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2 チャレンジショップ・工房
 アンケート調査によれば、「仕事や産業の情報を提供する」協力を回答する出身者が少なからずいる。「労力提供」や少数ではあるが「出資」という回答もみられる。こうした「ふるさと市民」の思いを、出資・経営支援など様々な側面で生かして、新たな産業創出や産業新人を誘致し、鹿角の産業振興を図ることを考える。
(1) チャレンジショップ・工房の位置づけ
 
 チャレンジショップでは、富山市の「フリークポケット」が全国的に著名である。これは、空店舗を活用して、将来店舗をもちたいと考える若者に2〜3坪ほどのスペースを賃貸し、商業者として育てようとする一種のインキュベータ(産業の保育器)事業である。また同時に、空店舗を埋めることで、中心商店街の活性化を図ろうとするものでもある。初年度(1997年度)には、富山県に関係のない東京在住の人も入っている。また、ここの卒業生が同じ商店街や隣接地で独立開業しており、一定の成果を見せている。
 このように、中心市街地活性化のためのチャレンジショップが比較的多い。現在では、全国約40カ所で行われている。
 また、工房としては、例えば長野県豊科町に「あずみ野ガラス工房」がある。
 ここでは多摩美術大学の卒業生がプロガラス作家を目指しており、制作作業が見学できるとともに、作品も購入できる場となっている。
 工場では、花巻市の現在の「起業化支援センター」の前身となる施設として、空き工場を改築し、40〜50m2の貸しスペース3室を設けた例がある。現在の起業化支援センターは、3タイプ(94、163、315m2)の貸工場13棟と、コーディネーターを擁する全国的にも著名で成功しているインキュベーション施設となっている。
 いずれにしても、起業家、ベンチャー企業育成の場である。
図表4−4 富山市のフリークポケット
出所:富山市商工会議所ホームページ
(2) 鹿角版チャレンジショップ・工房
 
ア 役割
(ア) 起業家育成の場
 鹿角市では中心市街地活性化が大きな課題となっており、全国の例と同様に、中心市街地活性化のひとつの方策としてチャレンジショップを導入することが考えられる。
 また、誘致型の地域産業振興は、生産拠点の海外移転などで行き詰まってきている。鹿角市の産業の現況と将来を考え、人材を含めて地域資源などを活かした内発型、創造型の産業振興政策のひとつとしていくことが考えられる。
 
(イ) 観光都市再構築の契機
 「黒壁」で有名な人口6万人の長浜市は、地域にはなかったガラス工芸を持ち込み、商業観光都市として200万人の観光客を誘致するまでになった。
 鹿角市は八幡平など有力な観光資源に恵まれており、観光産業はリーディング産業のひとつである。しかし、近年はこれも低落傾向にある。長浜市・黒壁の成功の裏には様々な苦労、努力がある。単なる物まねではうまくいかないであろうが、何らかの統一コンセプトで観光都市として再構築していく必要性に迫られている。その契機として、チャレンジショップや工房を考えたい。たとえば「小店のある街」など、歴史的な風格を持つ商店街を演出することができれば、そこに進出してみたいと考える起業家が出てくることも期待できる。
図表4−5 チャレンジショップ・工房の役割
 
イ 機能・形態
 全国的にインキュベーション施設をみると、コーディネーターなどの人材が成功の鍵を握っており、全部が全部成功しているというわけではない。秋田県でも工業技術センターなどで開放研究室などを利用した類似の事業を行っており、鹿角ですぐに大規模インキュベーション施設をつくることは現実的ではない。
 そこで当初は、空き店舗を活用して小規模なチャレンジショップや工房を設け、扱う商品などに地域によって差を設けるなどで対応する。つまり、中心商業地では商業を中心に起業家の自由を基本にする。観光地や観光ルート上では、観光客を対象にした文化性や地域性が感じられるオリジナルな工芸品や食品などを扱うチャレンジョップや工房を設けるなどである。
○担い手 学生や若者から主婦、高齢者まで年齢層は問わず、広く起業家を募集する。個人やグループも問わない。鹿角市民による起業が最も望まれるが、産業振興という視点から、Uターン者を含め、どのような地域の人でも参画できるものとする。
○形態 空き店舗などを数坪単位のスペースに分割して貸し出す。
○特殊な形態 ガラスショーケースの一角30cm四方程度を販売スペースとして貸し出す方法もある。ちょっとした手作り品などを販売する場であり、ショーケース全体があたかも百貨店のようになる。客層は、いいものがあったら買おうという客が中心であり、当初段階では鹿角では八幡平など観光地に設置する。
○工房 製造と販売を行う「製販一体型」とする。
○支援機能 会計や税務処理など経営に必要な講座、ベンチャービジネス講座などを設ける。また、これらの経営者の相談などに応じる人材を確保して、相談・指導などを受けやすくする。
(3) ふるさと市民の活用
 
 「ふるさと市民」が育てたチャレンジショップ・工房を目指し、起業段階からアドバイザーとしてのふるさと市民、サポーターとしてのふるさと市民を活用する。
図表4−6 チャレンジショップ・工房におけるふるさと市民の役割








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