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2. クリントン政権の過ちを正す
●米共和党政策綱領
原則を貫く米国のリーダーシップ
 米国にとって二一世紀はたぐいまれな期待をはらんで明ける。すべての大陸で民主的な価値観が称賛される。米経済界の生産性と独創性は世界の羨望の的である。情報化時代にあって米国の革新は世界を引っ張っている。新しい技術は、しばしば米国がインスピレーションを与えた着想の交流を加速させている。米国の国際的優位に挑戦する大国は存在しない。米国民が自身の将来を異例なほどに楽観視すべきあらゆる理由がある。
 これまでの歴史において、このようなまれに見る未来形成の機会を与えられた国はほとんどない。第二次世界大戦後でさえ、合衆国は分裂した世界と恐ろしい危険に対処しなければならなかった。今や米国は今後何十年間にもわたって、国際的な理想と制度の構築に手を貸すことができる。偉大な戦闘に勝利した諸世代から松明を引き継いだ米国の現世代は、同盟国や友邦とともに、これまでと違ったよりよい世界を建設し、米国の利益と諸原則を推進し、過ぎたばかりの世紀に大きな傷跡を残した経済的激動と危険な紛争を回避することができる。いかにも米国らしい国際主義を通して、共和党出身の新大統領は、われわれ、われらの子供、そして将来の世代のために、より平和的で繁栄する世界へと米国合衆国を導くことができる新しい戦略に、国民の支持を取り付けることであろう。
 ほぼすべての米国民が、世界で一国だけでは繁栄できないことを知っている。彼らは、米国が最も安全なのは、政治的・経済的自由、人間の尊厳、法の支配に対する深い信念を分かち合う国が増える時こそ、出現しつつある自由を基本理念とする仲間の社会に米国と共に参加する国が増える時であることを知っている。
 これこそ一九八一年から九二年に至る一二年間の共和党大統領統治下で起きたことである。冷戦は自由の勝利をもって終結した。ソビエト帝国は崩壊し、これに続いてソ連邦は歴史の一ページとなった。勝ち誇った北大西洋共同体は、統一ドイツと中東欧の新しい友邦を迎え入れた。イラクは弱肉強食の掟を押しつけようとして徹底的に打ちのめされ、その攻撃能力は砕かれた。アラブとイスラエルの和平プロセスは復活した。アジアの同盟関係と友好関係は堅固で、成功を収めた。メキシコは米国と前例のない新たな経済パートナーシップを結び、平和と民主主義が中南米地域に広がった。地球全域で、米国の言葉、理想、力が尊敬を集めた。米国の大統領の地位は輝かしく、確固としているように見えた。しかし、この八年間に、(クリントン民主党)政権はこれまでの世代の勇気と犠牲によって米国が得たものを浪費してきた。
▼(民主党)政権は不十分な資源、見境のないコミットメント、先を見通した軍事戦略の欠如を通して、この一〇年にわたって米国の防衛体制を荒廃させてきた。
▼米国に対する弾道ミサイルの脅威は一貫して否定され、このため米国が増大しつつある危険に対して自らを守る能力を持つ日が何年も遅れた。
▼政権の外交の傲慢さ、一貫性の欠如、信頼性のなさは米国の同盟関係を傷つけ、友邦を遠ざけ、われわれの敵を増長させてきた。
▼現政権が主催したシアトルでの世界貿易機関(WTO)の会合は壮大な失敗に終わった。新しい早期一括審議(ファストトラック)に対する交渉権限は議会で政権自身の党によってたたき潰された。米州全域にわたる自由貿易体制を確立するというイニシアチブは、この大統領のリーダーシップの欠如のために、行き詰まっている。
▼メキシコの抱える諸問題は無視され、われわれにとって必要不可欠な南の隣国は米国の助けをほとんど受けないまま、その恐るべき難問と苦闘している。
▼中南米の民主主義の潮は腐敗と麻薬取引の急増とともに引き始めている。
▼中国政策の誤りはクリントン大統領の北京訪問によく表れていた。この訪問では大統領の見るにたえないカウタウ(叩頭=頭を地面に打ち付けてする中国式の最敬礼)とわれわれの長年の同盟国、日本への公然たる侮辱が目立った。
▼軟弱で、あっちに行ったりこっちに行ったりのロシア政策によって、政権はロシア政府の最上層部の腐敗、チェチェンでの何千人もの罪のない民間人の殺害、イランやその他への危険なロシア技術の輸出から目をそらしてきた。
