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MIRCの概要と2001年の活動
1 海洋情報研究センター(MIRC)の概要
設立目的と活動概要
 近年、海洋の開発利用が活発化する一方、地球環境問題の重要性が認識され、地球環境に大きな影響を持つ海洋の気候と機能の解明が急務となってきた。これにともない、信頼性の高い高品質の海洋情報・データの迅速・的確な提供への要請が高まりつつある。また、海洋環境を保全し、将来にわたって人類と海洋の共生を図るためには、科学的な海洋知識の普及・啓蒙が必要とされる。さらに、地球規模の海洋環境保全のための研究活動等は各国が協力して国際的な枠組みのもとで行わなければならず、特に発展途上国における海洋データ管理者の養成の支援は欠くことのできないものである。
 このことを踏まえて、海洋情報研究センター(MIRC)は、日本財団のご支援を受け、(財)日本水路協会の一組織として1997年5月27日に設立された。MIRCは海洋データ・情報に関する専門知識を有する専従者を擁し、データ・情報を管理するに十分な設備を保有することにより、日本海洋データセンター(JODC)の活動を側面から支援することを目的とする。すなわち、各種の海洋データの品質管理ソフトを開発してJODCに提供するとともに、JODCが保有するデータベースの品質管理と加工、及びそれらの迅速かつ的確な提供を行う。また、このような活動に必要とされる研究活動を実施する。さらに、種々のデータプロダクトを利用して海洋の実態や機能について科学的に分かりやすい啓蒙活動を行うと共に、地球環境に関する研究や情報の整備について国際的な活動を行い、研究情報を含めた地球規模の海洋情報の整備に寄与することをもくろんでいる。
 JODCは、海洋調査機関等が観測したデータの二次、三次利用の促進を目的に設立された我が国の総合海洋データバンクであり、またUNESCOの推進する国際海洋データ・情報交換システム(IODE)の窓口としての役割を担っている。MIRCの仕事は決してJODCの役割を犯すものではなく、あくまでも研究機関として、海洋データ・情報の管理に必要な、高度の品質管理プログラムの設計等をその仕事としており、JODCのシステムに適用可能なプログラムが完成次第、そのノウハウをJODCに還元して行く。データそのものの一般的な収集と基礎的な管理はJODCの役割である。もちろん、研究段階で試験的に行われた品質管理成果や別個に収集されたデータはJODCに送られ、その保有するデータの質と量の向上に貢献する。また、多様化する一般ユーザーの要求に答えて、高度のデータプロダクトを作成する。このことにより、最近ますます高度化し、多様化する一般からのニーズかつ木目細かく答えて行くことがMIRCの役割である。
 MIRCは海洋データ管理の研究機関であるため、科学技術庁(現文部科学省)の科学技術振興調整費「北太平洋亜寒帯循環と気候変動に関する国際研究」の一翼を担うなど、独自の研究活動をおこなってきており、また種々の受託研究・受託事業を実施している。また、国内外において海洋知識の普及にも、多くの努力を払ってきている。
 
組織・推進委員会
 MIRCの組織としては、所長以下、業務企画部門、研究開発部門、情報提供部門(海洋情報室)の3つの部門が設けられている。2001年4月以降のスタッフは次のとおりである。
所長:  永田 豊  
業務企画部門    
 業務企画部長:  平尾 昌義  
 業務課長:  鈴木 進  
 事務補助員:  溝上 直美  
研究開発部門    
 研究開発部長代理:  鈴木 亨  
 主任研究員:  桑木野 文章  
 研究補助員:  吉田 昭三  
 研究員:  小熊 幸子  
情報提供部門(海洋情報室)    
 企画普及課長:  桑木野 文章  
 主任:  田島 敬子  
 技術員:  長森 享二  
 研究補助員:  鈴木 兼一郎  
 また、MIRCの各事業に、ユーザーの意見を反映させ、かつ専門的な支援を賜るため、推進委員会を設置し、外部の専門家のご協力をいただいている。2001年度の推進委員会のメンバーは以下の通りである。
委員長:  松山 優治 教授(東京水産大学)
委員:  玉木 賢策 教授(東京大学)
  沖野 郷子 氏(東京大学)
  湊 信也 氏(気象庁)
  友定 彰 氏(水産総合研究センター中央水産研究所)
  五十嵐 元彦 氏(現代テーマ研究所)
  長井 俊夫 氏(JODC)、11月より桂 忠彦 氏に交代
  (順不動)
2 2001年に実施したMIRCの事業(2001年1月〜12月)
 過去5年間、MIRCの行っている事業の中心は、日本財団の補助による「海洋データ研究」事業(1997〜2001)であった。この事業は2001年度で終了し、2002年度からは自主的活動を中心とした新しいレジームに入ることになる。この5年間「海洋データ研究」以外にも種々の委託調査研究を行ってきており、その数は年々増加してきている。MIRCは、科学技術庁の科学技術振興調整費「北太平洋亜寒帯循環と気候変動に関する国際研究」(第1期1997〜1999,第II期2000〜2001年度)の一環である「高精度海洋データ整備のための品質管理手法の研究」(第I期)、および「表層循環変動と吹送流評価に関する解析研究」・「データベースの構築等に関する研究」(第II期:2001年度は機構改革により文部科学省)の委託調査研究を実施してきている。2001年度にはこの他、海上保安庁水路部、海洋科学技術センター、国立環境研究所、水産総合研究センターからの受託研究、あるいは(社)海洋産業研究会、(株)CRCソリューションズ等からの受託研究を実施してきた。この章では、2001年1月から12月までの海洋情報の品質管理・提供にかかわる事業の主要なものの概要を報告する。「海洋データ研究」を初めとする事業や、自主努力を通して普及啓蒙関連・国際協力関連の活動は章を改めて述べる。また、2001年1月から3月末までの活動については、昨年発行のMIRC活動要覧の記事と重なるので、ここでは余り触れない。また、2001年におけるMIRCの歩み、MIRCの研究業績についても章を改めて述べる。
2-1「海洋データ研究」
 日本財団の補助による「海洋データ研究」は、1997年から始まった5ヶ年計画のもとで実施されており、今年度が最終年度に当たっている。今年度に実施した受託研究項目は
2-1-1 潮汐・潮流データ品質管理処理
2-1-2 地球物理データ品質管理処理
2-1-3 海洋データ複合利用研究
(1) 化学系統合データベース構築および高度利用システムに関する研究開発
(2) 統合海洋データベース利用支援システム研究開発
2-1-4 属性データ付加
2-1-5 海流アトラス作成
である。
 
