってきてトリプルトラッキンが始まるのは何年の何月頃かというのは情報で全部わかりますので、これを全部入れますと、5年間の中で我が社がするべきものは何だというのは大体わかるのです。
 それが当たるか、当たらないかは冒険でございますけれども、まず5年後ぐらいに第2次計画でワインと、それで勢いを出して2年後にビールということで、ワインについては地場のブドウを農家の方から買い取りをして、足りない分は宮崎県内の農家からお買い求めさせていただきましてやると。ビールにつきましてはいい水があるわけですから、あとは焼酎つくる技術があればビールは何ら難しくはないわけで、そういったことを2次、3次に計画する中で、はっきり言ってうちはうまくいったということだと思います。
 それには綾町のすばらしい考え方の背景がぴったし合っていたので、そういう面でいけば綾町としては私どもの資金力をうまく利用しているわけで、私どもとしては綾町のこの自然のすばらしいものを背景として企業として成り立たせているということ以外、そういったものも含めて何とかここまできました。
 
○西村
 行政がある程度グランドデザインを描いて背景を整えて、そこに企業がちゃんと利潤も上がりながら地域とうまく共生できるようなシステムをつくっていくという、両方のうまいバランスができているということでしょうか。
 
○山本
 最初はいろいろございまして、オープンした当初はやはり大変厳しいものでした。枝振りのいい木がいっぱいございますので、いつぶら下がろうかなと思ったこともございますし、よくなりましたら、よくなりましたで、また競争も大変厳しくなってきますので、今現在は第2番目の一番苦しい状況です。今は観光が大変厳しいですので。
 
○西村
 経済がこういう状況ですからね。
 大口さん、今日のプレゼンテーションでさまざまな取り組み、非常に幅広い取り組みをお聞きになって、これから先、そういう地域を後押しをしていく立場の国土交通省としてもいろいろなことをお考えになられるのではないかと思いますが、何かご感想があればお願いいたします。
 
○大口
 私が今日、たまたまお配りしている資料の後ろから2つ目に、21世紀初頭における観光振興方策についてというフローチャートがあるのですが、その中の観光の意義というのが左の下のところにございます。そこにいろいろ書いてございますが、ゆとりとうるおいのある生活に寄与とか、地域の歴史や文化を学ぶ機会を提供するとか、地域住民の誇りと生きがいの基盤の形成をするとか、地域活性化に寄与するとか、あるいは大きな経済効果があるとか、さらには国際相互理解の増進、国際平和に貢献とか、いろいろな効果があるわけです。
 それで、人それぞれが多様なように、実は地域の観光を求めるモチベーションというのでしょうか、その動機も、今、申し上げたような観光の意味のさまざまなところに軸足がどこかにあると思うのです。したがって、どんな町にも同じような処方箋が当てはまるというわけではなくて、それぞれの町がやはりそれぞれのいろいろなモチベーションに則って取り決めをなさっているのだろうと、こう思うのです。
 その時に問題は、観光というものは薬にもなるけれども、毒にもなるというところがありまして、今日のご議論を伺っていると、薬にもなる、毒にもなるというところがうまくバランスをとりながら、対応されてきているところが、ある意味では世に言ううまくいっている観光まちづくりの地域であると、こんなことなのかなと、私は感じました。
 それで、人間の社会というのは家庭もそうなんですが、母性と父性があります。前に西村先生にいろいろとお世話になった離島の問題も、結局は我々地域を見る時に、母親の見守りの視線と、父親の見破りの視線、これがうまくバランスがとれて初めて家庭も情緒的に安定した家庭になるように、社会というものもやはり見破りも必要だし、見守りも必要だというところがあると思うのです。
 それで、ツーリズムというのもある意味では見破りでどんどんいくという、例えばビジネスでどんどんいってしまうツーリズムもあるだろうし、それからエコツーリズムの徹底したようなところでは、逆に自然を守るんだという視点のものもあるだろうと。だから所詮人間がやることですから、そこのバランスというものが、バルマさんもおっしゃるように大変大事な部分だろうと、こう思うのです。
 その時に私は一言、今、私どもが進めている行政で、何が問題意識としてあるかというと、実は最後の最後は人が、先ほど私も申し上げたように、一生限りのある中で、本物に出会うということがものすごくその人の人生を豊かにしていくのだろうと思うのです。その本物に出会うというところが、母親の見守りの視線であろうが、父親の見破りの視線であろうが、そこは本物というのはあるのだろうと思うのです。どちらに軸足が偏っていようと、やはり本物に出会うということが大事だろうと。その時にIT化という時代に、今まで観光業という、観光をお商売になさるような、旅を演出する方々の役割以上に、個人が個人と、あるいは個人がグループといろいろなところで観光というか、ツアーを演出していく、そういうチャンスが一層高まってくる時代になってきているのではないかと、こう思うわけです。
 したがって、観光は嫌だと言う地域の方々も、多分1人で来られた外国人の方にはホスピタリティを示すのではないかと、私は思うのです。それこそがものすごく大事なこの21世紀に開かれるキーワードではなかろうかと思います。
 私どもが国土交通省になって、一つ大事なことは、やる気のある地域には幾らでも協力します。しかし、やる気のない地域についてはそれは我々としても何ら協力することもあえてしません。そういうメリハリのついた行政展開がこれからは出てくるのだろう。やる気というのは何かというと、ビジョン、アクション、パッション、この3つの要素がうまくかみ合っていることが大変大事ではなかろうかと。ビジョン、アクション、パッションというのは、「ゴッドファーザー」に出てきた主人公が言った言葉だと、私、記憶しているのですが、やはり人間何かをやる時に、ビジョンも必要だし、アクションも必要だし、パッシッンも必要です。やはりこれは最後はバランスの問題なのかなと、バルマさんの言葉に戻ろうかと思います。
 
