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助成事業「海洋データ研究」の完了にあたって
永田 豊
 MIRCは、その創設以来5年間にわたり、日本財団からの助成事業「海洋データ研究」を実施してきた。この事業は、その5年間におけるMIRCの活動の主要部分を占めるが、それによって得られた成果は非常に大きなものであり、MIRCの研究体制の基盤も整えられた。また、この事業の成果を活用して、種々のデータプロダクトを作り出すことができた。さらにこの活動を通して、MIRCは国内外の海洋研究機関から、海洋データ研究機関・海洋データ管理の専門集団として、認知されるにいたった(News Letter No.8へのIODE議長ベン・サール氏、No.9へのWDC-A所長シドニィ・レビタス博士の各寄稿を参照されたい)。この事業は2001年度をもって終了することになるので、その成果の概要を纏めておきたい。なお、この事業には、国際協力事業、海洋知識の普及啓蒙活動も含まれているが、国際協力事業については項を改めて報告する。普及啓蒙活動としては、5年間に国内では新潟・神戸・東京(2回)・名古屋・富山の各地で都合6回(News Letter No.3,No,4,No.5,No.8)一般向けのシンポジウムを開催した他、国際的にもマレーシアのランカウエで開催されたWESTPACの国際海洋データ交換計画(IODE)国際会議において、「海洋学および海洋科学に関する国際セミナー」(News Letter No.6)を開催した。2001年度に富山市で開いた一般向けシンポジウムについては項を改めて報告する。
 「海洋データ研究」の1つの柱は、JODCが扱っている各種のデータについて、高度の品質管理ソフトウェアを開発し、それをJODCに提供してその活動を助けると共に、それを既存のデータベースと新規に集められるデータに応用してJODCの保有するデータベースの質の向上を図ることにある。水温や塩分等の基礎的な海洋物理学データから始め、水深データ、海流データ、潮汐・潮流データ、重力・地磁気の地球物理データと逐次対象を含めていったが、原則として1年目に品質管理ソフトの開発、2年目にそれを応用してデータベースの拡充と品質の高度化、3年目にはアトラスの作成や市販に耐えるようなデータプロダクトの作成を行うというスケジュールを取った。潮汐データ・地球物理データについてはこのサイクルは完結しておらず、今後MIRCが自主的に作業を継続することになる。
 主要な成果としては、水温・塩分データに関しては、JODCに流入するデータそのものの質の向上を目指して、県水産試験場のような現場機関で容易に使えるような品質管理ソフトを開発した(News Letter No.2)。このソフトにはデータのプロットやTSダイアグラムの作成等、現場の作業を助ける機能が備えられており、現場作業を通して自動的に品質チェックが行えるように工夫されている。このソフトはIODE議長ベン・サール氏によって高く評価され、英語版の作成を依頼された。英語版ソフトは次章に述べるようにアジア諸国のデータ管理機関に提供してきており、非常に喜ばれている。
 海流については、巡視船等から膨大なデータが集りつつあるADCPデータの管理ソフトを作成した。また、往復観測を利用して、発信機の設置方向の誤差に伴う系統的誤差の補正ソフトも作成した。水深データについては、マルティビーム音響測深儀の品質管理ソフトの開発を行ったが、その操作には専門家による判断が必要となるため、JODCまたは海上保安庁水路部内部で用いられることになる。われわれとしては、そのソフトを用いることでより整備された水深データを、一般に配布できるようになることを期待している。潮汐・潮流に関しては、その研究あるいは予報サービスに古い歴史を有するが、それ故に解析方法やデータ管理が時代によって異なっていた。MIRCでは、これを統一した方式で管理できるソフトの開発を行った。潮汐情報は一般からの要請も高く、より的確なユーザーへの提供を心がけて行きたい。地球物理関連については、本年度から取り上げたものであるが、既存データにおける問題点を整理し、基本的な管理ソフトの設計・製作を行った。
 水深関連では、コンピューターグラフィックの手法を用いて、不透明な海水を取り除いた形で、海底地形の鳥瞰図が得られ、また潜航/飛行艇のフロントグラスから海底地形を眺める形のウォークスルー・ムービーを製作した(News Letter No.9)。この成果は、事業の一環である普及啓蒙活動・一般を対象としたシンポジウム(別項参照)等で紹介してきているが、海を身近なものとして感じさせるものとして好評を博している。ここで開発された技術を基にして、将来種々の教育的なプロダクトの作成を行いたいと考えている。
 専門的な種々のアトラスについてはここでは触れないが、MIRCのプロダクトは水深・海岸線データセットやその表示ソフト、MODS2001のような基礎的なデータセット等多岐にわたっている。また、MIRCの研究成果は、その情報部門の顧客対応に対して、提供物の高度化と多様化、提供業務の迅速化等にも反映されている。こうした面でも、この5年間でMIRCの基盤が整えられたといえる。この他、MIRCはその研究結果を内外の学会や国際会議で発表してきており、2001年末までに20数編の論文を纏めることができた。
 受託事業「海洋データ研究」の完了にあたり、MIRCの活動に対する日本財団の御支援に心からの感謝の意を表させて頂きます。








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