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(5)船舶重力と衛星重力の比較
 人工衛星によるアルチメトリ・データは数百kmの高高度で観測するため短波長成分が減衰していると予測される。それに対して船舶観測の重力異常データは短波長まで情報を保持していると予測される。船舶観測重力異常データが高密度に存在する領域について本手法を適用し、重力データの性質の違いが本手法に与える影響について検討した。
(i) 船舶重力データの取得
 対象海域はGEBCOメッシュ番号G1405の範囲とする。本海域は四国・九州の南沖に位置し、マルチナロービームによる水深測定データと同時に取得された重力異常データが比較的高密度(対象GEBCOメッシュ内に28988個。約4.7km四方に1点ずつ)に存在する。
(ii)計算実行
 重力異常データを船舶重力異常データに変更した以外はバンドパスフィルター帯域等のパラメーターを一切変更せずに水深予測を実行した。
(iii)結果検討
 残差埋め戻し補正を行う直前のデータで比較したところ、特に差異は見られなかった。すなわち、バンドパス帯域(波長15〜160km)では人工衛星観測に基づく重力異常データは船舶観測に基づく重力異常データをよく反映していると考えられる。サンプル海域のパワースペクトルを図2-41に、断面を図2-42に示す。
(iv)今後の課題
・船舶観測重力異常データが海底地形と相関を示す波長帯について調査し、それに応じて伝達関数S算出時のバンドパス帯域パラメーターを調整して予測水深を実行することにより短波長まで海底地形を予測できる可能性がある。
・残差埋め戻しに用いる残差(=[予測水深]-[観測水深])水平方向補間結果(図参照)では、海溝より大陸側で地形と顕著な相関がみられる。これは、重力異常データが海底面より深い部分での地球内部構造の影響を受けているためではないかと思われる。内部構造の影響を排除するには3層構造(海、地殻、マントル)でのインバージョン等の手法を採用する必要があるだろう。
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図2-41 船舶観測重力異常と衛星観測重力異常(S&S)に基づく予測水深のパワースペクトル比較
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図2-42 船舶観測重力異常と衛星観測重力異常の予測水深断面図(G1405)

(6)残差の地球物理的解釈
 本研究では独自の「残差埋め戻し手法」を用いて船舶観測に基づいた水深点データと予測水深点データとの整合性を実現している。残差の定義とその埋め戻し手順は以下の通りである。
1) 観測水深値が存在する格子点においてのみ予測水深と観測水深の残差rを計算する。
 [残差r]=[予測水深Bp]-[観測水深Bo]
2) 残差rを対象海域全体に面的にスプライン補間する。補間の手法・格子間隔は予測水深と同一とする。
  R:残差rのスプライン補間
3) 補間した残差Rを予測水深の全点に埋め戻し、補正済み予測水深Brを得る。
 [補正済み予測水深Br]=[予測水深Bp]-[スプライン補間済み残差R]
 [スプライン補間済み残差R]の平面分布図の例を図2-43に示す。
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図2-43 予測水深と船舶観測水深の残差(水平方向スプライン補間済み)

サンプル海域のGEBCOメッシュG1405付近は九州・パラオ海嶺等を含んでおり、それらの地形構造に沿って残差の線状分布が見られる。この分布は、船舶観測による水深点データと重力異常からのみ予測される本研究の水深が実際の観測水深からどれだけずれているかを表しており、その原因としては本研究では海底面より下の鉛直方向の密度分布を考慮していないことが考えられる。
 すなわち、この場合の残差とは海底面より下の地球内部密度構造を反映しているという意味で本研究で扱っているフリーエア重力異常ではなくブーゲー重力異常に相当する。即ち、地形補正済みの重力異常に相当すると解釈できる。








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