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(3)ヨシの植栽工法
[1]植栽工法の種類と特徴
 文献によると、ヨシ植栽工法として、大きく分類して下記A〜Hに挙げる方法(マット法、ポット法、土のう法、地下茎法、大株法、小株法、ビットマン(茎植)法、種子苗法)が報告されており、加えて淡海環境保全財団がかつて多く採用していた財団の特許による工法(I.挿し木苗法)もある。このほかにJに示すような方法も見られた。
A.マット法
 播種し発芽した苗を、まず、ヤシの実繊維のポットに植え成長させた後、ヤシの実繊維マットにさらに移し替え、育成したヨシマットを植栽地域に植える方法。他方法に比べて最も安定した株が用いられており、活着率も高いとされているが、苗の育成〜植栽に手間がかかり、コストも高い点が難点である。
 本法での検討事例は多く、滋賀県水産試験場23)が本法により琵琶湖岸(近江八幡市牧地先)にて1993年に行った植栽実験では、植栽した全地点で活着したことが報告されている。また、森田ら25)は、1994年と1995年に近江八幡市牧地先で植栽実験を行った結果、実生苗を元にしたマット及び挿し芽苗を元にしたマットでかつ底質が粘土質の部分では3年後に植生の衰退傾向が見られたが、挿し芽苗を元にしたマットで底質が細砂、かつ水深B.S.L.−30〜−50cmに植栽したものでは天然のヨシ地に近い繁茂を示したと報告した。
 また、桜井ら33)が再生羊毛製フェルトマットを用いて類似の植栽法を検討した結果からは、初期活着率として90〜96%(またはそれ以上)という値が得られている。
B.ポット法
 10〜11月頃採取した種を5〜6月に苗床に播種し、発芽成長後(約50日)ポットに移し、さらに1〜2年後高密度に繁殖したヨシ株となった後、植栽地に移植する方法。既存のヨシ帯を傷つけないことや、根を傷つけずに移植可能な点は利点であるが、準備の期間が長くかかり、その間の管理を要し、移植作業も地下茎植えや茎植えに比べ手間のかかる点が欠点である。
C.土のう法
 ポット法と同様に育成したヨシ株を土のうに入れ、土のうごと植栽する方法。
D.地下茎法
 ヨシの休眠期の終わりから春先の新芽が伸び始めるまでの間に、ヨシ群落の地下茎を掘り起こし、新芽を付けて20〜50cm(長い程良い)の長さに切り分けたものを苗として植栽する方法17)21)。中村ら17)は地下茎をそのまま移植した場合は全て根腐れし、一部を地上に出した場合は発芽するが極めて生育状況の悪いことを報告している。また、その元株を得るヨシ群落を傷つけることが欠点21)である。
 桜井21)は、水分が多く、冠水していない土地への植栽に適しているとし、ヨシ休眠期の終わりから春先の新芽が伸び始める間に、植え付け密度40〜50cm間隔で植えることを推奨している。
 
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図2.2.13 地下茎移植法17)
E.大株法(土付き株植え)
 既存のヨシ群落から、地下茎と根を株ごと40〜50cmのサイコロ状に切り取り、植栽地に掘った穴に埋め込む古くからの方法17)。Bittmann4)は、株植は夏の平均水位の場所に6月以前と、11月以降に植栽可能であると述べている。一方、桜井21)は、水際や湿地だけでなく水中も可能だが水深30cmが限度と述べるとともに、切り取りサイズとして、大株法と小株法の中間的サイズである20〜30cm角のブロックを1m前後の間隔で、冬の冬眠期の終わりから新芽が地上に少し出る春先に行うことを推奨している。
 本法の欠点は輸送費、植え付け費が高く4)21)、また、その株を得るヨシ群落を傷つける点である21)
 本法での検討事例としては、森田ら25)が滋賀県近江八幡市牧地先に1993年に18株植栽したヨシのモニタリング結果から、3年後には6株、さらに1年後(4年後)には1株まで減少したという報告がある。
F.小株法(土付き株植え)
 大株法が、概ね40〜50cm程度の大きさでヨシ株を扱うのに対し、一辺を15〜20cmのサイズ(小株)で扱う方法。大株法に比べて扱いが簡単である。水資源開発公団2)17)では、大株法との比較により、小株法は人力による作業が可能だが、活着と生育及び水中での植栽で大株法に劣ることを指摘している。
 淡海環境保全財団が主に1992(H4)年〜1994(H6)年の植栽事業において「堀取苗」として採用した植栽方法はこの小株法である。
 
