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基調講演 「観光まちづくり」
世界観光機関(WTO) アジア太平洋地域代表
ハッシュ・バルマ
 
 皆さん、こんにちは。
 私にとりまして、日本へまた来ることができ、うれしく思っております。そしてまた大阪に来ることができたことをうれしく思っております。日本の中でも私の古里だと考えているのが大阪であるからです。
 それからまた、WTOを代表いたしまして、この大事なセミナーに来れたことをうれしく思っております。理由は2つあります。
 まず、このセミナーは、現在、グローバルな観光に関して、その変化するグローバルなツーリズムに関して関連性があるということ、WTOに関連するだけではなくてということであります。
 また、このセミナーがAPTECによって組織されていること、APTECとWTOは緊密な、そして強い絆を築いてまいりました。APTECというのはWTOにとって最も強力なコーポレーターであります。そして私どもの地域オフィスと協力をしております。WTOはそれを大変感謝しておりますし、また、APTECとの間ですばらしい環境を築けたことを光栄に思っております。協力と相互利益と、そして何にも増して友情に基づいた組織であります。
 私のプレゼンテーションを始める前に、この機会をいただきまして、日本がいかに重要であるか、そしてまた特に関西の地域がいかに重要であるかということを強調したいと思います。WTOにとって地域としても大変重要なところであります。アジア太平洋地域というのは、グローバルな観光に関しての牽引力となっております。
 北東アジアというのは、アジア太平洋地域におきましても、観光開発の分野では最も成功している地域であります。しかしながら、WTOは特に北東アジアを重点地域として開発をしております。観光開発をしておりますが、日本というのが唯一、WTOの中でもこのような地域オフィスを構えていることでも示されております。このオフィスというのは、大変強い立場でいろいろなこの地域におきましての環境の現状についての評価を行うことによりまして、WTOがその結果として技術援助の重点課題を知ることができるようにということでやっております。
 95年の6月に開設されまして、第6回目の記念日をお祝いしたばかりであります。このオフィスは、日本国政府よりの寛大なる支援をいただきまして、それからまた地方自治体、民間部門のサポートを得て運営されております。そして設立以来、このオフィスの活動といたしましては、特に重点的に幅広い活動をやってまいりました。人材開発、そして自然・文化遺産、そしてまたシルクロード観光商品のプロモーション、開発などをこの地域で行ってまいりました。
 ご列席の皆様、観光の世界というのはさまざまな多様性に満ちておりますが、変化を起こしております。そして急速な変化を遂げております。情報通信技術がこの産業の変容の源となっております。自由化とグローバル化というのがどんどんと力を増してまいりました。そして新しいこれまでになかったプレーヤーがあらわれております。そして新しいバランスが生まれてきました。そして新しい形が生まれつつあります。民営化、官民のパートナーシップ、そして地方分権化といったものが地方政府に対して、そしてまた地方自治体に力を与えておりますし、また、地域の社会が大きな力を持つようになっております。そして現代の観光産業の中でも最も重要な役割を果たすようになってきております。
 このような状況のもとで、政府だけですべてできるというような幻想はありません。そしてこのような経済社会だとか、市民社会というのは、政府だけでできるわけではありません。特に観光の分野ではそうであります。すなわちパートナーというのが大変力強く、また多様化しております。そしてまた責任も分散しているからであります。
 そして、基本的にはこれまで中央政府が観光をやっておりました。そして民間部門というのは、その中でNGOとの関わりであるとか、あるいは地域の当局であるとか、あるいは地域社会であるとか、その他いろいろな専門機関との関係を持ってやってまいりました。
 WTOにおきましては、国レベルにおきましても、新しいワーキングパートナーシップの関係、すなわち業界団体と、それからまた企業と組合、大学、NGO、地方自治体、行政、そして地方社会、それからまた中央連邦政府との関係というのが私たちにとっても避けることのできない責任として浮上してまいりました。
 確かに観光というのは経済活動だというふうに考えられている。しかしながら、基本的には民間部門がこれを支えております。伝統的に観光開発というのは2つのパートナーがやってまいりました。中央政府と民間部門が力を果たしてきたわけであります。このスライドに書いてあるとおりであります。そして中央政府というのが主要な役割を果たし、そして観光の開発とプロモーションをやっております。特にまだ観光業が生まれたばかりの国で、政府のサポートというのは、こういった産業を立ち上げるにあたっては、不可欠のものであります。それからまた、国の中でかなり開発が進んでいるようなところにおいては、やはり政府の関わりはずっと少なくてすむということであります。観光産業へのサポートも少なくてすむようになっております。
