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3. コンピュータ搭載の電子制御エンジンはどのようになっているか
1) 電子制御の種類とその特長
 エンジンの電子制御には、ガバナのみを電子制御する段階から、各種噴射系メカニズムと組み合わせて電子制御をするさまざまな段階があり、電子制御の可能性を最大限に利用し、出来るだけ高圧のもとで、燃料噴射のタイミングや噴射のパターンを、理想的な形に近ずける努力が盛んになっている。
 図3は、エンジン電子制御の段階を、燃料噴射系のハード面に注目し、代表的なケースを例として分類したものである。
 キャタピラー社の例では、図3のNo.4、No.5の電子制御が主力となっており、いずれも電磁制御弁組込式ユニットインジェクターを使用している。
 これには、インジェクターのプランジャーをカムで駆動して高圧燃料を得るEUI方式と、蓄圧室の油圧で駆動するHEUI方式がある。
 いずれも、ほとんど同じ構成の電子制御システムを使用するが、今回は主としてEUI方式の電子制御エンジンを例として説明する。
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図3 電子制御の種類と特長   
2) コンピュータ搭載電子制御の必要性
 低NOx、低燃費率を実現するためには、燃料を出来るだけ高圧で、短時間に、しかも、最適の噴射タイミング、パターンでに噴射することによって得られる。
 図4に示すように、最適噴射時期は、エンジン速度と負荷(燃料噴射量)の組み合わせによって変わり、更にアフタークーラ空気温度によっても変わる。
 図4の中で、一枚一枚の曲面が、特定のアフタークーラ空気温度に対応しており、実際には多数の曲面で構成された、立体的データとなる。
 この図でも分かるとおり、最適噴射時期は、クランク角で20度を越える進角となり、これは機械式進角メカニズムの能力をはるかに越えるレベルとなるので、電子制御が必要になる。
 更に、必要な進角、高圧、望ましい噴射パターンを得るには、同じ電子制御でも、ユニットインジェクタ式が高圧化に有利で、さらに、電磁制御弁組込ユニットインジェクタは、噴射制御の可動部の慣性が少なく、追従性に優れているため、噴射ポンプのラック、スリーブを電磁ソレノイドで操作する方式よりも有利となる。
 また、油圧駆動ユニットインジェクターは、カムリフトの制約もなく、より自由度がひろがる。
図4 燃料噴射時期
3) 電子制御システムの構成
 図5は電子制御システム構成の要点を示す。
 ECM(エンジンコントロールモジュール)がシステムの心臓部であり、制御コンピュータと、制御プログラム、データ用のメモリを内蔵している。
 ECMは、クランク位置、各部圧カ、温度等のセンサ類よりのエンジン運転状態を示す信号と、スロットル等によるユーザ操作要求信号を取り入れ、これらに基ずいて、制御プログラム、および制御用データによる演算、判断を行い、この結果でユニットインジエクタの電磁ソレノイドに燃料噴射量、時期の制御信号を発信すると共に、コントロールパネル部に、各種表示、警報信号を送る。
 これらの、情報、信号のやり取りは、すべて堅牢な特殊防水防油ソケットを使用したワイヤハーネスにより行われる。
 また、制御プログラムには、通常の電子ガバナの機能が組み込まれているので、ドループ特性など、従来のガバナと同じ使い勝手が得られる。

図5 エンジン電子制御システム   
4) 燃料噴射のメカニズム
 この電子制御システムで、ECMよりの制御指令に即応し、高圧燃料噴射を実現するハードウエアの中心が、図6に示すメカニズムである。
 シリンダヘッドには、電磁ソレノイドで作動する燃料流量制御弁を組み込みこんだ、ユニットインジェクタを装着しており、高圧の下で、燃料噴射時期、噴射パターンが自由にコントロール出来る。
 (HEUI式の場合は、蓄圧室に保有する高圧作動油で、このプランジャを、油圧駆動することにより高圧噴射を得ており、より自由に噴射時期を制御できる。)
 ユニットインジェクタ部全体は、ヘッドカバー内部に密閉されており、ECMよりの制御信号は、シリンダヘッド部に設けられた、特殊防水ソケットを介して送り込まれる。
 これで分かるように、ここで扱っている電子制御エンジンでは、従来のガバナハンドルに相当するスロットルはあるが、噴射量コントロールの燃料ラックやリンク類はなく、これに相当するコントロールは、すべてECMよりの制御指令信号により、電磁制御弁が直接行う。
 また、エンジン回転速度や、燃料噴射量の制限は、制御プログラム内に設定されるため、機械的な方法でこの制限を変更する事は出来ない。

図6 EUI燃料噴射部   
5) 制御信号と燃料噴射
 コンピュータ搭載のECMが受け取る信号は、ホール効果スピード/タイミングセンサ信号、スロットルセンサよりのPWM(パルス幅変調)信号、およびその他のセンサよりの、アナログ信号である。
 アナログ信号はすべて、0−5VレベルでECMに取り入れ、ここで10ビットのデジタル信号に変換して演算処理する。
 ECMより発信される制御信号は、ユニットインジェクタに組み込まれた、150−200MPa(機種により多少異なる)の燃料制御弁を100V程度の電磁ソレノイドで操作し、最適燃料噴射パターンと噴射時期を実現する。
 特に、噴射時期については、クランク位置の上死点に対し、どの進角で噴射させるかを、実クランク位置に対し精密に制御する必要があり、このため、エンジンの各サイクル毎に、機械的クランク位置を基準にして、コンピュータ演算とのタイミング合わせを行う。
 このため、カム軸には、特殊歯形パターンを持つタイミング車が装着されており、この歯形パターンに対応する電磁ピックアップ信号を基準にして、図7に示すように、サイクル毎にタイミングを合わせる。このタイミング信号に基ずき、燃料制御弁の作動、燃料加圧の遅れ等を考慮し、しかも必要な噴射パターンになるようなタイミングで弁リフト信号を送り、燃料噴射をコントロールする。

図7 燃料噴射タイミング   
 
燃料噴射の具体的なステップは、およそ次のようになる。
 − カム山の回転により、ロッド、ロッカを介して、ユニットインジェクタのプランジャが押下げられ、燃料加圧が始まる。
 − ECM搭載のコンピュータは、回転速度その他、エンジン状態を示す各センサと、ユーザの要求信号(スロットル位置など)をもとに、内蔵の最適噴射データ、ガバナ特性等のデータに従って噴射時期、噴射パターンを計算する。
 − ECMは、燃料噴射開始をするため、約100Vの電圧を、ユニットインジェクタ内蔵の燃料電磁弁に送る。
 − この電圧で、燃料電磁弁が作動し、燃料逃がし孔を閉める。
 − 燃料はプランジャバレル内にとじ込まれ、この状態でプランジャによる加圧が続き、この圧力がノズルの開弁圧に達すると燃料噴射が始まる。
 − ECMが、燃料噴射を終了させるため、燃料電磁弁への約100Vの電圧発信を止めるまで噴射が続く。
 








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