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第5章 重点プロジェクトの展開
 4章で示した本市の若者定着促進施策体系のなかから、官民双方の意識改革と協働の取組を強化し、効果の複合性・波及性があり、かつ着手の容易性・実現性が高い施策を「重点プロジェクト」として設定し、その目的や具体的な内容、推進の考え方を先進事例の紹介などを交えながら、提案する。
1 重点プロジェクト設定の視点
 重点プロジェクトは、若者定着を促進する課題に対して、複合的・波及的な推進効果をもつ必要がある。
 本市の若者定着の課題は「若者が住んでよく、訪れてよいまちづくり」であり、具体的展開メニューは、若者定着ニーズをふまえて、先にテーマ別で示したとおりである。
 そのプロジェクト展開の視点は、官民双方が若者定着の意義を理解し、次の視点に沿うものとする。
(1) 意識と仕組み変革の可能性
 若者定着を進める上で、若者の心の活性化を含め、我がまちを対象化して積極的に活かすための官民双方の意識変革と協働の取組を強化する可能性が大きい。
(2) 効果の複合性と波及性
 「働く場」、「楽しむ場」、「暮らす場」、「子育て環境」、「基盤的環境」の整備・充実を複合的、波及的に推進できる可能性が大きい。
(3) 着手の可能性と実現性
 地域ニーズや既定計画などの熟度からみて、施策の着手の容易性や実現性が大きい。
2 重点プロジェクト化の戦略と骨子
 このような視点から重点プロジェクト化の戦略を、「若者・女性の参加が活発で豊かな生活文化の創造を目指した「都市個性の発信」と「生活者交流」の両輪展開」と設定する。
 
若者・女性の参加が活発で豊かな生活文化の創造を目指した 
「都市個性の発信」と「生活者交流」の両輪展開
 
 この戦略の考え方と骨子は、次のとおりである。
(1) 重点プロジェクト化戦略の考え方
ア 市民参加によるまちづくりの認識の定着
 市は、市民全員参加型で「若者定着都市」としての地域再編の方向を合意し、官民連携を強化して新たな生活者交流のまちづくりを進める次元にきている。
イ 交流による“自分づくり”の促進
 市民主導、人づくりの戦略として地域の個性化及び発信と交流による「自分づくり」を行い、とくに域外交流によるカルチャーショックの導入で内発的個性化と地域内連携によって市民及び都市の主体性(アイデンティティ)の確立を喚起する。
ウ ソフト施策の重視と施策の複合化
 「自分づくり」のソフト施策及び市民が利用し易い既存公共施設の運営改善、若者定着の意識醸成や市民参画の仕組みづくりなど、限られた財源の中でも実施可能な各種ソフト施策を重視し、複合的に展開する。
(2) 展開のポイント
ア 「若者定着まちづくり」体制の整備
 若者の多様な価値観を取り込んだ世代間、地域間、官民の意思疎通とまちづくりを市民参加で実践する「海南型グラウンドワーク」運動の体制づくりを進める。
 海南型グラウンドワークとは、活動の立ち上げ段階から市民主導型で企業や行政を活用する英国型のグラウンドワークではなく、海南市の地域経営の流れから、当面、立ち上がりは行政が音頭をとって自立性を醸成するあり方を意味する。
イ 内発と交流を刺激するソフト施策の展開
 市民各層が地域を再発見し、コミュニティビジネスなどの起業化、海南固有の文化発信と安心して子育てができる環境づくりの動機付けとなる産業・文化・観光・コミュニティ活性化の複合的なソフト戦略を展開する。
ウ 地域資源活用型の若者定着施策の具体化
 地域資源を活かした固有のコミュニティビジネスなどの創出、若者の溜まり場となる海南固有の文化交流環境の整備、及び若者や女性をはじめ老壮青幼各世代が連帯し、安心して楽しく暮らせるコミュニティ環境の充実を促進する。
3 重点プロジェクト展開のイメージ
 先の戦略展開のポイントに対応させて次の5つのプロジェクトを構築する。