 しかしながら、持続的に観光を開発するためには、やはり適切な枠組みが必要であります。物理的規制、そして財政、社会環境面での枠組みが必要であるということは否めません。これは本当に必要なものであります。そしてこれができるのは政府がいてからこそであります。それからまた基本的なインフラというのが観光業には必要であります。道路、上水道、電気、通信、空港、こういったものは政府が提供するものでありまして、また法的な枠組みをこのようなセクターに対して提供するのも政府であります。
 そして、観光業が成長し、経済的にも社会的にもこれまで30年間、重要性を増してまいりました。そして商業的な価値も急速に高まっております。民間部門というのはますますビジネスチャンスに関心を寄せるようになっております。観光部門というのはチャンスの源であります。その結果として、ホテルやリゾートの開発がブームを迎えました。それからまた旅行代理店であるとか、ツアーオペレーターが急速に拡大しております。
 このような巨大な多国籍企業だけではなくて、この部門では中小企業も成長してまいりました。そして観光客に対してのサービスであるとか、設備であるとか、こういったものをローカルなレベルで提供していく役割を果たすようになってまいりました。
 現代の観光開発というのは、大きく様変わりしております。先ほど申しましたように、ますます地方分権の傾向があります。すなわちこのような環境の中で中央政府というのは直接この業界をコントロールしなくなってきているということであります。そのかわりに地域であるとか、地方自治体がコントロールするようになっております。現在の段階ですが、ますます多くの政府がこのような観光業における直接運営であるとか、管理の役割を再考しようとしていると思います。これは西欧社会のみならず、幾つかの中央政府というのは、自由放任的なアプローチを開発であるとか、観光業のプロモーションに対して向けるようになっております。これまでは直接投資をしていたわけですけれども、そうではなくて、政府というのはこのような民間部門の投資を促進したり、あるいは刺激したりするということで、財政金融政策であるとか、優遇策をとるように変わってまいりました。
 多くの国におきまして、政府というのは投資を引き上げております。あるいはそのような観光業からの投資の引き上げの段階にあるということであります。これまで観光業の計画であるとか、サービスに直接関心を持っておりましたが、それが変わってきております。それからまた、この業界の法規制については、基本的な消費者保護、それから国家の遺産であるとか、環境保護などについては残っておりますが、それ以外はなくなってまいりました。そして政府はだんだんとこのような役割が減じてきているということで、その結果として民間部門の責任が重くなっております。何にもまして地方自治体に対しての権限の委譲が行われております。したがって、地方社会などについてもそのような権限が委譲されているということです。このような考え方ですが、地方自治体、地方社会こそ草の根レベルになるということ、したがって、もっと観光の開発におきまして、その全体の中で計画であるとか開発など、プロセスで重要な役割を果たすべきだという考え方がその根底にあるわけです。
 それでは、簡単に統計数字を見てみたいと思います。これをご覧いただきますと、いかに観光産業が重要であるか、そしてどれぐらいのインパクトがあるかを理解していただけると思います。2000年、6億9,800万の国際的な観光客が全世界的におりました。そして米ドルで4,760億ドルの収益を上げております。したがって、世界の中でも観光業というのは最大の、しかも急速に成長する産業であります。これはITよりも、石油に比べても、それからまた自動車に比べても、テレコミュニケーションと比べても急速に拡大する巨大な産業となっております。
 その結果といたしまして、観光業というのは、ミレニアムの時には最もダイナミックな産業となりました。したがいまして、お互い多くの国が観光業こそ重要な産業だと見ております。社会的、経済的な成長のためにも、また貧困撲滅のためにも観光業が重要だと考えている国が増えているのも当然であります。
 東アジアと太平洋地域でありますが、世界の中でも3番目に人々が訪れる地域となっております。1億1,200万人が到着数であります。WTOでありますが、これからの数年間の間にこの地域というのはアメリカを超えるだろう、そしてまたヨーロッパに次ぐ第2番目に重要な地域となるだろうというふうに考えております。
 この地域には最も幅広いさまざまな天然資源、あるいは文化資源があるということであります。すばらしい山、それからエキゾチックなビーチ、砂漠、そして建築、宗教、文化的な価値を持っているさまざまな遺産があります。フォークロア、工芸品、そしておいしい食事、こういったものが東アジア、そして太平洋地域が人々を引きつけてやまない原因であります。そしてこのような市場のすべてのマーケット、あるいはセグメントに人々がやってきます。