▼こけ脅しの一大合唱がバルカン諸国において米国の信用を台無しにし、安全な避難所となるはずだった地域が殺戮の場となってしまった。
▼政権は公然と米国の軍事的選択肢を制限すること―最高司令官(大統領)が決してやってはならないこと―によって、コソボでの戦争を長引かせた。
▼最初にインドとパキスタンが核実験を行い、次にイラクが国際社会に反抗したため、大量破壊兵器の拡散をとどめようとする一世代にわたる米国の努力は水泡に帰した。名ばかりのイラク空爆では―その時までは――野心的で残忍な暴君が新たに核・生物・化学兵器を入手することを少なくとも阻止してきた査察体制の崩壊を長く隠しておくことはできなかった。
▼ソマリアヘの人道的介入は勇敢な米国民の生命の犠牲の下に、考えもなく、国家建設活動へと拡大された。
▼ハイチヘの軍事介入は政権の優柔不断さと一貫性の欠如を露呈し、さらには何十億ドルもの支出にかかわらず、恒久的な価値を持つものを何も生み出さなかった。
 
 米国は焦点を見直すべき時である。ウィンストン・チャーチルは「イナゴが食い荒らした」それまでの時代を生きてきた後、「引き延ばし、中途半端な対応、おもねり当惑させる方策、遅延の時代は終わりつつある。これに代わって結果の時代に入ろうとしている」と宣言した。来るべき新しい「結果の時代」では無為無策が新共和党大統領に道を譲り、米国は八年前に失った希望を再び取り戻すことができる。われわれは我が国の国際的な目的意識と国家的な自尊心を回復することができる。
 共和党大統領は極めて重要な米国の国益を明らかにし、これを追求する。同大統領は優先順位を定め、これを守る。彼の指導の下で、米国は平和を築き、確固たるものにする。共和党はこの実現に何が必要かを知っている。それは力強い軍隊、強力な同盟関係、拡大する貿易、断固たる外交である。
 
二一世紀の軍隊
 共和党大統領と共和党の支配する議会は、情報時代に対応して米国の防衛能力を変身させ、浮上しつつある危険に対して米軍が引き続き圧倒的優位にあることを保証する。また、怠慢と誤った政策の組み合わせによって弱体化した防衛産業の活力を回復させる。これをすべて実行するには、米国はその軍事力と米国社会の強さを融合しなければならない。その強さとは熟練技能者、高度技術、およびぺースの速いシステムを強力なネットワークに組み込む熟達した力である。われわれは軍事技術における新時代の頂点にいるが、我が軍の強さが戦闘に当たる陸軍兵士、水兵、航空兵、海兵隊員にあることを忘れてはいない。
 米国民は自国の軍隊を誇りに思っているが、これは正しい。ところが今日、ペルシャ湾岸戦争の大勝利からわずか九年しかたっていないのに、米軍は即応態勢、士気、将来の脅威に備える能力といった面で諸問題に直面し、それは増える一方である。政権は国防支出を削減し、国内総生産に対する同支出の比率は真珠湾攻撃前以来の最低を記録している。同時に、現政権は、はっきりした目標、実現可能な目的、有利な交戦規則(ROE)、あるいは明確な撤退戦略がないままに、多くの作戦に米軍を場当たり的に派遣してきた。
 過去七年間に、縮小した米軍はその軍事即応態勢を蝕んできた展開の急テンポによって疲弊している。多くの部隊では作戦要求件数が四倍増え、兵員も装備も疲弊している。ようやく昨秋、陸軍は主要な戦闘師団のうち二個について、資金不足、管理ミス、世界各地の平和維持活動に対する過剰なコミットメントのために戦争準備が整っていないと認定した。このほかの陸軍部隊と他軍も同じような問題を報告している。陸軍の現役戦闘戦力のほぼ四分の一が戦時任務に適していないとは、国家的スキャンダルである。
 新しい共和党政府は、最高司令官、米軍、米国民の間に信頼の絆をよみがえらせる。軍は民間警察や政治的な審判ではない。われわれは軍がもはや社会的な実験の対象であってはならないと考える。われわれは、伝統的な軍の文化を訴えたい。また同性愛は軍務と相いれないと訴えるものである。
 共和党大統領と共和党議会の指導下の米軍は最も厳しい任務―戦闘を遂行し、勝利すること―に集中する。即応態勢がとれていれば、戦争は防げる。また、並外れた緊急意識を持ってこの最も過酷な任務に備えることによって、我が軍は、現在とは違って、その忠誠心と自己犠牲が意味と目的を持つことを知る。