2-1-1 潮汐・潮流データ品質管理処理
 昨年度に一定の品質管理を施し、作成した潮汐・潮流データセットをもとに検討し、過去において歴史的に種々の方法・手法が用いられてきた調和定数の推定方法などについて統合的な方法を定めて、それに基づく品質管理ソフトウェアを作成した。
 
2-1-2 地球物理データ品質管理処理
 地球物理データに関する研究は本年度開始であるため、今後自主努力で研究を継続するものの、1年間で一応の成果を上げるよう努力した。具体的には項目としては地磁気データ・重力データを対象とし、JODCにあるデータベースを検討し、取得状況を調べると共に、重複データの検出を行った。品質管理ソフトウェアとしては、航跡表示プログラム・時系列断面図表示プログラム・クロス誤差評価プログラムを内蔵させ、2分メッシュのデータファイルを作成させるものを作成した。また、プロファイル表示プログラムを用いて異常値曲線を照合して解析するソフトウェアも作成した。
 
2-1-3 海洋データ複合利用研究
(1)化学系統合データベース構築および高度利用システムに関する研究開発
 データベース構築については、JODCに収録されていない東京大学海洋研究所の白鳳丸の観測データを中心に収集整理し、データベース化を行なった。また、公共用水域水質データの中から、JODCのデータベースに移し変えることが出来る海域データを抽出して整理し、データベース化した。
 メタデータ原案作成としては、多くの情報がそろっているプロジェクト、NORACCS(Northwest Pacific Carbon Cycle Study)およびWEST-COSMIC(Western Pacific Environmental Study on Carbon Dioxide Ocean Sequestration for Mitigation of Climate Change)の航海の資料を基にして原案の作成を行った。また、このデータに対する品質管理の手法を参考にして、年度内に化学系データ品質管理マニュアル案を完成させる。
 
(2)統合海洋データベース利用支援システム研究開発
 MIRCが作成してきた品質管理済の各種海洋データを統合した統合海洋データベースを開発し、その普及と利用・促進、およびデータベース利用の効率化のため、統一インターフェイスを備えた高度解析処理システムの開発研究を行った。また、インターネットで公開されている様々な海洋データを共有し、または相互利用することを可能とするため、上記MIRC統合海洋データベースおよび高度解析処理システムを支援するシステムの開発に関する研究もおこなった。
 
2-1-4 属性データ付加
 経年的な作業スケジュールに従って1970年以前の各層データセットの属性データ(メタデータ)の付加作業を行った。この1970年以前のデータ数は約40万点である。また、JODCが最近取得した1994年以降のデータにも付加作業をおこなった。また、データセット間でのフォーマットの不整合性を再チェックし、多くの点で修正作業をおこなった。水深・地球物理データ・潮汐潮流データを対象とした属性データのフォーマットの作成作業をおこなった。
 