○西村
 ありがとうございました。
 なかなかいいことをおっしゃいました。見破りの視線と見守りの視線を使用するのは本物だと、またビジョン、アクション、パッションが大事だということをおっしゃったわけであります。
 また、今までの行政はとにかく落ちこぼれをなくすということで、今のお話でありましたように、最低線に合わせた行政をやっていらっしゃったわけでありますけれども、今度からは、やるところには手を差し伸べるけれども、そうでないところはそうでないという、ある意味でファシリテートの役割をやっていくということであります。
 今日は壇上にいらっしゃらないですけれども、近江八幡市の深尾さんのプレゼンテーションでも観光というのは目的ではなかったと、最初にやった時にはそういう意識は全くなかったというふうにおっしゃったわけですし、実は八幡堀を守る運動の最先端に立っていたのが今の市長なんです。川端五兵衛さんで、JCの理事長をやられて、その後、「よみがえる近江八幡の会」の会長をやられていて、その頃は市と対立をきわめておりまして、なかなか市役所に入れないような状態の中で、本当に町が好きで頑張ってやられた。さまざまなことをやられて、感動的な本があるのです。「まちづくりはノーサイド」という、市長さんがまだ市長になる前に書かれた本がありまして、それを読むと大変感動的であります。例えば市は予算もつけて八幡堀を埋めようとするわけですけれども、それに対して反対署名をして、待ってもらうわけです。先ほどありましたけれども、埋めた時から後悔が始まる。堀の汚れは市民の心のリトマス試験紙だと、きれいにするんだと、でもヘドロがたまっているわけですから、ヘドロを固化して、当時の行政側はそれで昔からの石垣がもつかどうか、わからないというわけです。それを証明しろと、証明したら止めてやると言われた。JCで証明しろと言われてもそんな技術も何もないわけです。ヘドロをどういうふうに固化して、それをどぶさらえをした後の歴史的な石垣がちゃんともつということを構造的に証明しろと言う。ほとんどいじめみたいなものですね。
 しかし、彼らは地元の土建業者を集めて説明をして、契約金ゼロで技術的な提案書を書いてもらって、それでボランティアでやってもらったのです。それはみんな地域のため、自分たちもボランティアでやるし、地域に住んでいる企業は地域のために貢献すべきではないかと、彼が大演説をぶって、そういうことをやったわけです。そういう町本当に救っていくことをやった方が、今度は町を今は自分の手でつくっていく側に立っているという意味で、大変物語が近江八幡市には数多くあるのです。ご関心のある方はその著書を読まれると本当に感動すると思います。
 ということで、人間が大事で、こういう町を大好きになる人間がいなければもともと始まらないわけですから、そういうことがよくわかるわけであります。
 さて、ひとわたりお話を伺ったので、フロアからもしご質問があれば承りたいと思いますが、いかがでしょうか。
 