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 Aは、市の長期総合計画をふまえて、若者定着の観点から市民・企業・行政の主体的な連携によるまちづくりを方向づけ、推進するための民間主導の組織づくりプロジェクトである。この組織は、民間の自立自助を目指す若者定着まちづくりのトータルプロデュース及び海南型グラウンドワークの母体づくりの役割を担う。
 Bは、Aの「(仮称)海南若者定着まちづくり会議」の方向付けと、トータルプロデュースをふまえ、市民参加による内発と交流の促進を仕掛けるプロジェクトである。
 具体的には、地域資源の再発見を土台として以下のC、D、Eプロジェクトにかかわる推進の動機付けなどを行う、主としてソフトによる市民参加促進プロジェクトである。
 ここで「まちワーク」とは「市民参加によるまちづくりワークショップ」の意味である。
 C、D、Eは、A、Bとの関連性を背景として、海南市の都市個性の発現と、若者定着にとって戦略性の高い施策を、複合的に実施する地域資源活用型の重点プロジェクトである。
A. 「(仮称)海南若者定着まちづくり会議」創設プロジェクト
<ねらい>
若者をはじめ、女性や各世代、各業種、各組織などが結集して市民主導のまちづくりを進める推進母体として「(仮称)海南若者定着まちづくり会議(以下「まちづくり会議」という)」を立ち上げ、この組織を軸にワークショップなどの住民参加の手法を駆使して、若者定着まちづくりの課題を共有し、生活者の視点から、解決のための実践的な事業企画やプログラムの立案・提言及び若者定着まちづくりのトータルプロデュースを行う。この組織活動を通じて、個々のまちづくり事業の推進主体や人材育成などの下地づくりを行うとともに、この会議を地域文化再編運動のコアとして育成し、海南型グラウンドワーク(注) の推進をねらう。
 
(注) グラウンドワーク
 1980年代に英国の都市周辺部(アーバンフリンジ)で始まったパートナーシップによる地域での実践的な環境改善活動。住民・企業・行政が協力して専門組織をつくり、身近な環境を見直し、自らが汗を流して地域の環境を改善していくものである。グラウンドワークには、自然環境や地域社会における「よりよい明日に向けての環境改善活動」と「現場での創作活動」の意味が含まれる。
 英国では、地域の専門組織の設立を認定し、活動を支援するグラウンドワーク事業団があり、国の予算補助と企業などからの寄付、非営利事業収入などで運営されている。
 我が国では、(財)日本グラウンドワーク協会が地域のグラウンドワーク事業団との間で覚え書きを結び、支援している((財)日本グラウンドワーク協会のホームページから要約)。
 
<内 容>
■「まちづくり会議」の役割(例)
[1] 若者定着、市民生活からみた地域経営(官民)の改善及び変革点の検討
[2] [1]に基づく地域資源の再発見を土台とする地域ポテンシャル(潜在能力・可能性)の再確認と活用の方向付け
[3] [1]、[2]に基づく、「まちづくりプログラム」、「海南まちワーク(後述)」の全体プログラムの策定、及び市民主導性を醸成・確立するための公的支援システムの検討
[4] 若者定着まちづくりのトータルプロデュース
 
■検討テーマ
検討のテーマは、若者定着施策の枠組みから、次の5つとする。
 ○「働く場」の整備
 ○「楽しむ場」の整備
 ○「暮らす場」の整備
 ○「子育て環境」の整備
 ○「基盤的環境」の整備
 
■「まちづくり会議」委員の分野構成(例)
 委員は、各分野から人選を行い、公募方式も導入する。人選においては、若者(UJIターン者、事業後継者、子育て女性など)、女性、障害者、在市外国人の参加に留意する。
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■組織体制の大枠(例)
 ・ 「まちづくり会議」の組織構成は、「全体会議」と「4部会」とする。
 ・ 全体会議は、4部会で構成し、各部会間の調整は適宜行う。
 ・ 官民にわたる全体の連絡調整事務局は行政とし、会議の運営・まとめは「まちづくり会議」が担う。なお、専門領域を補完・調整するために、委員とは別にまちづくりアドバイザーの導入も可能とする。
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<推進の考え方>
 行政が音頭をとって会議の設置・運営支援プログラムを策定し、予算措置を伴って市民主導の「まちづくり会議」を立ち上げる。
 この会議を中心として、先の事業に取り組み、行政は市民各層・各界及び官民を横断的につなぐ具体的な共同行動や組織・グループづくりに人、物、情報などの側面的支援を行い、「市民主導・行政支援型」への転換を促進する。
 「まちづくり会議」の立ち上げと連動して、住民の自主性を高める上で、自治会などコミュニティ活動への若者参加と自律的再編を支援する。
B. まちを識り、遊び、観(しめ)す「海南まちワーク」プロジェクト
 
<ねらい>
 「若者まちづくり会議」の企画・先導を軸に総合的なまちづくりを動機付ける仕掛けとして、市民参画型のまちおこし活動を「海南まちワーク」として位置付け、それを推進して自律的まちづくりの意識の醸成をはじめ都市個性の創造、それを活かした観光・交流による市民意識の変革や実践的な人材育成をねらう。
 
