日本財団 図書館


「深層の異変」
 深層循環を考える上で非常に重要な変化が日本海の深層で進行している。Kim et al. (2001)によれば過去約30年間に日本海盆で観測された代表的な温度と溶存酸素の解析によって、1000m以浅の水温は過去30年間で0.1-0.5℃上昇し、1000m以深では約0.01℃の上昇があった。またこのような温度の上昇と平行して溶存酸素は非常に劇的な変化をしている。1960年代の後半には数百m程度の深度であった酸素極小層が1990年代の後半には1500m以上の深度になっており、同時にこの間、溶存酸素濃度は20μmol/kgほど減少した。しかし、注目すべきは中層の溶存酸素濃度がむしろ増加していることである(Minami, 1999)。1930年代にUdaが観測した溶存酸素の資料と1950年代の初期に旧ソ連の科学者によって観測された溶存酸素資料(USSR、AOS、1957)の資料の間にはほとんど相違は見られず、日本海の海洋構造の変化は1950年代と1960年代の間に始まったことが推測される。Gamo and Horibe(1983)による1970年代の結果を見ると塩分の極小層は800m深より浅いところで観測されており、塩分の極小層も約20年間に数百m深くなったことがわかる。また日本海の深層水にはCFC−年代で見てみると約20年前より若いCFCが含まれていないことが示されるが、このことはその間、日本海の低層水の生成がほとんど無くなったことを意味する。これに反して、中層水(上部固有水)の形成は逆にもっと活発になっている。
 こういう日本海の変化を記述するために移動する境界を持ったbox model(MBBM; Moving-Boundary Box model)をKim et al.(2001)は開発した。中層水、深層水及び低層水を構成するboxの境界はこれらの水塊の体積の変化に応じて移動するようになっている。日本海のCFC-11及びCFC-12のデータと三重水素の分布資料も補足資料として用いたmodelの結果によると、1950年代から底層水の生成が徐々に減少し、相対的に中層水の形成が増大し、1980年代の中期になると底層水の生成が中断した。興味深いことには現在進行している変化が今後も続くならば2030年頃には底層水は消滅することになる。またこのような状態がさらに続けば、約70年前にUdaが観測したように日本海は酸素を豊富に含む中層水(上部固有水)で満たされることになると思われる。
 日本海でなぜこのような変化が始まったのかはまだ明らかになってはいない。過去の地球には自然変動の一部として、より長い時間スケールでかつより広域でこのような循環過程の変化があったことはすでに知られており、自然の変動過程の一部として捕らえることが出来るかもしれない。しかし、一方では最近の地球温暖化の影響が局地的に日本海に及んだ結果とも考えることが出来る。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION