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3.既存インセンティブ手法の目的と分析 
(1)インセンティブ手法導入の背景と定義
[1] 背景及び基準の関係
 海洋汚染の防止については、船舶の安全性、運航、排出基準等に関する多くの国際条約が締結され、船舶の条約基準遵守について旗国及び入港国が監督する体制で行われてきている。規制基準の作成、改正強化及び実施により事故及び海洋汚染の減少を目指しているが、条約上の基準(スタンダード)を満たしていない「サブスタンダード船」は跡を絶たず事故等の原因となっている。このような認識を基本に近年注目されているのが「クオリティシッピング」の促進である。悪い方ばかりに目を向けることや、ぎりぎりのところで基準さえクリアすればよいということでなく、サブスタンダード船を排除しつつ海事産業全体としてのレベルアップを図ることを目的とした動きであり、1996年頃から国際的なフォーラムやセミナーにおいて議論され始めている。
 このような背景からインセンティブ手法は基本的に、国際基準(スタンダード)を満足しているだけでなくより良いものの促進を目指すものであると考えられる。
 
[2] インセンティブ手法の定義
 インセンティブ手法に関しては条約等による国際的統一は行われていないこともあり、明確な定義は見当たらない。本研究の質問票においてはインセンティブ手法について、クオリティシッピング促進又はサブスタンダード船排除等を目的とする何等かの優遇措置又は不利益待遇として、既存事例を示しつつ回答を求めた。
 また、インセンティブ手法としてインセンティブとともにディスインセンティブも含めている。「ディスインセンティブ」という語は一般的ではないが、優良なものを優遇するインセンティブの反対の概念として、優良でない対象に対する不利益取り扱い措置の意味で用いている。 
(2)既存インセンティブ手法の分析
[1] インセンティブ及びディスインセンティブ
 スウェーデンの環境差別化航路・港湾料金では、NOx、硫黄排出の多寡により段階的に差がつけられ優良なものは優遇され優良でないものは不利益待遇を受けるため、一概にインセンティブかディスインセンティブかは言い切れない。また、フィンランドの油濁防除金は、「全貨物倉二重船底に不適合の油タンカーで輸送した場合2倍額徴収」とされているが、二重船底タンカーは相対的に半額となるため、いずれを基準に考えるかによりどちらにも解釈可能である。
 アメリカのQUALSHIP21は、優良船舶へのPSC検査軽減制度だがPSC検査実施であるターゲティング制度と対をなし、全体としてPSC検査を手段としたインセンティブ手法の一つの制度と見ることも可能である。
 
[2] 経済的手段、検査及びその他
 経済的手段は各種料金及び税金でインセンティブとして減額対象とされる入港料、航路料金、トン数税、ディスインセンティブでは再検査費用、油濁防除課金がある。
 その他の手段として、名誉的とも言える取り扱いがある。QUALSHIP21では全ての対象船舶に対し認定書の発給と、USCGのPSCホームページ上への船舶名掲載を行っており、優良船舶であることが第三者にもわかる仕組みとなっている。
 
[3] 段階的インセンティブ付与
 付与されるインセンティブは1種類のものが多いが、環境差別化の名称のものはインセンティブが段階的に付与される。それぞれ対象をいくつかの要素で段階的に区分し、その程度に応じてインセンティブ付与の内容が段階的に変化するものである。
 ノルウェーの環境差別化トン数税では、環境要素の点数に応じて10段階に区分されており、スウェーデンの環境差別化航路・港湾料金では、NOx排出量に比例して単価が連続的に変化する。
 
[4] 制度運営者及びインセンティブ提供者
 制度の運営者は、基本的にインセンティブを提供する者である。PSC検査、船舶検査等に係るインセンティブ制度は検査権限を有している政府の運営、港湾関係の料金等は港湾管理者等の料金徴収主体である。
 例外的なのはGreen Awardで、認定及び制度全体の運営管理はオランダロッテルダム港にあるGreen Award財団という民間主体が行い、インセンティブを提供するのはこの制度に参加する各国港湾及び民間サービス団体で、運営者による認定と提供者が別という制度である。 
 








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