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2.4 ハイスキュープロペラ
 
1) まえがき
 近年、船の高馬力化の傾向があるなかで、居住性の改善が強く望まれ、船尾振動の原因となるプロペラ起振力を、できるだけ小さくするような方法の研究が数多くなされている。その1つの手段として、3・54図に示されるような、プロペラ翼を後方へ湾曲させたスキュー型プロペラが注目されるようになった。
 プロペラの変動力を小さくするには、船尾の流れを均一化する事が最も効果的であり、この方法として、船尾バルブ、フロー・コントロール・フィン、ウォータジェットの吹出し等の採用が検討されている。これらは、プロペラの変動力をその原因から解決しようとするものであるがスキュー型プロペラは、流れの不均一性に対するプロペラ翼の感度を弱め、プロペラ自身でその発生する変動力を減少させようとするものである。
3・54図 スキュー型プロペラと普通型プロペラ
 スキュー型プロペラのアイデアは新しいものではなく固定ピッチプロペラでは約一世紀も前の1883年に、蒸気ランチに、直径約4.7mの2翼のスキュー型プロペラが採用され、好結果を得たという報告がある。最近になり、再び注目を集めてきたのは、プロペラの作用を理論的に取扱う手法が発達し、十分効果の期待できるスキュー型プロペラの設計法が開発されてきた事によるもので、すでにスキュー型プロペラの理論的研究や模型試験による検証について詳しく解説された数多くの報告が発表されている。
2) 翼強度
 3次元的な形状の変化が大きいスキュー翼では、従来の梁理論による近似的な方法では、流体力や遠心力による翼のねじりの影響が考慮できず不十分であった。従って流体力による荷重は揚力面理論計算(MFM)プログラム、遠心力による荷重はメッシュゼネレータプログラムにより計算し、これらを組合せた有限要素法(FEM)による翼応力解析システムにより最適強度設計を行っている。
 なお、従来の揚力面理論計算法(MFM)ではノズル内のプロペラ、ハイスキュープロペラの解析は困難であったが、渦格子法による非線形揚力面理論(VLM)プログラムを活用することによって、現在では特異点の計算および後流の渦の変化も考慮することが可能になった。更に翼面圧力分布、単独性能を精度良く求めることによって、従来の水槽試験による設計資料の範囲を越えた特殊プロペラを設計する上で効果を発揮している。
 プロペラ起振力の面から見れば、できるだけ大きなスキューを採用する方が、起振力のより大きな軽減効果が期待できるが、それを制限する要素として翼強度の問題がある。
 スキュー翼はその形状の特殊性から、普通翼とはかなり異なった応力分布となっている。またスキュー翼については、従来の梁理論では正しい応力の分布を求めることができない。従って、有限要素法(FEM)を用いて翼強度の解析を行っている。
 3・55図及び3・56図は、それぞれFEMにより求めた普通翼とスキュー翼の応力分布を示す。
 3・56図で明らかなようにスキュー翼では、普通翼と違い応力の最大値が後縁側に移動しており、スキュー角を更に大きくした場合0.5R〜0.6R付近の後縁により高い応力が発生する。従って、スキュー角を決定する場合、翼強度と起振力低減効果等を総合的に判断し決定しなくてはならない。特に固定ピッチプロペラの場合での後進時の応力分布(3・56図)が、可変ピッチプロペラ(3・57図)と相違するので注意する必要がある。
3・55図 普通翼の引張最大応力分布図
3・56図 固定ピッチプロペラスキュー角度40度引張最大応力分布図
3・57図 可変ピッチプロペラの応力分布
 
3) 性能
翼  断  面: スキュープロペラの翼断面形状は、MAU、トルースト、NACA型などが採用されているが、翼強度面から若干修正した断面を採用することもある。
ピッチ 分 布: キャビテーション特性を考慮し、ピッチ分布は従来の一定分布に対し、チ ップ付近の荷重を予め減少させるチップアンロード型も採用されている。
スキュー分 布: スキュー分布は、CPP変節時のスピンドルトルク或は船体、舵とのクリアランス、更にはFPPの場合スキュー翼の後進時の特殊性等を考え決定している。
プロペラ単独性能: 単独性能は、模型プロペラによる系統的な水槽試験を行い確認される。スキュープロペラの単独性能は普通型プロペラの単独性能と同等であると考えてよい。
 