○フロア
 今、地域の方々が頑張る、町が大好きな人間が町を盛り上げるのだというお話、たくさんお伺いしたのですが、私が今、携わっているところでは、地域の中でも頑張って町をよくしようと言ってらっしゃる方もいるのですけれども、それは残念ながら一部でありまして、多くの方々がやってくれるんだったら見守ってあげるよぐらいの、イエスもノーも言ってくださらず、協力してくださらないという、そういう沈滞ムードというのがございます。一人でも多くの方々にまちづくりに本気でチャレンジしてもらうために、どのようなアドバイスなり、サポートをしていったらいいのか、何かヒントをいただけましたらと思います。
 
○西村
 パネリストの方でありますか。なかなか燃えない地域で、行政の立場としてはなかなかということですね。
 深尾さんがいらっしゃるから、深尾さんが同じ行政で、逆に民間がすごい頑張っているという意味では彼に答えてもらったらいいかと思いますが、いかがですか。
 
○深尾
 多くの方が協力はするけれども、サブのほうにいるということなんですが、どこの地域も多かれ少なかれ、ほとんどの方が知って知らぬ振りとか、協力するのはごく一部分の方であるというのは、どこの地域もほとんど一緒だと思うのですが、あとはそこに強力な中心となるパワーのある方がおられるか、おられないかで、その差が出てくるかと思うのです。私の地域についてはそういう大きなパワーを持っておられる方がいたというような好条件と、それからもともと近江商人の発祥地ということで、戦国の古い時代から、歴史的な経過は長くしゃべると時間がかかりますが、城下町だったのですが、すぐ安土城、安土桃山時代の信長の時代の時に、信長が失脚して、次にその商人が、近江八幡、隣の町ですが、私の町に商人が来て、そこでまた秀次という主が亡くなったということで、やはり今の時代に合わせてみますと、行政のほうに合わせたまちづくりをしていると、やはり毎年毎年ビジョンが変わるとか、上に立つ人が変わればまたまちづくりの方向性が変わるとか、そういうようなことで、やはりまちづくりというのは行政ではなくて住んでいる人、自分たちが中心となって、市民、住民が中心となった町を育てていかないと、いつも行政に任せた町というのはやはりすたれていくのではないかと思います。
 そういう昔から幸いにも当市につきましては、自分たちがいろいろ町をつくっていくという、そういうような精神が周りの市町村よりは高いものがありまして、先ほども寄付とかをやっていくのがかなり多いと言いましたが、そういうような自分たちの町を自分たちの責任としてつくっていくという、そういうような精神がありましたので、今でもそういうように何かやってやろうではないのですが、何か間違えた行政施策でもありますと、すぐに市民の方がピンとこられて、それに修正を加えていくということがあります。
 ですので、今年とか、来年とか、すぐにはその町に強力なリーダーシップを持った方が出現するかというと、そうでもないと思いますので、それは長い歴史の中でそういう方が育ってあげられていくかということで、まさしくその地域全体がそういうようないつも自分たちの町をよくしていくんだという長い歴史の中でそういう方が生まれてくるのかなと思っています。すぐに行政がそういうことを求めてもちょっと無理かなと思っております。以上です。
 
○西村
 同じ質問をオーストラリアの方に聞いてみましょうか。
 オーストラリアは先ほどのように非常に先進的なシステムをつくって実施されているわけですが、今のような悩みといいますか、問題というのはあるのでしょうか。住民があまり熱心でないというようなことと、ローカルリーダーみたいな人はどうやって生まれるかという問題はあるのでしょうか。
 