 流動的な変化と不透明さの時代にあって、情報収集はまさしく米国の防衛の最前線である。現政権は、露骨なスパイ行為や国家安全保障関連輸出規制の事実上の放棄から政治の最高レベルでのあきれるばかりの杜撰さに至る一連のショッキングな安全保障面でのほころびを許し、その防衛を弱体化させてきた。これを直ちにやめさせなければならない。また情報関係諸機関を政治的な判断ミスのスケープゴートにしてはならない。議会と協力し合う共和党政権は、これらの公僕のニーズと誰も目を向けぬ彼らの犠牲精神を尊重し、米国の情報収集および防諜能力を強化するとともに、これら能力を将来の危険と対処する方向に立ち返らせる。
 共和党大統領は米国の軍事指導者に、今後何十年にもわたる米国防衛体制の新構造を想定することを求める。われわれの次期大統領はバランスをうまくとりながら、情報時代の戦闘に備えつつ我が国の通常戦闘技能を最高の水準に保つという必要を満たす。手当たり次第の展開の経費を賄うため、現政権の防衛予算はその種のトウモロコシを食べてきた―すなわち、近代化への支出を朝鮮戦争前以来見られなかった水準まで削り、我が国の防衛産業の活力を阻害し、ある政権当局者が将来の米防衛能力にとっての「デス・スパイラル」(死への悪循環)と認めたものを生み出した。われわれの精鋭戦闘部隊でさえ、基本訓練の資金を捻出するために樽の底をあさっている始末だ。
 
大量破壊兵器からの自由主義の仲間たちの保護
 弾道ミサイルと大量破壊兵器は世界の未来を脅かす。米国は現在、これらの脅威に無防備の状態である。政府は米国の核に関する機密を守れず、その結果、中国の弾道ミサイル戦力は現代化され、米国と同盟国への脅威を増大させた。死活的に重要な核機密を中国に盗まれたことは米国史上最も重大な安全保障上の敗北の一つを意味する。共和党の大統領が次期政権に就けば、核の機密を守り、われわれの核兵器計画の徹底的な再構築を果敢に推し進めるだろう。
 今日、二十数カ国以上が弾道ミサイルを保有している。そのうち北朝鮮を含む幾つかの国は、二、三年以内に、(米国が)ほとんど警報を出す時間もなしに米国にミサイルを撃ち込むことが可能になる。核・生物・化学兵器およびその運搬システムは世界各地に急激に拡散しており、米国は今やそれに対抗できなくなった。
 現政権の対応はこれまで時代錯誤的で、かつ政略色の濃いものだった。冷戦時代の思考方式と取り決めにがんじ絡めになり、新鮮なアイデアを寄せ付けず、新たに出現したミサイルの脅威に対応する賢明な戦略を開発できていない。政府は米国と同盟国をいかに守るかの十分な計画を持ち合わせていない。米国が未来に備えるためには、今のような後手後手で優柔不断ではなく、ビジョンを持ったリーダーシップが緊急に必要とされている。新しい共和党の大統領は国家安全保障上のため全米ミサイル防衛(NMD)を配備する。だが、そうすることの理由には、道義上の至上命題も含まれる。つまり、米国民は守られるに値するということだ。これは大統領の憲法上の義務である。
 米国は効果的なミサイル防衛をできるだけ早期に配備しなければならない。それは海洋配備のものを含め、利用できる最善の選択肢を検討し、それらを評価した上で行うべきだ。こうした防衛は「無法(アウトロー)国家」の攻撃や偶発的に発射されたミサイルから、全米五〇州はじめ海外に展開する米軍、自由共同体の友邦や同盟国を守るべく設計されなければならない。
 現政権は最初、全米ミサイル防衛システムの必要性を否定した。その後、共和党主導の議会が絶えず懸念を表明したにもかかわらず、配備決定を延々と遅らせた。現政権は、今や存在しないソ連と七二年に締結した時代遅れの条約を守ることに絶望的なまでに手足を縛られている。その上、ミサイル防衛の技術的可能性を積極的に探求しなかったことで自らを制約している。
