日本財団 図書館


2.8 始動装置
エンジンの始動にかかわる一連の装置で、エンジンの用途、大きさ等により色々の始動方法が取られている。
エンジンの始動法には次の3つの方法がある。
1) 電気始動装置
エンジンのハズミ車の外周にリング状の歯車を装着し、スターティングモータのピニオンと噛合してエンジンを回して始動する方式で、その電源はバッテリから取る。又バッテリに対する充電は、エンジンに取付けたオルタネータ(充電用発電機)で行う。従って始動装置は2・122図に示すようにスターティングモータ、オルタネータ、バッテリ、スタータスイッチより構成される。
2・122図 電気始動装置図
(1) スターティングモータ
(a) 構造と機能
 2・123図に示すように主要部はエンゲージマグネチックスイッチとモータの2つに大別される。
2・123図 スターティングモータ
 スターティングモータの作動は、2・124図に示すようにスターテイングスイッチを操作するとエンゲージマグネチックスイッチのシリースコイルおよびシャントコイルに電流が流れ、この電流によって生じた電磁力はシフトレバーを引張る。
 シフトレバーはピニオンクラッチを作動させピニオンギヤを押し出しリングギヤに噛み合わせる。
 これと同時にエンゲージマグネチックスイッチのシリースコイルを流れた電流はスタータのフィルドコイルおよびアーマチュアコイルにも流れて、アーマチュアは回転し、ピニオンクラッチに緩い回転を与える。ピニオンクラッチは緩く回転しながらアーマチュアシャフトに沿って押し出されるのでピニオンギヤは確実にエンジンのリングギヤに噛み合う。このときエンゲージマグネチックスイッチのムービングコンタクタがステーショナリコンタクタを接続して始動モータに主電流を流し、モータは強大な始動回転力を出してエンジンを始動させる。
 スターティングスイッチを開路にすればエンゲージマグネチックスイッチの電磁力が消失するので、シフトレバーはその軸に取付けられたリターンスプリングの力でもとの位置に引きもどされる。すなわちピニオンクラッチはもとの位置にもどされ、ピニオンはリングギヤとの噛み合いをとかれモータも止まる。なお、スイッチを切るのが遅れ、エンジン始動後もピニオンギヤがもどらず、リングギヤと噛合ったままのときにモータを保護するために、オーバランニングクラッチが入っている。
(拡大画面: 59 KB)
z1131_01.jpg
2・124図 スターティングモータ系統図
(b) 点検と整備
(i) 無負荷特性テスト
 スタータ単体で所定のバッテリを使用し、2・125図のように結線して、無負荷で回転速度と電流を測定し、基準値内にあればよい。
 回転速度の不足や過大電流は機械的摩擦抵抗が大きく、電流が少なく回転速度が不足するものはブラシ、コンミテータおよびハンダ付け部の接触不良や断線などがある。
2・125図 無負荷特性テスト
(ii) マグネチックスイッチ
[1] 吸引テスト
 2・126図のようにバッテリを接続した時にプランジャが吸引され、ピニオンが飛び出せばシリースコイルは正常である。但し10秒間以上の連続通電はしないこと。
[2] 保持テスト
 2・127図のように結線した状態で、手でピニオンをストッパの位置まで引出し、次に手を放してピニオンが戻らなければシャントコイルは正常である。
 10秒間以上の連続通電はしないこと。
2・126図 吸引テスト
2・127図 保持テスト
[3] 戻りテスト
 2・128図のように接続し、手でピニオンをストッパ位置まで引き出し、次いで手を放した時、ピニオンが直ちに戻ればシリース・シャントコイルは正常である。10秒間以上は連続通電しないこと。
2・128図 戻りテスト
[4] 接点間の電圧降下テスト
 2・129図のように接続して接点間の電圧降下を測定し、10A当たり0.3Vを超えるようであれば機関の始動抵抗の大きい厳寒など始動不良となることがあるためエンゲージマグネチックスイッチを交換するか分解整備する。
2・129図 接点間の電圧降下テスト
[5] 接点面の分解整備
スイッチキャップ締付ネジを外し、リード線のハンダ付けをこてで溶かし、
ドライバなどでスイッチキャップを開け接点面をサンドペーパなどで修正する。
(iii) アーマチュア
[1] アーマチュアコイルのショートテスト
 薄い鉄片をコアの上において、アーマチュアを手でゆっくり回す。もしコイルがショートしていればショートしているコイルが鉄片の下へきた時に鉄片が振動し吸引される。コンミテータのセグメント間でショートしていることが多いのでハンダ付け部分などを十分点検する。
[2] コイルのアーステスト
 コンミテータとシャフト(コア)間の導通を調べ、導通があればアースしている。
[3] シャフトの曲り
 Vブロックで両端を支持し、ダイヤルゲージで振れを測定する。整備基準値内にあれば良い。
[4] コンミテータの振れ、面の荒れ点検
 コンミテータの振れはブラシ摺動面をさけて、ダイヤルゲージで振れを測定し基準値内であれば良い。またコンミテータの表面が荒れていれば目の細かなサンドペーパ(No.300〜600)で磨くか旋盤で修正する。
 モールドコンミテータは新品時より1mm、普通タイプは2mmまでが限度でありそれ以上に直径が減少している場合は交換する。
[5] セグメントのアンダカット
 コンミテータセグメント間の絶縁体はセグメント面より高くなると整流が悪化するためアンダカット寸法が0.2mm以内になったものは0.5〜1.0mm程度の深さでアンダカットする。鋸刃で確実に修正する。
[6] その他
 アーマチュアギヤが摩耗損傷したものはアーマチュアを交換する。ボールベアリングから異音が発生したり、回転が円滑でないものはボールベアリングを交換する。ボールベアリングのシール面はアーマチュア側にして組付けること。
(iv) ヨーク
[1] フィールドコイルの断線テスト
 ブラシ間の導通を調べ、導通がなければブラシとコイルの接続部分などが断線しているので修理する。
[2] フイールドコイルのアーステスト
 コネクタ(又はブラシ)とヨーク間の導通を調べ、導通があればアースしているので修理する。
(v) ブラシ
[1] ブラシの清掃と摩耗点検
 ブラシの汚れをきれいに拭き取り、摩耗量がマーク又は全長の1/2以上になっているものは交換する。
[2] ブラシの動きとバネ力の点検
 ホルダ内でブラシが円滑に作動すること。新品のブラシを付けた状態でバネ力をバネ秤で測定し、整備基準以下の場合はブラシホルダをアッシで交換するかバネを交換する。
[3] ブラシホルダの絶縁テスト
 絶縁されたブラシホルダとブラシホルダプレート間の導通を測定し、導通があればアースしているのでブラシホルダを全体で交換する。
(vi) オーバランニングクラッチ
ピニオンを手で回して両方向へ空転するものや両方向とも空転しないものは交換する。
(vii) ピニオンのスラストギャップ
ストッパのないものはマグネチックスイッチの吸引テストをしてピニオンが飛び出した時のスラスト方向のスキマ(スラストギャップ)が0.5〜2.0mm程度あれば良い。スラストギャップが小さい時又はブラケットに当る場合はスイッチパッキンを減らすかプランジャとシフトレバーのセット位置を変えて調整する。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION