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第2章 ディーゼルエンジンおよび付属装置の構造機能と分解整備
1. 分解整備時の注意事項
1.1 分解整備の目的と工事の明確化
1) 目的
 分解は、一般に故障修理のために行うことが殆んどですが、その他に取扱説明書に基づき行われる定期点検や操業前の点検整備、および保証ドック等の点検時に行われる。
 検査船に於ては船舶安全法により中間検査、定期検査、臨時検査などが義務づけられており、これらの検査に当っては検査官の指示に従い所要箇所の分解点検を受けなければならない。これらの目的を明確にしておくことが大切である。
2) 整備工事内容の明確化
 分解する前に目的と工事内容を明確にしておくことが重要であり、必要最小限度に分解を止めるよう、作業開始前に十分徹底しておくことが大切である。また工事内容は以下に示すような事項を記載して客先依頼を含め互いに諒解しておくと便利である。書き方はそれぞれ自分の所にマッチしたものとすれば良い。
《工事内容の一例》
[1] 注文主、連絡先
[2] 注文番号
[3] 船名、機関形式(メーカ名、出力、回転数、機関番号)
[4] 工事内容(できるだけ具体的に書く)
[5] 工事着手日および完成予定日
[6] 工事場所
[7] 予測される必要部品名、番号、数量
[8] 検査の種類(JCI、JG、中検、定検など具体的に)
[9] 機関の来歴(本工事に関連した事項について)
3) 分解時の注意事項
 分解するからには必ず点検から組立修復までの工程があり、分解の仕方が悪ければ部品を破損したり紛失したりして組立てられなくなるので、適正な工具を用い正しい方法で分解することが必要である。従って機関の取扱説明書、整備マニュアルを事前に準備し、読んでおくことが大切である。
 分解した部品は整理整頓しておき、組立時に迷わないようにする配慮が必要である。
締付けが弛んでいる箇所や折損、破損などの損傷部品を見つけたら記録しておき部品の準備をしなければならない。
(1) 適正な工具で分解する
 ボルト、ナットは寸法にあったスパナを選んで使用し、できるだけボックスレンチやメガネレンチなどを使用して、ネジを弛める。パイプレンチやモンキレンチなどを使用してはいけない。油圧系統などは特殊頭のボルトが使われている場合があるので、6角レンチなど専用工具が必要になる。
 またエンジン専用の特殊工具を準備しなければ分解困難となる箇所もあり、必要に応じて専用特殊工具を用意する必要がある。
(2) 組立てを考えて分解する
 相手部品とのなじみの問題を生じる部品にはペイントマーカ等で合せ番号を付けて組合せが変らないようにしておくこと。向きの判らなくなるような部品には合マークを付ける。長さを間違い易いボルト等は分解したあとのネジ穴へ軽くネジ込んでおくこと。オイルシールを使用している軸部分には傷を付けてはならない。ケガキマークのようなものは不注意に画いてはいけない。はめ合いが固くて抜けない時は無理に叩いてはいけない。適正な工具を用いて分解するなどの注意が必要である。
(3) 部品の整理整頓
 分解した部品はそれぞれブロック別に分けて整理し、組立て時に判らなくなることの無いようにする。細かなナット、ワッシャ、ボルトなどは仕分け箱に入れておくこと。ゴミなどを嫌う燃料系統などのパイプや部品などにはゴミが入らぬよう注意が必要である。
1.2 部品の洗浄・点検・整備
 
1) 部品の洗浄について
 分解した部品は点検がしやすいように必らず洗浄しなければならない。
(1) 燃焼カーボン落し
 シリンダヘッド、ピストン、吸排気弁、過給機など燃焼ガスにさらされる部分には多くのカーボンが堆積付着しているのでカーボンの清掃が必要となる。このカーボンは固着していて簡単に取れないのでタガネやドライバなどで無理に削り落して、弁シートなどを傷つけぬように十分注意しなければならない。
 能率良く燃焼カーボンの清掃を行うには、市販のカーボン除去剤を用いる方法が効果的である。ただし、洗剤の使用に際しては使用法を誤らぬように十分注意が必要である。
(2) 冷却器などの洗剤洗浄
 オイルクーラ、空気冷却器、清水クーラなど複雑な形状をしたこれらのものは、機械的な洗浄では十分な清掃ができにくいため洗剤により行う方法が効果的である。勿論洗剤については十分調査した上で選定すると共にその使用法を誤らないように留意することが大切である。
(3) 洗い油による洗浄
 通常のゴミなどは洗い皿の中に洗い油を入れて洗浄するか、循環式の洗浄槽を利用して行うと良い。
 