 これが今日の状況でありますが、それでは将来に目を転じてみたいと思います。
 疑いもなく観光業というのは、グローバルなインターラクションの時代に入ってきている。急速な展開をしております。そして急速にこのような観光業が拡大するということで、国際的な到着数も2020年までには16億のレベルを超えるだろうと予測されております。この巨大な数字でありますが、その結果として観光業への期待も高まっております。これまで以上に高まっております。この部分がいろいろな国の経済に対して貢献をしている、それからまた貢献も大きいですし、また雇用も創出している。それから地域の開発を促進しております。それからまた相当私たちの社会のグローバリゼーションを進めているのが観光業でありますし、また経済的な貢献も大きなものであります。
 言うまでもなく観光業が生き延び、そして成功していくということのためには、持続的な開発が必要であるということは否めません。そして開発というのは社会によって、経済によって、環境によって維持されるものであります。それがあって初めて持続的にできるということであります。
 観光業というのは基本的に社会や経済や国家の環境に対して大きな影響力を持っております。社会的に見ますと、一番直近のベネフィットといいますと、観光業があることで雇用が創出されるということであります。観光業の場合にはさらにこれは熟練、そして非熟練の雇用の両方を促進することができるという利点があります。そして労働集約的な観光業であるということで、投資の額、一定金額単位当たりの雇用創出の数が多いということであります。それからまた女性であるとか、少数民族に対しての雇用を提供することもできます。それからまたインフラの開発であるとか、地元の人たちに対して社会的な設備を提供することができるわけです。
 環境的には観光業というのは地域の環境を改善するためのリーダーであります。その理由でありますが、まず観光客というのはよい環境を楽しみたいと考えております。そしてマネージャーというのがますます環境の専門知識を持つようになっております。そしてそういった人たちが環境の改善のリーダーシップをとっているからであります。そして適切に開発し、マネジメントすることによって、観光業というのは自然環境を学ぶことができます。それからまた歴史、考古的、宗教的なモニュメントを保護することができますし、また地域の文化、フォークロア、伝統、アート、クラフト、そして料理などを刺激することができるわけです。
 次に経済的にでありますが、観光業によって中央政府、地方自治体、それから民間部門に対してのベネフィットをもたらします。そしてこの産業のマネジメントをうまくやることによりまして、需給関係のバランスを維持することによって、金融的なリターンというのも大変高くなります。政府は直接税収入を得ることができますし、またそういった税収入をさらなる社会開発に使うことができます。教育であるとか、医療設備であるとか、その他、コミュニティーのサービスのために投資を還元することができるわけです。それからまた、ほかの経済活動も拡大いたします。農業であるとか、漁業、製造業、それから工芸品の生産などを刺激することが可能であります。
 しかしながら、先ほども言いましたが、観光業が成功するかどうかというのは、持続可能性にかかっております。今日私たちが観光開発のことを話す時に、持続的な観光開発のことを語らずにすませることはできません。持続的な観光開発というのは、現在のツーリストのニーズに応える。またホスト地域のニーズに応える。しかしながら一方で、将来のチャンスを保護し、また拡大するものでなくてはならないということであります。すべての資源については、経済的にも社会的にも、また美的なニーズに応える形で管理しなければならない。そして文化的な完全性、基本的な生態学的なプロセスを守り、生物多様性を守り、また生命を維持するための体系を守っていかなければならないわけです。
 このような社会的、経済的環境のことを考えますと、観光の計画を立てる時には、現代のツーリズムのプランニングというのは、これまでは観光業中心だったものが、より地域社会中心になっていかなければならないと考えます。すなわち観光業というのは皆さんご存じのとおり人の産業であります。観光活動におきましては人が中心であります。すなわち人が市場をつくります。そしてほかの人たちからのサービスを求めます。そして社会的、文化的、経済的なさまざまなやり取りが人の間で行われるということでありまして、だからこそ観光というは重要な活動であります。
 したがって、これまでの観光計画をこれから地域社会に向けていくことで観光業というのは地元の人たちのものになるということで、産業の持ち物ではなくなります。そしてまた投資も地元社会のものであって、そしてまた天然資源であるとか、文化、アトラクションだけではないということであります。地域の人たちというのは計画の段階だけではなくて、このような観光開発を自分たちの社会の中でオーナーシップを持っていくということが重要になってくるでしょう。
 先ほど言いましたように、さまざまな政府がこれまで観光業というものを単に社会的、経済的な開発の産業というだけではなくて、このような産業の開発というのをそれぞれの州レベル、あるいは地域レベル、あるいは地方自治体のレベルヘと権限を委譲しております。このようなコンテクストの中で、政府というのはこのような観光まちづくりというのは非常に重要なものであって、また地元社会、地域社会に対して自立を促すものと考えているわけです。
 したがって、観光業の経済的なベネフィットというのは、草の根レベルに伝えられるということでありまして、そこで相乗効果が得られます。コミュニティーに対しての影響があります。すなわちコミュニティーを促進し、また地域によって保有されている小さな零細企業から中小企業など、このような観光部門に対しての財やサービスを提供する産業を活発にすることができます。
 観光業というのは、資本開発のためのエンジンであります。それからよきガバナンスの基本精神を与えてくれるものであります。参加、そして透明性、エクイティー、そして説明責任といった、こういったものの基礎を成すものでありまして、これは地元レベル、あるいは州レベルで達成されていくものと考えております。
 さて、地元の社会というのは、このような観光業の持続性を守るにあたって大変根本的な役割を果たすわけであります。そして観光業というのは、プラスとマイナスの両面が日常生活の中で出てまいります。地域社会こそ観光客と直接対面するものであります。地域社会こそ自分たちのアトラクションについて直接の知識を持っております。そして地域社会こそが観光客に対して直接サービスを提供するものです。したがって、ツーリストのニーズについてもよくわかっているのが地元の人たちであります。そして地域社会というのがその環境、あるいは社会的な対応能力の評価をすることが最も得意であります。ですから、どのような観光開発のプロセスであったとしても、やはり地域社会の役割を忘れてはいけません。すなわち単に観光業志向型の傾向であるとか、あるいは開発だけを考えてはいけないということであります。
 観光まちづくりというのは、基本的には小規模、そして大変局地化した、地域化した、そしてまた大変感受性に富んだ開発でなければならないと考えております。このようなデスティネーションとして成功し、また持続可能性を高めていくためには、例えば5年間、10年間ぐらいを考えた場合であります。これくらいの時間が必要であるということはヨーロッパの体験からもわかっています。コミュニティーがもし非現実的なターゲットを掲げますと、成功することはできません。ゆっくりと着実に達成可能な段階を分けての活動をしていくことで成功をおさめることができるでしょう。そして地域社会はさまざまな観光政策について開発をし、実践し、そしてモニターすることができるということであります。これを長期間にわたって行うことによりまして、そしてその観光業に対して注目をしていくということであります。協力とパートナーシップというのが官民の間で大変重要であります。毎日の観光業の管理については官民のパートナーシップというのが不可欠と考えております。
 皆さんご存じのように、観光というのはもちろんプラスのベネフィットとマイナスの問題点も出てくるということであります。計画をしっかりとし、開発をし、マネジメントをちゃんとすることで観光業によって地元には雇用と所得がもたらされます。それからまた地元の起業家の人たちも中小企業などを設立することができ、また地元の文化や伝統などを刺激することができます。
 こういった理由はすべて直接地域社会、地元に住んでいる人たちの生活水準を上げることに貢献いたします。例えば経済の落ち込んでいるところですと、観光業によってもたらされる雇用というのが恐らく若い人たちの人口流出を押さえることができるということであります。そして観光業で働いている人たちというのは、新しい技術やテクノロジー、情報技術などを学ぶことができます。そうしますと、地元の人材を育成することにつながります。このようなスキルやテクノロジーというのは、ほかの経済活動に対しても転化していくことができるものであります。
 次に、観光業からの税収入でありますが、これを使いまして地域社会の設備やサービスのスタンダードを上げることができます。また観光業のインフラを高めることができます。そしてまた後ろ向きのリンケージを通じまして、観光業というのはほかの経済活動、例えば農業であるとか、漁業であるとか、製造業、アート、そして工芸品などを刺激していくことができます。それからまた地元の天然、あるいは文化資源を保全することの理由を与えるものでありますし、また環境の質を高めることができる。すなわち観光客というのはそれを求めてやって来るからであります。
