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第1章 市民団体と行政の関係を取り巻く環境の変化
 市民参加や市民と行政との協働は、市民による地域の問題への取り組み、地方自治体や国による参加・協働のしくみづくりなどにより、多様に展開しつつある。ここでは、藤枝市の現状分析に先立って、市民参加と市民との協働を取り巻く環境について、まず、市民の動きを、市民意識の変化、地域での生活時間の増加、市民参加、市民活動の課題の面から把握する。次に、行政(地方自治体及び国)の動きを、地方分権、行政改革、市民参加の制度づくり、NPO法の制定、行政の課題の観点からそれぞれ整理する。
1 市民団体の動き
(1) 市民意識の変化
 市民参加や市民と行政の協働の背景には、まず、市民意識の変化がある。すなわち、市民の間で、自分たちの住んでいる地域への関心が高まり、自治意識の芽生えてきた人が徐々に増加しつつある。都市部において、このような市民が増え始め、地方部においても、都市部の刺激を受けるとともに、都市部から自治意識の高い市民の転入によっても、そのような刺激を受けるようになってきた。
 このような自治意識は、自分たちの住んでいる地域の問題は自分たちで解決を目指すという高いレベルもみられる。そこには、行政にだけ任せておくわけにいかないという主体性がみられる一方で、行政に対する不信感もみられる場合もある。
 このような自治意識は、町内会や自治会が有しているものとは異なる。これらの地縁団体の活動とは異なる活動を模索する動きといえる。
 しかしながら、自治意識が芽生えた市民は限られており、多くの市民は、居住地域の問題への関心が薄く、地縁団体の活動に対しても消極的である。特に、都市部においては、地域での人間関係が希薄となり、地域コミュニティの崩壊が懸念されているところが多い。
 総理府の調査によると、「日頃、社会の一員として、何か社会のために役立ちたいと思っている」という社会貢献意識は、年を追うごとに高まりつつある。平成10年において約60%の人がこのような意識を持っている。しかし、このような意識を持っていても、すべての人が必ずしも行動には結びついているわけではない。
図表1−1 高まる社会貢献や心の豊かさを求める人の割合
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(備考)
1.総理府「社会意識に関する世論調査」、「国民生活に関する世論調査」により作成。
2.社会貢献意識は、「あなたは、日頃、社会の一員として、何か社会のために役立ちたいと思っていますか。それとも、あまりそのようなことは考えていませんか。」という問に対して、「思っている」と回答した人の割合。
3.心の豊かさは、「今後の生活の仕方として、次のような2つの考え方のうち、あなたの考え方に近いのはどちらでしょうか。」という問に対して、「今後の生活として、物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりある生活をすることに重きをおきたい」と回答した人の割合。74、75、76年は年に2回調査が行われているため、その平均値とした。
4.社会志向は、「国民は、「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」という意見と、「個人生活の充実をもっと重視すべきだ」という意見がありますが、あなたのお考えはこのうちどちらの意見に近いですか。」という問に対して、「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」と回答した人の割合。
 
資料 : 経済企画庁「平成12年度 国民生活白書」
 
 
 中国新聞社が、中国地方の住民を対象に「自治体クライシス」アンケート(平成11年6月)を実施したところ、行政活動に参加経験のある人は39.5%であった。経験がない理由として、「参加の方法がわからない」という回答が33.4%であり、「参加しても住民の声が行政に反映されない」「行政に関心がない」という参加に否定的な理由が51.2%であった。参加の内容については、「まちづくりや福祉のボランティア募集」が31.3%で、「政策に関する提言の募集」が18.4%となっている。
図表1−2 「自治体クライシス」アンケート調査結果
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(2) 地域での生活時間の増加
 地域への関心の高まりは、地域で生活する時間が増加したことが大きく影響していると思われる。一つには、昼間、地域で生活する人口が、高齢化により増加していることがある。そのため、退職後の自由時間を、地域の勉強や地域のために役に立つ活動などに使う人が増えつつある。二つとして、現役の世帯主についても、労働時間の短縮により、地域での生活時間が増加している。
(3) 市民参加・市民運動の進展
 「市民参加」ということばが頻繁に登場するようになったのは1960年代後半である。
東京圏を中心に登場した革新自治体が、「官治型行政」から「住民自治」への転換をスローガンとして掲げ、市民参加を象徴的に使い始めたことにより広まった。当時は、高度経済成長の弊害として様々な公害が発生する一方で、下水道や公園などの生活関連基盤の整備が立ち遅れており、市民参加・市民運動は、既成の秩序や制度の改善要求型の運動という形から始まった。
 1970年代に入ると、先進的な自治体が、市民参加のルールや制度を整備した。
 1980年代になると、すでに、参加制度の形骸化や参加のマンネリが指摘されるようになった。その反面、市民グループや消費者団体が地方議会の議員や首長を擁立するなど、地方政治への市民の積極的な参加が見られるようになった。
 1990年代を迎えると、国際的な視点を持つ市民層が登場し、地球環境や海外援助などに関心を持つ各種のNGO(非政府組織)も登場するようになった。また、1995年(平成7年)1月に発生した阪神淡路大震災などを契機にボランティア活動が活発化した。次の図に示すように、ボランティア団体数、ボランティア人数ともに右肩上がりで増加している。
 以上のように、市民参加・市民運動は、要求型から、自主的な運動へと高まるとともに、分野の幅が拡大し、参加者が増加している。
図表1−3 ボランティア数の推移
(備考)
1.(社福)全国社会福祉協議会 全国ボランティア活動振興センター「ボランティア活動年報」(1999年)により作成。
2.1980〜87年は4月時点、88〜89年は9月時点、91〜96年は3月時点、97〜99年は4月時点の人数。
3.81〜83年、90年は調査されていない。
資料 : 経済企画庁「平成12年度 国民生活白書」
 
(4) 市民活動の課題
 市民意識の向上にともなって、各種の市民活動が活発化している。スムーズに活動を展
開しているものもあるが、多くの場合、次のような課題を抱えている。
 ・ 人材不足
 ・ 専門知識の不足
 ・ 情報不足
 ・ 活動資金の不足
 ・ 影響範囲の限定
 ・ 活動機会の限定
 ・ 他の住民団体との意見の対立








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