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日本海深層水に生じつつある異変
蒲生 俊敬(北海道大学大学院理学研究科)
1. はじめに
 日本海は,西太平洋における代表的な縁海の一つである.日本海を特徴づけている二つの地理学的状況をまず指摘しておきたい.
 日本海と周囲の海とは,4つの海峡でつながっている.南から,対馬海峡,津軽海峡,宗谷海峡,および間宮海峡である(図1).しかし,これらの海峡はいずれも水深が浅く,最も深い対馬海峡でも130m程度しかない.これに比べ,日本海そのものは非常に深い.平均水深は約1,450mで,最深部は水深3,700m以上もある.すなわち,日本海とその周りの海とがつながっているのは,ごく表面の海水に限られ,日本海の中・深層は,周囲の海域から完全に遮断された状態にある.これが「いれもの」としての日本海の大きな特徴である.
 二番目の特徴は,日本海を支配する気候条件にある.日本海北部海域では,冬季には優勢なシベリア高気圧の影響下に入るため,その気候はきわめて寒冷となる.このことが,北部日本海の表面水の水温を下げ,また結氷等によって塩分を増加させることで表面海水の密度を高め,その深層への沈み込みを促進する.こうして日本海では活発な海水の上下混合が維持され,深層水も豊富に酸素を含むことが,20世紀の初め頃から知られていた.
 このような日本海の深層水に,最近異変の生じていることが明らかになってきた.深層水の循環様式が変わりつつあるらしいのである.以下では,日本海の海水中に含まれる溶存酸素や放射性核種(化学トレーサー)の分布を用いて日本海の海水循環機構の概略についてまとめ,異変の実態に迫っていくこととしよう.
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図1 日本海の海底地形図.
数字(10,12,18,20)は白鳳丸KH-98-3航海の観測点の位置を示す.








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