<内 容>
■「まちワーク」の基本コンセプト
〔性格付け〕
 
〔テーマ〕:まちを識る、まちを遊ぶ、まちを観(しめ)す
 
まちを「識る」
 ○「まちを識る」とは、市民自らが自分たちの生活を豊かで潤いのあるものにするために、まちの自然をはじめ歴史・文化や地域資源などを理解すること。
 ○ここでは、そのための仕掛けとしての市民手づくりのワークショップやイベントなど地域を「識る」ための諸活動の企画・開催を意味する。
  (例)地域ポテンシャル(潜在能力・可能性)再発見のための「まちウォーク」、「みち(街道、海道)ウォーク」など
 
まちを「遊ぶ」
 ○「まちを遊ぶ」とは、市民及び外来者が娯楽、買物、食、スポーツ、レクリエーション、文化活動、レジャーやボランティアなど各種の自己実現活動を含めて地域との関わりや交流を楽しむことを意味する。
 ○ここでは、そのための仕掛けとしての市民参加の各種イベントやワークショップなどの諸活動を意味する。
  (例)まちごと文化劇場、食芸体験(紀州漆器、食文化など)、歳時記再発見など
 
まちを「観(しめ)す」
 ○「まちを観す」とは、「まちの光(文化)を観(しめ)す」こと、すなわち文化の発信を意味し、「観光」の本義にも繋がる。
 ○ここでは、市民が地域を「識る」ことを通してまちを再発見し、醸成される生活文化を内外に観(しめ)す意味で、その仕掛けとしての市民参加による魅力発信やイメージづくり、そのプロセス及び帰結としての発信と交流の仕掛けを意味する。
  (例) 「まちごと生活博覧会」の開催など
 
<推進の考え方>
 事業は「まちづくり会議」の企画・プログラムとトータルプロデュースを軸に、市民主導、あるいは市内の在日外国人などを含めた広範な住民参加による各種の実行委員会を構成して推進する。
推進の効果を拡大する意味では、「かなざわ・まち博」(注)、「南紀熊野体験博」のような「まるごと地域博覧会」といった誘発力の大きい市民参加型の方式も視野に入れる。
 その推進手順としては
 [1] 地域課題・テーマに即した市民参加の実行委員会を立ち上げる。
 [2] ステージを地区特性などで区分し、イベント会場と見立てる。
 [3] 市民主導で地区及び全市イベントを企画・推進する。
 [4] 市民主導でまち歩きコミュニティガイドや各種のサービスシステムを育成する。
 [5] 活動に即して各種手法(アンケート、スケッチ、現地調査など)を導入し、併せて情報ツール(マップなど)を作成する。
 [6] パブリシテイー効果やリアクション効果を念頭においてプレスなどPR事業者との連携も検討する。
 
(注) 「かなざわ・まち博」
 「まち博」は、大きなパビリオンや巨大な予算を必要とする博覧会ではなく、従来の施設開発型の博覧会とはひと味違います。「まち博」は、今そこにある活きたまちを舞台とし、まちで生活する市民が主役で、「市民がまちに出る、まちで遊ぶ、まちで学ぶ」ことからはじまります。
 「まち博」は、市民をべースに、まちを構成するあらゆる組織、グループが共同して、まちのあり方を考え、創り上げていくプロセスであり、その成果を発表し共有する場です。つまり、「まち」という地域社会全体での「まちづくり運動」、「ふるさと教育」です。
(「かなざわ・まち博2001イベントガイド」より引用)
 
参考事例:市民主体のまちづくり活動支援事業〜熊本市のまちづくり委員会
 
■熊本市の概況と本事業導入の経緯
 熊本市は九州の中央部にある人口66万人強の地方中核都市で、加藤清正が築城した熊本城を中心とする歴史と伝統の息づく城の文化都市として知られる。平成3(1991)年飽託4町の合併によって、都市機能と支持人口が強化され、平成8年に中核市となり、市民の自律的なまちづくりを根底に据えた国際交流都市づくりを目指している。
 この事業は、国際交流都市づくりを進める上で、市民の一層の自立自助のまちづくりを促進するために平成8年度から導入された「まちワーク」などを手法とする支援事業である。
 