○モーガンズ
 まさにこれがいわゆる観光まちづくりと、コミュニティーベースの観光開発との違いだと思うのです。観光まちづくりといいますのは、まさに観光産業、既に観光産業にいる人々によって率いられるわけです。そしてローカルコミュニティーに対して行うというものでありますけれども、このような状況の中では実際に私が考えますに、問題が起こると思います。そしてローカルコミュニティーの人々があまり関心を持たないということもあるかもしれません。そして非常に少ない人たちだけが特に関心を持って、そういう人たちによって動かされるということがあります。保全であるとか、あるいはローカルな文化を示すということなんです。小さなグループに一人のリーダーがいたり、そうしたグループが強いリーダーシップを持って率いていくというような形があると思います。非常に情熱的であればロビーをする。政治家に対して陳情をする。そしてローカルでその政治家を動かしていくということなんです。政治家というのはもちろん再選の時にまた違う人が選ばれる可能性もあります。こういった形で政治的に影響を与えていくというのが少々の人々かもしれません。
 右側に私のプログラムの中に書いたのですけれども、ブリスベンの森林、そして下のところ、ウェットランドのところですけれども、この2つ、どちらを見ても結果はコミュニティーのプレッシャーによって行ったのです。このブッシュランドのところ、ブリスベンのところなんですけれども、この地域は森林伐採が非常に進みそうだったのです。しかしながらここでは少数の市民が陳情することによって、その結果、この地域には施設が少ないと、そして結果的にフォレストパークをつくろうということになったのです。政治家を動かしたわけです。そして政治家のほうもこれは政治的に利点があるのだということ、そして環境に対して焦点を当てていこうということで始まったわけです。
 これはまさにローカルな人々のための設立であって、20年後にはローカルだけが重要なわけではなく、環境資源としても使えるようになったわけです。これが一つの例なんです。ローカルで始めたのです。ローカルな政府を動かしたわけです。そしてこれをローカルな資源で保全して、そして示していくということになりました。
 そして今現在は観光資源となったということなんです。いろいろなプレゼンテーションを行いましたけれども、例えばコミュニティーがもっと環境、あるいは社会的にも行きやすいようにするということになると、自然に観光資源としても魅力的なものになるということなんです。これがウェットランドで10年前のものですけれども、ローカルコミュニティーがこういったウェットランド、湿地を保全したかったのです。そして政府に対して陳情したと、政府のほうもこれは価値のあるものであるということになりました。ローカルな人のためだけでなく、これがまさに観光資源となったわけです。
 もちろんリーダーも必要なんです。あるいはグループも必要でしょう。そしてそうしたものが政治的に影響力を与えていくというのは非常に必要なことだと思います。
 
○バルマ
 私自身もこの課題に関して少し違った意見があります。
 どうしてリーダーが必要なんでしょうか。我々に対して意識づけをするようなリーダーが必要なんでしょうか。私は個人的に考えますには、すべての市民が彼自身が、あるいは彼女自身がリーダーになるべきだと思うのです。そして自分たちのコミュニティーを守るために、あるいは改善していく上で、ライフスタイルを改善させていく上でのリーダーにならなければいけないと思います。
 ここでの問題ですけれども、まさに非常に大きな範囲でこの情報が欠如しているということが言えると思います。そして意識の欠如です。すなわちこのローカルコミュニティーに対して与えられる便益に対して、あるいは利点と不利な点に関しての情報が非常に欠如しているということなんです。
 ですから、ここでは地方自治体、NGO、あるいはプロフェショナルなアソシエーションなどが役割を果たすべきでしょう。政府が市民を意識づけすることはできないでしょう。彼らとしては市民に対して伝えること、すなわち情報を伝えることが必要だと思うのです。そして例えばこういった資源があればこういうものを得られる。正しくやればこのようになると、そしてこういったものも失うものであると、利点、不利な点を明確に伝えることが必要だと思います。
 私が考えますのは、正しい情報こそが与えられるべきだと思います。そうすれば正しい意識も生まれてくるのではないでしょうか。多くの市民が既にリーダーシップを持つ十分な資格があると思います。WTOにおりまして、我々は技術的な援助をします。そして草の根で、ローカルのレベルで、あるいは州のレベルで行っています。いつも我々といたしましては、コミュニティーの意識を高めるやり方というものを考えているわけです。こういったことは何を意味しているかを考えるのがコミュニティーだと思います。これがいいのか、これが悪いのかという情報を与えられて、それを選択するのがコミュニティーなんです。そしてどのように行うかを決めるのもコミュニティーだと思います。
 
○西村
 アカウンタブルであるということが非常に重要になってくるということでしょうか。
 ご質問があれば次の方、どうぞ。
 
○フロア
 ツーリズムとツアーの部分なんですけれども、今日ここで使われましたツーリズムというのは、ツアーとは旅行そのもののことで、私どもは使い慣れているわけなんですけれども、一方、ツーリズムというのはツアーという行為を核にしてつくられる社会の仕組みや考え方を示す概念というふうに、ここで理解していいのかなというふうに今ちょっと考えていたところなんです。
 それで、観光まちづくりはやはり地域づくりで、そのキーワードといいますか、キーポイントは人づくりなのかなと思っていまして、今、一人ひとりがイニシアチブをとってやるべきだということなんですけれども、その辺でぜひ、今年の初めですか、国土交通省のほうから21世紀の初頭における観光振興プランということで、答申があったわけですけれども、具体的なアクションプランの中で人材の育成といいますか、正しく情報を伝えていく人間の育成というものを取り入れていただけるものかなという、そういうふうなプランがあるのかなということをご質問したかったのです。
 
