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MIRCの国際協力事業
永田 豊
 MIRCの実施してきた国際協力事業については、その幾つかをNews Letterで既に紹介してきているが、2001年度においても、まだ国立海洋データセンターが設立されていないタイとインドネシアを訪問し、PICESやWESTPAC等の国際会議に出席した。この国際活動についても、その殆どが日本財団の助成事業「海洋データ研究」事業の中で実施されてきた。ここで5年間のMIRCの国際協力事業を総括しておきたい。MIRCの国際活動を大きく分類すると、(1)IOCのIODE計画に関連した諸会議に出席し、JODCの活動を助けると共に情報収集を図る、(2)先進的な米国やカナダ、オーストラリア等のNODCを訪問し、情報・研究成果を交換する、(3)NODCがまだ設置されていないような、この分野での発達途上国を訪問し、MIRCの活動状況を説明して、海洋データ管理の重要性を指摘すると共に、必要に応じて品質管理ソフトウエア等のMIRCのプロダクトを提供する、(4)関連する国際会議・国際学会に参加して、研究の成果を発表すると共に情報の収集を行う、となる。もちろん、MIRCの活動は単純にこの4つに分類できるわけではなく、また開発途上国という分類も極めて曖昧ではある。
 出席し研究発表を行ってきた国際会議としては、2000年にリスボンで開かれたIODEの総会、1997年アイルランドで開かれた「海洋データシンポジウム」、1999年および2001年にそれぞれ開かれたマレーシアおよび韓国でのWESTPACの会議等であるが、毎年開かれるPICESの総会にも、そのデータ関連委員会TCODEを中心に積極的に参加してきた。また、海洋中の二酸化炭素に関連する諸種の委員会にも参加して主導的な活躍を行ってきた。
 海洋データ管理の先進国としては、米国・カナダ・オーストラリア等のNODC(あるいは地球物理的データセンター)とは密接な連携の下で活動してきており、これらの国からの研究者招聘、MIRC研究員の派遣を行ってきた。特に米国のNODCとは、水温・塩分の生起頻度分布に現れる歪と高度のデータ品質管理の問題等について、研究情報の交換に努めてきた(表紙絵参照)。
 ICSUの世界データセンターが置かれているロシア、世界データセンターの一翼を担う中国、インド洋の責任海洋データセンターを持つインド等も先進国に上げるべきであるが、これらのNODCに対しても研究者を1999、2001年に派遣し、MIRCの品質管理ソフトウエアの提供やMIRCの活動紹介を通して交流を深めてきた。わが国のJODC等の活動が太平洋海域に重点がおかれ気味であるためインド訪問は多くの新しい知見を得る上でも有効であった。
 アジア諸国の多くには、NODCが未設置であったり、設置されていても必ずしも活発に活動していなかったり、その活動状況がわが国に十分伝えられていない国が少なくない。MIRCとしては、これらの国々の海洋データ関連機関を訪問して、情報交換に努めた。その機会を捉えて、MIRCの活動状況の紹介を通して、海洋におけるデータ管理の重要性を強調し、MIRCが開発した品質管理ソフト等の提供を行って、これらの国でのこの分野の発展に寄与することを試みた。上記のロシア・中国に引き続いて、2000年にNODCをもつベトナムを訪問した。ベトナムのセンターは利用できる計算機等において設備等の改善が今後必要であるが、研究者(特に若手)の活動が活発であるという印象を持った。今後の発展が期待できる。2000年のフィリッピン訪問では、水路部にあたる機関にあるデータセンターとフィリッピン大学を訪問した。公式的な議論は管理者的立場の人と行ったが、後でソフトの扱い方等の具体的議論において、やはり若手の研究者が育ちつつあることを感じた。
 2001年には、先に触れたインドの他、NODCが未設置のタイとインドネシアを訪問した。タイではタイ湾を中心に国際協力研究活動が行われており、チュラロンコーン大学に関連する海洋データセンターが設けられている。このセンター長は非常に活発、能率的で、われわれの訪問を機会に海洋データ管理ミニシンポジウムを開き、数機関からデータ管理者を呼び集めてくれた。そのおかげで非常に能率よく情報収集をすることができた。また、このシンポジウムにはバンコックにあるWESTPAC事務局の研究者2名も招待され、WESTPAC関連の情報も入手することができた。この所長は、その後開かれたソウルでのWESTPACの会議でも、南西アジアでのGOOS計画(SEAGOOS)の計画策定に主導的な役割を果たしていた。タイにおける海洋データ収集管理はやっと途に付いた段階といえるのであるが、今後の発展が期待される。最後の訪問国は、2002年1月になったがインドネシアで、ジャカルタとバンドンにある国立科学研究所(LIPI)の海洋部門とバンドン工科大学の海洋部門である。不思議なことに、インドネシアの研究者との連絡は非常につき難く手間取ったが、訪問するとその友好的な雰囲気と研究熱心さに驚かされた。2ヶ所で講演したが、歴訪した国の中で質問が最も多く、議論が活発であった。NODCの設立は行われていないが、LIPIにはデータ管理部門があり、バンドン大学でも海洋データ管理の組織を作ろうという計画があったのには驚かされた。ただ、データ品質管理ソフトのようなものはまだ持っていないというので、提供したソフトについて非常に感謝された。
 以上、アジア諸国を歴訪して、各国で海洋データ管理の問題について今後の協力を約すことができたことは大きな成果であった。しかし、国によってデータ管理体制およびその準備態勢はまちまちで、今後とも密接な連絡を取り、情報収集をする必要がある。また、これらの訪問を通して、各国の研究者の気質にそれぞれ特徴があることを痛感した。あるいは、このような気質情報の収集もデータ交換の活性化のための重要な情報を形成するのではないかと感じた次第である。








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