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4 おわりに
 この論文では,コロラド大学CCARのホームページに公開されている2000年1月から2001年3月までの衛星の高度計による観測に基づく海面高度分布を,本州南方沖の海況,特にこの期間にしばしば出現した遠州灘沖の暖水塊と対比することによって,その利用方法を検討した。ガルフストリーム水域やメキシコ湾域を除くと,基準となるジオイド面の精度が限られており,黒潮流路に対応するような現実的な海面高度分布は与えられていない。基準のジオイド面の歪みから現れる構造的な海面高度パターンとしては,
(1)北緯33度線付近を中心に東西に連なる海面高度の低い帯
(2)北緯31度線の南に東西に連なる海面高度の高いの帯
(3)日本の南沿に沿って東西に連なる海面高度の高い帯,
 特に伊豆半島先端付近に現れる海面高度の高い領域等が上げられる。特に(1),(2)の間に生じる海面高度勾配は,紀伊半島東岸に向かう強い西向きの流れを示唆する形となり,黒潮流路の再現を難しくしている。しかし,この様な基準面の歪みを考慮した上で衛星による海面高度分布を見るならば,海況の変動,特に暖水塊の消長・移動のような現象の情報は十分読み取ることができる。特に,解析期間中に出現した遠州灘・熊野灘に出現した暖水塊は,この海域の海流特性を大きく変化させる。この海域は伊勢湾に面した松阪港を基地とする三重大学の練習船勢水丸が,実習海域あるいは調査海域に向かう際に必ず通過する海域であり,暖水塊の出現・消長・移動の知識は,運航の効率化のために重要である。この論文で明らかにされたように,衛星高度計の観測から得られた速報値が利用できる海面高度分布の特性と利用法を今後活用していきたいと考えている。
 上述のような基準ジオイド面の歪みにもかかわらず,現在与えられている海面高度分布が海況の変動現象に有効に活用できると言うことは,逆に言うと海洋構造の知識から,この歪みを補正することが十分可能であることを示している。例えば,ある時期に対象海域を十分な密度・精度で観測し,海面高度の分布を力学計算で求めれば,それとその時の衛星による海面高度分布と比較することにより,基準となるジオイド面の補正値が求まることになる。そのような補正値の分布が求まれば,現在与えられている速報値を補正して,十分実用的な海面高度分布を求めるアルゴリズムを作ることは,決して難しいものではない。このような作業を米国の研究者に期待することは非現実的であろうから,われわれが今後努力していく必要があると考えている次第である。
謝辞
 この研究を遂行するにあたり有益な助言を頂き,また種々の励ましと協力を頂いた和歌山県農林水産総合技術センター水産試験場の竹内淳一氏,三重県科学技術振興センター水産研究部の藤田弘一氏と久野正博氏に対して,心からの感謝の意を表させて頂きます。また,諸種の指導・協力を頂いた三重大学生物資源学部の小池隆教授,森川由隆助教授,練習船勢水丸の石倉勇船長をはじめとする乗組員および,(財)日本水路協会海洋情報研究センターの吉田昭三氏に感謝いたします。
和文要約
 コロラド大学の宇宙力学研究所では,TOPEX/POSEIDON(T/P)やERS-2衛星の高度計の資料から求めた世界の海面高度分布を,準リアルタイムでウエブサイトを通して提供するサービスを行っている。日本近海については,基準として用いられているジオイド面の精度が十分でなく,そのままでは,得られた海面高度分布から黒潮流路を特定することは困難である。しかし,大洋中の渦や黒潮流路の小規模の蛇行や短周期変動に関する情報をこの海面高度分布から引き出すことは十分可能である。本研究では,2000年1月から2001年3月までに遠州灘沖にしばしば出現した暖水塊を例にとって,衛星高度計資料の活用の手法について論じた。
引用文献
1) 前川陽一,内田誠,百瀬修,石倉勇,遠州灘沖暖水塊の断面観測,平成13年度第1回日本水産学会中部支部大会講演要旨集,25-26(2001).
2) ICHIKAWA K. Variation of the Kuroshio in the Tokara strait Induced by Meso-scale Eddies. Journal of Oceanography, 57:55-68(2001).
3) 南秀人.東海道沖暖水塊の構造.海と空,64:199-216(1989).
4) SEKINE,Y., and T.OKUBO. Warm water structure that approaches to Kii Peninsula, separated from the straight zonal Kuroshio path. La mer,38:87-93(2000).








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