 観光開発というのは、地元の観光関係の会社の設立を刺激するものでありまして、そして地元における資本の投資であるとか、あるいは雇用の創出、それからいろいろな企業が得られます所得でありますとか、あるいは利潤、それからまたこれまでなかったようなこの地域においての起業家精神を育てることにもなるでしょう。そして観光業によりまして、新しい小売業、レクリエーション、文化的な設備を改善することができます。例えば専門店であるとか、ショッピング地域であるとか、公園であるとか、文化的なセンターであるとか、劇場であるとか、こういったものは地元の人たちと観光客とが共有することができます。それからまた観光業によって文化施設など、地域社会だけでは形成することができないものに対してのお金を得ることができます。
 観光まちづくりを成功させるためには、地元の人たちが完全にコミットメントしてイニシアチブを取ることが必要です。それから意識を高めることが大事であります。このような持続可能な観光開発からどのようなベネフィットが得られるのか、説得しなければなりません。例えば公開で会議を開くことによりまして、この意見を述べたり、あるいはいろいろな心配点、関心などを述べることができます。それからまたメディアを招くことによりまして、このような意識をさらに幅広く知らしめることができます。NGO、地元、あるいは国家の政府機関など、それからいろいろなセクターなどを招くことができます。そしてより統合化されたプロセスを達成することができるでありましょう。
 もし計画をちゃんとしないと、バラ色ではありません。いろいろな問題が観光から出てきます。例えば天然資源であるとか、文化資源などがコントロールされないと、どんどんと劣化してしまいます。商業化も過剰になりますと、文化的な遺産が壊れていきます。それからまた経済的なベネフィットもなくなってしまう。すなわち経済的な流出が起こるからでありまして、やはり地域社会がすべての開発のプロセスに関わっていかなくてはなりません。
 この意味で重要なのは、その地域住民が意識をするということです。もしかしたらマイナスの影響があるかもしれない、環境が阻害されるかもしれないということもよく考えて、そして観光開発の意思決定をするということなんです。また、もし何らかの阻害があるならば、どの程度まで阻害されるかも把握する必要があります。
 また、観光業で働く人たちでありますが、地域の人がそこに参加しないということになりますと、経済的な便益は失われてしまいます。すなわち賃金はその地域から外に出ていってしまうからです。同じように輸入の量がどれくらいかということ、ローカルな製品がどれくらい使われるかということも重要なわけです。その地域社会に対する収入に漏れがないようにするということも重要だと思います。やはり総合的な実行計画というものがなければなりません。そして効率的、効果的な管理運営ということなんです。モニタリングも重要です。それによって便益が最大化され、マイナスの面は最小化するようにということです。
 しかし、我々がよく理解していますように、トレードオフはどうしても起こるということです。地域社会がどのような便益を最大化できるのであろうか、どういうふうな問題がコントロール可能かということを見るということ、そしてその間のトレードオフを受け入れるという形で意思決定がされなければいけないということです。
 WTOにおきましては、その地域の受け入れ側ということが重要だと思います。すなわち仲介者となって訪れる人と、そしてまたその地域の産業界との間を結ぶということになります。すなわち観光まちづくりといいますのは、新しい千年紀の非常に必然的な事項ということになりましょう。
 観光まちづくりでありますが、主には非常に大きな変化があるということの反映でもあります。それは最近の地域社会の変化ということにつながっています。新しいさまざまな変化があります。つまり活動が多様化してきました。そして人々の意思、あるいは望みといったものも地域社会の中で変化しているでしょう。それもやはり一つの重要な点でありまして、長期の社会、経済的便益のためには地域住民の参加が必要であります。そしてまたその地域の観光資源をより魅力あるものにするという意味でも重要だと思うのです。
 観光まちづくりでありますが、いろいろな便益を呼ぶということは確かです。
 まず第1に強調したいのは、このようなまちづくりによって、そのコミュニティーに一体感が生じるということです。お互いに共通の目指すものがあるということ、それがありますと、人々に一つの方向性が生まれるでしょう。そしてまた誇りの気持ちも育ててくれます。そのコミュニティーにあるいろいろな資源に対する誇りの気持ちです。そして特に老人、高齢者を見てみますと、知識とか経験を観光客と分かち合うことができる。それによって非常に自己満足が高まる、自分に対する誇りの気持ちが生まれるということです。特に若い人にあってもそうでありまして、自分たちが持っているんだという意識、すなわちその自然の文化的遺産は自分たちのものなんだという意識が高まるでしょう。
 観光業によりまして、直接的にその地域の開発に対して拍車がかかります。例えばバリを考えてみましょう。非常にいい例だと思います。バリが観光地として発達する前はいろいろな宝が確かにあったのです。美しいビーチ、そして寺院、アート、クラフト、手工芸品です。ただ、誰もあまり気がついていなかった。しかし、その島のほとんどの人たちが直接的、あるいは間接的に観光業に携わるようになっています。中小企業も巻き込んでということです。ツアーガイドも入ってくるでしょう。