 われわれは交渉の上で弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約を変更し、強固なミサイル防衛配備に必要なあらゆる技術と実験を行えるようにしたい。共和党は、現政権がABM条約の不十分な修正を協議すべきではないと考える。言い換えれば、次期大統領の手足を縛り、自国の防衛を妨げるような欠陥を抱えた合意をわれわれに残すべきではないということだ。米国は政治的ご都合主義にこたえたシステムではなく、最も役に立つシステムを選択できなくてはならない。ロシアが必要な条約変更を拒否した場合、共和党大統領は条約で保証されている通告半年後の条約離脱権を行使する旨、ロシア側に直ちに伝えるだろう。大統領が負っているのは米国民と同盟国の保護という厳粛な義務であり、三〇年近く前に調印した軍備管理取り決めではない。
 防衛システムに関する明晰な思考には、攻撃システムに関する最新の戦略が伴っていなければならない。米ソ双方で核兵器の大量備蓄につながった冷戦の論理は、今や時代遅れとなり、現実には兵器や核物質が米国の敵の手に落ちる危険を高めている。ロシアは大いなる敵ではない。米国の核による対抗という脅しが欧州の心臓部で敵対する膨大な軍部隊を抑止した時代もまた、過去のものだ。米国の安全保障はもはや、かつての核による恐怖の均衡に依拠する必要はない。過去ではなく、現在、未来の脅威から身を守る時である。
 核抑止力の必要性を再検討する時期は過ぎ去った。共和党大統領は米軍指導者や議会と協力しながら、我が国の核戦力の在り方を再評価し、われわれの安全保障に合致する最小限の核戦力を追求するつもりだ。われわれは恐ろしい兵器をさらに数千個、安全に削減することができるし、そうすべきだ。冷戦時代、米国は当然ながら欧州で通常戦争が起こる危険を心配し、核による均衡を必要とした。当時はそれに意味があったが、今はそうではない。
 大量破壊兵器によってもたらされた新たな脅威と戦うための包括的戦略は、こうした兵器の拡散を封じ込め、阻止するさまざまな措置を含んでいなければならない。われわれは核拡散のもくろみを抑止し、打ち砕くために、政治的、経済的、軍事的な手段を使った現実的戦略をつくり出す必要がある。それには友邦と同盟国の協力が必要で、ロシアと中国の協力も求めるべきである。われわれは無頼(ローグ)国家、テロ組織双方からの脅威に対処する必要があり、その運搬手段がミサイルや航空機、船舶コンテナ、あるいはスーツケースのいずれであっても同じである。
 こうした文脈で考えると、包括的核実験禁止条約(CTBT)は時代遅れの戦略思考であり、いわばもう一つの時代錯誤である。CTBTは検証不能で強制力もないし、米国の核抑止力の信頼性を保証するものでもない。CTBTはまた、核拡散の本当の危険に対応していない。本当の危険とはすなわち、イランやイラク、北朝鮮のように危険な兵器開発計画を軟弱な国際条約の後ろに隠そうとする無頼政権のことである。われわれは核兵器の拡散と戦うべきであり、無頼国家が賢明でない取り決めのおかげで逃げおおせることを望むわけにいかない。上院の共和党議員はそのような考えから、責任をもって対応し、CTBTを拒否した。
 核・生物・化学兵器やその運搬手段のなし崩し的な拡散に対する米国の戦いは弱体化しているが、新しい共和党大統領はこれを一新する。弱体のリーダーシップ、そして現政権の怠慢によって、宇宙からの諜報システムを含む米国の情報収集能力は減退した。その結果、イラクによる化学・生物兵器開発計画の再開、インドの核実験、北朝鮮の三段式弾道ミサイル実験などの大量破壊兵器拡散の衝撃が繰り返された。新しい共和党政権は、議会と歩調を合わせながら各情報機関に指導権と資源、そしてこれら機関が必要とする一定の作戦行動の自由を与える。
 
太平洋を挟んで
 次期政権における共和党の優先事項は、明快なものになろう。われわれは日本との同盟関係を強化する。朝鮮半島での侵略の抑止に力を貸す。また、地域における大量破壊兵器やその運搬システムの拡散に立ち向かい、同盟国と協カして効果的な戦域ミサイル防衛(TMD)を展開する。台湾海峡の平和を促進する。東南アジア諸国との関係を再構築する。
 日本は米国のキーパートナーであり、米日同盟はアジアの平和と安定、安全保障、そして繁栄にとって重要な礎である。米国はアジア太平洋地域の繁栄と貿易を拡大させる牽引役になり得る日本、経済的に活気に満ち、開かれた日本を支持する。
