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3 津軽海峡沿岸のムダマハギ型漁船「イソブネ」の製作
(1)イソブネの概要
1)用途
 今回製作するイソブネは、海岸近くの磯で行う磯漁に使用する。津軽海峡沿岸ではこうした漁をイソマワリといい、昔は「ナギマミ」といった。ナギマミは、ナギマともいい、その名の通り「凪間」をみる漁業で、凪の間を利用し、船から海底を覗き見て行う漁であった。この名称は、相当の年輩者の記憶に残るもので、現在では統計上の名称として「ネツケ」「ネツケ漁業」という言葉が使われることも多い。
 イソマワリには、アワビ、ウニ、ツブ、テングサ、タコ、コンブ、ワカメなど多くの種類があるが、コンブ、ワカメをイソマワリに含めない考えもある。
 イソマワリは通常一人で作業する。これは熟練を要する技術で、その様子はトモ(船尾)の左舷から身を乗り出し、口でガラス(ガラスは箱メガネのこと)をくわえ、右手で右舷のクルマガイ、右足の膝(足にツマゴを履いていた頃はツマゴにクルマガイを固定した)で左舷のクルマガイを操作しながら海中を覗き、とる時には右手のクルマガイをはなし、両手でホコを使うというものである。
 作業の位置は、地域や時代によってはオモテ(船首)の右舷で行うこともあり、一定していない。
 函館市住吉では、イソマワリをソコミ、イソミといい、オモテの右舷で作業するのが普通で、体の小さい人がはトモの左舷で作業する場合があるという。この際には、トモでネリガイを使用する。
 また、近年ではイソブネに二人乗りで漁をする事が多く、漁場までは二人でクルマガイを漕ぎ、漁場に着いてからは、一人がオモテのクルマガイを操作し、もう一人がトモの左舷で作業する。これをトマイト、またはトモドリという。二人乗りは昔からある方法で、オモテの右舷で作業するときには、トマイトはトモでクルマガイを操作する。二人乗りの場合は「トマイトがついた」という言い方をする。トリテはガラスで海底を覗き、ホコは左手で持ち、トマイトには右手で合図する。トマイトは、シオや風の強い日に乗せる場合もある。
2)部分名称
 普通船体は、前部、中央部、後部の三部分に分けられる。この名称は、オモテ(表)、ドノマ(胴の間)、トモ(舳)と呼ばれる。船の左舷をオモカジ、右舷をトリカジという名称が一般的であるが、イソブネをはじめ漁船の場合は、作業する側の舷を表、反対側を裏にたとえて、マエフネ、ウシロフネという場合が多い。磯漁の場合、オモテの右舷で作業する場合は右舷がマエフネ、トモの左舷で作業する場合は左舷がマエフネとなる。カワサキなど櫓を使う船の場合は左舷がマエフネになる。
 ミヨシ(水押)船の船首の水切り部分をミヨシ(水押)、船の船尾の押えの部分をトダテ(戸立)という。トダテの後ろには舵(現在は船外機)を取り付けるトコ(床)がある。
 イソブネの内部に装着する肋骨様の材をアバラという。カワサキ等の大型船では補強材としてアバラの代わりにフナバリを入れる。タナイタの上部を補強するため取り付ける部材をコベリ(小縁)という。タナイタの外側に付くのがソトコベリ、タナイタとソトコベリの上に取り付けるのがシタコベリでその上にさらにウワコベリが付く。
 船を引き上げる時に、ロープを結んだりする横棒をカンヌキという。カンヌキにはオモテカンヌキとトモカンヌキがあり、帆を使用したときには、帆柱を立てるコシアテ(腰当)あった。これらは総称してヨコモノ(横物)といった。
 
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図6 船体詳細図
 
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完成したイソブネ側面
 
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後ろ側面より








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