○大口
 今のご質問は先ほどお示しした、今日お配りしているフローチャートの中の観光産業の高度化、多様化というところで、「優秀な人材確保育成のための総合的取り組み」と、こうなっております。それで、現在、日本の国の中にいわゆる観光学部、あるいは観光学科と言われるものを持っている大学、あるいは短大、これがもう既に50を超えようとしています。そして私どもとしては、そうした大学、短大、あるいは専門学校、そうしたような教育機関と、それから旅館、あるいはホテル、それからさらには旅行会社、そうしたところをうまくコネクションを結びまして、いわゆる若い人たちが実学ということで、例えば大学に在学中に旅館とかホテルというようなところでまず研修を受けるとか、あるいはさらに広げて自治体でも例えば今日の近江八幡市の方がおられるような、そういうところで、あるいは綾町というようなところで学生が若い時にある意味ではそうしたビジョンみたいなものに直接触れるような、そういう機会を増やせないかなと思っております。
 現在、そうした人材育成のための予算というものを調査費で取っていまして、平成14年度、来年度の予算でもまさに大学、産業界、自治体、そうした産官学のトライアングルというのでしょうか、これを人材育成の中でうまく回していきたいと思っております。
 ただし、ここからが一つ、大きな課題として出てくると思うのですが、国が果たせる役割というのは、そういう仕組みをつくるところまでで、後、そうした人材はどういうところから引き合いがくるのか、あるいはどういうところにそういう方が就職していくのかを含めまして、それ以降については国というものがいわゆる「ゆりかごから墓場まで」ではないですけれども、すべて責任を持てる時代ではございません。逆に言うと何を言いたいかというと、本気になってやりたいという地域があるならば、逆にそうしたような人材をそうしたカリキュラムの中に乗せていく。あるいは私は乗せるだけではだめだと思うのです。やはりさっき近江八幡市の方が言ったように、既に我々のDNAの中に滔々と流れる先祖からのいろいろな思いとか、あるいは社会の考え方とか、いろいろなものがしみ込んでいて、そして矢も盾もいられずに、この町をよくしていこうと、本来そこにパッションがなければ私は幾ら人材育成のそういうカリキュラムを組んだとしても、最後の最後は俺が支えるのだという心意気というのは出てこないのではないかと、こう思うのです。
 私が今、申し上げているのは、全面的に否定もしていないし、肯定もしていない。ある意味では、私どもとしてはトライアングルで、産官学のようなところで人材育成のような回しができないかなという仕組みは考えたいと思っていますが、逆に最後の最後はやはり地域というものが、そこは我が身のこととして人を育てることが必要ではなかろうかと、こう思います。
 
○西村
 ありがとうございました。
 そろそろ時間がなくなってきたので、今度は山本さんから順番に一言、二言しか時間がありません。今日のまとめのような言葉で締めくくっていただきたいと思います。
 