2-1-5 海流アトラス作成
 昨年度に作成した品質管理済みADCP(音波海流プロファイラー)のデータベースの重複チェックを行った。通常2分間に1回の割合でデータが取得されるが、1分間に4回の割合で取得されている例があり、測点移動が小さく重複に数えられるような場合など、若干の問題は残ったが統計処理結果に大きな影響を与えないことが分かったので、海流アトラスの作成作業に入った。2000年以降の巡視船データが未受領のため、1999年までのデータを用い、WOCEプロジェクトで取られた精密型ADCPなどのJASADCP(Joint Archive for Shipboard ADCP)のデータとの融合は、計測深度の違い等から、今回のアトラス作成では行わなかった。作成した統計データセットの空間スケールは1/4度メッシュで、10m、20m、50m、100m、150m、200mの6層、平均の時間スケールは、年平均、季節別平均、月別平均である。項目はベクトル平均値、安定度、最大流速、流向別頻度等である。アトラスは統計値から空間内挿法を用いて、スムージングを行うが、最終的な詰めを行っている段階である。結果はJODCが刊行していた日本近海海流統計図をアップデートした形でMIRCから刊行することになろう。(JODCからは発行されない。)
2-2 北太平洋亜寒帯循環と気候変動に関する国際共同研究
 北太平洋亜寒帯循環と気候変動に関する国際研究(SAGE)は、その第II期が平成12年度から2年間実施されている。MIRCはこのプロジェクトに参加し、「データベースの構築等に関する研究」および「表層循環変動と吹送流評価に関する解析研究」を分担している。前者については、JODCに未収録の歴史的データおよびプロジェクトで新しく得られたデータの収集、データの品質チェック、メタデータの付加作業等の作業を第1期に引き続いて行っている。高度の品質管理手法の開発については、三陸沖海域に見られる水温・塩分の生起頻度分布に生じている著しい歪とデータの高度品質管理の問題を主として研究した。このような海域では、平均値から3倍の標準偏差以上離れたデータを統計から取り除くような操作は行わないほうが良い。三陸沖における頻度分布の歪は、純粋に近い黒潮水が、まれではあるがこの海域に侵入してくることによって起きる。このように歪んだ正規分布の生じる海域としては、黒潮続流の南側、クリル列島の南側にもある。後者の研究は、亜寒帯域では吹送流を除去して海流場の変動を論ずる必要があり、その研究の一環として太平洋亜寒帯域での直接測流資料を調査し、吹送流の計算結果と比較検討する研究を行った。
2-3 海洋二酸化炭素関連物質データ管理システム作成作業
 海上保安庁水路部では、本年度より地球温暖化の原因の1つといわれている二酸化炭素の海洋吸収メカニズムの解明を促進するため、日本国内の海洋調査観測機関が観測したデータを収集し、そのデータに観測方法や管理状況等海洋調査に関する情報の調査を開始した。本研究はその一環として、観測データの所在を一元的に管理できるデータベースを構築し、国内外の研究者に対して高精度な炭素データを提供するための研究開発を受託することになった。具体的作業としては(1)インベントリ情報の収集、(2)インベントリ情報データベースの設計・構築、(3)二酸化炭素関連物質データ品質管理手法の検討及び基本設計である。MIRCでは、ここ数年間二酸化炭素関連のデータ管理について国内外の研究者と討議し、種々の活動を行ってきたが、この受託研究を通して更なる進展を行いたいと考えている。なお、成果はインターネット等を通して、一般に対して提供することが予定されており、海洋データを一層充実させることをも目的としている。
2-4 太平洋全域・南大西洋の観測データの収集と品質管理及び研究用高品質データセットの作成
 海洋科学技術センターからの受託調査研究として、太平洋全域・南大西洋の観測データの収集と品質管理及び研究用高品質データセットの作成事業を行っている。この事業では、南極周極流海域を含む太平洋全域・南大西洋を対象として、日本海洋データセンター(JODC)と(財)日本水路協会海洋情報研究センター(MIRC)が共有する既存の水温・塩分観測データセットを中心に、データセンターに未登録名プロジェクトの成果についても公開されているデータベース、あるいは海洋調査機関がデータベース化しているデータをも収集し、統合したデータベースを作成する。インド洋に関しても平成12年度に受託した「黒潮循環系及び熱帯西太平洋・インド洋の海洋データ品質評価及び研究用データセットの作成」事業に引き続いて未登録データの収集にあたるもので、作成された統合データセットに対して十分な品質管理を行うものである。2002年3月末までに事業は完結させる。
2-5 霞ヶ浦データベース英語版作成
 国立環境研究所からの受託事業として、2000年度に「霞ヶ浦データベース作成」業務として、国立環境研究所が過去20年間に蓄積してきた霞ヶ浦の水質データを、総合的に活用できるように整理し、CD-ROMおよび報告書(冊子)に取りまとめる作業を受託した。成果の英語版作成業務を引き続き受託し、完成させた。
2-6 FRESCO2データのクオリティーチェックシステムの開発
 水産総合研究センターの受託業務であるが、2000年度で開発された水産庁関連のデータ収集・蓄積管理の新しいシステム新FRESCO2にかかわる品質管理システムの開発を今年度に行っている。
 このシステムでは水産研究所及び水産試験所等が各観測機関に設置された端末からFISエディタにより観測データが入力され、FISファイルが作成される。本システムは、作成されたFISファイルについて、エラーチェックを行い、それを表示・訂正する機能を有すると共に、各観測項目について観測点図を表示する機能を有する。FISファイルの品質管理は観測機関が行うのであるが、このソフトはそれを助け、必要最低限の品質管理を保証するためのものである。この事業も2002年3月中頃までに完成させる。
2-7 その他
 以上の受託業務の他、わが国200海里水域の海域管理ネットワーク構築に関する研究に関連した業務を(社)海洋産業研究会から、気象・海象等観測データの調査および収集業務を(株)CRCソリューションズから受託を受け、実施した。








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