2) 部品の点検および検査
 部品を修理するか交換するかの判断は整備基準(修理基準や使用限度など)に基づいてきめられるが、点検ミスや判断に誤りが生じないようにしなければならない。またいい加減な判断をせず不明な点はメーカと相談の上、処置することが大切である。
(1) 外観の点検
 外部の欠陥を目視で点検するが特に次の点に留意する。
(a) 表面の状態
 ピストン摺動面の異常な摩耗、頂面及びリング溝等の亀裂、シリンダライナ内面の傷、軸受のかじり、軸受メタルやメッキの剥離溶損の有無等。
(b) 破損の有無
 軸、歯車、ピストンリング、ばねなどの折損、破損の有無。
(c) 腐蝕の状態
 ライナつば部および外周、シリンダやシリンダヘッドの水ジャケット部、ポンプ部品など海水、清水にさらされる部品の腐蝕状態。
(2) 寸法計測
 重要な部品については各部の主要寸法を計測し、整備基準に従って限度を超えたものは修正又は交換する。機関を分解するごとに各部の主要寸法を計測し記録しておけば、異常摩耗か否かを直ちに判断することができる。
(3) 亀裂の検査
 目視で発見できない傷や亀裂は、磁気探傷法あるいはカラーチェック法などの非破壊検査で調査し、異常が認められる場合は部品交換又はメーカと相談の上処置する。
(4) 硬度検査
 ピストンピン、ギヤ等の焼入部品の硬さ試験に広く使用されているものにショア硬度計がある。持ち運びが便利であり測定も容易である。また、小形であることより船内での硬度測定に便利である。
 また、ハードネスタ(硬度比較ヤスリ)による硬度の測定法も軽便である。測定方法は、測定しようとする部品に硬度の判っているヤスリをかけ、そのかかり具合により硬さを比較測定する方法であり、ショア硬度計のように姿勢に拘束されることなく、測定することができる(但し、測定面に僅かな疵がつくことがあるので注意を要す)。
 
