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4.2 MCPVT圧力容器試験の研究−2
株式会社カヤテック厚狭事業所
4.2.1 緒言
 国連勧告において自己反応性物質に対して規程されている圧力容器試験はオランダ式圧力容器試験、ケーネン試験及びアメリカ式圧カ容器試験であるがこれらは次に述べる幾つかの問題点を持っている。
・圧力容器はバーナー加熱のため加熱の均一性、安定性に欠け結果の再現性に乏しい
・オリフィスの目詰まりにより誤った判定をする
・昇温速度が遅く、測定時間が長い
・判定基準が定性的である
 圧力容器試験のこのような問題点を改善するため国連危険物輸送専門家委員会において試験方法の統一が考えられ、日本はMCPVT(Modified Closed Pressure Vessel Test)圧カ容器試験を提案した。
 MCPVT圧力容器試験は密閉下において電気による均一加熱を行って試料の熱分解に伴う圧力上昇挙動を計測することにより加熱に対する危険性を検討するものであり、従来の方法よりもその妥当性は高く評価されている。
 現在、国連においてMCPVT圧力容器試験のラウンドロビン試験が予定されていることから国内における当該試験の実施体制を整え、日本提案の優位性を示すためにも調査研究とデータ収集が必要となった。
 
 なお、本調査研究テーマは、前記「MCPVT圧力容器試験の研究一1」と同等のものであるので説明部分はかなり短縮したが、単独に読んでも理解できる程度に重複記載を行った。
 連携しながらも視点の異なった報告となっているので両報告文を合わせて「MCPVT圧力容器試験」調査研究報告となること及び重複記載部分があることについては、ご理解をいただきたい。
4.2.2 調査研究課題の概要
(1) 国連ラウンドロビン試験に対応出来る機器設備の設置と試験手順の習熟
(2) 試験結果に影響を及ぼす要因の検討と国内クロスチェック試験の実施
(3) 従来試験方法との相関の検討
(4) 標準試験条件及び判定基準の検討
(5) 大きな加熱速度を得るための小型圧力試験容器採用の検討
 本年度は初めてMCPVT圧力容器試験を調査研究することから(1) (2)について実施検討を行った。
4.2.3 MCPVT圧力容器試験の研究
4.2.3.1 試験装置
 MCPVT圧力容器試験は外部からの加熱により密閉条件下で反応性物質が熱分解した時、どのような危険性があるかを判定するものである。圧力発生挙動に影響を及ぼす因子として[1]昇温速度、[2]試料量、[3]圧力容器サイズ がある。当該機器は電気加熱による均一性と再現性の担保、加熱分解反応に影響しない石英製容器を使用する等により外部条件を固定し、物質の分解に伴う圧力上昇挙動を計測する仕様となっている。また、試験実施上の観点から小型試験装置、試料容器の使用が望ましい。また、安全上の問題を考慮して安全弁を取り付けた。
 なお、危険物輸送国連対応委員会「圧力容器部会」において検討された試験条件は次の通りである。
[1] 昇温速度 2.0、5.0、10.0、15.0℃/min.
[2] 試料量  0.5、1.0、1.5、2.0g
[3] 圧力容器サイズ6.8ml
この中で消防研究所は[1]昇温速度10.0℃/min、[2]試料量 1.0 g、[3]圧力容器サイズ6mlを標準条件として採用している。当危険性評価部会においても初期標準試験条件として消防研究所のデータを採用することとし、機器装置の仕様を決定した。
 圧力容器試験による物質の加熱分解による圧力上昇挙動を評価する因子として最大圧力(Pmax)、最大圧力上昇速度(dp/dt)maxが適当と考えられこれを選択することにした。
 当該圧力容器試験装置は圧力容器、加熱装置、圧力変換器、温度センサー及び計測記録装置から構成される密閉式低速加熱装置であり、仕様については過去の事例などを参照し改良、作業性の向上を計った。
 当該試験装置については社団法人日本海事検定協会、株式会社カヤテック厚狭事業所において同一仕様の物を設置し、試験条件を統一し、ハードとソフトの両面から試験結果を評価できる体制の確立を目指した。
 MCPVT圧力容器試験装置は調査研究の経緯から日本提案装置である消防研究所図面による装置の発注を行い、発注先も消防研究所と同一メーカーとした。
 電気炉部分についてはブランク測定及び2検体同時測定を考慮して2個掛けの電気炉とした。200V、1.8kW×2 カートリッジヒーターを使用している。装置の冷却はスポットクーラーで行った。
電気炉に圧力容器を収納すると圧力容器上部が開放状態になるので、試験時にはその部分に真鍮製ヒーターを置いて加熱し更にグラスウール製カバーにて保温することとし、圧力容器全体の温度を均一に保持することとした。
 圧力容器の材質は容器上部SUS316、容器下部Ni-Cr-Mo鋼SNCM439(耐用温度350℃)である。
 試験データは記録計からフロッピーディスクに入力しパソコンで解析処理した。
 