 計画ですが、観光まちづくりを考える時に、観光をやはり統合的なシステムとしてとらえなければいけません。社会、経済的な一つの部門としてのとらえ方です。その地域社会のあらゆる部分がその観光開発を考えるのか、そしてまた既存の観光業を拡大させるという形で考えるのか、その意味でもやはり資源の慎重なる評価が不可欠であります。
 例えば開発、あるいは拡大という形で観光を進めますと、それがどういうふうな影響を持つのであろうか、そしてまたどのようなタイプの観光であるならば一番ふさわしいのか、そうした評価が必要だということです。いろいろな要因が絡みます。例えば自然環境に即したものを重視するような、そうした活動がありましょう。アドベンチャーツアー、あるいは特別なものです。また経済、そして環境に特に重点を置いた活動もあると思います。そしてまた文化的なものに視点を当てたもの、そしてまた都市環境、例えばスポーツであるとか、ナイトクラブ、シアター、美術館などが中心になる、あるいは会議が中心になるような、そうした観光促進もあると思います。健康関係、あるいは温泉、あるいは山地、そしてまた砂漠でのそうした健康法といったものをうたいあげる、そうしたものもあると思います。あるいは宗教が重要になるということもありましょう。聖地への巡礼を行う、あるいは祖先の地を訪れるということです。その意味でもやはり環境的な質ということを考えなくてはいけません。衛生的で安全であるということ、また既存の施設がどういうものであるのか、本当に力のある、技量のある、そうした産業が存在するのか、またどのような市場が存在するであろうか、どのような観光客を誘致したいのか、何を、あるいはどれぐらいを、そしてまたクオリティーを本当に届けることができるのか。質ということですが、知識という面でもありましょう。そしてまた1人当たりの支出としてはどれくらい賄えるのか、また、そのローカルな地域にあるさまざまな文化度はどうであるのかといったこと、それらをすべて把握しての評価になります。そして最終的には計画がまとまっていくでしょう。方向がそこで決まるということです。将来の開発の方向が決まっていくと思います。まちづくりの計画です。
 そして、評価が決まりました。その地域社会は判断をすることが可能になります。どの程度までの観光促進が必要であろうかということ、そしてそれはまちづくりという中の一環として包括的なプランの中に組み込まれるということです。
 今まで幾つかお話ししましたが、4つの主要な要因があると思います。それをここで少し申し上げましょう。
 まず、観光まちづくりですが、バランスとハーモニーということだと思います。まちづくりであるならば、それが欠かすことのできないキーファクターだと思います。よいバランスがあるということです。つまり受け入れ側と観光客として来る人たちの間のバランスです。場合によってはその両者の間の要件が違うかもしれません。結果にそれがつながってくるということです。通常、従来型の観光でありますが、数ということを重視しました。そしてまたどれくらいの資源を使うかということ、あるいは入ってくるかということが必ずしもその地域の利害には合わなかったということもあるわけです。
 それと同時に、これはやはり事業でありますので、観光客のニーズも満たさなくてはいけません。したがって、来る側と、そしてまた受け入れ側との感のハーモニーというものが非常に重要だと思うのです。
 ただ、それと同時に見失ってはいけないのは、個々の村落、あるいは地域社会ですが、大体は小さなユニットである場合が多いということです。ということになりますと、クリティカルマスが得にくい。例えば宿泊施設にしましても、いろいろな観光の内容についてもそうだと思います。あるいは資金、マーケティングといったことも十分ではない。それがやはり持続可能な観光ができるかどうかということになると思います。ユニークな特徴はやはりそれぞれの共同体を失ってはいけないと思います。
 そしてまたそれと同時に、行政区、あるいは地域的なエリアをまとめて、より広範なものにするということ、すなわち幾つかのコミュニティーがその中に入るということによって一つの手段が得られるかと思います。協調して仕事をするわけです。資源をお互いに使う、そしてそれによってより大きなインパクトを市場に与えるような力を構成するということです。
 その意味で一つ、マレーシアの例をお話ししましよう。
 ここでは観光委員会のほうでマスタープランをつくりあげました。ここはルーラルツーリズム、農村観光と呼ばれるものであります。実験でありますが、ローカルな観光協会、あるいは協同組合といったものを組織したわけです。そこで幾つかの地域社会がそこで手を結んでいます。お互いに経験を分かち合います。また、頻繁にいろいろな意見交換をし、どういうふうな問題があるかということをソリューションを求めて話し合うということを行っています。それは非常にうまくいった、成功につながりました。したがって、リーダーシップとパートナーシップが必要不可欠だということでしょう。関係各位がすべて協力するということ、そしてまたシナジー効果を最大化し、そしてまた重複を避けるということ、あるいは利害の対立を避けるという努力が必要だと思います。
