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第4章 若者定着に向けた展開方向
 1〜3章までの現状把握及び分析結果をふまえて、若者定着の視点からみた地域評価及び5つのテーマ別の課題を整理し、本市における若者定着促進を展開する上での基本的な考え方及び施策体系と展開方向についての検討を行う。
1 若者定着の視点からみた地域評価
 これまでの調査結果から、若者定着の視点からみた本市の地域評価を整理すると、以下の
とおり大きく4つに分けることができる。
(1) 地域資源がまちの個性化や魅力づくりに活かされていない
 日本四大漆器の紀州漆器や情緒豊かな町並み、熊野古道、豊かな自然環境など、本市固有の地域資源が、「働く」、「楽しむ」、「暮らす」、「子育て」という住民生活の中で十分に活かされておらず、地域の個性化、魅力づくりとの関わりが薄い。住民からも、もっと外部に積極的にPRすべきという意見も多い。一方で、「住民自身の認識不足」という声もあった。
(2) 外部との交流・連携の機会が少ない
 若者定着促進には、地域の魅力向上や誇り意識の醸成が必要だが、そのためには本市固有の魅力を活かした「海南らしさ」 (地域アイデンティティ)の明確化が不可欠である。外部の異文化との交流・連携による相互補完や新しい文化の創造が期待されるが、本市では活発な取組がほとんど行われていない。
(3) 官民協働による地域づくり体制が未整備
 若者定着促進に関わる行政担当者や関係団体、市民団体、住民へのインタビューでは、それぞれの立場で問題意識や関心をもって地域づくりを実践していたり、あるいは関心を持っている様子がうかがわれたが、それぞれの関心・立場を越えた協働関係は築かれていない。
 一方で、これからのまちづくりの方向について市民、市民団体、産業界、行政で合意形成を行う時期に来ているという声もあった。
(4) ハード志向、行政主導型のまちづくり
 本市のこれまでの若者定着促進施策は、わんぱく公園や健康ロード、保健福祉センター、JR海南駅西広場の整備など、施設整備(ハード)を中心に行われてきた。
 また、事業の実施や運営面においても、行政主導型のケースが多くみられることから、市民参加のまちづくりや民間活力の積極的な導入・利活用を推進していく必要がある。
2 基本的課題
 一般に、若者ニーズや地域経営システムなどから推察すると、若者定着の基本的条件として、次のような傾向がうかがえる。
 
i)多様な自己実現ニーズに即して、就業・楽しみなど生活選択の幅が大きいこと 
ii)誇りを持って社会的役割を担える場、機会、及び情報を得る環境があること 
iii)将来の夢に自己実現の試行を重ねられる「まちづくりビジョン」があること 
iv)可能性へのチャレンジを認め、それを支援する仕組みや地域文化があること
 
 このような条件をふまえて、海南市の若者ニーズと地域経営システムや文化振興の現状などを眺めると、重厚長大型基幹産業のかげり、伝統的地場産業である漆器産業などの低迷とともに、半島性の立地や歴史の重み、若者流出などに伴う一足早い高齢社会の到来などもあって、地域の伝統志向性・保守性が浮き彫りになってくる。
 そのため、文化的な側面として、若者や女性が限られた土俵でしか表に立ちにくい生活慣行が温存されており、これが結果として内発的地域活動や若者定着を制約する方向に働いている面もうかがえる。
 このような傾向は、海南市だけではないにせよ、本市においてもそれが地域経営に反映されている。端的にいえば、本市は、まだ、行政主導型、ハード志向型の体質から脱却していないため、若者参加をはじめ女性参加、さらには住民主導性を引き出す仕組みが不足しているきらいがある。
 以上の認識から、本市の若者定着の基本的課題を次のように設定する。
 
若者が住んでよく、訪れてよいまちづくり 
〜若者の参加を促進し、活動を支援する仕組みの充実と地域文化の再編〜
 
 その骨子は、次のように要約できる。
 
i)生活者の視点に立った地域経営と若者定着に関するソフト施策の強化 
ii)若者や女性が参加しやすい仕組みの拡充 
iii)若者の活動を支援する海南独自の地域文化の再編
 
