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(2)製作工程
 ここでは、イソブネの製作工程を、ムダマ部分の製作、船体部分の製作、船体の艤装に分けて紹介する。
1)ムダマの製作
 ムダマは2枚あわせで作るのが普通で、スミツケ、荒削りの後、乾燥を経てチョウアワセ(左右2枚をあわせてムダマを作る)を行う。
 
図7 ムダマ構成図
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図8 基準寸法図
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【ムダマの基準寸法】
 ムダマの原木を2本並べてスミツケする。ムダマの側面は、船底からの高さがミヨシの位置で4寸、ドウナカ(ムダマの長さの中間)で4寸、トダテの位置で5寸3分である。この際、トダテから3尺(普通はドウナカの幅分を見込む)の位置からオイアゲといって、ムダマの底を上げていき、トダテの位置で3寸5分高くする。
 ムダマの平面形は次の基準によって求める。今回造船し長さ16尺5寸、幅2尺8寸のムダマの場合、ドウナカ(ムダマの長さの中間)を最大幅の2尺8寸とし、トモの幅はその6割、トモのカナバンとオモテのカナバン(それぞれムダマが装着される位置)からドウナカの幅が左右7寸5厘の張りを持たせながら、トモのカナバンの幅よりオモテのカナバンの幅が1寸5分広くなるよう調整する。ミヨシの付け根は3寸3分である。トモのカナバンの位置は、トモから中心線の寸法で5尺5寸、オモテのカナバンの位置は、オモテからムダマの縁の寸法で6尺5寸である。トモからトモのカナバンまでは5分の張り、トモのカナバンからオモテのカナバンまでは7分5厘、オモテのカナバンからオモテまでは2寸2分のハリを持たせる。これらの位置を基準にして、シナイをまわして平面を求める。
 ムダマの内側は、オモテのバンを1尺5寸、トモのバンを1尺6寸とり、縁の部分の掘り残しを1寸3分とする。ムダマの深さは2寸5分で、底の厚さは1寸5分とする。ムダマの底面は横断面の中心部で、6分から7分高くなるように調整する。このことによって船の横揺れを押さえることが出来る。
【荒削り】
 余分な部分をマサカリで削り取る。材料を大切にするようになってからはノコビキした後マサカリやチョウナで整形するようになった。内側の彫り込みはマサカリ、チョンナ、モッタで削っていたが、現在ではムダマの内側をマサカリやノミ(電動ノコ使用する)で溝を掘り、そこからノコギリを入れて切り落としている。
【チョウアワセ】
 ムダマ材を乾燥させた後、ムダマ材を接合する。ムダマ材とムダマ材の接合をチョウアワセという。チョウアワセでは、バンギの上にムダマを立てて行なう。ムダマはカスガイやツカエボウで固定する。ムダマの形を整えた後、一方のムダマをバンギに固定し、接合面を成形する。その後もう一方のムダマをこれにのせ、クチヒキを用いて下方のムダマの接合面を上方のムダマにスミツケして、これに沿って成形した後スリアワセによって密着させる。スリアワセの後、金槌で接合面を叩き(キゴロシまたはダンジリという)、ウルシを塗ってから接合面を合わせ、オトシクギで接合した。スリアワセの前にダメアナを切り、ツバノミでオトシクギが通る穴を開けておく。
【ウルシの使用】
 ウルシはムダマやカイゴの接着に使用する。ウルシは使用するときに小麦粉をまぜて使う。練って垂らした時に切れない程度が丁度良い。また、フシダメ(節の部分の補修)に小麦粉を混ぜたウルシに木屑(ヌカ)をフルイにかけて通したものと混ぜたコクソウルシを使用する。
【仕上げ】
 カンナ、マルガンナで仕上げを行う。
2)船体の製作
【シタアバラの取り付け】
 イソブネのアバラは、ノセアバラという形式で、まずアバラを載せるアバラ台をムダマの部分に入れる。アバラ台はシタアバラともいい、ムダマの縁よりイタゴの分高くする。アバラの両側にはアカ(水)を流すガニメ (蟹目)を付ける。
【ミヨシとトダテの取り付け】
 ムダマのオモテとトモにそれぞれミヨシとトダテをたてる。ミヨシはムダマと接する位置で幅3寸3分で、先端に行くにしたがって少し広くなる。(ふつう五分広くする)ミヨシは1尺に対して7寸7分7厘のヒラキ(コロビまたはネセルともいう)をみるが、通常は7寸8分にする。下部は8寸ムダマに食い込ませる。トダテは1尺に対し6寸6分のヒラキとする。ヒラキの出し方は、たとえばミヨシ先端から錘を下ろし、先端から1尺の位置に印を付ける。その位置から、錘の糸に直角にマガリガネをあて、印と糸との長さがヒラキの値になる。これは、タナイタの取り付け等にも使用される方法である。