 また、地域社会の経済界、観光協会、そしてまた旅行業者の間の協調ということが重要であります。そしてまたお互いにそれぞれ影響を受け合うわけですから、その視点を忘れないということです。また、効果的なネットワークを持つということが重要でありまして、各コミュニティーがその中にまとめ上げられていくということです。
 統合された観光まちづくりでありますが、その意味で情報のシェアが重要だと思います。自治体や住民、そしてまた観光業の間で十分な情報の分かち合いがあるでしょうか。それこそがやはり協力的な努力、協調努力で進むということのベースになるものであると思います。
 文化に重点を置いた観光業、そのパートナーシップでありますが、いろいろな形があります。計画、そして管理、マーケティング、そしてまた資金調達といったことについて、いろいろと考えなくてはなりません。地域の金融機関が重要でありまして、このカルチャーツーリズムを進めるためには、地域の経済人、企業家と手を結ぶということによって、必要なスタートアップの資金が得られるということにつながっていくと思います。
 2つ目ですが、これは環境の質ということにつながります。健全な、そしてまた質の高い環境があるということ、常にあるということが重要だと思います。観光がそれによってマイナスの影響を起こさないようにという、そうした努力です。主に注意しなければいけないのは、環境的に、そしてまた生態学的にどういうふうな観光の影響が出ているのかを長期的にモニターして把握していくということです。これはただ単に短期のインパクトではなく、累積的な影響を見ることが重要だと思います。つまり監査ということを自然、そしてまた人工的な資源について行うということです。定時的に行わなくてはいけません。そしてまたどういうふうな抑制条件が環境にあるのかということ、そしてそれが開発ということとそぐわない場合にはそれを認識する必要もあると思います。
 マスツーリズムとクオリティーツーリズムとの間の差、違いをはっきりさせるということも必要だと思います。どういうふうな影響が出てくるのか、そのインパクトのアセスメントも重要であります。その意味では行動要項も必要でありましょう。地域レベル、国レベル、そしてローカルレベルでということです。そして観光開発は物理的な自然、天然の、そして社会、文化的なその能力と実際に整合するものであるのか、その資源が本当にきちんとした観光業の内容に合っているのかどうかという判断が重要だと思います。また、保護をする姿勢、そしてまたそのためのモニターでありますが、それによって観光業が公共財を乱用したりしないように、水資源、大気、そしてまた公共の用地などを阻害しないかということです。その意味で指数、あるいは指標を設けてそのモニターをするということであります。
 また、その範囲とか、あるいはタイプといったこともやはりそれが受け入れられる指標に適するものかどうかといった形で判断する必要がありましょう。すなわち資源が本当に容認できるようなものかどうかということです。つまりインパクトの少ない、そしてまた小さなスケールのもののほうがより容認しやすいということが言えると思います。
 また、観光業でありますが、非常に競争の激しい産業であります。その中では質ということが肝心ということになりましょう。だからこそ観光客が非常に高いレベルの満足を得られるような形で提供するということが重要だと思います。つまりその資源についての満足度、そしてまた払っただけのお金の価値があったかどうかということになります。それによって何度も繰り返し訪れてもらうということが可能でありましょう。口コミでいろいろな人にその観光地が広く知れ渡るという結果につながると思います。
 質の高い観光業、その観光地となるということのためには、教育啓蒙が重要です。ホテルの管理ということ、そしてまたほかいろいろなトピックとしてもそうしたものを網羅して質の高いサービスを提供する必要があります。継続的にいろいろな観光業者のトレーニングが重要であります。そしてまた意識も常に高く持って、もし市場の環境が変わるならばそれを意識するということです。その意味では建設ということでも、レストラン、あるいはショップ、あるいは農業、産業といったものも付随する産業としては関係すると思います。重要なのは質ということです。それと同時に、社会的にアクセプトできるような観光業であるかどうかということ、特に地域の視点に照らしてということです。
 そしてまた、雇用の機会を本当に十分に提供するかどうかということも重要だと思います。また、地域住民に対する啓蒙をする、それによって企業をそこで促進するということ、そしてまた質の高い雇用の機会を提供するということです。技量のある労働者、そしてまたそうでない人も共にその便益を受けるようにということです。コミュニティーのアイデンティティを損なわないようなものということが重要でありましょう。