4.2.3.2 試験装置及び器具の例示
[1] MCPVT圧力容器試験装置 :多摩精器工業株式会社 (添付資料No-1参照)
[2] 圧力試験容器(内容量6ml) :三光精密工業株式会社 (添付資料No-2参照)
[3] 記録計:8835Memory Hicorder 日置電機株式会社
[4] シグナルコンディショナー:CDV-700A 共和電業株式会社
[5] 圧力センサー:PE-100KP及びPHS-50KA-P 共和電業株式会社
[6] 熱電対:TD・11S・016350KC46・0 株式会社シマデン
[7] 圧力導管:1/16インチ(外径1.6mm、内径1.15mm SUS製)
[8] 石英器具:試料充填用(5ml)、熱電対保護用(添付資料No-2参照)
[9] 密閉パッキン
[10] 破裂板(Ni-Mo)20℃、360bar
 装置の密閉性確保の観点から容器上部分の試験毎の取り外しは行わない事とした。導管部分を試験毎に脱着していたのでは気密性が保たれない。従って、容器上部は加熱装置直上に常時吊り下げる形で設置することにした。また、容器下部との脱着も前記制限により電気炉直近に固定工具を用意することで対処した。
 試験後のガス抜きを考慮して容器上部にガス抜きコックを付けた。
 添付資料No-1の写真4〜7に電気炉制御部、電気炉、装置組み立て、試験前の状況を添付資料No-2の写真8に圧力容器の状況を載せた。
 
4.2.3.3 測定試料
 測定試料として、次の12品目を使用した1)
[1] TBPA t-Butyl peroxyacetate 純度50.3% 液体中温活性型触媒として広い用途を持つ。純品は爆発性を持つ危険性の大きな過酸化物であり50%以下にて希釈して市販される。引火点40℃(クリーブランド開放式)、発火点360℃以上(クルップ)温度上昇や異物混入により自己発熱分解を起こす自己反応性物質を含む。可燃性物質や還元剤を酸化し発火に至るおそれがある。
[2] CHP Cumene hydroperoxide 純度83.2% 液体引火点60℃、熱分解する。10時間半減期温度158℃。容易に着火し激しく燃える。酸、重金属により容易に分解する。
[3] BPB t-Butyl peroxybenzoate 純度99.0% 液体熱・衝撃に安定で使いやすい過酸化物である。引火点93℃(セタ密閉式)、発火点360℃以上(クルップ)、融点8℃。温度上昇や異物混入により自己発熱分解を起こす自己反応性物質を含んでいる。可燃性物質や還元剤を酸化し発火に至るおそれがある。
[4] BPD Di-t-butyl peroxide 純度99.9% 液体高温分解性で温度に対して安定であり、重合開始剤、架橋剤として広く使用されている。一方、揮発性が高く、引火点が低い性状を有する。
[5] DBT 02,5-Di-methyl-2,5-di-(t-buthyl peroxy)hexane-3 純度85.5% 液体
[6] MEKP Methyl ethyl ketone peroxide 活性酸素量10.4% 液体引火点58℃以上。自然分解の傾向があり、40℃以上に加温されると分解が進み80〜100℃では激しく発泡して分解する。110℃を超えると猛烈な白煙を発する。常温においても酸化鉄、ボロ布などと接すると分解する。
[7] DCP Di-Cumyl peroxide 純度99.9% 粉体
[8] BPO Benzoyl peroxide 純度74.3% 粉体融点103〜105℃、常温では安定であるが乾燥状態のものは摩擦・衝撃・加熱により爆発する。酸化性が強く有機物質または酸化されやすい物質と接触すると火災又は爆発を起こす。
[9] TCP Bis-(4-t.butylcyclohexyl)peroxydicarbonate 純度97.3% 粉体
[10] POL Lauroylperoxide 純度99.3% 粉体融点53〜55℃、衝撃に対して極めて安全である。
[11] ADCA Azodicarbonamide純度98.0%粉体分解温度204〜210℃、ガス発生量190〜210ml/g(0℃、101.3kPa換算)。極めて安定で引火性がない。貯蔵安定性は極めて良く取り扱いも容易で発火性のない唯一の発泡剤である。
[12] AIBN 2,2-Azobis(isobutyronitrile)純度97.0% 粉体融点100〜103℃試料 [1]〜[10]:化薬アクゾ株式会社工業品、試料[11]、[12]:和光純薬工業株式会社試薬
 