【ダイノセ】
 ミヨシとトダテを付けた段階で、日を選んでダイノセの祝いを行う。ここから本格的な造船工程に入る。ムダマを漁師自身が山取りしていた頃は、船大工がムダマの整形を始めるさいに、チョウナダテの祝いを行った。いずれも船大工が主催し、唱え事も船大工が行うのが古い形であるが、今回はダイノセと完成後のダイオロシは神職に依頼して行った。
【ウワダナの取り付け】
 ダイオロシの後タナイタを接合する。タナイタはムダマに仮止めし、内側からムダマのウワバに従ってスミツケする。これをジキガタという。この時にジュウガネでタナイタのヒラキを見る。ヒラキは、オモテのアバラの位置で1尺に対し2寸5分、トモのアバラの位置で2寸2分のヒラキを見る。
 カイゴの基準寸法はそれぞれムダマのウワバ(上面)からの寸法で計り、ムダマとの接合部分の重なりを別に見る。ミヨシの部分が、ミヨシの長さ(ムダマの付け根からの長さ)で4尺2寸の位置、オモテのカナバンの位置で9寸、トモのカナバンの位置でオモテのカナバンより8分低くし、トダテの位置でトモのカナバンより5分多くする。
 タナイタは一枚板で間に合うことは少なく、板をハギたして規定の大きさにする。カイゴの厚さは9分である。タナイタはトオシノコでスリアワセした後、オトシクギで接合する。ムダマは七寸五分の間隔で五寸のオトシクギを用いる。オトシクギを打つ穴はウメギをする。ウメギをダメという。
 ウワダナはムダマにトオリクギで固定する。トオリクギの間隔は4寸5分から5寸で、ムダマとタナイタの重なりは1寸2分から3分である。トオリクギを打ち込む穴は、ツバノミであらかじめ開けておく。接合に際しては、仮止めしたタナイタとムダマを、トオシノコでスリアワセする。接着剤としてウルシを用いる。トオリクギはムダマを突き抜けるようにし、内部で折り曲げて強度を高める。
 船首に近い部分のタナイタはヤキダメをして材をねじり、接合しやくする。
【アバラの取り付け】
 ウワダナを取り付けた後、シタアバラの上にノセアバラを取り付ける。アバラの厚さは1寸6分で、イタゴより1寸8分出るようにする。
3)船体の艤装
 アバラを取り付けた段階で、船体はほぼ完成した姿になる。イソブネの製作はこの後、ヨコモノと呼ばれるカンヌキやフナバリの装着、舵を差し込むトコ、タナイタを保護するコベリ類、推進具を取り付ける装置、船体装飾などを施して完成させる。作業の手順によっては、ヨコモノの後にアバラを入れることもある。今回の製作ではヨコモノの後にアバラを入れている。
【フナバリ】
 オモテにつけて帆柱を立てる穴を開ける。ウタセバリという。
【カンヌキ】
 カンヌキは、オモテとトモに取り付ける。オモテのカンヌキはシタカンヌキとウワカンヌキの2本取り付け、磯漁の際に使用するホコをかけるのに使用する。ウワカンヌキは最後の段階で取り付ける。
【トコ】
 トダテの後ろにトコを取り付ける。イソブネに帆を立てたときにはトコには舵穴を付けたが、現在は船外機を装着するため舵穴はなく、トモの幅も昔に比べると広くなっている。今回の造船では、カジアナと共に、櫓を使うためのログイも装着した。
【ケショウイタ】
 タナイタのトモの部分にケショウイタを取り付ける。
【コベリ】
 タナイタの外側の上部に幅2寸、厚さ9分のヌキダナ(ソトコベリ)を取り付け、その上にシタコベリ、その上にウワコベリを取り付ける。これに使用するクギはカヨリクギを用いる。オモテとトモのアバラの位置にカイジリを設け、それにタカマアナをあける。タカマアナはオモテのカンヌキ附近とムダマの先端部、トモと部分にも設けられる。これらのタカマアナはにはタカマを差し込み、クルマガイを取り付ける以外に、イカリ綱、ガラス(箱メガネ)等をくくり付けるのに利用される。
【ネリバ】
 トモの左舷にネリガイを差し込むネリバを取り付ける。
【オモテに化粧】
 船体に墨で化粧する。ミヨシの内側に人形状の飾りを描く。これはオトヒメサマ(フナダマサマ)といわれる。
【イタゴ】
 イソブネが完成した後イタゴを敷く。イタゴは主にスギを用いる。イソマワリの時のイタゴはオモテだけに敷く。
【推進具の用意】
 この後、クルマガイや櫓、カイ等の必要があれば製作する。漕ぐ位置や使用する人の体格、利き腕等を考慮して長さやねじりに変化を付ける。磯漁では帆を使う機会はあまりなかった。帆はヒバを使用した。








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