○山本
 お話はいたしましたけれども、やはり私どものほうは観光ということで進めている施設でございますけれども、雲海酒造としましては、今現在進めておりますのは観光としてお客様をお招きして、サービスをして、綾町のこと、あるいは私どものほうをもっと知っていただいてお返しするということ以外に、たくさんの産物が綾町、それから県内で採れるわけですから、私どものほうとしましては、別に農事法人で農園会社もつくりまして、どうしても綾町で栽培しにくいいろいろなブドウとかがございますので、各国から苗木を取り寄せまして、試験栽培をして、宮崎でもどういつだ品種が生まれるかとか、そういう研究をしたり、ブドウ園をたくさんつくりまして、農園的な仕事もしております。農園のほうに牛も肉牛も何頭か飼っておりまして、私どものお酒のほうの飼料、餌をできたものを試験配合して、食べてもらって、その質を見ていくとか、そういった研究も進めております。ただ単に観光客が来ればいいということではなくて、やはり一つの町の伝統産業的な産物をそういったものからでも少しでも増やしていって、町の一つの活性化の中で役立てるようなものはないかということも模索しております。
 最後になりますが、一応県内の行政でもいろいろと厳しい3セクとかがございまして、実は日本の一番南の天然のスキー場というのがございまして、宮崎でもスキーができるのでございます。五ヶ瀬町というところがございます。ちょうど山間部の熊本に近いところですけれども、こちらも行政のほうが主体でやっておりましたスキー場があったのですが、なかなか難しいというところで、十数年やっていたところですが、3年前から私どものほうが入っていきまして、今、スキーのほうもやって、何とか活性化に役立てるような努力もしたいということで進めております。
 そういうようなことと、できるだけそういったことをやっていきながら、海外のお客様あたりも今、少しずつ来ておりますので、特に東南アジアにつきましてはもっと宣伝していきたいということであります。
 雲海は焼酎でございますので、ぜひ私どもの焼酎を飲んでいただければということで、宣伝を踏まえましてのことでございます。
 
○イ
 先ほど女性の方がおっしゃった無関心の問題ですけれども、それはやはり状況をよくあらわしていると思います。韓国におけるエコツーリズムについての態度はそうであります。すなわち地元の人たちはどうでもいいわけです。新しい製品とか、新しい体験に関心がないという同じ問題を抱えています。ここでの問題は、地元の住民というのは、これまでのやり方に慣れ親しんでいる、すなわちトップダウンの中央政府のほうから決めて、自分たちは従うだけというやり方に慣れすぎてしまっている。したがって、システムによって人々がそういうふうな態度になってしまった、すなわち最終的な観光開発についてそのような態度をとるようになってしまっているわけですけれども、しかし、またコミュニティーベースの観光づくりというのもあります。すなわち自分たちの近くにはほしくないということがありますが、カウマウにはカジノがあります。これまでのところ、幾つかカジノができています。12ぐらいあるのですけれども、しかしながら外国人しか入ることができない。ただ、一番新しいカジノにつきましては、韓国人も入ることができるということであります。こういった地元の人たちですけれども、カジノを受け入れるようになっているということで、結局政府に対してプッシュいたしまして、刺激いたしまして、このようなカジノをやってもよいと、地元の人が行ってもよいということで、規制を変えさせました。これまでは外国人だけだったものです。
 したがって、地元の住民というのは、観光としてもやはりベストソリューションであるということを考えています。すなわち観光まちづくりに関してです。先ほど言った済州島の例ですけれども、地元の住民の人たちというのは、やはり森林、それから農業に依存しております。依存している度合いはかなり高いです。ですから、観光がなければ彼らの生存が成り立たないということです。皮肉なことに済州島の例というのは高齢者ではないのですけれども、そこに住んでいる人の考え方ですが、観光業というのは恥の産業であるというふうにいっていまして、大変悲しいことなんですけれども、恥ずかしいと考えております。ですから、そのような住民の態度をマイナスからプラスに変えていかなくてはならないと思いますし、データを示して、地元の住民の人たちに情報を示して、観光業というのが大変重要な産業であると、私たちの生活にとって大事だということを示すべきだと思います。
 
○モーガンズ
 政府の代表といたしまして、観光の代表者といたしまして、政府の役割というのは3つあると思っています。
 役割の1つはコミュニティーの教育を促進することをチャンスであるとか、観光の危機について知らせるということであります。バルマさんがおっしゃったこと、すなわち情報が欠けているということであります。ちゃんとその観光がほしいかどうかを判断するための情報が必要だということです。
 2番目は、コミュニティーを助けて、政府は能力を高めることが必要であるということであります。すなわち平等に政府と産業と一緒に参加してコミュニティーが観光の意思決定とマネジメントがすることができるようなキャパシティーを高めるということ、それからまた資金を提供するという役割もあると思います。
 すなわちインフラの整備であるとか、プログラムであるとか、そういった資金を提供することによってコミュニティーが参加することができるような支援をしていくことが大事であります。
 