4.2.3.4 予備検討
(1) 圧力試験容器の改良
 三光精密工業(株)より購入した試験容器は、試料充填部のガスケット締め付け部が鋭角な傾斜で尖っており(写真1)、締め付け時にガスケットの変形及び刃こぼれにより圧力漏れを生じていた。圧力漏れを防ぐ為、改良1:平坦に研磨したもの(写真2)、改良2:丸く研磨したもの(写真3)を用意して種々のガスケットを試作し気密性を検討した。
 改良1の容器では、銅製のこ歯形(日本バルカー工業製:バルカーN o.540)及び改良2の容器では銅平形(大阪バルブフィッテイング:Cu-12-VCR-2)のガスケットが最適の結果であった。銅製のこ歯形は規格サイズがなくコスト高になる為、改良2の容器を試験に用いることにした。
 
(2) 圧力試験容器の気密性耐圧テスト
 丸く研磨した改良2について気密性耐圧テストを実施した。容器にN2圧10Mpaを封入し水没させて10分間保持(多摩精器工業に依頼)し気密性が確認された。又、温度条件下での気密性として、容器に水3mlを注入し10℃/minの条件で昇温し、250℃で10分間保持して水の理論蒸気圧と比較して容器の気密性を検討した。その結果、図1に示すように、理論値と同様の圧力曲線を示すことが判り容器の気密性が確認された。
 
(3) 電気炉の昇温能力確認
 電気炉温度制御部の昇温プログラムを下記条件に設定し、昇温能力の確認を実施した。石英製試料容器に、フタル酸ジブチルを1g秤り取り、圧力容器試験装置にセットし熱電対の出力を記録計に記録する。フタル酸ジブチルが50℃から250℃まで上昇する時間を計測し、その間の昇温速度を計算した。
 測定温度範囲:室温〜500℃
 保持時間  :5min(500℃保持)
 
設定昇温速度
  (℃/min)
測定結果
(℃/min)
10 11
30 28
45 33
60 32
 
昇温速度10℃/min及び30℃/minでは、ほぼ設定値の測定結果を示し、
 30℃/minまでの昇温速度能力は可能と思われる。
 
4.2.3.5 MCPVT測定条件の検討
(1) 測定条件
 測定条件は消防研究所提案の標準測定案を参考に下記条件に設定した。測定に際しては、試料は試料用石英容器及び試料温度計測用熱電対は石英保護管にてカバーを施した。
 試料量     :1g
 昇温速度    :10℃/min
 サンプリング速度:1msec
 サンプリング時間:5sec
 
(2) 最大圧力上昇速度を算出する際のスムージング方法
 最大圧力上昇速度(dp/dt)maxの算出において、試料2及び試料3を用いべースライン変動を平坦化するのに適したスムージングポイント数の比較を実施した。サンプリング速度1msecで取り込んだデータの圧力上昇を要した時間(1msec)で除した値を10,20,30,40ポイントずつスムージングして圧力上昇の最大値を読み取り、最大圧力上昇速度とべ一スラインの変動を比較した。
 
試料
No
略称 試料名 最大圧力上昇速度(Mpa/sec)
ポイント数
10 20 30 40
2 CHP Cumene hydroperoxyde 6.1 5.2 5.2 5.1
3 BPB t-Butyl peroxy benzoate 45.0 44.4 43.8 43.2
 
スムージングポイント数が多くなるにつれて、最大圧力上昇速度値が若干低下するが、最大値付近の数値変動及びべースライン変動を勘案してスムージング数30ポイントに決定した。
各ポイント数のべ一スライン比較チャートを添付資料No-3〜4に添付した。
 
(3) 測定結果
 最大圧力上昇速度:(dp/dt)maxはスムジーング方法検討3.4.2.の結果より30ポイントをスムジーングしてべース変動を平坦下にした後、最大値を読み取った。最大圧力は測定圧力値の最大値を読み取った。測定結果を下表に示した。