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図2.2.14 大株苗・小株苗移植法17)
G.ビットマン(茎植)法
 Bittmannが考案4)した方法で、ヨシ帯の中の若いヨシの茎を地中から切り取って苗とし、それらを数本ずつ、一部が土中になるように植え込む方法である。移植の時期として、Bittmannは5月前半〜6月中旬まで、桜井21)は4月上旬〜5月中旬(本州中部)がよいとしている。茎の採取から植え込みまでは乾燥しないように扱い、1日以内に植え込むことが注意点とされる。
 佐藤ら20)は、活着率は低い(海水ヘドロに対し4本に1本、海水ヘドロ+砂に対し6本の内4〜5本)が、活着したものについては順調に生育すると述べている。
 桜井ら35)は本法を用いて、さまざまな土質と活着率の関係を検討しており、プラスチックコンテナにおける実験では、苗の活着率は、粒子の細かな畑土区と細砂区ではほとんど差が無くほぼ100%活着しているが、粗砂区はこれらに劣り、小礫、礫区では畑土、細砂区の1/3になったが、1株あたりの平均茎数(分けつ数)には、土質の違いによる一定傾向の差が無く、3.3〜5.9(本/株)であったと報告している。
 本法は作業が容易で移植元のヨシ群落をあまり傷つけず行えるのが長所であるが、植え付け期間の短い点が欠点である。
H.種子苗法
 ヨシ種子から育てた苗を移植する方法。須藤ら19)は、茎の部分は根元から長さ30cm、根茎の節は3節以上残し他をカットしたもので植栽実験(図2.2.15)し、Bittmann法と同様の活着率(90%)が得られたと報告している。
 また、佐藤ら20)は、汽水ヘドロ、淡水ヘドロ及び海水ヘドロ+砂に対する植栽実験で、本法が淡水ヘドロを対象とした場合、確実な方法と報告している。また、徐ら41)は、本法により、淡水と汽水を用いて、その栄養塩の浄化特性を検討している。
 加藤ら42)は本法と茎植により、浚渫ヘドロ上への生育特性を検討した結果、種子苗法では、ヨシの生育において茎植(ビットマン)と比べ若干細いが、高さ、分けつ数ともほぼ同じであったことから、種子苗植えはヨシ原創出手法の一つとして有効であると述べている。同時に、種子苗植栽手法は、種子への工夫及び苗状態からの馴化により、浚渫ヘドロ上へのヨシ原創出が汽水域も含めた広範囲において可能であることを示唆している。
 
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図2.2.15 ヨシ槽の側方断面図19)
I.挿し木苗法(淡海財団特許)
 淡海環境保全財団が考案し、1994(H6)年12月15日に特許出願、1997(H9)年4月25日特許登録された植栽工法である。
 この方法は、母体となる成長したヨシの幹をカットし、このカットしたヨシを横方向に向けて水に接触または浮かべ、ヨシの節から発芽と発根させ、次いで母体から独立の苗に分離した後育苗する増殖方法である。母体となるヨシの根本部と幹の先の部分をカットし、節を残して10cm〜1m分離することで、1本の幹から複数本の苗を取ることができるとともに、苗の取り扱い性も楽である。育苗は樹脂製ポットに入れた腐葉土を含む土に苗を植え込み、水に難溶性の肥料を用いて水の存在下にて行う。これにより、育苗が容易である上、運搬とその後の植え付けも容易である。(特許公報(1997.8.6)より)
J.その他
(a)群植え
 佐藤ら20)によって用いられている用語であるが、小株植えと同義である可能性がある。詳細は文献に記述がないため不明である。
(b)直接播種
 ヨシ植栽地に、ヨシの種子を直接播種する方法であるが、桜井21)は、ヨシが一般に結実歩合も発芽歩合も劣る場合が多く、またその幼植物は他の植物との競争に弱いこと、採種、播種、育苗、植え付け及び一定の大きさになるまでの手間を考えると実用的でないと述べている。
(c)ヤシ繊維製蛇篭
 ドイツのベストマン社で開発された直径50cmのヤシ繊維製の蛇篭にベストマン苗と呼ばれる水草苗(必ず併用する)を植栽する方法である。ドイツ国内だけでなく、海外においても数多くの実績がある24)。文献調査では、マコモとハナショウブを植栽した1報のみが見られた。
(d)約20cmの若芽
 栗原ら40)が底質の種類や塩分濃度とヨシやシオググの成長の関係を検討するときに使った植栽法。5月初旬に約20cmに成長したヨシの若芽を10cmの長さの地下部(地下茎と根)とともに、底土の上に静置する方法。
[2]植栽工法と環境条件との関係
 各植栽工法を総合的に比較検討する目的での実験事例は少ないが、田中・藤井ら26)の研究グループによるものなど2)がある。
 田中・藤井らは琵琶湖南湖東岸の実験施設において、マット法、土のう法、地下茎法、ポット法、大株法、ビットマン法による植栽を行い、その生育状況を調査したところ、1年目の工法別の新芽存在数は、マット>ポット>土のう工法の順で66〜88本であり、沖帯のヨシの生育密度が約1カ月半遅れて陸側生育密度と等しくなったことなどを報告している(図2.2.16)。
 