○バルマ
 好むと好まざるにかからず、観光ベース、あるいは観光によってのまちづくり、観光まちづくりというのは、これは必ず今日やらなければならないこと、そしてこれは定着するものであります。もちろんこれについては意見の相違はあるかもしれません。しかしこれは必ず起こることであります。地域社会というのは基本的な役割を果たすものであります。そして地域社会というのは、経済的、社会的、そして環境の持続性というものを観光業の中で維持していかなければなりません。これを地域社会の中で維持していかなくてはならないと考えております。
 確かに私たちはこのような開発というのは小規模だというふうに考えています。そして大変地域社会に特化したもの、狭いところに特化したもの、そして感受性の高いものだと考えております。そして観光というのはプラスとマイナスのインパクトが地域社会に対してもたらされるものであります。
 したがって、ここで一番重要な点というのは、これをやっていくということ、包括的にやるということです。包括的に長期的な計画を立ててやるということです。包括的かつ長期的な計画を立てるということ、それからまた地元の人たちと十分にコンサルテーションを行うということ、そして地元の地域社会というのが一番重要な意思決定者であるということであります。
 でも、それだけでは十分でありません。どのような計画、開発、プロセスであったとしても、効果的なレビューがなければ、それからモニターのためのメカニズムがなければ全然プロセスとしては成り立たないわけです。
 したがって、何らかのもともとその中に定期的にレビューする、モニターするような仕組みを組み込んでおかなければならない。すべての活動についてモニターの仕組みを組み込んでおかなくてはならないということです。
 先ほども言いましたけれども、このような定期的なモニタリングのプロセスというのは、できるだけ単純なものにするということ、簡単な形でできるようにするということ、そしてまた実行するのも簡単なものでなくてはなりません。
 WTOを代表いたしまして、私たちのほうからその代表団の皆様方に申し上げたいと思います。
 このようなたくさんの代表者の方々がそれぞれの地域の社会を代表してお話しをされました。いろいろなリサーチをこの点についてなされてまいりました。それからまた多くの地域社会をいろいろな国で、世界で助けてきた経験に基づいて私のほうから申し上げたいのは、何か技術援助が必要な場合、WTOの援助が必要な場合には、こちらにAPTECの大阪事務所があります。ぜひこちらのほうにおっしゃってください。そして私たちもWTOのほうから技術援助をすることを惜しみません。もし何か必要であればAPTECのほうにぜひおっしゃっていただければ、お願いいたします。
 
○大口
 もう既に言い尽くされているような気がするのですけれども、結局私ども行政もこれからは惰性で物事を処理していくというようなことは一切ないように、常に戒めながら生きる時代だと思っています。
 そんなことからは創造性というのでしょうか、まさにいろいろな方から刺激を受け、いろいろな土地から刺激を受け、それからバルマさんをはじめとする国際機関、あるいは外国のそういう要職にある方々を含めまして、いろいろな方とこういう議論を通しながら、刺激を受けながら、私どもの政府というものもチャレンジしていく必要があると思っています。
 そんなことから、もし今日ご出席の方々の中でいろいろなご疑問がございましたら、APTEC、あるいは私ども国土交通省のほうにお問い合わせいただければ何なりとお答えさせていただきたいと思っています。
 
○西村
 どうもありがとうございました。
 時間が来ましたけれども、今日1日朝からおつきあいいただきまして、ありがとうございました。
 観光まちづくりということの全容がかなりいろいろな方面から明らかになってきたのではないかと思います。
 ただ、これは終わりではなくて、こういう新しいものの考え方の始まりですので、これからさまざまな地域で、さまざまな実践を通して観光の側からも、まちづくりの側からも、新しい魅力的な地域をつくることを実践していく中でこの成果というのは見えてくるのではないかと思いますので、これから先はまたこういう議論を繰り返す中で、新しい魅力的な地域を我々共々つくっていきたいと思います。
 今日は長時間、おつきあいくださいまして、ありがとうございました。
 また、通訳の方も大変見事な通訳を長時間ありがとうございました。
 これで終わりにしたいと思います。
 
○バルマ
 西村先生、正式にこのセミナーを閉じられる前に、すべてのパネリストを代表いたしまして、先生にお礼を申し上げたいと思います。
 西村先生、一生懸命準備をしてくださって、そして基調講演をしてくださいました。大変集中的なリサーチをこのトピックについてされました。そしてまた効果的に効率よくこのパネルディスカッションを進めてくださいました。
 すべての参加者も西村先生のほうに拍手をお願いいたします。感謝の意を表明したいと思います。
 
○西村
 通訳の方がまた一つ仕事をしてしまいました。
 それでは、これで終わりにしたいと思います。
 どうもありがとうございました。








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