3) 機関の整備基準
 機種別に定められた整備基準に従い、修正又は新品と交換するかを判断しなければならない。損傷、摩耗の程度によっては次回検査までの使用条件や使用時間などを考えて交換すべきか否かの判断を必要とし、大事を取り過ぎては修理費が増加し、軽く考えては大事を招く恐れがあり難しい判断が必要となる。この辺が舶用ディーゼルエンジンの整備にたずさわる者にとって長い経験と勘を必要とする重要なノウハウとなっている。
なお整備に当っては各機種ごとの整備基準表に従い実施する。
1.3 非破壊検査法
 非破壊検査法で多く使用されているものには次のような方法がある。
1) カラーチェック(浸透探傷試験)
 これは、赤色の浸透液を割れ目(きず)に浸透させて、見やすい状態にして見つける方法である。この方法は非常に手軽な方法で、洗浄液(トリクレン)、浸透液、現像液と3本1組にしたエアゾール式のものを購入すればよい。傷の検出能力はマグナフラックスのほうがすぐれているがその設備がない場合または、磁化できない部品、たとえば、耐熱鋼(オーステナイト系)、ステンレス(オーステナイト系)、非鉄金属部品はこの方法で行う。その手順を2・1図に示す。
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2・1図 カラーチェック
2) マグナフラックス(磁気探傷検査)
 これは部品に磁化電流を流して磁化させておいて磁粉をかけ、傷を見つける方法で、微少な傷まで発見でき、現在ではもっとも広く利用されている方法である。
 2・2図に示すように通電すると、磁化電流と直角方向に磁束線が生じ、表面近くに傷が存在していたとすれば、そのとき磁束線は傷の所で通りにくくなるので、傷の近くで漏洩する。このとき、軽油にとかした高透磁率の微細鉄粉(磁粉)を、この面にふりかけてやると、磁粉は漏洩磁束に引きつけられて付着する。すなわち、傷の形となって表面に表われる。
2・2図 マグナフラックスによる探傷法
  磁粉に蛍光をあてると発光する特殊磁粉(蛍光探傷)を用いると、傷の発見はさらに容易になる。ただし前項で述べたように非磁性部品の検査には、適用できない。この検査は、次のような手順で行う。なお、検査終了後は必ず脱磁を行い完全に磁気をなくしておかなければならない。
  磁化方法はJISG 0565「鉄鋼材料の磁粉探傷試験方法及び欠陥磁粉模様の等級分類」においては2・1表に示す種類及び内容のものに分類されているが、試験体の形状・寸法や予測される欠陥の方向などを考えて最も適した磁化方法を選択するようにしなければならない。
2・1表 磁化方法の分類
磁化方法 符号 備考
軸通電法 EA 試験体の軸方向に直接電流を流す。
直角通電法 ER 試験体の軸に対して直角な方向に直接電流を流す。
プロッド法 P 試験体の局部に2個の電極(これをプロッドという)を当てて電流を流す。
電流貫通法 B 試験体の穴などに通した導体に電流を流す。
コイル法 C 試験体をコイルの中に入れ、コイルに電流を流す。
極間法 M 試験体又は試験される部位を電磁石又は永久磁石の磁極間に置く。
磁束貫通法 I 試験体の穴などに通した磁性体に交流磁束を与えることによって、試験体に誘導電流を流す。
3) 極間法
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2・3図 極間法
 
 2・3図に示す。極間法は電磁石の鉄心に誘発された磁場によって検査物を磁化するものである。検査物は閉磁路回路となるので反磁場は少なく探傷面に損傷をあたえることもない。検査物は電磁石の発生磁束によって磁化されるので、発生磁束が多いほど、及び検査物の面積が少ないほど強く磁化される。電磁石の磁束密度は鉄心の断面積によって定まってくる。電磁石のアンペアターンを多くしても増加はしない。検査物の磁気回路断面積が電磁石の鉄心の断面積よりも多いと、磁束が広がってしまい検査物中の磁束密度は低くなる。この傾向は、直流電磁石の方が特に激しい。交流電磁石は表皮効果のため、検査物の表面に集中するので、深さ方向には、浸透しないので表面の磁束密度は高くなる極間法で最もよく検出できる欠陥は、両磁極を結ぶ中心線上であり、言うまでもなく両磁極間を結ぶ線に直角の方向にある欠陥である。磁極面と検査面との接触が密なほどよいが、間隔が増加するほど磁極附近の磁粉が磁極に吸引されてしまうので、不感度範囲となってしまう。普通の接触で2〜3mm、磁極と検査面のギャップが3mmともなると約15mmの不感度範囲となることに注意すること。
2・4図
2・5図
2・6図
 これら非破壊検査のチェックポイントを2・2表に示す。
 前述したように、マグナフラックスが施工できなければ、カラーチェックで代行する。きず検査の際、けがき線の跡とか、しっくりと嵌められた埋め金、非磁性金属との境界線あるいはメタリコン部と母材との境界等はきずのように見えることがあるから誤らないように十分注意すること。
2・2表 主要部品の亀裂検査のチェックポイント
部品名 カラーチェック マグナフラックス チェックポイント
クランク軸 軸表面のきず、とくにアーム附
近R附近のきず
主軸及びクランクピンメタル × 軸受表面のわれ、軸受層の剥離
(端面でチェックする)
クランクピンボルト 表面のきず、とくに頭部と附根
のRとねじのきず
ピストン × 燃焼面、リング溝底、摺動面、
ピストンピンボス部のリブのわ
シリンダヘッド × 燃焼面のわれ
吸排気弁 × コッタ部のきず
カム及び軸
歯車
カップリング
各表面のきず   
歯面、歯底のきず
キー溝底のきず       
その他 表面のきず








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