 韓国は米国にとって大切な民主的同盟国である。一方、北朝鮮は国際秩序のらち外にいる。米国民は過去、北朝鮮による侵略を阻止するために血を流した。朝鮮戦争勃発から五〇年を経て、共和党はこの"忘れられた戦争"を思い出している。米国人は過去の犠牲に敬意を払い、今日においても侵略への備えを維持すべきである。朝鮮半島の平和を守る方針は、韓国や日本をはじめとする同盟国と歩調を合わせながら形成されるだろう。明確にしておかなければならないのは、米国が決然たる意思を持った政策を取っていくということだ。米国は誓約を守り、大量破壊兵器を含む敵の攻撃を阻止・抑止し、自国と同盟国を守るために必要なあらゆる手段を取るだろう。
 アジアにおける米国の主要な課題は中国である。中国は自由な社会ではない。中国政府は国内では政治的発言を抑圧し、また、近隣諸国を不安定にしている。宗教の自由を抑え込み、大量破壊兵器を拡散させている。
 中国は過渡期にあるとはいえ、米国の中国に対する政策は断固、かつ不変であるべきだ。米国は自由で繁栄した中国が現れるのを歓迎する。紛争は不可避ではないし、米国は中国に脅威を与えてはいない。共和党は中国のWTO加盟を支持するが、これは、中国の人権状況の改善と危険技術の拡散停止へのわれわれの要求を他のものに置き換えるものではないし、そうしたわれわれの決意を弱めるものでもない。米国にとって中国は、戦略的パートナーではなく、戦略的競争相手である。悪意を持って中国に対応するつもりはないが、幻想を持つこともない。新しい共和党政府は中国の重要性を理解してはいるが、アジア政策の中心には据えない。
 共和党大統領は、米国の長年の友人であり真の民主主義を持つ台湾人民との約束を尊重する。ほんの数カ月前(三月一八日)、台湾の人々は自由・公正な選挙によって新しい総統を選んだ。台湾は米国の強力な支援に値する。台湾の安全を高めるための防衛兵器の適時売却もその支援に含まれる。
 われわれは世界経済における台湾の重要性が高まっていることを認識しており、WTO加盟を支持する。世界保健機関(WHO)やその他の国際機関への加盟についても同様である。
 米国は一つの中国という考え方を認めている。しかし、われわれの政策は、中国による台湾への武力行使があってはならないとの原則に基づいている。われわれは北京が、自由な台湾人民に対して自らの支配を押し付ける権利を拒否する。台湾の将来に関するあらゆる問題は平和的に解決されなければならないし、台湾人民に受け入れられるものでなければならない。中国がこれらの原則を侵犯して台湾を攻撃すれば、米国は台湾関係法に従って適切に対応する。米国は台湾が自らを防衛するのを助けるだろう。
 ロシアは、ますます平和となった世界が実は過渡期の世界でもあることを思い起こさせるもう一つの存在である。もし、同国が自国民およびその豊富な資源が持つ莫大な潜在力に気付くことができれば、現在は軍事力の大きさによってのみ定義されている同国の偉大さを別の方法で達成できるだろう。同国は、超大国となる潜在力を保持しており、そのように扱われるべきだ。ロシアに関して、米国は忍耐強く、一貫性を持ち、民主勢力と原則に基づいた信頼関係を築く必要がある。
 米国自らの国家安全保障は、ロシアとの関係の中で最優先のものである。両国は重要な共通の利益を共有している。両国は、既に意味を失ったイデオロギー上の対立の遺産に直面している。それは何千発もの核兵器である。ロシアの場合、核兵器は完全には安全に保管されているとは言えない可能性がある。そしてわれわれはまた、無頼国家や核兵器の盗難、偶発的な核の発射といった新たな脅威にも直面している。ロシアは自国のため、そして米国のためにも、大量破壊兵器の拡散を助長する行為をやめなければならない。
 民主的で安定したロシアの発展は、米国と全欧州の利益にもかなう。しかし、民主主義を希求する闘いは、ロシア人の手によって勝ち取らねばならないものである。われわれは、同国を外部から作り直そうとする誤った試みを避けなければならない。クリントン政権のドン・キホーテ的な現実離れした努力は、腐敗したエリート層を支え、信用を失墜した勢力および失敗した政策と米国を同一視させ、反米主義を助長させただけだった。
