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3 紀州沖・熊野灘沖・遠州灘沖での画像情報の特性
 2000年から2001年にかけての本州南岸沖の黒潮流況は非常に変動性に富んでいて,黒潮流路の北側岸寄りに従来ほとんど観測されなかったような暖水塊がしばしば発生した。特に2000年3月初めに発生した暖水塊は9月末まで持続し,2001年1月に発生したものは2001年4月に入っても存続を続けていた1)。
3-1 暖水塊が見られない時期の衛星高度分布と海況
 最初に,暖水塊が発生していなかった時期に得られた衛星による海面高度分布を見てみよう。この章では,日本南岸,紀州沖・熊野灘沖・遠州灘沖を対象に拡大した分布図を用いることにする。2000年1月4日の海面高度分布をFig.6aに示す。また,(財)日本水路協会海洋情報研究センター海洋情報室が発行した相模湾・伊豆諸島近海海況速報から,1月6日作成のものを,比較のためFig.6bに示す。この海況速報は,基本的には海上保安庁水路部が月2回発行する海洋速報に用いられる資料を用いているが,衛星資料や,得られる限りの音波ドップラー流速計(ADCP)資料等を用いてこの海域について詳細な検討を加えて,週1回の割合で発行しているものである。
TOPEX/ERS-2 Analysis Jan 4 2000
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Fig. 6a Distribution of SSDH of the waters along the southern coast of Japan on January 4,2000(from CCAR's WWW)
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Fig. 6b Oceanographic condition in Sagami bay and Izu islands on January 6,2000. (from a prompt report of Japan Marine Information Research Center)
Oceanographic conditions (Sea surface temperature, sea surface water velocity, and the Kuroshio path) are shown based on information obtained for a week before October 6,2000.
 Fig.6aの衛星による海面高度分布には北緯33度に沿った低高度の帯が表れており,北緯33度から34度の間に強い西流の存在を示唆する形になっている。しかし,Fig. 6bの海流図に示されるように,この部分にそのような流れはない。この時の黒潮は本州南岸で大きく蛇行しており,東経139度付近では,流軸は北緯32度付近にある。2000年1月7日のNOAA衛星によって得られた表面水温分布をFig.7aに示すが,この黒潮流路の様子は,表面水温分布にもよく現れている。しかし,Fig.6aの海面高度分布図には,黒潮流路に対応するような構造は見られない。海面高度分布には,上記の北緯33度線を中心とする低高度の帯の北側岸沿い,および南側北緯31度以南に,東西につながる高高度の帯が見られる。若干の変動があるものの,この3本の帯は検討の対象とした期間の全ての海面高度分布に共通して現れており,基準として用いられているジオイド面に問題があることを示していると考えられる。全世界を対象として決められているジオイド面は,衛星による重力分布等の観測資料を利用しているが,その場合には短波長成分の精度に若干問題を生じ得る。ここに述べた南北に並んでいる3本の帯は,そのような誤差に伴って生じたと推定される。
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Fig.7 Distribution of sea surface temperature by satellite NOAA.
a:on January 7,2000,b:on January 23,2000.
TOPEX/ERS-2 Analysis Oct 24 2000
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Fig.8 Distribution of SSDH of the waters along the southern coast of Japan, (from CCAR's WWW)
 暖水塊が見られない場合のもうひとつの例として, 2000年10月24日の海面高度分布と,10月26日作成の相模湾・伊豆諸島近海海況速報を,それぞれFig.8a, bに示す。この場合も10月23日のNOAA衛星による表面水温分布(Fig.7b)は,Fig.8bの海況によく対応している。この場合にも上に述べた北緯33度に沿った低高度の帯およびその南北にある高高度の帯が認められる。従って,この低高度部分と高高度部分の高低差を平均した形で海面高度分布を考察する必要があることがわかる。しかし,Fig.8aで低高度部が東経140度から141度の間で南に延びた形になり,負の高度が北緯31度付近まで達しているのが認められる。この狭い低高度の南方へ張り出しは,この観測日の前後に現れた特徴的なものであり,9月末から幅広い張り出しが生じ,10月9日頃から幅が狭く,より南方に延び11月2日頃まで明確に認められる。これに対応して,海況速報にも9月末頃から黒潮の流路の南へのシフトが見られており,10月12日,19日には狭い冷水域(低高度)がこの位置で南に張り出していた。10月26日のFig.8bでは,やや不明確になっているものの,そのような傾向が認められる。全ての図は,その直前のある期間の観測値を基に作成されているが,それぞれの図でその期間が微妙に食い違っているから,若干の時間的なずれが生じるのはやむを得ない。そのことを考慮すれば,このような比較的短周期の,小規模の変動に関しては,衛星による海面高度分布は海況図によく対応しているということができる。








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