試料
No
略称 試料名 最大圧力上昇速度 最大圧力
(Mpa/sec) (Mpa)
1 TBPA t‐Butyl peroxy aceteate 3.8 2.5 2.5 2.2 2.0 2.1
5.3 2.8   2.5 2.1  
2 CHP Cumene hydroperoxyl 5.3 11.8 7.8 2.1 2.6 2.4
5.0 5.6   2.1 2.2  
3 BPB t‐Butyl peroxy  benzoate 43.8 42.9 45.1 4.7 4.5 4.7
4 BPD Di-t-butyl peroxyde 4.7 7.1 4.6 3.7 3.9 3.4
5 DBTO 2,5-Di-metyl-
2,5-di-
(t-buthyl peroxy)hexane-3
85.4 82.5 76.7 8.3 8.2 7.8
6 MEKP Methyl ethyl kentone peroxide 21.5 20.2 22.9 3.4 2.9 3.3
11.9 16.4   3.3 3.3  
7 DCP Di-Cumly peroxyde 4.6 4.7 5.3 1.2 1.3 1.3
8 BPO Benzoyl peroxide 48.1 45.6 48.1 3.9 3.7 3.8
9 TCP Bis-(4-t-butyl-cyclo hexil)
peroxy dicarbonate
22.4 23.2 21.6 2.3 2.4 2.2
10 POL Lauroyl peroxide 5.1 5.1 5.0 1.8 1.7 1.7
11 ADCA Azodicarbonamido 49.3 51 47.7 8.6 8.2 8.6
12 AIBN Azobisisobutyronitrile 51.8 56.8 65.5 4.9 5.0 5.5
65.9     5.5    
 
[1] 最大圧力上昇速度及び最大圧力ともにほぼ再現性の良いデータが得られた。
[2] 最大圧力上昇速度に変動が認められた試料2(添付資料No-5参照)及び試料6(添付資料No-7参照)では圧力上昇ピークが1ピークと2段ピークとなった。
[3] 圧力センサー位置は試料1〜10が約30cm、試料11〜12が約15cmでの測定値を記載した。各試料の測定チャートの代表例を添付資料No-5〜9に添付した。
 
(4) 昇温速度が測定値に与える影響
 昇温速度の変動が測定値に与える影響を3試料用いて検討した。標準測定条件の前後3水準に設定し、試料量及び他の測定条件は3.4.1.に示す測定条件に準じた。測定結果を下表に示した。

 
試料No 略称 試料名 昇温速度
(℃/min)
最大圧力上昇速度
(Mpa/sec)
最大圧力
(Mpa)
2 CHP Cumene hydroperoxyl 2 2.9 2.9 2.1 2.2
5 8.7 10.4 2.8 3.0
10 11.8 7.8 2.6 2.4
15 14.9 22.8 3.2 3.7
3 BPB t‐Butyl peroxy benzoate 2 20.3 26.1 4.3 4.4
5 49.8 53.1 5.0 5.1
10 43.8 45.1 4.7 4.7
15 56.4 56.8 5.0 5.2
8 BPO Benzoyl peroxide 2 46.4 49.3 3.9 3.9
5 46.0 44.8 3.7 3.7
10 48.1 48.1 3.9 3.8
15 51.4 55.4 3.9 4.1
 
[1] 昇温速度を変動した測定においても2回の測定値に再現性の良い値が得られた。
[2] 試料2では昇温速度が15℃/minの条件で2回とも1ピークとなり高い値となった。また、試料2は他の試料と比較して最大発熱速度での温度が変動しており、測定値に影響していると予想される。
[3] 昇温速度2℃/minでは2試料において極端に圧力上昇が低下した。
[4] 昇温速度が速くなると圧力上昇速度がやや高くなる傾向を示した。相関図を図2に示した。
 
(5) 試料と圧力センサーの距離が測定値に与える影響
 圧力試験容器導入時に付属した圧力導管(長さ:約35cm)を使用して測定を実施したが圧力センサーへの距離が測定値に与える影響を検討した。導入時の圧力導管を使用した場合は圧力試験容器上部から約30cm付近に圧力センサーが位置するが、圧力試験容器上部から約15cmの距離に圧力センサーが位置するように調整して、5試料の最大圧力上昇速度及び最大圧力値を比較した。測定条件は3.4.1.の標準条件に準じた。測定結果を下表に示した。
 
試料
No
略称 試料名 最大圧力上昇速度(Mpa/sec)
圧力センサー位置
15cm 30cm
1 TBPA t‐Butyl peroxy aceteate 10.8 13.7 3.8 5.3
2 CHP Cumene hydroperoxyl 17.8 18.7 11.8 7.8
3 BPB t‐Butyl peroxy benzoate 57.6 62.6 43.8 45.1
6 MEKP Methyl ethyl kentone peroxide 31.5 36.9 21.5 22.9
8 BPO Benzoyl peroxide 45.6 48.1 48.1 48.1
 
[1] 4試料において、圧力センサー位置が短距離になると最大圧力上昇速度、圧力とも差が顕著に認められ、今後のクロスチェックには圧力導管の長さを一定にする必要が確認された。
[2] 圧力上昇速度ピーク及び測定値に変動が認められた試料2と試料6において、2回の測定値に再現性の良い値が得られた。
[3] 圧力導管が長いと導管内で凝縮等を生じ、圧力上昇速度及び圧力ともに低下するものと思われる。相関図を図3に示した。








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