 法の支配は、国家が後援する野蛮行為と両立しない。ロシア政府がチェチェン共和国の民間人を攻撃する時、つまり、区別もしくはアカウンタビリティー(説明責任)なしに無実の人々を殺害し、孤児や難民をなおざりにする時、ロシアは国際金融機関からの援助をもはや期待できない。モスクワは、文明国らしい自制をもって行動する必要がある。
 ロシアはまた、イランヘの核や軍事技術の輸出においても、そのような自制を示すべきである。イランが国際的な無法者である限り、そのような技術移転を防ぐことは、米国の政策の優先事項でなければならない。
 
テロリズムと国際犯罪、サイバー関係の脅威
 米国は、新たに急速に広がっているテロと国際犯罪の脅威に直面している。この脅威に立ち向かうためには、新たな対抗策だけではなく、一貫した政策と米国指導部の決意が求められる。
 多くの既存テロリスト・グループは、冷戦が終結した一九九〇年代に消滅した。しかし、この一〇年間は、米国に対して、非常に破壊的な攻撃が何度か加えられた期間でもあった。ますますテロリストの犯行の動機は、特定の政治的な目的ではなく、明確な形のない宗教的な理由もしくは米国に対する単純な憎悪の念に基づいているように見える。
 米国はテロリストが将来、大量破壊兵器を使用する可能性について、最大限の警戒を怠ってはならない。そうした兵器は、ますます入手しやすい状況にあり、前例のない脅威を米国に与えている。米国は多くの場合において、伝統的なドクトリンを再検討し、テロの阻止や要員による情報収集、非通常戦争に焦点を当て始めなければならないだろう。
 共和党は、一九八五年にテロ対策委員会(委員長=当時のジョージ・ブッシュ副大統領)によって打ち出されたテロ防止政策の四原則を支持している。その内容は、第一にテロリストに譲歩しない。テロに屈することは、将来のテロリストの行為を鼓舞し、米国の力と道徳的な権威を低下させるだけだ。第二に、われわれは、テロを支援する国家を孤立させ、圧力を掛け、処罰する。第三に、われわれは、一人一人のテロリストを裁判にかける。既に犯罪を犯し、もしくは将来その可能性のあるテロリストは、米国が決してテロリスト狩りをやめないことを知ることになる。第四に、われわれは、テロリズムと戦う他国の政府を支援する。国際的なテロリズムとの戦いには、国際的な協力が必要である。再び、同盟国が重要となるのだ。
 サイバー空間の分野ほど、クリントン政権が米国の国益を保護することに及び腰になっている分野はない。米国人は最近、アマチュアによる侵入や大規模な妨害に対して、米国の情報システムが非常に脆弱であることを目の当たりにした。頭脳派のテロリストもしくは敵国政府は危機の際、電力もしくは軍事的な兵站システムのような重要な米国のインフラを機能不全に陥らせる危険性を潜在的に持っている。新しい共和党政権は、広範なサイバー脅威に対する米国の脆弱さを減らすため、国際的なパートナーや民間機関と密接に協力し、実行可能な戦略を考案して実施していく。
 
原則にのっとった米国のリーダーシップ
 米国人は、国際社会における自らの役割について、楽観的でいられる正当な理由を持っている。歴史上、ほとんどの国は、現在の世代の米国民に付与された、未来を形作る広範な可能性は与えられていなかった。揺れが大きく、曖昧な態度を取るクリントン現政権の退出後、米国は、この新時代かつ新世紀が持つ非常に多くの好機を当てにすることができるのである。かつての世代は、偉大な挑戦を通して米国を守ってきた。今日の世代は、経済や社会、技術、兵器で大きな変化がある中で、米国を繁栄に導くことができる。
 共和党には戦略がある。それは、力と理想についての伝統的な真理を思い起こさせるものであり、それらをネットワーク化された市場や現代の外交、ハイテクによる戦いの場に適用する戦略である。共和党政権は、賢く力を行使し、優先順位を設け、オープンで自由な社会制度を築き上げる。そして、将来に投資していく。共和党の大統領と議会は、長期間存在しなかった国家統治の一体性を達成できる。われわれは、世界中の友邦と同盟国との自由の仲間意識で結束した、自信を持った米国を見るだろう。われわれは明確な、いかにも米国らしい国際主義にしっかり基づいた、尊敬される米国のリーダーシップの回復を思い描いている。
 








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