 今、観光客はますます宿泊の質、あるいはタイプでも多様化を求めています。ホテルもあります。例えば農場、また小さなホテルもありますし、シャレーであるとか、あるいはコテージタイプ、キャラバン、キャンピングサイトなども入ってくると思います。ユースホステルも入るでしょう。これらもやはりすべて高い質のものでなくてはいけません。物理的な構造がそうであるということ、そしてまたスタッフのサービス、ニーズが本当に満たせるかどうかといったことを考えなくてはいけません。その意味では、質と、そしてまた宿泊施設の拡大ということの間を整合させていくということです。すべての宿泊施設がその国によるライセンス許可の対象となって、当局の許可をもって運営するということが必要だと思います。
 また、最後にもう一つ、最も重要なことでありますが、これはいかに強調してもしすぎることはないと思います。持続可能性ということです。すべてローカルレベルでのいろいろなプランを立てるということには、そのツーリズムの資源が長期に持続可能かどうかということを考えなくてはいけません。また、レビューをする、モニターし、そしてまた管理をするということがやはり重要だと思います。社会に対するインパクト、管理ということにもつながります。それにするには、やはり地域社会自らがやらなければいけないということでありましょう。地域社会の住民は、その観光開発をするにあたっては、自分たちが参加するということです。地域社会のツーリズムに対するビジョンを持つということです。どういうふうな資源の開発をし、そしてまた維持し、高めていくには何が対象なのか。その目標と、そしてまた実行に対する戦略の定義ということです。その産業が持続可能かどうかということは、非常に広い範囲にそのツーリズムの便益の受け手があるかどうかということに関わると思います。リンケージをつくるということ、産業界と経済、またその歳入と、便益が公正な形でその住民の間に分配され、そしてまた観光客も満足するものになっているのかどうかということです。
 長期のプランニングが重要でありましょう。経済、そしてまたその旅行業界にとりましてもそれに参加するということです。行動重視型の戦略を立てるということによって、その観光地が長く魅力のあるものとして留まるように、そしてまたリンケージがさらに連なるようにということだと思います。
 遺産ということも忘れてはなりません。天然資源を維持し、さらに高度なものに高める。そしてまたそのためには国際的なスタンダード、あるいは基準を適用するということも必要になると思います。
 さて、結論のほうに入りましょう。いろいろとお話ししましたが、これらの局面はすべて持続可能なツーリズム、そしてまた観光まちづくりということになるわけですが、包括的な計画を立てるということ、それがやはりすべての根幹にあると思います。共同社会、そして地域社会そのものがリーダーシップを取るということで、意思決定をする主体は地域社会なんです。そこが決定をして、どれぐらいのツーリズムの開発を望むのかということ、またその観光開発はどのようにすべきであるのか、経済的な便益はどういうものであろうか、そしてまたそれがコミュニティーに還元されるかどうかということも必ず追求して見ていく必要があります。それがやはり開発の目的の一番の肝要な点ではないでしょうか。
 非常に小さなスケールのものから多様なものへと、今、観光業が変化しています。そうした中では例えば個々の観光客であろうと、あるいは業界であろうと、それを売るということはなかなか難しいわけです。したがって、地域レベル、国レベルでの組織化が重要でありましょう。つまりクオリティーマネジメント、統合化された形でそれをするということ、スタンダードを満たすということ、すべてのいろいろな要素において、その旅行業のあらゆるものが高い基準を満たすということが重要だと思います。そしてそのためには個々の個性も生かしながら、そしてまたその特性を生かしながらということになると思います。国家的なストラテジーというものがあれば、それによって重複を避けるということもできるでしょう。
 また、訓練が大事だということも言いました。マーケットリサーチもそうです。それによって市場の需要の変化に対応するということが可能になります。バランスが重要なんです。この産業といいますのは、やはり健全な経済としての活動であるということ、そしてまた財務的な健全さも維持するということ、そしてまた魅力ある充分な質を維持するということ、そしてまたリピートでその観光客が戻ってくるということ、それと同時に自然、そしてまた文化的な環境を守るという努力も重要だと思います。
 コミュニティーでありますが、非常に健全な場所として食べ物、クリーンな水、ヘルスケアというものを提供するわけです。そしてまた雇用の機会を提供し、そして教育、レクリエーションのチャンスが高まるということ、そうしたことをすべて将来をかんがみて意思決定をすることが重要だと思います。








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