4) 起振力
 船のプロペラは、前方にある船体の影響を強く受けた不均一な流れの中で作動するという宿命をもっている。このプロペラヘ流入する流れが不均一であるという事からプロペラの1回転中で、翼に発生する力は常に一定なものではなく、プロペラ起振力と呼ばれる各種の変動力を生ずる。
 起振力はプロペラ軸、軸受を介して船体に伝えられる「ベアリングフォース」と、流体を介した圧力変動としてプロペラ近傍の船体に伝えられる「サーフェイスフォース」の2種類に分けられる。
 ベアリングフォースは、プロペラが不均一な流入速度の中で一定回転で作動する為、翼の位置により翼素への入射角が変化し、翼の発生する揚力と抗力が1回転中に変動することによって発生する。揚力の変化の軸方向成分はスラスト変動として、揚力と抗力の変化の回転方向成分はトルク変動としてプロペラ軸に伝えられる。更にスラスト変動からモーメント変動、トルク変動から横力変動が誘起され、このモーメント変動、横力変動は上下方向の軸と水平方向の軸にそれぞれ作用する、これらの変動力により船体の前後振動、上下振動、横振動等が発生する。
 サーフェイスフォースは、プロペラ翼が回転し船体後方を横切る事によって発生する周期的な圧力変化を原因としている。この圧力変化は翼厚によって排除される水の容積、揚力を発生させる翼面上の圧力、キャビテーション発生によって排除される水の容積によって誘起される。これらは、均一な流れの中で作動しているプロペラでも発生するが、これ程強いものではなく、現実に船尾振動の原因となるのは、不均一流中で発生する非定常キャビテーションによる強い圧力変動である。プロペラの翼素への入射角は一回転中でかなりの幅で変化するのでキャビテーションは、入射角の大きい位置で成長し、入射角の小さい位置で縮少または消滅するという急激な容積の変化を生じ、強い圧力変動をもたらす。この圧力変動により船底外板に生ずる力をサーフェイスフォースと呼び、主に船尾上下振動の原因となる。
 
5) スキュープロペラと起振力
 スキューを大きくして、プロペラ起振力を小さくする原理は、一言でいえば変動力の原因となる現象が各要素で同時に起らないようにすることと言える。
 ベアリングフォースに関しては、流入速度の最も小さい船体中心部を通過する時間が半径方向にわたってずれるようにし、揚力、抗力の変化のピークが同一時間に集中しないようにすることである。
 サーフェイスフォースについても同様に、船底のある位置を通過する時間を各翼素でずらせることにより、翼全体の発生する圧力変化が小さくできる。更にキャビテーションが通常翼に比べ、翼弦方向に細長く広がるため非定常キャビテーションによる急激な圧力変化の増加を弱める効果がある。
3・58図 スキュー角と船尾変動圧力減少との関係
3・59図 スキュー翼と普通翼の形状比較
6) スキュープロペラの特長
[1] 普通翼プロペラと比較して、推進性能、操船性能を損なうことなく、船体振動を大幅に低減できる。
[2] ベアリングフォースやサーフェイスフォースが低減できる。それほど極端なスキューをつけなくとも、ベアリングフォースで、15〜20%、サーフェイスフォースで、30〜40%の減少効果が得られる。
[3] キャビテーション性能が優れている。
[4] プロペラから生ずるノイズが減少する。
[5] 低回転・大直径プロペラの採用
 船体振動軽減効果により、在来船での船体振動が許容できるならば、振動レベルが同じになるまで、プロペラチップクリアランスを小さくして、より低回転、大直径プロペラの採用が可能となり、プロペラ効率を上げることができる。








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