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2.2 複雑な海底地殻構造に対する海底地形推算手法の検討
2.2.1 推算手法の検討
(1) アルチメトリデータからの推算手法の検討
 本研究では昨年度及び一昨年度の成果を活かし、W.H.F.Smith and D.T.Sandwell(1994)の手法に準拠して海底地形を推定する。彼らの手法はアルチメトリ・データから海底地形を推定する手法として用いられている。また、下方接続やフィルタリング、補間等の処理には本研究ではGMT(Generic Mapping Tools)を用いる。GMTは1987年にP.WesselとW.H.F.Smithが地球物理学的データの処理ツールとして開発し、Smith and Sandwell(1994)の手法同様、現在広く一般的に使用されている。
 まずSmith and Sandwell(1994)の手法について概略を説明する。アイソスタシー補償理論から、堆積層が薄く海底の起伏が緩やかな場合には、水深データと下方接続した重力異常データは波長15〜160kmの帯域で線形関係になることが示唆される。より短い波長では海底から海面への上方接続のために重力異常データは海底地形に対して感度が鈍くなる。また、より長い波長ではアイソスタシー補償が成立して重力異常データに水深の影響は現れなくなってしまう。Smith and Sandwell(1994)ではこの理論にWiener最適化理論と重力異常の検出に関するS/N比の経験的な証拠とを関連させてロウパス及びバンドパスフィルターを設計し、重力異常から水深を予測するために用いている。水深予測は二つの波長帯に分けて行われる。一つは船舶観測による水深データにローパスフィルター処理をした長波長(>160km)の水深データである。もう一つは、重力異常データにバンドパスフィルター処理(15〜160km)と海底面への下方接続を行い、さらにスケーリングファクターとして伝達関数Sを掛けて得るバンドパス波長(15〜160km)の水深データである。最終的には両者を結合して水深の予測結果とする。伝達関数Sは15〜160kmの波長帯で重力異常データと船舶観測水深データとの安定した直線回帰を求める時の相関関係から経験的に決定される。Smith and Sandwell(1994)では、堆積層が200m未満の領域では重力異常データと水深データは99%の水準で顕著な相関を示すこと、これらの領域ではSが海底物質の密度に関連していると思われることが示唆されている。彼らは南緯30〜70度の海域に自らの手法を適用し、水平方向解像度5〜10km、格子点の50%で実際の船舶観測水深データの100m以内、80%で240m以内におさまる精度の結果を得ている。その際、地形の凹凸の著しい領域では予測結果は海底地形の最大振幅を過小評価するが、予測結果の図は既存のどんな水深図でも見られない多くの構造的特徴を明らかにしていることがわかった。また、予測結果は波長160km未満で重力異常に依存しているため、観測船の位置決定誤差の影響を受けにくいが、船舶観測による水深データを完全に再現することもできない。従って、構造的特徴の位置決定には使えるが、航海用海図としては使うべきではない、とも明言している。
 今年度の本研究の手順の概観を図2-3〜図2-8に示す。
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図2-3 推算手法の解析図(全体)
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図2-4 推算手法の解析図(観測水深データの加工)
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図2-5 推算手法の解析図(重力異常データの加工)
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図2-6 推算手法の解析図(伝達関数S(x)の計算)
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図2-7 推算手法の解析図(予測水深b_p(x)の計算)
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図2-8 推算手法の解析図(補正予測水深b_r(x)の計算)








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