■支援事業の概要
<目 的>
 この事業は市民の自発的で主体的なまちづくり活動を支援することにより、市民主体のまちづくり、市民と行政の協働のまちづくりを推進し、地域における人と人とのふれあいや交流を活発にすることにより、地域コミュニティの活性化を図ることを目的とするのものである。
<支援の仕組み>
 小学校区を単位に、地域の特性を活かし、自主的にまちづくり活動を推進する市民組織「まちづくり研究会(「まちづくり委員会」の設立に向けての前段的な組織)」を立ちあげ、研究会のテーマ探しなどを通じて本格的なまちづくり組織である「まちづくり委員会」に移行して活動を進めるものである。
 市内の全小学校区は80校区であるため、最終的には基本は全校区での立ち上げを目標としており、市民主体の活動の過程で、まちづくり専門家の紹介やリーダー研修の実施、情報の提供及び活動費の助成を行っていく仕組みである。
 ●まちづくり委員会の立ち上げに向けた組織作り、テーマ探しなど
 ●地域の歴史、伝統行事、文化財などの保護
 ●自主的な防犯・防災活動
 ●地域の教育、スポーツの復興、福祉の向上
 ●地域環境の保全、リサイクル活動
*各委員会でテーマを設定し、年間を通じた活動であることを原則とする。
委員会 助成金額 期間 その他助成内容
まちづくり研究会 10万円 2年 ・リーダー研修(まちづくり楽集塾)
・まちづくり指導・助言者の紹介や交流の場の設定
・まちづくり情報の提供
まちづくり委員会 活動費の1/2補助
 (限度額30万円)
3年
C. 文化の魅力凝縮コア・“まちの駅・情報市場”創造プロジェクト
 
<ねらい>
 長寿社会を展望し、中心市街地活性化基本計画と連動して、小さいが個性的な海南都市文化や若者の溜まり場として多機能複合によるコンパクトシティのコア(交流拠点)を形成し、にぎわいのある中心市街地の創造と商業活性化をねらう。
 
<内容>
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※駐車場など基盤機能については、必要機能として記述を省く
 
〔情報市場のイメージ〕
 パソコン・AVなどの情報やアミューズメント商品をはじめ、魚菜市場までを含む魅力凝縮度の高い複合交流市場(インテリジェントモール)
 
〔海南文化スクエアのイメージ〕
 市民の文化活動、文化受発信の拠点
 
〔(仮称)食芸工房「旬の里」のイメージ〕
 地場産業と食の体験工房を軸に、特産販売や地の食などによる複合拠点
 
〔まちの駅のイメージ〕
 まちの駅(注)は、地域連携の仕組みで、人と人の出会いの情報交流のプラットホームで、地域が連携を高めるために自主的に整備する連携・交流拠点
(注) 「まちの駅」
 市町村を越えて人が手をとりあってまちづくりを進める「地域連携センター」である。言葉を換えれば、地域が自主的につくるまちのシンボル、まちの窓口、まちのサロン、まちの情報受発信基地である。英語では「ヒューマンステーション」と訳す。
 「まちの駅」は、平成13年6月1日現在で全国に7つオープンしており、「まちの駅」のネットワーク化を進める組織として「まちの駅連絡協議会」がある。事務局は、NPO地域交流センターに設置されている(「まちの駅」ホームページから要約)。
 
<推進の考え方>
 商業サイドで既にTMOの立ち上げと中心市街地活性化基本計画の策定が緒についているので、その中に「海南インテリジェントサロン」、魅力凝縮型の「情報市場」、及び地域の食文化や技を体験できる「食芸工房」などを複合し、官民連携による推進を検討する。
 事業地区は、中心市街地とし、個々の事業は、空き店舖や公有地の活用を中心とする。
 
〔情報市場の推進方式〕
 事業主体は、TMOやまちづくり会社、あるいは民間企業とし、例えば、一坪ショップフロアのテナント方式(賃貸)などで進め、コミュニティビジネスを含めて市域内外からの出店を促進する。
 
〔海南文化スクエアの推進方式〕
 事業主体は、官民協働方式とし、JR海南駅前の旧国鉄清算事業団用地などの活用を検討し、公設民営やPFI方式などを検討する。
 運営については、市民活動グループヘの委託などを含めて使いやすい利用者主導型の方式を検討する(若者・利用者主導の運営例「金沢市民芸術村」の事例参照)。
 
〔(仮称)食芸工房「旬の里」の推進方式〕
事業主体は、官民協働方式とし、中心市街地の公有地や空き地・空き店舗などを活用し、「道の駅」の制度導入などと絡めた公設民営方式やPFI方式などを検討する。
 
〔まちの駅の推進方式〕
 事業主体は、官民協働方式とし、海南駅の情報拠点「かいぶつくん」も含めて、現在暫定的に駐車場として利用されているJR海南駅前の旧国鉄清算事業団用地や、中心市街地の空き店舗の活用とあわせて、その設置について検討する。
 運営については、民間団体や市民参加方式の導入を検討する。








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