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4. 現場ろ過吸着法
 近年、測定対象である海水中に捕集装置を沈めて、微量有機物質を選択的に採集する現場ろ過/吸着装置がSachs(1989)やPetrick(1996)によって開発されている。
 現場ろ過/吸着法を使用する場合、有機物質を捕集するために固相吸着剤を使用する必要がある。これには前述のXAD等のポリスチレン・ジビニルベンゼン系あるいはアクリル酸エステル系の樹脂やウレタンフォームプラグ等を利用し、数十から数百リットルの水を通過/吸着させる方法が比較的古くから使用されてきた。
 この種の装置は米国Woods Hole海洋研究所でも1980年代後半から開発されてきた(写真3)が、NOAA等の海洋調査研究には一般的に採用されていない。
 また、市販製品としてもAXYS Environmental Systems社やChallenger Oceanic社の製品等が存在するが、これらはいずれも海洋学的な一般試料採取を目的に汎用型として製作されている。ダイオキシン類等、疎水性の人工有機化学物質の非汚染的捕集に最適化し、製作されているのは、現状ではKiel in-situ pump (KISP)のみである。
 写真4は東京大学海洋研究所調査船、白鳳丸で筆者とキール大学海洋研究所の共同研究者が使用したKISPである。装置はグラスファイバーフィルターを装着したテフロンフィルターホルダー、耐圧ポンプ、吸着材(XAD-2カラム等)、内蔵バッテリー、制御用コンピューター、フローメーターで構成される。試料海水に接する材質はテフロン、ガラス、ステンレスのいずれかであり、装置全体は水深6600mで使用可能な耐圧仕様である。ポンプは磁気駆動方式の機械ポンプであり、樹脂素材はテフロンでカバーされている。グラスファイバー製のフィルターは、300℃で加熱したものを使用する。採水開始・終了時間、ろ過速度その他の制御パラメーターは、沈める直前に外部コンピューターと接続し、設定値を入力することで、ろ過操作は全て自動で行われる。採水過程で生じるろ過速度の変化(主にフィルターの目詰まりによる)は常に制御コンピューターに記録され、採水終了後にろ過量を算出するために使用される。装置は完全自律式で、潤滑油の汚染のないオイルレスステンレスワイヤーに装着され、海水中に沈められる。一般的に5-bed volume/minのろ過速度で使用されるため、7時間で500・900Lの試料が捕集される。ろ過量はSPMによるフィルターの目詰まりに依存する。この装置は1992年から開発されており、毎年数回の調査航海の結果をフィードバックし、現在まで改良され続けている。
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写真4
 KISPは基本的に、使用海域の特性に合わせ仕様を変更して製作される事が多い。写真5は筆者らが日本近海の沿岸海水に適用するために、吸着剤としてウレタンフォームを使用し、直径300mmの特殊なフィルターホルダーを使用し、4連装グラスファイバーフィルターに変更、超微量のダイオキシン類の測定に最適化したKISPである。ウレタンフォームは直径9cm、厚さ4 cmで、四つのフォームを直列に、大型ガラスカラム内に充填している。改良型KISPである「NIRE DIOXIN TYPE」現場ろ過/吸着装置を用いることで、0.5fg/L前後の海水中ダイオキシン異性体の分析が可能である事を確認している。
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写真5
 環境水中の超微量ダイオキシン類の捕集には最も適していると考えられる現場ろ過/吸着装置も、多用な環境試料に適用するには、この方法のもつ原理的なブラックボックスを理解する必要がある。即ち、対象物質の吸着効率(回収率)を知ることが非常に難しい点である。ダイオキシンやPCBの様な疎水性の高い物質は海水中の粒子に吸着されやすいため、大部分は粒子画分に存在すると予想されるが、この粒子は浮遊粒子(SPM)として捕集される比較的大きな粒子だけではなく、ろ過では捕集できないコロイドや溶存有機物画分にも分配されている。固相吸着剤を用いた場合、後者に存在するPCBが完全に捕集されているかどうかを知ることは困難である。海水中のPCBの存在形態自体が十分わかっていないため、吸着剤に化学物質をスパイクし、海水通過後回収率を評価するいわゆる添加回収試験では、実試料での吸着現象は再現できない。
 筆者の手法では、直列に接続した二連カラムによる回収率確認試験を行い、二番目のカラムに溶出していないことを確認している。また、ろ過の過程でも、ろ紙上に捕集されたSPMが、通過する海水中のダイオキシン類を吸着する可能性と、ろ紙上のSPMから逆に溶出する可能性が存在するため、この方法で得られたそれぞれの分析値は、ろ過装置や海水の性状によって大きく異なることが予想される。従って、現場ろ過/吸着法で分別された溶存態と吸着態はそれぞれapparently dissolved phase、apparently particulate phaseと呼ぶべきであり、この種の装置を用いた測定データの相互比較は十分注意する必要がある。








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