3 テーマ別課題
 今回の調査研究の視点として設定している5つのテーマごとに、本市における課題を整理すると、以下のとおりである。
(1) 「働く場」の視点から
 大都市圏など周辺都市域を活かした通勤就業機会の拡大と若者の地域志向や関心を捉えた地場産業の活性化、及びコミュニティビジネスの育成
(2) 「楽しむ場」の視点から
 地域資源を活かした多面的な個性の析出、それを核とした多彩な連携・交流による、「創造性」、「慰楽性」、「話題性」、「殷賑(にぎわい)性」の創出、及び世代間交流や互助などによる自己実現機会の拡充
(3) 「暮らす場」の視点から
 独身者や共稼ぎなど中間所得者層の住宅ニーズに対応した低廉で快適な賃貸住宅・宅地の供給、及び高齢者を含む多世代居住の場の整備
(4) 「子育て環境」の視点から
 共稼ぎ世帯の託児ニーズの充足をはじめ、文化活動やボランティア参加など自己実現志向に対応できる子育て環境の整備、加えてその実現のための保育・教育・コミュニティ連携システムの強化
(5) 「基盤的環境」の視点から
 若者定着のための交通・情報など基盤の整備、娯楽や文化関連施設などのアメニティインフラの整備、及び若者が活動しやすく社会的役割を自覚できる参加や連帯の仕組みづくり
4 展開の基本的な考え方
 若者定着を促進する意義は、地域の世代間のバランスと継承力を維持し、持続的な発展を実現することにある。
 その対応には、若者定着に直結する個々の施策の展開だけではなく、前提となる総合的な地域振興のあり方を見直すことが必要となる。
 具体的に言えば、地域環境づくりや官民連携システムの見直しと再編、すなわち、自立自助を前提として公私の活動を楽しめる市民性の形成(「住民の文化化」)、及び民主的な行政運営を担保する意味での行政の革新(「行政の文化化」)が必要となる。
 このような認識から、本市における若者定着に関する政策展開の基本的な考え方を、次の8点に集約する。
〔少子高齢化、人口減少社会での都市づくりの方向〕
i. 「小さな世界都市」を展望した“オープンコミュニティ”の形成
若者や女性参加の自由度が高く、多様な文化共存社会を展望し、「小さな世界都市」として「国際的ホスピタリティの醸成」と「オープンコミュニティの形成」を目指す。
ii. 高年齢や子どもにやさしい徹底したバリアフリー都市づくりの推進
少子高齢化に則して高齢者や子どもが住みやすく、ひいては若者も住みやすい生活環境づくりとして都市環境の徹底したバリアフリー化を促進する。
iii. 市民イニシアチブによるまちづくりの確立
成熟化し、多様化する市民の生活ニーズに対応して、これまでの伝統志向型、官(行政)主導型のまちづくりを民(市民) 主導・官(行政)支援型に転換し、新たな地域経営システムの確立を目指す。
iv. 車型都市構造からの脱却と中心市街地のコンパクトコアの形成
エコシティ化や高齢社会に対応して自動車中心の都市構造を見直し、歩いて楽しい「コンパクトシティ」形成の一環として、省資源・省エネ・省コスト化を目指した中心市街地の「コンパクトシティ(多機能複合都市核)」の形成を目指す。
〔若者定義の条件と地域経営システム再編の考え方〕
v. 大都市機能などの活用による若者定着条件の拡充
大阪・和歌山都市圏の多様な就業機会や娯楽・文化などの高次都市機能及び南紀・熊野の自然と文化を活かした就業・遊・交流などの田園地域機能といった周辺の都市や地域の特色を本市のまちづくりに活用し、若者定着条件を拡充する。
vi. 海南市の内発による若者定着条件の拡充
大都市市場と海南の地域特性や資源を活かしたコミュニティビジネスの起業化及び文化交流環境の整備によって「働く場」、「楽しむ場」、「暮らす場(主に住機能)」を拡充する。
vii. 日常的な若者ニーズの把握、情報流通の拡大、及び政策化の仕組みの整備
地域社会や行政に若者の意志を流通させるために、日常的な交流・提言の場、さらには公的事業への計画参加や管理運営委託などの仕組みを拡充する。
viii. 生活者の視点からのソフトを重視した行政運営とグランドワークの展開
海南市の若者定着を促進するために、JCが取り組んでいるグランドワークの取組を全市的若者定着や地域課題解決の仕組みとして拡大し、公共施設の運営見直しを含めソフトを重視した行政運営と若者、生活者の視点に立った「新たな海南ライフ」を育む市民、企業、行政の協働によるまちづくり運動(当面行政が音頭をとる海南型グランドワーク)を推進する。








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