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3 各空間モデルの景観的特徴
 ここでは、先に示した横須賀市沿岸域を対象とした各空間モデルについて、その空間モデルが本来的に有している景観的特徴、特質を整理すると共に、市街化の進展等に伴う空間モデルの変容を明らかにし、現状の把握を行う。さらに、今後の景観形成に向けての留意点を整理する。
(1) 岬モデル:観音崎、荒崎等
 
ア 空間モデルの景観的特徴
 岬モデルの最も基本的な特徴は、海岸線から突出した地形形状を有していることである。また、海岸沿いの平地は極めて狭く、海岸線から直接、比較的急峻な傾斜地が立ち上がっている。
 このため、基本的には海への視界が開けており、特に水平方向への視界が広く確保される岬先端からは、3方に広がる水面を一望のもとに見渡せることが景観上の大きな特徴である。また、これとは逆に、平面的にも断面的にも海に対して突出した地形形状により、外部からは目立ちやすい空間であることも景観上の特徴としてあげられる。
 海岸沿いの平地が極めて狭く、海岸線から直接、比較的急峻な傾斜地が立ち上がっていることから、海浜部では集落形成や道路の整備もあまり進まず、丘陵上部が、空間的な特徴に根ざした特別な場所(砦、灯台等)として利用されることが多い。
図表3-11 空間モデルの景観的特徴(岬モデル)
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イ 空間モデルの変遷と現状の認識
 岬モデルについては、その後の市街化の進展の度合により、その変遷の姿が大きく異なっている。
 一つは、観音崎や荒崎においてみられるように、景観構造の変化を生じるような大規模な開発・改変がほとんど行われていない場合である。このような箇所では、丘陵上に近年道路が整備され、戸建住宅等の立地が部分的にみられる場合があるものの、その大部分においては緑豊かな自然がそのまま保全されており、原地形の空間構造に根ざした景観的特徴がよく残っている。このため、岬の先端部からは、3方に広がる水面を見渡すことができ、本モデルの空間構造に根ざした本来的な景観的な特徴が、引き続き保全されている。またこのような場所は、例えば観音崎や荒崎のように、自然風景地として保全・活用されている場合もみられる。これらの場所は市民アンケートにおいても、横須賀を代表する良好な風景地として高い評価を得ている。
 もう一つは、千駄ヶ崎や千代ヶ崎においてみられるように、岬の先端部での埋め立て開発が行われた場合であり、岬先端部の埋め立てによる海浜部の平坦地の出現は、空間構造自体の変容ということができる。埋立地には工場や住宅団地等の比較的高層で大型の建物の立地がみられることが多く、埋立てによる海岸線の前進とそこに立地する建物により、岬の先端部からは3方に広がる水面全体を見渡すことが難しくなっており、本モデルの空間構造に根ざした本来的な景観的な特徴が損なわれている。しかしその一方で、岬先端部において埋立てが行われている場合においても、丘陵の上部や斜面地ついては、あまり開発が進行しておらず、緑豊かな自然が保全されていることが多い。
図表3-12 空間モデルの変遷と現状の特徴(岬モデル)
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写真3-3 海上からみた現在の荒崎海岸
 岬の先端部は公園となっており、自然風景地として保全・活用されている。丘陵上には若干の住宅がみられるものの、その空間構造、景観構造に大きな変化はみられない。
写真3-4 空から見た現在の千駄ヶ崎
 千駄ヶ崎の先端部が埋め立てられ、現在は東京電力の火力発電所となっており、その空間構造自体が大きく変化している。一方、岬の丘陵上部は、ほとんど開発が行われておらず、豊かな緑が残されている。
 
ウ 景観形成に向けてのポイント
 大規模な埋立てが行われていない地区においては、引き続き良好な風景地区として保全し続けることが重要となる。なお、これらの地区は、既に風致地区等指定が行われている場合もみられ、これからも景観改変の危険性は弱いと考えられる。
 一方、すでに岬先端部に大規模な埋立てが行われている地区については、埋立てによる海岸線の前進と埋立地の建物により希薄になった海と丘陵部との関係や、丘陵部からの水面への眺めをどの様に再生していくかがポイントとなる。埋立地の復元は非現実的であり、埋め立地の施設群の修景および丘陵上部と一体となった移転後の跡地利用などにより岬型にもう一つの新たな景観的魅力を付加するといった考えが重要と考えられる。








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