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図2.2.15 工法別新芽存在数の掲示変化26)
 また、同研究グループでは、ヨシ茎個体数密度について、調査日、植栽工法、植栽位置の3因子による3元配置分散分析を実施32)したところ、それらの主効果及び交互作用は全て危険率0.1%有意性を示し、調査日の寄与率は32.5%、植栽工法の寄与率は19.9%、植栽位置の寄与率は4.8%となり、季節変化、植栽工法がヨシの生育に大きく寄与しているとした。さらに、琵琶湖水位の高い時期の集計結果から、マット植栽法の水深に対する耐久性が他の工法より高く、水深79cmの状況下でも成長することが判り、ポット苗移植法、土のう工法は水深が45cmとなった6月初旬に、大株移植法は水深が30cmを下回った8月にヨシ茎個体数密度が増加したと報告した。このほか、マット植栽法を除いて、浸食が12cmを越えるとヨシ茎個体数が25本を下回ること、4cm未満の浸食は、ヨシ生育にあまり悪影響を及ぼさないが、マット植栽法では11cmの浸食部分においても78本という高い生育結果が得られたことも報告した。これらのことより、ヨシ植栽後の活着の成否は植栽工法のみでは決定されず、その後の水位や地盤の変化の影響下におけるヨシの生理・生態的特性によって決定されることが示唆された。
 一方、植栽法の検討に伴い、より確実に活着させることを目的に、消波柵や地盤に対する基材(マットやシートなど)の検討も行われている。一般に、ヨシの植栽後、波によって地盤が削られ、植栽した苗が流出すると言われており、これを防止するために、桜井21)は屑羊毛のマットレスや織りの細かいわら筵(むしろ)による植栽地の被覆や、杭と板による防波壁が有効と述べている。
 さらに、桜井ら36)は、深さ30cmのプラスチックポットに細砂と畑土を半分まで入れ、その上に綿、麻、ウールまたはレーヨンの8種類のフェルトマット敷き、再び土を入れた植え床を作成し、長さ30〜50cmに伸びた若いヨシを植栽した実験を行っている。その結果、地下茎の貫通状態や成長はウールで最もよく、他の材質については全体に著しい差がなかったことより、大型抽水植物の植栽時に用いる浸食防止用マットとしては、ウールマットが有望であると報告している。
 内田ら28)は、植栽に用いる幼苗生産(側枝を数多く得る方法)について検討し、倒伏法(現地にてヨシを倒伏させ節からの新たな直立芽を期待する方法)、刈取法(草丈100cmのヨシを地際から2/3の高さで刈取り、刈取後の節部からの側枝を期待する方法)、及び浸漬法(刈り取ったヨシを水に浸漬させることにより1つの主稈から数本の側枝を出現させる方法)を提案した。これらは、従来法(種子、発芽、地下茎、株植え)に比べ、労働力、コストの面で有利(特に浸漬法が優れている)であると考察している。
 吉良54)は、インタビュー記事の中でヨシを植える際、矢板など打って少し(地盤を)乾いたところで充分に定着させた後、水を導入する方法を提案している。
 水資源開発公団17)では、地盤と波に関する既存の知見を踏まえ、ヨシ植栽地の造成時には、湖岸から沖へ10mの区間についてB.S.L.0m付近で整地し、さらに沖に30m地点までの20mは、その先端でB.S.L.−0.8mとし、さらに、消波施設として木柵等を設置する方法を採用した(図2.2.16)。
 
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図2.2.16 ヨシ植栽地標準断面図(木柵タイプ)17)
 これに対して、辻田57)は、琵琶湖におけるヨシ植栽の問題点として、消波用の矢板や石敷きを植栽の沖側に配したことを挙げ、このために、沿岸から沖に向かって存在した緩やかな傾斜が、矢板を挟んで急激に変化したため、藻場とヨシ帯によって形成されていた汀の生態系を破壊していると述べている。








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